現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2013年 9月号 沈黙を破る: ガンと環境の問題に対して行動を起こす

沈黙を破る: ガンと環境の問題に対して行動を起こす

ジェーソン・フランシスによる
サンドラ・スタイングラーバー博士へのインタビュー

エコロジスト、著述家、活動家でもあるサンドラ・スタイングラーバー博士は、ガンや人間の健康と環境問題との関連性を研究する専門家として知られている。彼女は、『エリアを育てる:環境危機の時代の中で子供たちを守る (Raising Elijah: Protecting Children in an Age of Environmental Crisis) 〔2013〕』、『(邦題)ガンと環境―患者として、科学者として、女性として(Living Downstream: An Ecologist's Personal Investigation of Cancer and the Environment )〔1997, 2010改訂〕 』など4冊の本の著者である。スタイングラーバー博士は生物学博士号を持ち、ニューヨーク州イサカにあるイサカ大学の研究者である。ジェイソン・フランシスがシェア・インターナショナルのためにインタビューを行った。


シェア・インターナショナル(以下SI):環境因子と発ガンの関連性への興味を誘発したのはなんだったのですか。
サンドラ・スタイングラーバー:自分がガンと診断されたことが私の興味のきっかけとなりました。20歳の時、膀胱ガンと診断されました。私は家族の中で、ガンの診断を受けた最初の人間ではありませんでした。私の母はすでに転移性の乳ガンに苦しんでおり、私たちは共にガン患者だったのです。私の叔母は、私がかかった膀胱ガンと同様のガンで死にかけていました。私の家族物語の面白い点は、私が養女だということです。ですから、家族の遺伝は必ずしも私には当てはまらないと知っていたのです。
さらに、私の診断を行った医師が尋ねた質問、子供の頃にどんな環境にさらされた可能性があるのかという質問に刺激され、私は医学校に行かず、環境衛生の分野を学ぶ決心をしました。ハーバードで博士号を取り、その後も長く研究したのち、私は自分の故郷に戻り、そして自分のガンだけでなく、私もその一部であるガン集合(ある地域に予想以上のガンが発生する状態)についても研究を始めました。それらの発見は本『ガンと環境』(Living Downstream)となりました。

SI:米国におけるガンの発生率をご存じですか。そして過去の統計データと比較してどのようになっていますか。

スタイングラーバー:知っています。ニクソン大統領によって1971年に導入された法律「米国ガン法」によって、現在それぞれの州でガンの発生を登録しています。そのデータは対象者の年齢を調整することができます。ですからもし病気の発生の増加がみられたとしても、それは対象者が年取ったためではありません。同様に、異なる年齢グループをお互い長期間にわたって比較することができます。例えば、現在30代や40代の人々が、30年前や40年前の同年代の人々と比較して、非常に高い割合で非喫煙性のガンにかかっていることが分かっています。また子供たちは以前と比較してより高いガンの発生率を示しています。実際、小児がんは急速に増えています。
登録されたガンの発生率は、因果関係についての確実な証拠を与えてはくれませんが、それらは確実に今後の調査に関する手がかりを提供します。これらの手がかりの中には、遺伝的な関連性を持たない、そして喫煙が原因ではないと考えられている幾つかの悪性腫瘍のガン発生率の上昇などが含まれています。急激に増加しているガンには、若者の精巣ガン、子供の肝臓ガン、卵巣ガン、脳腫瘍、白血病、思春期の少女の卵巣ガンなどがあります。

SI:なぜそのようなガンが増えているのですか。
スタイングラーバー:幾つかのガンに関しては、他のものよりも原因が分かっています。例えば、化石燃料に関連しているものとしては、疑いなくラドン(放射性物質で無色、無臭のガス)が、非喫煙者の肺がんの第一の原因ということが分かっています。ラドンは深い地層に見られる自然に発生するガスです。しかしそれは人工的な行為でも発生させることができます。例えば、水圧破砕法による掘削作業中に、シェール(頁岩)から抽出された天然ガスが岩盤から吹き出すのですが、ラドンはこの天然ガスに混じります。すなわち私たちは家庭でおそらくラドンが含まれたガスを使っています。
さらにベンゼン(石油の中に含まれている可燃性の液体炭化水素)が、疑いなく白血病の原因だとわかっています。また私は陸上での石油や天然ガスの掘削や破砕作業についても憂慮しています。なぜならベンゼンが源泉から天然ガスと共に大気中に放出されるからです。コロラド州では幾つかの新たなデータを得ています。採掘場や破砕作業場から4分の3マイル以内に住む住民は、白血病のリスクが上昇するとされている濃度のベンゼンにさらされていること示しています。私たちは他の要因も疑っていますが、それがガンを引き起こす絶対的な確証がありません。
ここで疑問が湧きます「何か別の政策――例えば、私たちのエネルギーを、ガンを引き起こす化石燃料から持続可能なものに移行するという決定をするなど――を実行するのに、それほど多くの証拠がそろうまで待つ必要があるのでしょうか」

