現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2006年 2月 債務から自由な貨幣の創出

債務から自由な貨幣の創出

パトリシア・ピッチョン

債務に基づいた金融システムは、開発途上国でも先進国でも危機に瀕している。豊かな国でも社会構造が崩壊し、債務が増大し、富裕者はより豊かになり貧困者はより貧しくなるなど、沈滞の兆候がはっきりと目に見えるようになってきている。
今やほとんどすべての貨幣が債務に基づいて生み出されている。各国政府は、中央銀行が信用を創造することや、有利子融資として無から貨幣をつくり出すことを許可することによって主権を生み出している。銀行は実際の所有額以上の額を融資しており、システム全体がシステムそのものへの信頼に依存している。

選挙で選出されたのではない権限

ここで重要な点は、人為的な貨幣不足があるということである。もう一つの点は、政府が決定的な権限を民間銀行に与えているため、選挙で選出されておらず国民を代表しているわけではない少数派が法外な権限を行使できるようになり、それによって真の民主主義が著しく制限されているということである。強力な銀行家たちは国民を代表していないし、国民に対して説明責任を果たしてもいない。銀行家たちは、誰が、何を担保として、どんな目的のために融資に値するかを決定している。こうしたことは重要な社会政策を歪めることがあるし実際に歪めている。なぜなら、銀行家たちは「民衆」の立場に立った動機ではなく、利益追求という動機に従って行動するからである。
政府は歳出をまかなうのに十分な税金を集めることができず、不足分を補うために、いわゆる有価証券を発行する。後日支払うことを約束するこの紙片は、株券、債券、長期国債という形を取る。これは定期的に売りに出され、年金基金、信託基金、保険会社、銀行によって購入される。それが銀行によって購入されるとき、有価証券を購入するという目的のために、銀行によって新しい貨幣が無からつくり出される。(政府は支払い約束を守らなければならないため)有価証券の支払い期限が来るが、そのとき政府には貨幣がない。そのため、政府は(a)もっと多くの有価証券を売るか、(b)再び税金を引き上げることになる。こうした返済形態は「国債の利払い」と呼ばれている。

実質貨幣を返済するのは庶民

政府は債務から自由な貨幣を創出すべきであると提唱している真剣な貨幣改革家たちの中に、アリステア・マッコナチー氏がいる。政府は銀行に売却する紙片を印刷することによって、実際には所有していない貨幣を調達しているとマッコナチー氏は指摘する。銀行にもそのような貨幣はないため、銀行は何もないところから貨幣をつくり出すことになる。一方政府は、働いて稼いだ実質貨幣を庶民が税金として銀行に返済することを期待している。これは「不思議の国のアリス」と呼べるようなシステムであり、大体の場合においてばかを見るのは庶民である。
おもしろいことに、必要とされる政治的な勇気と意志さえあれば、他のシステムも全く実現可能である。マッコナチー氏はアメリカの発明家トマス・エジソンの言葉を引用している。「わが国は3,000万ドルの債券を発行できるが、3,000万ドルの現金は用意できないというのはばかげたことである。両方とも、支払うという約束であるが、一方の約束は高利貸しの懐を肥やし、もう一方の約束は人々を助けるものである」
(1921年12月6日付ニューヨーク・タイムズ紙参照)

基本的な社会のニーズ(教育、保健医療、安価な住宅など)を満たす、債務から自由な貨幣を政府が創出すると、インフレが起こると反論する人々もいる。しかし、非常に真剣な貨幣改革家たちは、債務から自由な貨幣は段階的に金融システムに入り込むべきであると考えている。これはかつて実施されたことがあった、と彼らは指摘する。例えば、第二次世界大戦の末期の1945年に、イギリス政府は債務から自由な貨幣(返済する必要のない貨幣)を創出することで、自国の財政的な必要の半分を満たし、残りの半分については民間銀行部門に民間投資への融資を行わせた。しかし今では、イギリス政府が供給しているのはたったの3%であるのに対し、民間銀行部門は融資の97%を供給している。実質的に、政府は公金の大半を民間銀行部門から借り入れ、庶民がその特権のために税金を支払っているのだとバリー・ターナー氏は指摘している。支出、税収、債務の帳尻を合わせることは、政府が人為的に資金不足の状態に置かれ続けることを意味する。

