現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2016年 5月 破壊された生活の修復

破壊された生活の修復

ジェイソン・フランシスによる
ファニア・E・デイヴィス氏へのインタビュー

「オークランドの青少年のための修復的司法(RJOY)」は、アメリカ・カルフォルニア州のオークランドを拠点とする2005年に設立された非営利団体である。RJOYは学校や刑事司法制度の中で活動し、懲罰的な学校の規律や青少年司法政策が原因の青少年の暴力、収監、生活の破壊というサイクルに介入する。ファニア・E・デイヴィス氏は公民権の弁護士で、RJOYの共同設立者であり、この団体の理事である。ジェイソン・フランシスが本誌のために彼女にインタビューを行った。

シェア・インターナショナル(以下SI): アメリカの現行の刑事司法制度が不正行為に対処するアプローチについて、あなたはどのように説明しますか。

ファニア・E・デイヴィス:アメリカの現行のアプローチは報復的であると呼ばれることが多く、それは元の危害に対する反応が懲罰という別の危害を伴うことを意味します。ですから、われわれの制度は、人に危害を与えることが悪いことであると示すために、人に危害を与える人々を抑制する制度であると言えます。

SI:このアプローチは、刑事司法制度を経験する個人の生活に、そして社会全体にどのような影響を与えているのでしょうか。

デイヴィス:非常に破壊的な影響を与えています。人が危害を加えられたとき、他の人に危害を与え始めることが分かっています。つまり基本的には、私たちの文化と生活は危害で飽和してしまうのです。それが今日、至るところで目撃されているのです。もちろん、人種的な大量収監であれ、三振即アウト法(3度目の重罪判決を受けた場合に終身刑となる可能性が高まる)であれ、それらは懲罰的なアプローチなのであり、大量収監が原因で散り散りになった女性、家族、地域社会の収監の可能性を高めます。
この不正行為に対する懲罰的な反応は、私たちの生活のあらゆる側面に浸透しています。私が生徒と関わる毎日の仕事の中でも、それは見られます。学校には警官がたくさんいて、金属探知機や金属探知棒があり、刑務所のようにも見えてきます。このアプローチはアメリカで、特に有色人種の人々に大きな損害を与えています。私たちは、学者が文化の「刑務所化」と呼ぶものを目撃しています。そしてそれは学校で特に顕著です。


司法への全体論的なアプローチ

SI:修復的な司法が取るアプローチについて、あなたはどのように定義しますか。
デイヴィス:修復的な司法は、全体論的(ホリスティック)なアプローチを取ります。現在のシステムが問うように「どの法律が犯されたのか」「誰が犯したのか」「どの刑罰に値するのか」と問うのではなく、修復的な司法は「誰が危害を受けたのか」「危害によって影響を受けた人の必要と責任は何なのか」「影響を受けた人々が集まり、その危害を可能な限り癒し、必要と責任に対処する方法をどのように見つけ出すのか」と問います。犯罪や他の不正行為の結果として起こった損害や人間関係へのダメージを修復しようと努めるのは司法です。司法は、より一層の社会的平和をつくり出そうとします。


SI:修復的な司法の考え方の起源は、どこにありますか。
デイヴィス:その最初の起源は、先住民の紛争への対処や裁判の方法にあります。あるいは、修復的な司法を生み出した先住民の根本的な洞察は、私たちは皆お互いに、そして地球と関連し合っているという信念であると言えます。「ウブントゥ(Ubuntu)」とは、アフリカ先住民の根本的な信念を表現したものです。それは基本的には「皆がいるから私がある。そして私がいるから皆がある」という意味です。私の人間関係があるから、今の私があるのです。このような修復的な司法の人間関係的な本質は、ほとんどすべての先住民文化の教えや洞察から直接来るものです。
私たちは、修復的な司法にピースメイキング・サークル(和解の輪)の過程を使用します。それは、カナダ先住民のリンギット・タギッシュ族が使用していたものです。ピースメイキング・サークルの指導的な理論家で実践者であるケイ・プラニス氏が、この過程を私たちに教えてくれました。彼女はそれを、リンギット・タギッシュ族の長老から学びました。このようなサークルは、カナダだけでなく、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの多くの先住民文化で良く見られることが分かりました。


