現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2009年 3月 人々に医療ケアをもたらす

人々に医療ケアをもたらす

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ジェイソン・フランシスによるスタン・ブロック氏へのインタビュー
へき地医療団(RAM)は、世界中の地域社会の必要に応えて、無料での健康相談、歯の治療、家畜の治療等の奉仕活動をする非営利団体(NGO)である。スタン・ブロック氏は1985年にRAMを設立した。彼はベルリンで生まれ、15年間アマゾンの熱帯雨林でワピスハナ・インディアンと共に暮らした。彼はそこで、インディアンたちが医療を受けられないがために予防可能で治療可能であるにもかかわらず病に冒されるのを見てきた。時には村人全員が死ぬこともある。野生動物のテレビ・ドキュメンタリーシリーズ「野生王国」の共演を米国で依頼されて南アメリカを去った後で、ブロック氏は世界のへき地に住む人々に基礎的な医療をもたらそうと決意した。彼はシェア・インターナショナル誌のためにジェイソン・フランシスによるインタビューを受けた。
シェア・インターナショナル(以後SI):RAMはどのようにして運営されているのですか。
スタン・ブロック:へき地医療団(RAM)は、税の免除を受けた慈善団体で、有給の職員は誰もおりません。私たちは、米国その他の国におけるへき地の村に医療や家畜の治療や技術的・教育的支援を行って人類に奉仕活動で貢献するボランティア空挺団を組織しています。へき地の医療を支援している「へき地医療基金」は、3、4名のパートタイムの職員を雇用しています。しかし、私が1985年に設立したボランティア団は、全員がボランティアで成り立っており、私はその団長としていかなる報酬も得ていません。
SI:RAMはどのような国に医療団を派遣しているのですか。
ブロック:米国以外では南米のガイアナに主力を注いでいます。ここはかつて英国領ガイアナとして植民地だったところで、私はここに長年住んでおりました。私たちはガイアナに航空救急サービスを含む、年間を通した無料の活動を行っており、年平均1.9日ごとに出動しています。そして、医療活動と家畜の治療活動を行っていますが、特に先住民の子宮頚ガンおよび性病の治療は大きな仕事となっており、私たちの女性向け健康プログラムは子宮頚ガンや性病予防に非常に重要な教育的側面を持っています。 また、インドとケニヤでも定期巡回をしております。最近ではタンザニアに行きました。私たちが定期的に巡回する他の国には、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、ハイチ、ドミニカ共和国、ブラジル、ベネズエラがあります。ここ米国でも出動します。
SI:もともとあなたは、開発途上国の困窮者に医療サービスや医薬品の供給を行うことを目的にRAMを創設されましたが、現在あなたが活動の主力を注いでおられるのは米国です。世界の中で、米国の貧困者と開発途上国の貧困者との違いは何でしょうか。
ブロック:あまり違いはありません。例えば米国のアパラチア地方の人々は、グアテマラのような所に住んでいる貧困者と全く同じです。主要な違いは、米国では私たちが接する87%の患者が26歳から64歳までを占め、残りは老人、それに子供が6%です。なぜかと言いますと、アメリカの子供たちは、18歳まで彼らが必要とする支援を州や国の財源から与えられます。一方、外国で私たちが接するのは約43%が子供なのです。米国においては、必要は圧倒的に成人にあるのです。それは単に、彼らがこの国の医療ケアを受ける経済的余裕がないからなのです。
SI:2008年7月に米国バージニア州ワイズ郡で行われた医療巡回についてお話していただけませんか。
ブロック:それは私たちの第544回目のへき地医療巡回であり、ワイズ郡では9回目に当たります。過去9年間、私たちは1年に1回そこに行っていますが、そこは私たちの活動で最も大規模なものです。7月にワイズ郡の催し物広場で2日半、全ボランティア隊の人数1,584名と共に5,475名の患者を診ました。この医療費は17,00万ドルに相当しました。私たちは2日半の期間に、痛む歯を3,857本抜歯し、1,638本の虫歯の治療をしました。全体で1,088名の眼科患者を診、1,003件の無料の眼鏡を援助しました。私たちは、乳房X線写真、子宮癌の細胞検査、婦人の健康診断、胸部レントゲン撮影、糖尿病や心臓病の治療、そして小さな形成外科手術(皮膚障害やコブや打ちコブの除去)を行いました。これは非常に包括的な作業でした。 「患者との出会い」の意味するものを説明いたしましょう。