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健康の環
レラーニ・ジョンソン氏へのインタビュー ジェイソン・フランシス
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“Circle of Health International(COHI)”〔健康の環インターナショナル(COHI)〕は、世界中の貧困や災害によって被害を受けた地域に住んでいる女性たちに、献身的に援助の手を差し伸べようとする、米国マサチューセッツ州ボストンに拠点を置く非政府組織である。レラーニ・ジョンソン氏はCOHIの事務局長である。この仕事に就く以前、彼女はケニヤのモンバサにて、平和部隊の公衆衛生技術アドバイザーとして2年間を過ごし、麻薬中毒、HIV/AIDS予防、および治療プログラムの調整に携わった。また、ジョンソン氏は現在、ボストン地域・平和部隊/帰国隊員やボストン/ウースター緊急医療予備隊にも関わっている。レラーニ・ジョンソン氏は本誌のためにジェイソン・フランシスのインタビューに応じてくれた。
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シェア・インターナショナル(SI):COHIは、いつ創設され、また何がその設立を触発したのですか?
レラーニ・ジョンソン:COHIは2004年、ボストン大学大学院の公共衛生プログラムで私のクラス・メートだったセラ・ボンズ氏によって始められました。私たちは、避難民の状況や自然災害、戦争のような複雑化した緊急事態の管理に関する授業を取っていました。クラス・メートたちは、飲料水、衛生、食糧など、すべて非常に重要な問題に焦点を当てていましたが、女性の置かれているひどい状況、特に妊娠している女性に対して関心が払われていないことにセラは気付いたのです。女性たちは家族の世話人であり、特に緊急事態においては、女性たちの健康はこの上なく重要性を持つようになります。女性たちの健康に焦点を合わせることによって、子供たちや他の家族にとっての生活状況は、はるかに良い結果をもたらします。
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SI:女性たちに対する援助が必要とする地域にCOHIが関わるようになった場合、誰がCOHIのスタッフの配属をするのですか?
レラーニ・ジョンソン:私たちの使命は、危機的状況の中において、女性の健康管理に奉仕する人たちの最大の能力を発揮することです。緊急事態が発生した際に、必要な人的資源はボランティアがほとんどであり、私たちが提供できる物的資源は基金で賄います。私たちは数多くの強力な連絡網を持っています。助産師や教授や女性のための医療従事者たち、つまり看護師、心理的社会的療法の専門家たちや臨床心理学者、および精神科医のような、緊急事態を要する災害状況下においては特に自発的に奉仕を申し出ることのできる人々です。さらに、実地研修を必要としている多くの公衆衛生を専攻する学生たちや、このような状況の中でCOHIと共に働く医学生たちがいます。また、私たちには、すべての実行計画がうまくいっているかどうかを確認するための、同様に重要な後方支援業務スタッフがいます。
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SI:世界のどのくらいの国でCOHIは活動していますか?
レラーニ・ジョンソン:チベットやスリランカ、および2005年のハリケーン“カトリーナ”被災後の合衆国などで活動してきました。また政治的情勢不安のためにプロジェクトが中断されたスーダンでの活動もそうです。現在2つのプロジェクトが進行中です。タンザニアとイスラエル・パレスチナです。今まで7カ国で活動してきました。
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SI:あなた方が提供する奉仕は、場所や必要に応じて異なりますか?
レラーニ・ジョンソン:私たちのプロジェクトのすべてが、特にその国ですでに活動している女性健康管理組織によって、何がその現場に必要かに焦点が置かれます。私たちのプロジェクトが、その地域に必要なものを満たしているかどうかを確認します。私たちが現在活動しているイスラエルとパレスチナを例に取れば、イスラエルとパレスチナの助産師たちは、助産師としてのお互いを理解し合い、その職務に焦点を当て、平和を目的とした助産師を目指します。イスラエル助産師の必要性は、パレスチナ助産師の必要性とは大変異なっています。
タンザニアのプロジェクトも同様に異なっています。COHIは、タンザニア現地へ赴任するための伝統的な助産師の作業を訓練しますが、それはパレスチナにおいて使用可能な作業標準ではないのです。なぜなら、助産師による自宅出産は現在パレスチナでは行われていないのです。それぞれのプロジェクトがほんの少し異なります。
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SI:イスラエルとパレスチナにおける助産術プログラムの違いはなぜ起こるのですか?
レラーニ・ジョンソン:助産師としての彼女たちの職業において、それぞれが従わねばならない政府の異なった規制や異なった指導方針があります。例えば、パレスチナでは自宅出産はほとんどありません。すべての出産が病院で行われます。イスラエルにおいては、病院で多くの出産が行われていますが、自宅出産も容認されており、自宅出産を行う自営の助産師がおります。イスラエルで私たちと一緒に働く多くの女性たちは、実際のところ、自宅出産の助産師たちでもあります。その国で容認されている法律、規定、条令によって、ほんの少し異なってきます。
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SI:タンザニアでのあなた方の奉仕活動について説明していただけますか?