学校での修復的な司法

SI:修復的な司法におけるピースメイキング・サークルの役割についてお話しいただけますか。

デイヴィス:ピースメイキング・サークルは、私たちがオークランドの学校で特に使用している過程ですが、地域社会でも使用しています。私たちはピースメイキング・サークルを、危害が発生した後の衝突の解決方法としてだけではなく、共同体や信頼を築き上げたり、共通の価値観を発達させたりするためにも積極的に用いています。学校では、ピースメイキング・サークルは、危害が発生した後で停学や退学の代替案として用いられています。それは本当に大切です。なぜなら、調査によると、停学になった生徒は、たった一度の停学でも、収監される可能性が3倍も高くなることが分かっているからです。


SI:危害や犯罪が発生した後で、修復的な司法の過程が使用され、その人が刑務所に行くことが防がれた例を挙げていただけますか。

デイヴィス:例を挙げますと、ある若い人が学校に銃を持ってきました。それはBBガン(エアガンの一種)だと判明しましたが、彼が銃を見せびらかしているときは、スタッフや生徒たちはそのことを知りませんでした。それは、彼が未成年者として収監される可能性のある犯罪です。しかし、コミュニティー会議または家族グループ会議と呼ばれる修復的な転換過程を使えば、彼は収監を避けることができます。それは、彼が責任を逃れることにはなりません。より効果的で再発を防止する可能性がより高いと調査が示すような方法で、彼は責任を負います。
修復的な司法の世話役は、危害を加えた若い人と彼の家族に別々に会い、次に危害が加えられた人に会います。その若い男性が学校コミュニティーの一員に危害を加えたことの責任を取らない限り、この過程は起こりません。もし彼が責任を取る場合、私たちは、双方の準備を整え、双方の人々を引き合わせます。
私たちが従う一連の手順があります。関係を築くための活動や、場を和ませる会話が最初にあります。次に皆が輪になり「何が起こったのですか」など、幾つかの質問に答えます。危害を加えられた人が最初に質問に答え、次に危害を加えた人が続き、そして他にそこにいる人があれば続きます。通常は、何が起こったかに関して、共通の理解のようなものに達します。
次の段階では、「あなたはそのとき、どのように思っていましたか。何が起こっていましたか」などの質問をします。これは通常、危害を加えた人への質問です。多くのケースで、危害を加えた若い人は、ある意味で危害を加えられてきたことが分かりました。別の例として、教師を罵った生徒のストーリーを聞きました。彼を学校から放り出すのではなく、彼の母親がちょうど(薬物で)再発し、過去3日間、彼は夜に家でひとりぼっちであったことを知ることができます。そして、そのために彼は過敏になっており、怖がっていたのです。
会議の過程の一部分として、若い人が謝罪する段階があるでしょう。最後の段階では、何がなされるべきかに焦点を当てます。このケースでは──そしてそれは場合によって常に異なるプランとなりますが──この若い男性は才能のある芸術家であったので、グループは、彼が展示物を作成することを決定しました。彼は何枚かの絵やイラストを作成し、学校で銃の暴力に関してプレゼンテーションを行います。また彼は、最初に学校に銃を持ってきたことを謝罪します。
そのグループはまた、若い男性が自分より年上で肯定的なロールモデル(手本となる人物)となる若い人たちと定期的に会うことを決定しました。このケースでは、これらの若い人々は、彼ら自身が少年司法制度と関わりを持ち、修復的な司法の活動で人生が変わった経験を持っています。
研究では通常、青少年が修復的な司法の過程を経験することにより、再犯率(再び犯罪を起こす確率)が大きく低下することが示されています。オークランドでは、再犯率は75%から90%に達する場合がありますが、青少年がこのような過程を経験することによりわずか15%から20%にまで減少します。


