現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2015年 7月 ギデオンの約束を果たす

ギデオンの約束を果たす

ジェイソン・フランシスによるイルハム・アスキア氏へのインタビュー

「ギデオンの約束」は、2007年に設立されたアトランタ州ジョージアを拠点とする非営利団体であり、刑事犯罪で告訴された人に公平で有能な法定代理人を付ける活動をしている。この団体は、公選弁護人(弁護士を雇えない個人を弁護する、法廷が指名する弁護士)を訓練し、被疑者により良いサービスを提供できるようにしている。ギデオンの約束はアメリカの16州で活動し、その業績から長年にわたり数多くの賞を受賞している。イルハム・アスキア氏は、ギデオンの約束の事務局長であり共同設立者である。ジェイソン・フランシスが、本誌のために彼女にインタビューを行った。

二つの法制度

シェア・インターナショナル(以下SI): アメリカに存在している二つの法制度について説明していただけますか。

イルハム・アスキア:私たちの視点では、お金があれば、たちどころに最高の弁護士を探し出し雇うことができるでしょう。そしておそらくは釈放され、日常生活を再開できるでしょう。無罪推定と、市民が受けるべきすべての保護が与えられます。つまり、もしお金があれば、アメリカ憲法が授与するすべてのものと、手段を持つ人に与えられるすべての便宜が得られるでしょう。
しかしながら、貧しければ、支払えない保釈金が設定されることになるでしょう。無罪推定がありながら、拘置所に置かれ、釈明の機会を待つことになります。おそらく、何日も何週間も接見に来ることのできない、仕事が手一杯で資金力に乏しい公選弁護人が割り当てられるでしょう。無実かもしれなくとも、こうした公判前の体験が、仕事を失わせ、住まいを失わせ、評判を落とすことになるかもしれないのです。これは不平等で不公平です。この国では、貧しければ、手段を持つ人と同様の適正手続きは保証されていないのです。

SI:アメリカの司法制度において、マイノリティー(少数派)の人々はどのように弱い立場に置かれているのでしょうか。

アスキア: もしマイノリティーの出身であれば、あなたは違った扱いを受けます。私たちは最近ニュースで、人種による選別(人種に基づいて標的を定め犯罪の疑いをかける法の執行)について頻繁に目にしてきました。それは今でも行われており強力です。あなたは時には、人間以下の存在として見られます。刑事司法制度を悩ませていることの多くは、人種と階級に関連しています。どの地域を通っても、特に有色人種の地域を通ると、以前よりも警官の存在が大きくなったことが分かります。有色人種やマイノリティーの人々は、より頻繁に監視され、逮捕され、起訴されます。マイノリティーの人口の膨大な部分が、今日「刑事司法」制度の下にあります。

無実な場合の有罪答弁

SI:無実な人は、なぜ自分が犯していない犯罪の罪状を認めるのでしょうか。
アスキア:人々は、逮捕された時から法廷に行くまでのプロセスを知らないのです。あなたが逮捕されたとします。あなたは、自分の周りの法廷で何が起こっているか理解しません。そして、保釈金を払う余裕がないので、何日か、時には何カ月も拘置所につながれます。あなたはそこに座り、こう言うでしょう。「私は愛する人の待つ家に帰らなければなりません。仕事に戻らなければなりません」。人々は、ただ単に拘置所から出るために罪状を認めることが多いのです。もし検察官が来て、「ただ罪状を認めさえすれば、私はあなたを保護観察にし、あなたは今日、家に帰ることができます」と言います。そうでなければ、この罪状によって10年間、刑務所に入れられる可能性があるので、ほとんどの人は家に帰るために、犯していない犯罪の罪状を認めてしまうでしょう。
彼らはその行為の二次的な結果を理解していない場合が多いのです。被疑者はその司法取引を受け入れて家に帰るという決断を下すかもしれませんが、もう記録には前科がついています。別の仕事を得ようとしても、犯罪歴のためそれは不可能です。彼らの現在の仕事は従業員が前科を持つことを許さないかもしれず、その場合は仕事を失います。そしてそれは悪循環になります。賠償金を払う余裕は既にありません。私は、罪状認否の一部として、薬物更生プログラムに入る必要のある被疑者によく会いました。薬物更生プログラムにはお金がかかり、彼らは仕事を失っているため支払う余裕がないのです。そのため彼らは保護観察の条件を犯し、告訴され法廷に戻り、おそらく拘置所に戻ることになります。あいにく、これは貧しい地域では非常によくあることであり、有色人種の人々の身に起こっていることです。