レラーニ・ジョンソン:2005年、COHIはタンザニアでのパートナー“Fly, But Manage Your Family〔飛べ、しかし家族も守れ〕(FLEMAFA)”と呼ばれる組織と共に仕事を開始しました。それはCOHIにとって願ってもない結びつきであったのです。というのも、タンザニアは厳しい干ばつに見舞われていて、そのうえ性差別による暴力も日常的であり、結果として、健康管理に対する女性の権利は貶められていたのです。
COHIはFLEMAFAと共に、キサラウェ地域の専門医たちの訓練に協力するだけではなく、その地域の女性たちに必要な健康管理の実態を審査する手助けも行いました。私たちの審査の結果、その地域の健康管理施設で提供されている医療や、女性の健康管理業務に従事する奉仕者の数が極めて不十分であり、また、出産に臨む母親や、新生児の健康管理問題に関する教育や知識不足も発見されました。
COHIはこれらの問題に真剣に取り組み、診療所に必要な資材を手に入れる手助けをし、専門医たちの訓練、緊急出産医療サービスに必要な機器類の提供、そして、その地域の専門医や女性の健康管理教育者へ向けてより多くの訓練を創設するために、健康に関する2つのトップ会議を計画したのです。現在、私たちはFLEMAFAと共同で、キサラウェ地域病院の近くに、極めて危険な状態の妊婦を収容する産婦人科センター建設の基金獲得に懸命です。
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SI:スリランカやチベットにおいて、COHIはどのような仕事をなさいましたか?
レラーニ・ジョンソン:チベットにおいては、私たちは地域組織と協働し、ナクチュ地域に必要な、女性の健康に関する徹底した審査の仕方を指導しました。2年にわたってCOHIは地域の助産師の訓練の手助けをし、カリキュラムを開発し、基本的な母親の健康と緊急出産医療に関して他の健康専門医たちを訓練しました。
スリランカでのCOHIの関わりは、2004年に発生した“津波”の直撃による災害でした。私たちは最も被害の大きい地域で働きましたが、その被害は“津波”によるものだけではなく、25年以上も続いた武力紛争の結果でもあったのです。COHIはその地域で初めての、女性に必要な健康審査を実施し、また、その地域にある幾つかの避難民キャンプに対して、女性専用の健康管理サービスの提供に尽力しました。
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SI:COHIが去った後でも、長期計画に基づいた地域共同体自身の手による持続可能な医療サービスの運用へ向けて、COHIから提供された緊急サービスの引き継ぎはうまくいっていますか?
レラーニ・ジョンソン:そのことはまさに、私たちのすべてのプロジェクトの主要な部分なのです。その地域で必要なもの、そして政府もその地域に必要であると理解できるものを基本とした、持続性を育むいろいろな方法があります。スリランカのプロジェクトは、私たちが撤退するまで、ほんの数カ月の現地訓練で済みました。私たちの仕事を与えられた女性たちは、自分たちの力だけでできるようになったのです。ところが、ルイジアナでは丸1年もかかりました。2005年のハリケーン“カトリーナ”の被害のために北へと移動していた女性たちと一緒に、私たちはそのプロジェクトを運用していたのです。したがって、その地域は引き続き移動してくる女性で満ち溢れ、女性の健康管理施設はスタッフ不足となったのです。よって、その地域の健康管理業務の提供期間は、通常行われる緊急措置の期間よりも長くなってしまったのです。
私たちのタンザニアのプロジェクトは、現在までほぼ4年間も運用され続けています。緊急であり必要であると見なされた他のプロジェクトよりも、遥かに長期間に及びます。タンザニアでの私たちの支援は、現地の組織が自力で基金を確保し、プロジェクトを自分たちで持続可能にすることに向けられました。私たちは完全に撤退することはしませんが、以前に提供したような訓練やイベントからはほとんど手を引いています。
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SI:健康の環インターナショナル(COHI)を導く基準や行動指針についてお話ししていただけますか?
レラーニ・ジョンソン:私たちの基準は、私たちと一緒に働く女性たちの要求が聞き届けられているか、彼女たちの必要性が満たされているかを確認することに焦点を置きます。彼女たちに必要なものは何なのか、それらの必要をどうやって満たすのか、私たちの資源や教育や能力は十分かを、時間をかけて解決策を確認します。さらに、私たちは政治団体ではないことを強調したいと思います。中近東におけるプロジェクトのように、政治色を与えない立場に私たちを置きます。私たちは女性の健康問題に焦点を絞っている、ということが理解される立場を確実にしたいのです。
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SI:女性たちの要求が聞き届けられているかについて、話していただきました。世界中の共同体の必要性に対する取り組みに際して、意志決定のプロセスの中で女性が同等のパートナーであると認められることは、どのくらい重要なのですか?
