新しい経済システムを開発する
パトリシア・ピッチョン
現在の世界経済危機は、信用収縮というよりも累積債務危機と言った方が分かりやすい。要するに、アメリカにおける最初の危険信号としては、JPモルガンによる主要投資銀行(ベアー・スターンズ)の乗っ取りがあり、そしてその後、われわれがアメリカの投資銀行活動として知っていたものの消滅があった。アメリカとヨーロッパの政府は7千万の対策と世界的な連携によって銀行ビジネス、そしてアメリカン・インシュアランズ・グループ(AIG)のような保険会社すらも救済しなければならなかった。AIGは非常に大きいので破綻しないと見なされていたが、また救済するには大きすぎると考える人々もいた。*
株式市場は暴落し、資産価値は急速に失われ、危なっかしい商品に手を出し無責任な貸付を行った大銀行がもはや貸し付けを行ってくれなくなり、多数の会社は倒産している。信用不足は、莫大な損害を人々がこうむった巨大な詐欺を暴き出した。また投資家は、多くの金融機関からヘッジファンドを含む巨額の資金を引き出し、金や生活必需品に逃げ場を求めている。その結果、パンの配給で暮らしている途上国の人々は、もはや基本的な食糧を買う余裕すらないというさらなる危機を途上国にもたらしているのである。
他人のお金で不合理な危険を取っているにもかかわらず、銀行家は自分たちには巨大なボーナスを支払ってきたが、今ではそれが異常な高額で、不適切だということが分かっている。このような活動に関する明らかにお粗末な金融監督不足、一般銀行業と投資銀行業の間の不十分な境界、リスクについての誤解と貧弱なリスクモデルの作製能力、過度の複雑さ、様々な機関による信用および危険の不適切な評価、危険なローンが債権として再パッケージ化され世界中の投資家や機関に売られる問題連鎖の各ステップにおいて支払われる手数料のような奨励金、これらが経済崩壊の原因となったのである。
このようなローンからつくり出される無規制で複雑な金融商品が、至るところの機構や投資家に影響を与えたもう一つの伝播の仕組みであった。
億万長者の投資家であるジョージ・ソロス氏は、現在の資本主義形態は死んでいると信じており、彼が「市場原理主義」と呼んでいるのは、つまり本質的には市場があらゆるものの面倒を見ることができるというものであると批判している。リスク・エンジニアリングの教授であり以前トレーダーであったナシーム・ニコラス・タレブ氏は、リスクの誤解が欠陥モデルをつくってしまったと信じている。彼の著書『黒い白鳥』で彼は、予期しなかった極端な出来事を“黒い白鳥”と呼び、かなり詳細にリスクの査定と確率理論についての研究を行い、今後実際に何が起こるかについて予測している。
債務の山の大半は帳消しにされなければならなかっただろう、そして残りの債務の返済には何年もかかるかもしれない――つまり、発展途上国で以前起こったことが跳ね返ってきているのである。あの場合は、先進国の主要銀行による貸付騒ぎは、貧しい発展途上国から豊かな先進国への負債の返済というひどいスケジュールに変わってしまい、貧困者にとっては機会の喪失という形の損害となったのである。
開発を不可能にし縛り付ける債務返済制度によって国を極貧状態に止めておくことは、それ自体の危険が生ずる。経済学者ポール・コリエー氏は彼の著書『最貧の10億人』で、すべての低収入国家では5年以内に内戦に突入する確率が平均して14%ある、と言っている。若者は反乱軍の補充兵である。貧困のため希望の無い地域では安い賃金で彼らは補充兵になる。悲しいことに、このような軍隊勤務はしばしば冷酷・非合法的であり、仕事に対する機会がほとんど無いので豊かになるチャンスは非常に少ない。このようなことが現在コンゴで起ろうとしており、シエラレオーネおよび他の貧困国では既に起きている。
このことだけでも、富がますます少数者の手の内にだけ蓄積され、しかも主要な貸付機関によって押し付けられた融資条件に支配されるという経済システムをつくる愚劣さに対しては、精神を集中させ注意しなければならない。「UKジュブリー債務キャンペーン」は、多くの国に蔓延した汚職さえも債務帳消しの効果を弱めるものではないと指摘している。アフリカの10カ国に関する一つの調査によると、債務軽減後わずか4年間で、教育に投入した予算が40%、保健衛生の予算が70%程度増加したことを示している。(www.jubileedebtcampaign.org.ukを参照ください)