刑務所産業複合体

SI:「刑務所産業複合体」とは何でしょうか。
アスキア:刑務所産業複合体はビジネスです。これは企業が刑務所を使ってお金を儲ける方法です。この国の多くの地域で起こっていることは、刑務所のベッドを埋めれば埋めるほど、そして刑務所の定員一杯まで埋められれば──ホテルを、出ることのできないホテルを想像してください──より多くの人を逮捕し、告訴し、罰することに経済的な見返りがあるのです。それがビジネスだからです。ある州では、刑務所が満員の場合、その収入の中のある割合が州に戻されます。もしこのような刑務所から資金を得ているのであれば、定員まで満たさないことがあるでしょうか。それが実際に起こっていることなのです。問題は、そのような刑務所を満たすために、人々が非常に些細な違反で告訴されることです。そして、判事、告訴人、立法者の選挙運動がこの業界から便宜を得ている場合があります(アメリカでは、多くの判事や告訴人が、政治家と同様に投票によって選ばれる必要があり、それは投票者への選挙運動を必要とします)。その結果、「犯罪に厳しい」多くの方針が見られるようになり、人々が法制度の中に引き込まれることにもなります。州や警察の執行はこうしたノルマを達成するために、しばしば強引に人々を囲み封じ込めます。私はこれをたくさん見ています。毎月のノルマを見た場合、逮捕されている人の数は、刑務所を埋めるための軽犯罪によるものが多いのです。これは、刑務所や施設にとって利益を生む巨大な産業です。

願いを込めた名前

SI:「ギデオンの約束」という名前の由来は何でしょうか。
アスキア: 共同設立者のジョン・ラッピングは2007年に、南部の公選弁護人の訓練とサポートを助けるプログラムを作る研究奨学金を得ました。それは、南部公選弁護人訓練センターと呼ばれました。
需要が非常に大きいため、優れた仕事を素早くこなしている多くの公選弁護人は、燃え尽きてしまいます。南部以外の地域からの問い合わせが増え始めたため、私たちは名前を国レベルでの活動を示すものに変更しました。
私たちは2013年に、名前を「ギデオンの約束」に変更しました。ギデオンの約束のギデオンという言葉は、連邦最高裁判所のギデオン対ウェインライト事件(1963年)の判決に由来します。この判決では、すべての人はその支払い能力に関わりなく、有効な法廷弁護人を得るべきあり、自分自身で弁護活動を行うべきではない、と述べています。「約束」という言葉は、その判決の約束から来ており、この国ではまだ果たされていません。ですから、私たちは「ギデオンの約束」と呼ばれています。その約束が果たされるまで、私たちは「ギデオンの約束」であるからです。最高の公選弁護人を訓練し採用して良好な弁護を提供することで、私たちはその必要に応えていきます。願いの込められたこの名前は、「公選弁護人を強化し、公選弁護を変革する」という説明的なキャッチフレーズを伴っています。

公選弁護人を必要とする

SI:刑事被告人のうち、どの位の割合の人が公選弁護人を必要としているのでしょうか。
アスキア:現在では、この国において犯罪で告訴された人の約80%が、裁判所が指名する弁護士、つまり公選弁護人に依存しています。彼らの60%以上が人種的、民族的なマイノリティーです。黒人は生涯で3人に1人が投獄されますが、それに対して白人は17人に1人です。あなたが黒人か有色人種であれば、白人である場合に比べて投獄される可能性は6倍も高くなります。