レラーニ・ジョンソン:女性たちは、彼女たちの健康が何を要求しているのか、どのような難問が彼女たちを取り巻いているのかを知っています。十代の妊娠であれ、家庭内暴力であれ、出産前の配慮の必要性であれ、女性たちはこの情報に通じています。男性たちはそれを個人的な問題として扱うために、しばしばこの情報の内情に関与していません。女性の健康は、あからさまに話されることはほとんどありません。それは慣習として適切であるとは見なされずに、女性たちはそうすることを躊躇するか、禁じてさえしまうのです。これらの束縛性を持つ状況に生まれてきた女性たちの心配事が公開されれば、これらの状況の幾つかは緩和することが可能です。それは、女性の浴室を男性の浴室から離れた場所に置くというような、男性たちが通常必要であると考えもしない小さなことであるかもしれませんが、小さな事柄が、安全性やみんなの暮らしに大きな違いを作ることができるのです。
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SI:危機的状況において、女性の健康に特定の影響を与えている、その他の問題は幾つかありますか?
レラーニ・ジョンソン:肉体的な健康問題のほかに、数多くの精神衛生上の問題があります。家庭内暴力は被災状況下においては大きな問題です。配偶者を含む暴力の割合は劇的に上昇しています。これは母親と子供の健康に影響します。両親が死んだために、孤児や少女が切り盛りする家庭がたくさんあります。これらの少女たちは、自分たち自身や兄弟たちをどのように養っていくか解決せねばなりません。
しばしば、性的搾取や人身売買の上昇が見られます。私たちはこれらの状況下の女性に焦点を当て、彼女たちの要求が聴き届けられているか、彼女たちは適切な保護下にあるかを確認しながら、彼女たちに接触しようとします。彼女たちが生活している地域は安全かどうかを確認します。例えば、少女たちや女性たちは、キャンプから遠く離れた場所へ頻繁に薪を集めに行きます。家族のために料理をし、暖炉を準備するのは彼女たちだからです。このような時には、彼女たちの保護は手薄になり、彼女たちを餌食にしようとする外部の男たちの攻撃を受け易くなります。女性の健康と暮らしに焦点を当てるのは、家族の子供たちだけでなく、夫たちに対しても影響を与えます。なぜなら彼らには食べ物が与えられ、自分たちの妻の安否と治安を気遣う必要がなくなるのです。
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SI:COHIは妊娠中絶の問題に対して妊娠中絶合法化賛成の立場を取っているので、基金集めに際して困難に遭遇したことはありませんか? この前の米国政府は、妊娠中絶合法化反対の強い立場を取り、完全禁欲教育や、いかなる堕胎措置も禁止することを支持しない限り、政府基金が人道主義的仕事へ配付されるのを容認しなかったと思いますが。
レラーニ・ジョンソン:この前の政権下においては、彼らの非常に厳しい規制のために、私たちは政府基金から遠ざかっていました。私たちが必要としていた基金は、私たちが誰であり、何をしているか、どのように私たちと一緒に働く女性たちを援助しているかを明確に知っている民間財団から集めることができました。このオバマ政権での規定は大変異なっています。私たちは、まだ「米国国際開発庁」USAID(US Agency for International Development)の助成金を要求してはいませんが、今まで同様、COHIのようなやや小規模な組織体に釣り合う地方の民間財団への接触を行っています。
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SI:他に付け加えることはありますか?
レラーニ・ジョンソン:世界の数多くの地域が、そのような困難な状況を抱えているということを覚えているのは重要なことです。現地へ行って、それがどのようなものかを見るのは興味のあることです。他の国へちょっと休暇で旅行に行くのとは違って、そこの人々はどのように暮らしているのか、何とか凌いでいるのか、あるいは生きてはいけないのか。そして、もし彼らが生きていけそうにない場合、私たちは本当にその状況を理解しているのかを確認すること。そのような姿勢であなたが現場を訪れる場合、一緒に働こうとしている人々のために、あなたは正しい選択ができます。これがCOHIがしようとしていることです。私たちが理解している状況を現場に立って確認すること、そして訓練を施し、基金を確保するのです。もし私たちができない場合、現地の人々と別の組織の結び付きを含め、他の方法を作り出す必要があります。複数の組織が同じプロジェクトのために働き、それぞれの組織が自分たちの専門分野に焦点を当てるということができない理由はありません。そのようにして、プロジェクトの成功は最終的には満たされるのです。
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詳しい情報は:www.cohintl.org