現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2006年 2月 帝国に挑む

帝国に挑む

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シェア・ギルモアによるフィリス・ベニス氏へのインタビュー

フィリス・ベニス氏はワシントンに本部を置く政策研究所とアムステルダムに本部を置く多国籍の政策研究所の研究員である。彼女は長年にわたり作家として、中東と合衆国との諸問題の分析を手がけ、活動家として行動してきた。パレスチナ、イラク、国連、そして新世界秩序に関する著作活動と編集を行ってきたが、彼女の最近の出版物は、『帝国に挑む:世界の諸国民、諸国政府、国連は合衆国の権力に抵抗する』と題されたものである。2001年、ベニス氏は「イスラエルの占領を終わらせる米国運動」の創設を手伝い、現在ではその会議の共同議長を務めている。彼女は「平和と正義のための統一」という反戦連合と密接に連携して働いており、2002年以降は、ますます高まりつつある全世界平和運動において積極的な役割を果たしてきた。シェア・インターナショナルを代表してシェア・ギルモアが彼女にインタビューした。
シェア・インターナショナル(以下SI):アリエル・シャロン氏の、ガザ地区からの撤退という当初の決定の背景には何があるとお考えですか。
フィリス・ベニス:これはシャロン氏の長年続いてきた見解と矛盾していませんでした。つまり、それはイスラエルの最も強硬な路線の見解でもあるのですが、ガザ地区は経済的にもイデオロギー的にもほとんど重要性はない、というものです。彼はあまり価値のないものを放棄したのです。イスラエル軍の兵士たちの死傷者が増えていたので、大きな圧力を受けていました。イスラエルから見て維持費は巨額に上り、その維持費に関して民衆の怒りが増していました。ですから、大変実利的な決定でした。その代わりに途方もない代償を手に入れたわけですから。  シャロン氏とブッシュ氏が取り交わした2004年4月の手紙の中で、米国は、イスラエル軍とイスラエル人入植者のガザ地区からの撤退と交換に、イスラエルが西岸地区、とりわけ三つの最も広大な入植地区の膨大な領地を併合することを受け入れることが保証されていました。イスラエルは、パレスチナ人には架空の未来のパレスチナ国家を除いては帰還する権利は存在しないと、初めて明確な形で帰還の権利の帳消しを米国に書面で認めさせました。ですからシャロン氏は彼の決定によって莫大なボーナスを手に入れました。しかも、ひどいことに、ガザ地区の支配を放棄したわけではありません。国境通過、航空領域、沿岸領域など、そのすべてがイスラエルの管理下に置かれたままです。それは全くのトリックで、イスラエルはガザ地区を直接占領する上での費用を負担せずに支配を継続し、その見返りに合衆国から莫大な贈り物をもらっています。イスラエルも合衆国も満足を手に入れました。
SI:もし、あるとして、どんな手順ならば、イスラエルとパレスチナ両国間に真の平和を達成できるとお考えですか。
フィリス・ベニス:非常に難しいですね。本質的に、イスラエルは両国が共存するという解決方法は不可能に近いという前提で動いてきました。もし、それが確実になるなら、パレスチナ人の権利闘争は、いわゆる反アパルトヘイトまたは市民権闘争という形を取ることになるでしょう。その中で、これは一つの領土であって、闘争は一つの民族が他の民族よりも優位にあるというような神話に基づくものではなく、平等の権利を獲得するためのものであるということが承認されるでしょう。必ずしもそうなるかどうかはまだ分かりません。両国共存という解決方法の可能性を持つ小さな窓が残されてはいます。しかし、それはイスラエルへの圧力となるだけでなく、合衆国にも全く異なるレベルからの圧力をかけることになるでしょう。占領政策を可能にしている合衆国政府の政策を狙い撃ちにする「イスラエルの占領を終わらせる米国キャンペーン」はその一つです。イスラエルに対しては、BDS(ボイコット、ディベストメント〔投資の引き揚げ〕、サンクション〔制裁〕)--あらゆる種類のイスラエルに対する経済的圧力--という世界中に根付こうとしているキャンペーンが今まさしく確立されようとしています。イスラエルのエリートたちには一種の経済的圧力に対する真の恐怖が芽生えています。それは教会によるリーダーシップで、目下大学のキャンパスで増大しています。
SI:パレスチナの人々は両国共存以外の解決を受け入れるでしょうか。
フィリス・ベニス:事実、私もそうですが、両国共存は正しい解決法ではないと信じている多くのパレスチナ人たちがいます。1980年にさかのぼりますが、私たちは西岸地区全域、ガザ地区全域、そして東エルサレムのすべてをベースにした両国共存の解決法について話していました。当時はそんなことは実行不可能だと考えていましたが。今は、全体の40%、歴史的なパレスチナの22%が可能かどうかと話しています。22%とは、西岸地区とガザ地区と東エルサレムによって代表されているパレスチナの地域を指します。それは4分の1よりも狭い領土です。ですから、その領土をベースにした両国共存の解決法について話すなら、それはすでに大きな譲歩となっています。パレスチナの人々が22%の領土の、さらに60%を放棄せよと言われるのは大変なショックでしょう。両国共存の解決法は現在テーブルの上に載せられていて、パレスチナの人々は受け入れてはいますが、われわれはこれが正義であるふりをすべきではないことだけは、はっきりさせなければなりません。
