現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2006年 3月 恥辱の帝国

恥辱の帝国

リュック・ギロリー氏による書評

「富であふれる世界において、8億2,600万人以上の人が飢えと栄養失調に罹っており、毎年3,600万人以上の人が飢餓とそれに関連した原因で死んでいるのは、この上ない恥辱である。われわれは今すぐに行動しなければならない」。国連特別報告担当官・ジャン・ツィーグラー、2001年4月


著名な活動家であり著作家のジャン・ツィーグラー教授は、『食糧への権利』に関する国連特別報道担当官であり、また、ジュネーブ大学とパリ・ソルボンヌ大学の古参の教授である。彼は社会学を講じ、飢餓問題を含む多数の書を著してきた。『恥辱の王国』という自著で彼は、多国籍企業があたかも新しい封建時代の領主のように、既得利権のために諸国の政府と国民に彼らの主権と自由とを放棄させるための大量破壊兵器として、債務をいかに利用しているかというメカニズムについて説明している。

「私の生活には[嗅ぐための]のりしかない」。

これは、ジャン・ツィーグラー氏がブラジルの債務と飢餓の影響について調査しているとき、ブラジルの(東海岸都市)レシフェに住む少女が言ったことである。
飢餓という現実、および希望も未来も教育も家族生活もない病んだ子どもたちという現実の原因となっているのは、その国の対外債務と、その国と豊かな国および多国籍企業との関係である、とツィーグラー氏は述べている。
1964年と1985年の間にブラジルは、「国家の安全」を防衛するという口実の下に軍事費を膨張させたために、債務を50%も増加させる結果になった。外国の投資家たちに、減税とか他の財政的給付金という誘い水を提供しようとしたが、ブラジルは(自身で)そうした供給を与える余力がなく、いきおいIMFとか、(財政上の援助や輸出入促進を提供する米国政府の代理機関である)外国銀行、および西側の民間銀行に財政的に依存せざるを得なくなったのである。

債務の落とし穴

1979年に米国が利率を上げ、ブラジルは以前の借入金の返済のために新たな借入を要するという債務危機の落とし穴に陥った。数年後にフェルナンド・カルドソ大統領は、外国資本を強力に引き寄せるために、ブラジル国内の利率を上げることを決めた。中小企業はそのしわ寄せに直撃を受け、大混乱し、融資への道が閉ざされたために事業を縮小し、従業員を解雇せざるを得なくなった。さらに悪いことには、利率の上昇によって、投機熱が煽られ、ブラジルの国外と国内の投資家たちが、ブラジル国債を買うために高利率で個人的融資を行った。
ブラジルの危機が深まると、西側の銀行とウォールストリートは、ブラジルの農業や工業、サービス産業に関わる自分たちの投資と資産が心配になった。この悪性のインフレを終わらせるために、IMFは思い切って最大の緊急脱出融資300億ドル相当を2002年に行った(皮肉なことに、このほんのわずか前にIMFはアルゼンチンに同様な救済策を与えることを拒否していた)。
「ウォールストリートの強い圧力」にIMFの救済事業が加わったために、ブラジル政府は鉱山、通信、ガソリン、電気等の産業の民営化を一層推し進めよとの圧力を受けるようになった。(この結果)失業者数は急増し、国家資産に相当する何十億ドルが多国籍企業に売り払われた。
IMFによって提供された融資の「条件」は、ブラジル政府が年間の経済成長率3.75%の維持を引き受けることであった。これが債権者に、ブラジルは債務と利子の返済を行うことができることを保証した。この結果、必然的に社会福利関係の予算が削減され、国民の貧困者層の福祉が債務の返済のための犠牲になった。
衝撃的なことには、このブラジルの事例は珍しいことではなく、繰り返し繰り返し世界中の様々な国で見られることである、とツィーグラー教授は語っている。彼は、自著の中でモンゴルからエチオピア、そして他の重債務諸国に関する多数の実例を挙げている。各々の場合では異なった様相を示してはいるが、結果は一様に同じで、貧困と何百万人のホームレスと恵まれない人々の増加が引き起こされるのである。

新たな封建的権力

国家が丸ごと破産し、外国の金融機関のために自国民の福祉を犠牲にせざるを得なくなる背景には何があるのであろうか。
ツィーグラー氏によると、多国籍企業が新たな封建的権力である。彼らの目的は、たとえどれだけ失業によって人的・国家的犠牲が支払われようと、また福祉制度が麻痺し、事実上公共経費がなくなろうと、自分たちが最大限の利益を得ることにある。彼らの狙いは、国家統制と「社会的障害物」を取り除き、それによって個々の国家の富を支配することにある。
この目的を遂げるために、彼らはグローバルな経済システムの支配を目指し、故意に公共事業、資本、資産の欠乏を引き起こす。示された実例では、1964年に122の発展途上国の債務総額は540億ドルであったものが、現在は20,000億ドルになっている。同時に、500の強大な多国籍企業の純利益は、毎年15%増加している。貧困度指標によれば、374の最大級の企業が蓄えている財政貯蓄高は5,550億ドルにも及んでいる。このようにして、彼らは雇用や賃金のカット、及び社会経費の削減の原因であり続けている。