化学物質の検査

SI:どれだけの化学物質が、さまざまな形で一般に使われる前に、適切な検査を受けているのですか。

スタイングラーバー:それらがガンを引き起こす可能性について、市場に出る前に検査を行うという法的な要求事項は、ここ米国にはありません。現在10万の化学物質が市場に存在していますが、そのうちの約2%が厳密な検査を受けています。それらに関しては「これらの化学物質が、発がん性があるのか、発がんの可能性があるのか、もしくはこれら二つに全く含まれないのかを示す幾つかの良いデータがあります」と言うことができます。大多数の化学物質は全く検査を受けていません。
「ガンと環境」や私の最新作「エリアを育てる」が伝えているメッセージの一つは、それらの化学物質の安全性を立証する責務が、それらを市場に出したいと考える人々の肩にかかっているということなのです。化学物質が販売、使用、環境への放出が行われる前に、誰の害にもならないことを示すため、市場に出る前に、検査し選別されるべきです。今のところ、それは私たちのシステムは機能していません。現在の貧弱な法律の制定よりも前に市場に出ていた化学物質の一覧表があります。それらは基本的にはフリーパスなのです。
ヨーロッパでは法的な状況が少し異なっています。彼らは異なったアプローチを取っており、新旧に関わらず販売、輸入、製造に使われている現在市場に出ているすべての化学物質に対して、ガンや他の健康問題の要因となる可能性についての審査を要求しています。それは大きな費用のかかる作業となるでしょう。しかし、ヨーロッパではガンは大きな費用のかかる問題だと考えられています。そして、発生率を下げることによって命が救われ資金が節約され、医療保障に必要とされる費用が削減されることで、環境にやさしい化学への移行を支援するでしょう。

SI:化学物質の検査に関して、米国政府とヨーロッパ政府の政策の間に、なぜそのような違いがあるのでしょうか。
スタイングラーバー:米国の国会議員は基本的に売り買いされています。彼らの票は化学産業によって所有されているのです。彼らは選挙運動やロビー活動の資金調達で強い役割を果たしています。私たちの国には、実際に法規を作成し、それらを支持するように国会議員に渡す化学企業があります。例えば、私がヨーロッパに行って、欧州連合で証言を行ったとき、また国連のジュネーブ事務局で国際条約が協議されるのを見たとき、米国の化学産業のロビイストたちが行政機関のホールで、恥ずかしいと思うような方法で投票に影響を与えようとせっせと働くのを見ました。ヨーロッパで交渉相手と話すとき、ヨーロッパの化学産業は国会のような統治機関を支配する力はまだないと感じます。

SI:社会が長期間にわたって化石燃料を使用していることを考えれば、石油や石油化学製品の使用開始とガン発生率の増加の間に直接的な関連性を示すことは可能でしょうか。

スタイングラーバー:ガンの登録は1970年代の初めから開始されました。石油に関連することがらとしては、産業革命や同じく石油や天然ガスの発見などはそれよりもかなり前です。石油は19世紀に使用され始めましたが、実際に本格的に利用され始めたのは、第二次世界大戦後です。石油化学工業の発展、つまり私たちの物質的経済の発展に伴って、家を建築する物質、家の中のシャワーカーテン、私たちが身につける衣服などなど、それまで炭水化物やシルクや木材などその他の天然素材から基本的につくられていたものを、化学産業はナイロンやPCB(ポリ塩化ビフェニール)プラスチックなどで置き換え始めました。それとともに新たな汚染にさらされるルートがつくられました。不幸なことに、ガン登録の開始はその後であり、常に遅れを取り戻そうとしています。
それはそれとして、次のことが確実に知られています。例えば、自動車の排ガスは非喫煙者の肺がんと心臓病、脳卒中の増加に関連しています。数字の中から、私たちは化石燃料によって引き起こされる実際の疾病率と死亡率を計算することができます。もちろん、石炭もまた要因の一つです。
一例として、スタンフォード大学のマーク・ジェーコブソン教授(土木・環境工学の教授で大気・エネルギープログラムの責任者)と彼の同僚たちは、ニューヨーク州ですべての種類の化石燃料の燃焼によって発生する大気汚染によって引き起こされる病気と死亡者数の調査を実施しました。彼らは、ニューヨーク州で年間約4,000人が死亡していると結論付けました。もちろん、それらの人々のほとんどが、ぽっくりと死ぬわけではありませんが、彼らは脳卒中、ガン、心臓病、喘息などに苦しんでいます。
上昇する医療費の一部に、リハビリテーション、回復、化学療法に多額の費用がかかっています。私は実現すると確信していますが、もし私たちが再生可能なエネルギーへ移行する能力があれば、風力や水力、太陽光から得られるエネルギーによって私たち自身のエネルギーをまかなう能力を持っていれば、多くの命を救うことができます。同時に私たちは気候問題を解決することができます。さらに、石油化学製品から作られていない原料に基づいた物質経済を促進することができます。