例えばもし患者がやってきて、「歯科医にかかりたい」と言えば、まず彼らには歯科用の用紙が配られ、必要な歯の治療が受けられる場所へ送られます。そこで歯科医は一人の患者の記録を取ります。その同じ患者は、次に催し物広場の別な場所に行き、眼科医や検眼眼鏡士や眼鏡士のグループのところに並び、眼の検査を受け、眼鏡を与えられ、眼に関する別の診療歴の新たな記録が作られます。来訪した患者たちの記録はその日の終わりに集約されます。 ピューリッツァー賞受賞の写真家ジョン・ムーア氏がここの大量の写真を撮っており、それらは「ゲッティ・イメージズ」を通して入手可能です。一枚のすごい写真がありますが、それは最初の日の真夜中に入口前に何千人もが押しかけている光景を写したものです。あたかもロック・コンサートやサッカーの試合を見るために押し寄せる人々のような光景です。最初の日の朝5時半に私は入口を開けましたが、すでに1,500名の人が前日から列を作って待っていました。私たちが夜を通して配った整理券の数がその数字だったのです。このように多くの要求と必要があるのです。
SI:RAMが行う医療処置の種類について、米国と開発途上国との間で違いがありますか。
ブロック:全体としては完全な違いがあるわけではありません。米国には見られない熱帯性の病気があります。例えば、外国ではマラリア合併症や再発に苦しむ多くの患者がいます。しかし、彼らは私たちの国の貧困家庭に見られるのと全く同じ問題を抱えています。彼らは治療が必要な虫歯に悩んでいますが、治療が受けられず、また眼鏡を必要としています。糖尿病は外国でも米国でも大きな問題です。しかしながら、先住民においては、例えばアマゾン地域の先住民では、この国のような心臓病のような問題はありません。なぜなら、彼らは、坂を上がったり下ったりし、重い荷物を運んだり畑で働いたりして、大変活動的だからです。彼らは車を運転しません。そのために心臓病や高血圧はアマゾンのような場所では一般的な問題ではないのです。
SI:RAMが医療活動を供給するのに何か限界がありますか。
ブロック:私たちが支援する対象者に関しては何も問題はありません。患者はいつもここへやって来ます、1日に何百回となく。そしてある人々は、「無料にしていただく御礼に何かすることはありませんか」と言います。それに対して私たちは、「あなたたちは、ただここに来ればいいだけですよ」と申します。それが唯一の規準なのです。「私たちは、どこから来たのですか」とか、「どこに住んでいるのですか」、「いくら稼いでいるのですか」などということを尋ねたりはしません。ここには面倒な手続きは何もありません。ここに並べば名いいのです。早いもの順で診察を受けられます。私たちができることには限界があります。例えば私たちは心臓移植はやりません。しかし、規準は何もありません。私たちはただやって来るすべての人の治療をします。
SI:痛みとか軽い慢性病で訪ねてくる人々の多さで診療を断ることがありますか。
ブロック:はい、残念ながらあります。ワイズ郡における2日半のコースですと、おそらく1,000名は断ることになります。断るのには二つの関連した理由があります。ボランティアは自分たちの職場に復帰する必要から、1日ないし1週間しか日数を割くことができません。そして人々を診療するに十分な数のボランティアがおりません。医療を供給する最大の障害は、米国では医師たちが州境を越えて他の州の人々に無料の医療行為をすることが許されていないことです。言い換えると、もしあなたがニューヨーク州で医師の資格を取得したとすると、あなたはテキサス州でたとえ無料であっても医療活動を行えません。この種の問題を私たちはいつも抱えています。こうした政策はぜひとも変えられる必要があります。
SI:健康管理がなされないとき、生活にどのような影響が生じますか。
ブロック:あなたが家族を養わなければならず、口の中が虫歯だらけならば、これは私たちが日常的に目にする典型的な状況ですが、痛みに苦しみ、それがあなたの健康を揺るがすのです。このことは家族にとってまさに非常事態です。人々はいつも診療所にやって来て、ボランティアの歯科医に、「私は町の歯科医に診てもらいました。歯科医は私の口を診て、“あなたの歯はひどい状態だ。すべてを治療するのには約4,000ドルかかります”と言うのです」と訴えます。この国では裕福な人か歯の治療を補償する優良な保険に加入していなければ、その支払いは到底できません。しかし、幸運にも私たちの診療所を見つけるなら、無料で治療してもらえます。あるいは、あなたの視力があまりにも低下していたり、悪くて、自動車を安全に運転できないのであれば、視力の必要な仕事には就けません。そうであれば、200ドルから300ドル、または400ドルはかかる視力検査を受け、眼鏡を取得する余裕はないでしょう。悲しいかな、これらの人々が直面しているのは、「ではどうしたらよいのか? 家族で何を優先させたらよいのか? テーブルの上に食べものを置くことなのか、医者への費用を支払うことなのか?」という自問なのです。多くの場合、大勢の人は保険には入っていますが、高すぎて必要なものがカバーされないか、除外されるので、治療が受けられないのです。