SI:公選弁護人を必要としている人全員に公選弁護人は割り当てられるのでしょうか。
アスキア: はい。州に応じた貧困レベルに基づく複数のガイドラインがあります。条件を満たし、収入がある水準より下であれば、連邦法は公選弁護人を得ることを保証します。公選弁護人の制度を持たない州もあります。例えば、アラバマ州は私たちが活動する州の一つですが、州全体で公選弁護人の事務所は三つしかありません。その内の一つは今年開いたばかりです。公選弁護人のいない郡で逮捕された場合は、判事は弁護士を任命します。問題は、その弁護士が刑事事件を扱わないかもしれない私選弁護士であることが多い点です。そのためときどき、民事の弁護士が無報酬(プロボノ)に近い訴訟を幾つか受け持ち、わずかな時給を受け取りながら、そのような依頼人の代理人となる場合があります。ただし、報酬を払う被疑者を持ちながらです。専門のフルタイムの公選弁護人が本当に必要なため、このことは法制度中で問題なのです。あなたが私選弁護人であり、50ドルの時給か、報酬を支払う被疑者があなたに支払う報酬との間で選ぶ必要がある場合、あなたは間違いなく、プロボノ依頼人よりも儲かる依頼人とより多くの時間を過ごすことでしょう。

SI:法制度はなぜ、貧困者に対するそのような低い正義の水準を受け入れるようになったのでしょうか。

アスキア:法制度の中の人は、告訴された人の視点を失ってしまいました。そして私たちは、貧しい人や有色人種の人に対する低い水準の弁護を受け入れるようになってしまいました。これは、法制度の中で起こっていることも同様ですが、彼らを人間として見ないことと大いに関連しています。同じ人権を持つ個人としてではなく、自由や尊厳が剥奪されているのです。訴訟を処理する車輪の輪になってしまい、人々に向き合っているとは言えないのです。

草の根から始まる変化

SI:ギデオンの約束が公選弁護人に提供している様々な訓練プログラムについて説明していただけますか。
アスキア:私たちは価値を基盤とした団体です。このことは、この法制度の中で、なぜこのような問題があるのかというあなたの最後の疑問に戻ります。これは権利の擁護や人を人として扱う姿勢の欠如です。壊れた制度への解決策の一環として、私たちは資金を、そして最も大切なことは、非常に困難な制度の中で仕事をしている公選弁護人への支援を提供しています。私たちは五つの主要なプログラムを提供しており、それらは、公共の利益、公共の弁護に対して熱心な、初々しい新入学の法科大学の学生から始まります。私たちは学生たちを夏季の法律事務員としてスタートさせ、学生たちは幾つかの提携法律事務所で仕事をします。これらの事務所はモデル(手本)を理解しており、制度の変革を望んでおり、被疑者を真に擁護しています。学生たちが卒業すると、彼らは新しい公選弁護人のためのコア101プログラムを開始します。それは3年間の広範囲な訓練と支援のプログラムです。
彼らは後に卒業201プログラムに入り、そこで新しく入って来るクラスのメンター(助言者)やスーパーバイザー(監督者)になります。それにリーダーシップ・プログラムが続き、その一部はこのような卒業生が未来のリーダーになれるように援助するものです。私たちにはまた、管轄内で改革や方針の変更をどのように行うかを学ぶ困難な管理業務を扱う、経験を積んだリーダーがいます。
私たちの最後のプログラムはトレーナー開発プログラムであり、そこではアメリカ中の刑事弁護相談所で働くロースクール(法科大学院)の相談員に対する訓練と援助のひな形を教えます。年間を通して訓練を実施し、そのひな形を他のところに所属する公選弁護人の訓練にも用いています。なぜなら、変革をするには、それは草の根レベルで起こらなければならないと私たちは考えるからです。制度に変化を本当にもたらすために、道具を公選弁護人自身に与えることが、これらすべてが起こる方法です。それはゆっくりですが、必ず起こります。

SI:あなた方のトレーニングを完了した公選弁護人は、何人になりますか。
アスキア:私たちは2007年に開始し、私たちのプログラムの基盤であるコア・プログラムを通して、300人以上の公選弁護人を訓練しました。トレーナー開発プログラムとリーダーシップ・プログラムを含めれば、400人以上の公選弁護人を訓練しました。