鉄格子の中の修復的な司法

SI:誰かが刑務所や拘置所にいるときに、修復はどのように起こりますか。

デイヴィス:通常、このようなケースでは、殺人を犯した人は通常の刑事司法の過程を経験することになりますが、有罪判決を受け服役した後で、生存者や家族が殺人者と会う、犠牲者と攻撃者の対話と呼ばれるものを行うことがあります。これは想像されるように、非常にデリケートな過程です。彼らを実際に会わせる前から、長期間にわたり双方の人々と共に活動する、訓練を受けた世話役がいます。本当に驚くべき癒しが起こります。多くの場合、このような過程の後で、家族は殺人者と近しくなり、殺人者の仮釈放を実際にサポートします。
また、収監の代わりに行うことのできる犠牲者と攻撃者の対話もあります。それは、私が青少年に関してお話ししたコミュニティー会議モデルのようなものです。ところで、ニュージーランドでは、青少年のためのコミュニティー会議モデルまたは家族グループ会議モデルによって、青少年の収監施設をほとんど閉めることになりました。ニュージーランドでは、修復的な司法という代替案によって、殺人を除いて、青少年の収監を事実上廃止してしまったのです。


プログラムの持続

SI:あなたはどのようにして、オークランドの学校制度が規律のための修復的アプローチを試すようにされたのですか。
デイヴィス:私たちは、オークランド市から資金援助を受け、ある学校の試験的プログラムから開始しました。約1年半経過後、このプログラムは暴力を完全に根絶することに成功しました。生徒たちは違いについて争うのではなく、対話することを学んでいました。暴力を根絶しただけでなく、停学率を87%減少させ、テストのスコアを上昇させ、教師の消耗をなくすこともできました。
最初の試験プログラムの素晴らしい成果が知られるようになると、他の学校が興味を持つようになり、次に学校区が興味を持ちました。試験プログラムのわずか2、3年後、学校区は修復的な司法を学校の公式な方針として採用しました。

SI: 幾つの学校が、修復的な司法の実践を採用したのですか。
デイヴィス:修復的な司法は、およそ30の学校で運用されています。教育長は、次の年に230万ドルを割り当て、類似の戦略と同様に、修復的な司法の拡大を継続することを発表しました。ですから私たちは、来年には修復的な司法が、さらに多くの学校で実施されることを期待しています。
これら30の学校のものは、RJOYのプログラムではないことを付け加えた方がよいでしょう。RJOYの戦略は、独自のプログラムを作成できるような能力を学校区に持たせることです。私たちは最初の時期に、多くの集中的な訓練やコーチング(指導)を実施しました。3年後には、学校区が独自のトレーナーとコーチを持つようになり、今では独自のプログラムを持っています。私たちは今でも学校区と共に活動しており、技術的な援助を行い相談に応じています。
2006年には、私たちはオークランドで唯一の修復的な司法の団体でした。現在では本当に多くの団体があります。そしてこれらの団体の多くが、私たちが行ったトレーニングの流れを受け継いでいます。この運動が広がり、より多くの人が修復的な司法について耳にし、プログラムを望むようになるにつれ、品質に関して懸念があります。そのため私たちは、カリフォルニアの実践者を集め、この問題を知らせ、標準を実践するためのある種のコンセンサス(合意)に達しようとしているのです。


SI:修復的な司法が犯罪者や被害者に対して持つ長期的な感情的、精神的な利点は何でしょうか。

デイヴィス:このことを指摘している研究があります。2007年のローレンス・シャーマン博士とヘザー・ストラング博士による「修復的な司法──証拠」という研究です。この研究は、危害を受け修復的な司法の過程を経験する人は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむことが少ない傾向にあることを示しています。
危害を加えた人に関しては、再犯率の低下が、変容が起こったことの証拠です。これらの過程は、共感を促進するように意図的に設計されています。そして研究は、危害を加えた人が共感を学んだことを示しており、それが彼ら自身の変容の鍵なのです。

詳しくは次を参照:
rjoyoakland.org または livingjusticepress.org