大量破壊兵器

2003年に122の発展途上国が受け取った国際「援助資金」は、総額540億ドルであったが、これらの国が債務返還のために債権国に支払った金額は、4,360億ドルという巨額なものであった。ツィーグラー氏によると、債務は現代の封建権力が国家全体を奴隷化するのに使う大量破壊兵器である。
著名な英国のNGO「ジュビリー2000」は、5秒ごとに一人の子どもが債務のために死亡するという計算結果を示した。債務を抱える南側諸国政府は、金融市場利率の5倍から7倍もの利子の融資を受ける。この債務を毎年返済するために公立の学校や病院や社会保障への投資を切り詰める一方で、外国の投資を保護するために警察や軍隊の予算が維持されている、とツィーグラー氏は述べる。1992年から1997年の間に、カメルーンは(国家予算の)わずか4%を社会事業に割り当て、36%も債務の返済に当てている。ケニアではこの比率が12%と40%であり、ザンビアでは6%と40%であった。これらの国の多くは、相変わらず返済を続けており、対外債務は増加の一途をたどっている。
債務を増加させるのには、幾つかの理由がある。
■たいていの国は原料を輸出し工業設備を輸入するが、その費用は過去20年間で大きく増加している。
■エリートたちの間で汚職が蔓延し、これを西側の銀行が黙認しており、彼らは組織的汚職の習慣に浸っている。
■発展途上国における事業で得られる天文学的利益は、豊かな先進国の株主によって支配され、西側諸国に還元される。これらの利益は通常、現地通貨ではなく、米ドルか他の主要な国際通貨に変換される。
■発展途上国で活動するたいていの多国籍企業は、特許権を保持し、特許権使用料を受け取っており、それはまた、西側に移転される。
ツィーグラー氏は、これが発展途上国に自国へ利益を還元する可能性を失なわせているやり方だと説明している。収入源になるはずのものが西側の債権者によって盗まれるのである。1970年代のラテンアメリカの対外債務総額は600億ドルであったが、1980年に2,400億ドルになり、2001年には7,500億ドルに達した。ラテンアメリカの各個人は、西側の債権者に平均で2,250ドルの債務を背負うことになる。
ツィーグラー氏は、このギャップが拡大しているのを示している。彼によると、40年前では約4億人が栄養失調であったが、現在この数は倍以上になっており、めまいのするような数8億4,200万人に達している。一方、最も強力な多国籍企業500社の株主資本に対する収益率(ROE)は、2001年以来、米国内で着実に15%レベルを維持している。ツィーグラー氏の説明では、グローバルな資本主義は、雇用の創出をせず、また消費者の購買力をほとんど増加させることなく、コンスタントな経済成長を経験する局面に達している。
この問題は、単に利益や損失、利率や投資についての問題ではない、とツィーグラー氏は指摘する。それは、上記のような方法で略奪、破壊された国々における風土化した暴力と飢餓と死とである。2002年には約4,000人の子どもがブラジルの都市の街頭で死亡した。教育が受けられないこと、適切な家屋や食糧が与えられないこと、健康管理を受けられないこと、職業や安全が与えられないこと、そして、個人的な自律が失われることで、莫大な数の人々を目的のない生活へ追いやるのである。

グローバルな封建的領主に貢献する戦争

ツィーグラー氏はさらに論を進める。政治家たちは巨大企業の財政的利益に有利になるように使われている、と彼は述べる。米国およびその同盟諸国によって行われたイラクでの戦争は、イラクが世界第2の石油産出国であるばかりでなく、その重要な地理的位置のおかげで石油資源は地表下数メートルのところに埋蔵されているという非常に重要な戦略的目的を持っていた。テキサスで原油1バレルを生産するのに10ドルかかるところ、イラクでは同じバレルの生産に1ドルもかからない。
『ニューヨークタイムズ』紙を引用しつつツィーグラー氏は説明を続ける。2004年の第1四半期において、米国7社の主要石油企業の収益は43%上昇した。同じようにして、軍事関連の電子機器や兵器を扱う大企業は、米国政府による「永久的なテロとの闘い」に支払われる経費で急増する利益を享受している。
債務を抱えた国が、はたしてIMFの支配に抗することができるのであろうか、とツィーグラー氏は問いかけ、それに対して「否」と答えている。なぜなら、その国がIMFに訴えるごとに、債権者のために文字通り自分たちの主権を放棄する「意向書」を書かなければならないからである。莫大な利益を上げるために、最下層の者たちを絶対的な貧困状態に維持するという“世界企業”の意図的な隠れた戦略がある。この高利貸しのシステムの継続は、国家全体を永久的に奴隷状態にしておく必要があるのである。
1789年のフランス革命は政治的民主政治への第一歩であり、1948年の「世界人権宣言」のインスピレーションの源の一つになった。20世紀になって国連は、世界平和を実現するための試みを行い、多大な進歩が人類の努力の届く多くの領域においてなされてきた。しかしわれわれは今日、新しい封建領主たちにより、市民の主権に対する残酷な攻撃にさらされている。ツィーグラー氏は、フランス革命時の著名な指導者であり、革命グループの「平等者の共謀」の中心人物であったフランシス・バブーフの言葉を引用し、われわれは「共有の善を探し」、幸福、尊厳、食糧、自由は人類にとって基礎的かつ必要不可欠なものであると認識しなければならない。このためには社会の完全な変容が必要である、と結論づけている。

Jean Ziegler. L’ Empire de la Honte. Editions Fayard, Paris, France.

[人物注]
リュック・ギロリー氏は、フランスにおけるシェア・インターナショナル誌の協力者。