ダビデが勝利することもある

SI:「水圧破砕に反対するニューヨークの人々(New Yorkers Against Fracking)」と呼ばれるグループについてお話ししていただけますか。
スタイングラーバー:私は水圧破砕に反対するニューヨークの人々というグループを設立しました。5年前に最初に水圧破砕に反対する活動を始めたとき、基本的にニューヨーク州で水圧破砕を実際に停止できるという望みはないと聞かされていました。できる最善のことはテーブルに座り、すべてが終わるのを受け入れるだけでした。水圧破砕作業についてどのような方法を私たちが望んでいるか、それを管理するために私たちが望んでいる規制や規則は何かについて、意見を発表することもできたかもしれません。しかし私たちはそれらの条件闘争を完全に拒否しました。それはタバコにフィルターを付けるようなものだと言いました。私たちは水圧破砕の規制を望んでいません。それをやめさせたいのです。それは醜悪なものです。5年後、これまでのところ私たちはニューヨーク州ではそれを阻止しています。
私たちは暫定的で脆弱な一時停止命令を恒久的な禁止法に変えようと試みています。私たちの背後には大きな世論の動きがあります。水圧破砕に関する世論調査をするたびに、世論はそれに反対の方向に傾いていることがはっきりと示されています。私たちは組織化することで、金曜日の夜に教会の地下ホールに行くことで、町の理事会の前で話すことで、企業や学校の会議室に行くことで、世論を変えることができました。私は人生の2年を費やして州の中を旅し、市民グループに話をし、この科学を人々に伝えてきました。
あなたがそれをするとき、子供たちや自分自身の健康のための環境について本当に心配する人々を見つけ出すでしょう。この関心事項は、政党の支持を越えます。あなたが「それは可能だ」という楽観的な精神と共に良い科学知識を人々にもたらすとき、それは強力な結び付きとなり、人々にヒーローのような感覚をもたらします。人々は彼らが何か大きなものの一部でありたいと思っています。まるで私の父の世代が、戦場に出てヒトラーと戦わねばならなかったかのように。市民の権利を勝ち取る運動は、大きな障害と戦って、そして勝利する道なのです。これがダビデとゴリアテの戦いが人々に好かれている理由です。そしてダビデが勝利することもあるのです。

上流に向かって歩く

SI:私たちはすべて、周囲の環境から複数の発ガン要因の影響を受けていますが、親ができる子供たちを守る実際的な方策が何かありますか。
スタイングラーバー:たとえあなたがお金を持っていたとしても、あなたはきれいな空気を買うことはできないでしょう。私たちはすべて飲んでいる水に左右されます。たとえ私たちが水を飲まなくても、入浴やシャワーからも汚染を取り込みます。30分間のシャワーで、2ガロン(約7.6リットル)の水道水を飲むのと同じ量が吸収されます。私たちが子供たちを守るためにできることは、それぞれで異なります。どちらにしても私たちの子供たちは、汚染された世界で育ち、その中に出て行きます。親としてする必要があることは、強力な政治的な力の一部となることなのです。検査を行っていない本質的に有害な化学物質に、自分たちの子供をさらすことは全く間違っている。そしてエネルギーシステムを化石燃料で継続することは、地球やわれわれ自身を殺し、同時に発ガンリスクを高め、学習障害のリスクを高め、早産やその他のリスクを高めると主張する必要があります。私たちはシステムを完全に再設計する必要があり、それは化石燃料をやめることを意味します。それは私たちがつくり出さねばならないある種の社会運動のようなものなのです。

SI:もし直面しているこの問題解決に人々の運動が必要ならば、すでに活動の土台となる団体が存在していますか。
スタイングラーバー:すでにこれらの問題に取り組んでいる様々な組織があります。有毒物質の改革に取り組み、掘削や水圧破砕、キーストンパイプライン、山頂の鉱物の除去などを止めようと活動している良いグループがあります。太陽光や風力、潮力発電ための誘導策を拡大しようと活動する多くのグループもあります。私の本の最後には、特に有効だと考える団体一覧の長い付録がついています。人々は一度団結し始めると、よりパワフルになることを感じます。

SI:ウォーキング・アップストリーム(上流に向かって歩く)という運動について教えていただけますか。
スタイングラーバー:「ウォーキング・アップストリーム」は本や映画「Living Downstream」の中で政治的な行動について語る際に使用した一つの言葉です。私たちはすべて下流に住んでいます。私のケースでは、私のガンはおそらく私が生まれる前に、工場の裏地に化学物質を廃棄した人々の決断によって発生したようなものです。霧幕のように、それらはゆっくりと土壌を伝わり、地下水へと入っていきます。私は溶媒や塩化ビニル(ドライクリーニングの溶液)を飲んで育ちました。そして私は前の世代が決定した無謀な決定の代価を払っているのです。
後に続く世代に、私たちが与えているダメージの兆候に目をつむることができるでしょうか。それとも別の何かを行うことができるのか? 言い換えるなら、下流にいるすべての被害者を見るときに、私たちはガンを単なる一つの悲劇と扱うわけにはいかないのです。私たちは上流に向かって歩いて問題の源泉へと到達し、それに立ち向かう勇気を持つということです。

詳しい情報は:www.steingraber.com または www.livingdownstream.com

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