SI:ブッシュ政権の、国連を弱体化し形骸化させようという努力は効果があった、そして今後もそうなるとお考えですか。
フィリス・ベニス:残念ながら、効果があったと思います。国連が現在そこから立ち直ることができるかどうかは不確かな問題で、それは市民社会が国連を更生させるために結集し、それを再建できるかどうかにかかっています。確かに、ジョン・ボルトン氏を国連大使に任命したことは、合衆国政府が国連をどのように考えているかを示すものでした。しかし、それはボルトン氏に限ったことではありません。合衆国政府は数年にわたって、主に事務総長室の首席スタッフ、マーク・マロック・ブラウン氏を交代させようというお膳立てによって、事務局の独立性を形骸化させようとしてきました。そして、事務総長室の新しいポストに、右翼的な合衆国政府役人、クリストファ・バーンハム氏を据えたのです。彼はとても危険なタイプです。彼は本質的に監視役です。去年の夏、彼は国連や国際法にではなく、合衆国政府に忠誠であることを明確にしました。ですから合衆国はこうした類の変更を無理やりもぎ取るような形で進めることに成功してきました。現在は総会の主要国であるG-77、南半球の国々との主要な戦いに入って、権限を総会から取り去り、総会事務長室に移行させようとしています。長期にわたる計画では、もし合衆国政府がコフィ・アナン氏を直接籠絡することができなければ(彼らはこれまでそれを試み、完全にではありませんが、ある程度成功してきました)、次期事務総長は完全にワシントンの手の内にある人物になるでしょう。
SI:その計画をどうすれば阻止することができますか。
フィリス・ベニス:私たちが平和運動で挑戦できることの一つは、そのことを非常に冷めた目で見つめ、次のように言うことです。すなわち、「われわれは重大な問題を抱えている。彼らはここで強硬な態度を取っている。彼らはわれわれからこの大変重要な機関を奪おうと計画している。われわれはそれを取り戻す戦いをしよう。国連を再建しよう」と。それは生易しい仕事ではありません。それをいかにして行うかの今すぐの青写真はありませんが、それをわれわれの出発点にしなければならないと考えています。
SI:2003年に、『ニューヨーク・タイムズ』は、世界中の世論を第二の超大国と呼びました。そしてあなたから、市民運動、独立した考えを持つ各国政府、そして国連という三者の連携についてお話しを伺いました。どうすれば三者の連携を築いて、そしてそれを強化することができるでしょうか。
フィリス・ベニス:これは今日の私たちに課せられた挑戦です。私の新しい本のテーマとなっています。最初に、その三者の挑戦のうち、唯一信頼のおける構成要素は民衆であるということを理解しなければなりません。各国政府は、どれほど進歩的であるとしても、一つか二つの点で私たちと同じ立場にあるとしても、常に変わらぬ態度であると見なすことはできません。しかし、私たちはこの帝国主義と戦争へと向かう流れに対して正面から立ち向かう覚悟を持つ各国政府と連携して働くことが可能な、さらに一層手の込んだやり方を考え出さなければなりません。そこで、国連が焦点となります。私たちは二つのことをする必要があります。一つは外国の政府は十分にたくさんあるので、「ノー」と言う覚悟のある国々からなる十分な多数国が国連にあることを確かめる必要があります。国連事務局が何とかリーダーシップを取ってくれるだろうという考えは現実的ではありません。国連の力は民主国家にあるのです。しかし、私たちは国連とその運営により大きな透明性、より大きな責任を求めるキャンペーンを継続し、市民社会の声を反映させなければなりません。そして市民社会の意見が制度化された形で国連で聴かれるようにしなければなりません。それはたやすい仕事ではありません。私たちが直面している問題の一つは、世界中の既存の活動家たちのコミュニティーに、非常にもっともな理由から、国連に対して多大の敵意が広がっているということです。国連はアメリカの外交政策の道具になり下がってしまった、そしてそれはどうすることもできない現実であるという感覚があります。
SI:平和と正義の活動家にとって、目下の最重要課題は何だと思われますか。
フィリス・ベニス:現在はイラクでの戦争をストップさせることです。戦争は相変わらず帝国主義へと向かう合衆国の活動の中心のままです。イラクにおける戦争を終わらせることは世界の脅威を終わらせることにはなりません。それは権力と資源の支配へと向かう流れを終わらせることにはなりませんが、とても重要な信号をワシントンの政策立案者たちに送ることになるでしょう。その中心にいるネオコンの人たちだけでなく、彼らの壮大な目論見がうまくゆくかどうかを疑問視している彼らの周辺にいるすべての人たちに送ることになるでしょう。彼らの目論見はうまくいかない、世界は無関心な態度を取って、それが起こるのを認めるわけではないというメッセージを送ることになるのです。