SI:あなたは先ほどRAMが関与している他のプロジェクトについて言及しておられました。例を挙げていただけますか。
ブロック:その一つの例はガイアナです。ここの人々は50年前は家畜産業を営んでおり、大変成功していました。しかし、種々の要因でこの産業は崩壊し、再び回復することはありませんでした。そのためにそこに大勢の失業者が出現しました。私たちは家畜産業を復活する支援を行うと共に、他の農業の育成を支援してきています。私たちの獣医師たちは、地方住民たちに家畜飼育法に関する一定の基礎訓練を施す教育プログラムを行っています。
SI:RAMの活動を支える経費はどうなっているのですか。
ブロック:人気のある米国のテレビ番組「60ミニッツ」が、私たちのワイズ郡巡回医療活動を2008年3月に放映し、7月にも再放映しました。それが放映されてから、私たちのところへ問い合わせの電話が鳴り始めました。それまでは、私たちが行っている内容を幾分なりとも知っていたのは、貧しい人たちだけでした。私は頻繁に公共団体や集会で話をしてきました。この組織をもう20年以上続けてきた地元のテネシー州ノックスビルでさえも、貧しい人以外、すぐ近くの人でさえ、へき地医療団(RAM)とは何で、何を行っているかについて誰も知りません。「60ミニッツ」はこの状態を変化させました。今では米国中から問い合わせが来ています。人々は私たちに、ロサンゼルスやデトロイトやダラス、ニューヨーク、あるいは首都ワシントンに来てはくれないか、と要望します。 きっかけは、2007年の11月に『ニューヨーク・タイムズ紙日曜版』にバージニア州ワイズ郡でのへき地医療団に関する写真入りのエッセーが載ったことです。翌日、「60ミニッツ」のプロデューサーの一人から電話がかかってきて、このような活動をこのようなスケールで行っているところは他にはないので、私たちの活動について非常に感心があると伝えられました。 「60ミニッツ」で放映される前の活動状況は、非常にわずかなお金で何百万ドルもかかる無料の治療活動を綱渡りの状態で運営する、まことにその日暮らしそのものでした。私たちは依然として何百万ドルもの経費がかかる活動を展開してはおりますが、医薬品を購入するのにあまり心配する必要がなくなりました。しかし、あらゆる装備や人々をA地点からB地点へとトラックや飛行機で運ぶのに要する燃料費については、相変わらず心配しなければなりません。これが私たちにとっての主な出費なのですが、多くの人々はそのような支援にはあまり乗り気ではありません。
SI:他に何か付け加えることがありますか。
ブロック:「60ミニッツ」の報道の結果として、2008年4月に、議会の「歳入財源委員会」からワシントンへ来て、小委員会で米国の医療の改善の必要性について答えてくれないかという依頼を受けました。そこで私は、医師が州境をまたいで活動できない問題について話しました。1995年にテネシー州の州議会は、いかなる慈善団体も、医師、歯科医師、獣医師を米国のどこにでも派遣できるという「ボランティア医療法」を可決しました。それによって慈善団体は米国内のどこからでも医師、歯科医師、獣医師を連れて来ることができます。彼らがしなければならないことは、私たちのところにやってきて私たちに免許書の写しを示し、仕事に取りかかる準備をして、仕事に取りかかるだけです。事前の告知義務はありません。 テネシー州のジョン・ダンカン議員はワシントンにこの法律を示して、アメリカ全土でテネシーモデルを採用してほしいと働きかけましたが、彼の提案は議会で全く取り上げられませんでした。私はワシントン滞在中、議員たちにこの提案を再検討し行動を起こしてほしいと訴えました。もし私たちがこの国の法律を変え、医師たちが州を越えて活動できるとしたら、へき地に住んでいるアメリカの先住民たちを支援することができるだろうと訴えました。私はまた、しばしば政府のプログラムから除外される歯や眼の治療を、この米国の健康保険制度の恩恵にあずかれない人々に与えるべく、広範囲の無料の保健衛生活動を提供する必要性を訴えました。人々はこの国において、自分たちが必要とする治療を受けることができるはずなのです。
www.ramusa.org 参照。

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