文化を変える

SI:アメリカの司法制度に起こるべき変化についてお話しいただけますか。
アスキア:私たちが持つ課題の一つは、財政的なものです。その課題は、各州がギデオンの約束の期待に応えていないことです。被疑者を良好に弁護するための調査官、熟練した証人、他の出費を支払うには資力が必要です。より多くの資金が必要なのです。弁護士がギデオンの約束を尊重するためには、各州が公選弁護人に割り当てる予算を増やす必要があります。
構造的には、公選弁護人は独立性を持つ必要があります。彼らは被疑者に献身するために自由でなければなりません。多くの場所で、私たちの弁護士が仕事を良好に遂行する上で深刻な構造障壁があります。裁判官が私たちの弁護士の多くを任命します。そしてこのような裁判官が公選弁護人の事務所を支配しているのです。そのため、もし弁護士が激しく戦いすぎた場合、裁判官が彼らに事件を与えないかもしれず、十分に迅速に処理しなかったために弁護士を交代させようとするかもしれません。ある場所では、例えばアラバマ州では、パートタイムの公選弁護人がいます。つまり、彼らは固定給であり、儲かる被疑者により多くの時間を費やそうとするでしょう。構造的には、公選弁護人が本当に依頼人と共に仕事をし、自分の事務所を持てば、変化が起こると私は思います。
「ギデオンの約束」が努力しているもう一つの領域は、法制度の文化を変えることです。刑事司法制度において、強調は正義ではなくスピードに置かれています。私たちの公選弁護人は、大きな情熱を持ち仕事を始めます。良い仕事をしたいと、人々を助けたいと考えます。しかし、彼らは燃え尽きることと戦っています。年間の取り扱い件数は300件から400件に及び、良い仕事をするための良い道具も与えられていないため、彼らは燃え尽き始めます。私たちは、彼らがその情熱を失わないようにする必要があります。人々を処理し、被疑者を非人間化する文化を変えなければなりません。これらを健全なものに戻すことが、その変化の一部です。そして、公選弁護人の事務所の中だけでなく、裁判官や検察官の考え方を変え、公選弁護人の被疑者が人々として見られるようにすることです。それこそが、私たちが本当に集中している部分なのです。人々を人間以下のものとして扱う制度的な圧力に挑むことです。

努力のためのさらなる節目

SI:私たちが議論していないことで、何か付け加えることはありますか。
アスキア:私たちは最近、数多くの節目を祝ってきました。私たちはワシントン大行進の50周年を祝いました(1963年、ワシントンDCで、アフリカ系アメリカ人の公民権と経済的権利を求めて25万人が行進した)。私たちはセルマの50周年を祝いました(1963年、アラバマ州のセルマとモンゴメリーの間で3つの行進が起こり、投票における人種差別を禁止した投票権法の制定につながった)。公民権運動は私たちの歴史の非常に大きな部分であり、この国の仕組みに重要な変化をもたらしました。この世代は、現在起こっている公民権運動に集中する必要があります。この世代の公民権運動は、刑事司法の問題と刑事司法の改革を扱っているのです。セルマ、バーミングハム、モンゴメリーのバス・ボイコット以来、大きな進歩を遂げてきましたが、私たちにはまだ長い道のりが残っていることを理解することが大切です。なぜなら、この法制度の中で、違った扱いを受けている貧しい人々や有色人種の人々がいるからです。彼らの人生と自由は奪われてしまいました。ですから、公選弁護人が私たちのプログラムを開始するときに、彼らはこの運動の一部だということを彼らに告げます。彼らは、毎日法廷に行き熱心に被疑者を擁護している自分たちの仕事がどのような影響を与えるのかを今は理解しないかもしれません。しかし50年か60年経てば、それが現状に対して実際に戦っていた公選弁護士の運動であったことを、人々は理解するでしょう。私たちは、地域社会を悩ましている問題や、この国にある本当に壊れた法制度に対して何かを行う必要があります。

詳しくは次を参照: gideonspromise.org