SI:今日のイラクにおける真の政治状況と社会状況について、人々が聞いていないことで、あなたが言っておきたいことがありますか。
フィリス・ベニス:認可制度は長年イラクを苦しめてきた荒廃の原因ですが、いまだに通行料が徴収されています。イラク人たちの毎日の生活は良くなっていません。この国の大勢の人々が「たぶん、外国の軍隊がまだいて、抵抗運動があるのはよくないが、少なくとも、イラク人の生活は以前より良くなった・・・」と信じ始めているというのは神話です。生活は良くなっていません! 人々はいまだに十分な飲料水を得ることができません。安定した電力が一日中供給されるわけではありません。国土全体が石油のプールに浮かんでいるような国なのに、十分なガソリンがありません。学校も病院も機能していません。失業率は70%ほどです。いまだにこのような社会不安が存在しているのです。そういうわけで、占領政策を支援する軍隊や警察に加わろうとする若い人たちが並ぶ列を絶えず目にします。とても危険ですが、人々は他に何もないし、家族を養わなければならないので、そのような仕事に応募するのです。
SI:イラクから引き揚げる一番良い方法は何だとお考えですか。どうすれば、手を引くことができ、そしてイラクの人々を守ることができますか。
フィリス・ベニス:今現在、私たちはイラクの人々を守ってはいないということを理解しなければなりません。私たちはイラクの人々にとって状況を悪くしています。そしてそれはアメリカ軍がそこにいる限り続くでしょう。私たちが推進させなければならない最初のことは、「アメリカはイラクから立ち去ろうとしている、そして一方的で即時の休戦を呼び掛けている」ということをはっきりと宣言することです。それは、もはやいかなる軍事行動を行うつもりはないということを意味します。直ちに、兵士を都市部から引き揚げて空軍基地や辺境地区に移動させ、撤退の過程を始めることです。それこそ、ペンタゴンが行うべきことです。それと同時に、すべての軍事基地をイラクに返還して、そこから立ち去るべきです。それらは恒久的アメリカ軍基地として維持されるべきものではありません。  第二は、議会はあらゆる戦費を直ちに削減する必要があります。イラクで唯一費やすことができるお金は、兵士たち--彼らの身体、軍備など --を直ちに保護するためと、国外に輸送するためのものです。政府はイラクの石油資源または石油経済を支配し続けるつもりはないということを知らせる必要があります。ブレーマー氏によって押し付けられた法は、すべて無効で実効性のないものであること、イラク人国家の将来のために、彼ら自身の法--とりわけ商法--を創造するかどうかは、どのようなイラク政府が誕生するにしても、その政府の責任であるということも知らせるべきです。そうすれば、実際の撤退はさほど難しくないでしょう。
SI:国連の平和維持軍の働き場所は存在しますか。
フィリス・ベニス:ありますとも。多国籍軍の撤退は第一歩にすぎないということを理解しなければなりません。私たちはイラクの人たちに多くの借りがあります。私たちはまだ賠償金を支払っていません。補償金をまだ支払っていません。真の再建が残っています。ハリバートン氏に支払うのではなく、イラクの人々に支払うことを意味しています。しかし、私たちが軍隊を国外へ移動させない限り、その負債の支払いは始められません。そうなれば、私たちは平和維持活動を国際化させることについて話すこができます。それは平和維持軍に支援を行うということでしょう。国連軍とたぶんアラブ連盟軍の両者が合同でスポンサーになることが考えられます。国連は支援活動をし、その大部分を支払わなければなりません。参加はするが支配はしません。それは国連にとってたやすくはないでしょう。しかし、それが私たちの目標でなければなりません。
さらに詳しい情報とフィリス・ベニス氏による関連出版物については:www.ips-dc.org ;www.tni.org
編集者の注
アメリカとヨーロッパにおける大部分の活発な平和運動グループは、駐留軍の即時撤退を呼び掛けているが、承認された国連軍が現在の駐留軍に取って代わらない限り、これは現時点では非常に危険な行為であるように私には思われる。
西洋諸国の軍隊の撤退が現実的となるには、イラクに完全な安定が確立されなければならないだろう。現時点では小規模の小競り合いが、もしアメリカ軍とイギリス軍が撤退すれば、手に負えない内戦にまで発展するだろう。イラク政府とイラク人警察が国内の都市部と市町村部に相当な秩序を維持できるようにならなければならない。現時点、そして見通しのきく将来においては、これは可能性のあることには思われない。他の解決法として、国連軍がアメリカ軍とイギリス軍に取って代わることは、国連はたぶん長期間にわたることになるこの駐留費用を負担できないので、合衆国政府がそれを賄わなければならないだろう。国連軍の駐留は、イラク政府とイラク国民に全面的に受け入れられるものでなければならないだろう。このことが保証されているわけではない。

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