食うか食われるかの競争

リチャード・グリーブズ氏は、債務に基づいた貨幣がもたらす否定的な結果についての論文の中で、(有利子融資の返済による)借り入れコストは最終製品の価格をつり上げると指摘している。これが意味することは、商品やサービスはずっと高価になるが、消費者が使えるお金は減るということである。そのため、庶民が購入できない商品やサービスの余剰が生じることになる。これが食うか食われるかの競争を生み、企業は賃金引き下げ、雇用削減、(労働組合がないため保護されていない安価な労働力と、税金が容易に支払える大企業のための不条理な「非課税」制度を条件とした)貧困国への移転によって、価格を引き下げようとする。これによって貧困国の民衆も政府も恩恵を受けることはないが、取引を進めるために賄賂を要求し受領している政府職員の数は全く不足していない。
こうした状況はインフレを誘発するとグリーブズ氏は指摘している。生産者は絶えずさらに多くの借金をしなければならないため、それが消費者にはね返り、消費者の債務レベルが上昇することになる。銀行はインフレを抑えるために利率を上げるが、最終的には失敗する。消費者が使える貨幣は今や少なくなっているため、産業界は価格を抑えようとして当初は損失を抱え込むが、再び利率が下がるとすぐにコストは転嫁され、結果として生じる借入と消費のサイクル全体もまたインフレを誘発することになる。債務に基づいたシステムでは、借入のレベルと貨幣創出のレベルが上昇し続けなければならないため、利払いの重荷が増し、債務が増大する限りインフレは常に存在するという状況が保証されることになる。誰が信用を創造しているかに比べれば、私たちが何を消費しているかはあまり重要ではないと、思慮の深い人たちは指摘している。

底知れぬ残酷さ

「第三世界」の債務は環境破壊の重要な要因になっている。なぜなら、債務を支払って何とかやっていくためには、開発途上国はあらゆる可能な資源を搾取して、それを輸出に振り向け、そのようにして必要な収入を確保しなければならないからである。農業経済の大部分が輸出可能な贅沢な食材に集中してしまうと、人々は多様な地元の食糧を生産することができないため、飢饉が発生することになる。そしてしばしば、地元の産物が十分にあったとしても、地元の人々にはそれを買うお金がないため、彼らは飢えて死んでしまうのである。現在のシステムが極めて残酷なものであるのは、利払いだけでも借り入れ元本を大幅に上回っているからである。
多くの開発途上国の経済において貨幣が絶望的なほど不足しているということは、潜在的な才能をもつ有能な人々が、教育機会の不足、粗末な住居、治療可能な病気、汚染された環境によってひどく苦しむということを意味する。一方、富裕国は、開発途上国の市場をこじ開けようとするのに忙しい。そのようにして、その地域で何が本当に必要とされているかにはお構いなしに、自国の余剰物資を輸出することができるようになる。こうした非人道的な押し付けは、自由貿易としてまかり通っている。他方、富裕国では砂糖、トウモロコシ、綿などの様々な農産物に対して隠れた補助金が支払われており、開発途上国の貧しい農家が全く太刀打ちできない状況がつくられている。ジュネーブでの世界貿易機構の会議が紛糾したのは、この状況と大いに関係している。
貨幣改革家たちは焦点を完全に変えることを提唱している。政府は利子付きで貨幣を借りるのをやめるべきである。政府は債務から自由な貨幣を創出し、貸し付けるのではなく、自国経済の中で公共事業や公共サービスへとその貨幣を充当すべきである。グリーブス氏が指摘するように、これは雇用を創出し、経済を活性化するという効果を生むことになる。透明で責任のある目標をもった、この目的のために創設された特別な国家機構が、そのための道具の役割を果たすことができるであろう。
ジェームズ・ギブ・スチュアート氏はその著書『The Money Bomb(貨幣爆弾)』の中で、国債の利子に対しては、課税によってではなく、政府が創出した、債務から自由な貨幣によって資金供給ができると主張している。

参考:
インターネットでは、www.Prosperityuk.com/
文献では、Richard Greaves, ‘The Negative Consequences of the Debt-based Money System,‘Prosperity, Glasgow, Scotland, November 2001.
Alistair McChonnachie,‘Looking Beyond the Money Myth,’Prosperity, August 2001.
Michael Rowbotham, The Grip of Death: A study of modern money, debt slavery and destructive economics. Jon Carpenter Publishing, Charlbury, UK, 1998.
James Gibb Stuart, The Money Bomb. Ossian Publishers, Glasgow, Scotland, UK, 1983.
Barry Turner,‘The Squeeze on the Heart of Society,’ Prosperity, June 2001.