現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2015年 4月 母親と新生児のための愛の健康管理

母親と新生児のための愛の健康管理

ジェイソン・フランシスによるロビン・リム氏へのインタビュー

ヤヤサン・ブミ・セハットは、主にインドネシアで安全で健康的な出産を提供することに専念している非営利団体である。名前が「非営利の健康的な地球の母」と訳されるこの団体は、インドネシアとフィリピンで二つの地域健康管理保育診療所を運営している。ロビン・リム氏は、1995年にこの団体を設立した。彼女は世界的に知られた助産師であり、1993年からインドネシア、フィリピン、アメリカで助産師をしてきた。ロビン・リム氏は、2011年のCNN今年の英雄に選出された。ジェイソン・フランシスが本誌のために彼女にインタビューした。


高い乳児、妊婦死亡率

シェア・インターナショナル(以下SI):乳児が死亡する主な原因は何でしょうか。
ロビン・リム:貧困、飢餓、栄養不良、そして熟練した助産婦のケアを受けられないことです。母親の居住地がケアの提供者から極端に遠い場合、ケアを受けられない場合があります。多くの場合、費用が問題です。特に妊婦検診が産婦人科で行われ高額な国ではそうです。
バリのアチェ(インドネシア)とフィリピンのドゥラグにあるブミ・セハット地域保健・産科診療所には、週に7日24時間受診可能な無料の助産師がいます。合併症の危険が生じた場合、助産師が母親を産婦人科に連れて行き、ケアや注意が払われ、母親や赤ちゃんの命が失われないようになっています。それにより医師に支払いが必要な場合は、私たちが支払います。健康管理は人権ですが、無料ではありません。誰かが支払うのです。危険に晒された母親が支払うことができない場合には誰かが支払うことが可能であり、人は助けたいと思うものです。これがブミ・セハットです。
母乳を与えることは、乳児の死亡を防ぎます。母乳は乳児にとって理想的な食物です。資源が乏しい国では、赤ちゃんを哺乳瓶で育てる親は多くの場合、ミルクを水で薄め栄養不良を引き起こします。粉ミルクは高価です。ほとんどの最低賃金生活者は粉ミルクを購入できません。
それに加えて、衝撃的な水と公衆衛生の問題があり、水を加える前でさえも、殺菌のために溶かしたミルクを十分に煮沸する必要があります。
このような国々の母親は哺乳瓶で授乳することの危険性を良く分かっていますが、病院で粉ミルクを与えるように騙されてしまうのです。筋書きはこうです。まず赤ちゃんが生れるとすぐ母親から取り上げられ、保育室に入れられてしまいます。保育室つまり『赤ちゃんの部屋』は、ネスレのような粉ミルク・メーカーが資金を提供しており、看護師を雇用し、母親が自分の母乳を与えることが許される前でさえも赤ちゃんに哺乳瓶で授乳します。新生児に一度でも粉ミルクを与えると、赤ちゃんは乳首の混乱を経験するため、母乳を与えることが難しくなります。粉ミルク・メーカーはこれを知っています。
次の段階ですが、赤ちゃんが母親に戻されると、お母さんの乳房は人工のものとは全く違うために、赤ちゃんはお母さんのおっぱいに吸い付くことに困難を覚えます。赤ちゃんは泣きます。看護師はこう言います。「ほらね! 赤ちゃんはあなたのおっぱいを欲しがっていませんよ」。母親の母乳の出は、赤ちゃんが吸うことで促されていないため、十分ではありません。お母さんは赤ちゃんを最終的に取り戻すと、次の日も母乳をあげようと試みます。赤ちゃんは泣き、お母さんと赤ちゃんの両方にとってフラストレーションとなり、粉ミルクの看護師は赤ちゃんの口に人工的な粉ミルクの哺乳瓶を押し込む準備ができるのです。これは悪循環です。赤ちゃんを殺すようなものです。

SI:インドネシアや世界中で、出産時の母親の死亡はどの程度起きているのでしょうか。
リム:ユニセフの2012年の報告書は、「インドネシアのどこかで、3分おきに5歳未満の子供が亡くなっている。また1時間おきに女性が出産時に、あるいは妊娠に関連した原因で亡くなっている」と述べています。
ジャカルタ・ポストは2003年5月29日に、インドネシアの出産時の妊産婦死亡率は10万回の出産中373人であり、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国中で最悪であると報じました。国連人口基金は、インドネシアの最新の妊産婦死亡率は10万の新生児に対して307人であり、これは地域内の他国に比べ依然として受け入れ難い水準にあると述べています。妊産婦死亡率は過去10年間で減少しています。減少幅は乳児死亡率や小児死亡率などの他の関連指標と比較してかなり小さいものです。
世界保健機関によると、2013年には世界中で28万9千人の女性が妊娠や出産の前や最中に亡くなりました。

SI:妊産婦の死亡の主な原因は何でしょうか。

リム: その原因は予防可能なものであり、貧困、飢餓、栄養不良などです。これらはすべて、母親に十分な栄養や援助がない場合に、出産直後の大出血や、妊娠のストレスが原因の極度な緊張につながります。そしてもちろん、敗血症が致命的になる場合があります。
母親が熟練した助産師のケアを得られないことは、死亡につながります。なぜなら(平均的な家族が支払えない場合が多い)熟練した助産師や医師は大出血を抑え、血圧を監視し、母親が子癇を抑えられるように援助できるからです(子癇は、妊婦に高血圧や尿中の高蛋白状態を引き起こし、発作を起こしたり昏睡に陥る原因となる生命を脅かす状況である)。熟練したバースキーパーは、感染症の危険性も同様に低減できます。
助産師は、女性同士の個人的な妊娠中のケアを提供します。私は、医療従事者や善意の産婦人科医が、妊婦に対して私が「妊娠中の恐怖」と呼ぶものを与えるのを見てきました。例えば彼らは、「あなたの羊水は危険な程少ないので、帝王切開が必要です」などと言います。もし母親が貧しくて帝王切開の費用を払えない場合、特に支払いが完全に終わるまで家族が赤ちゃんを病院から連れ帰ることができない国では、母親は必要なケアのために戻ることができません。
熟練した助産師ならこう言うでしょう。「綺麗な水を沢山飲み、蛋白質や栄養のある食べ物を十分にとり、赤ちゃんとお母さんが水分や栄養が不足することのないようにしてください。1日か2日後に羊水が増えているかどうか、もう一度検査しましょう」。このようにして、不必要な帝王切開を避けることができます。手術による出産で危険性が高まることを考慮すると、これは非常に良いことです。帝王切開が必要な場合は、そのこと自体が奇跡なので、利用可能であるべきです。

助産師の重要性

SI:インドネシアのバリ、ウブドで妊婦と5歳未満の子供たちに対する無料の健康サービスの提供を始められた動機を教えていただけますか。
リム:私の姉妹は、24年前に3度目の妊娠のときに妊娠高血圧症候群で亡くなりました。彼女はアメリカにいて、健康保険に入っており、産婦人科にかかっていました。私は彼女の死は防げたと思っています。クリスティンは無視されました。もし彼女が助産師の妊婦健診を受けていたら、今でも生きていて、彼女の子供も生きていたと思います。助産師は、それぞれの妊婦とできるだけ多くの時間を過ごし、母親たちが容易に無視されないようにします。クリスティンの健康保険は、助産師の妊婦健診には対応していませんでした。
私は教師であり、叙述家でした。私は自分の研究を継続し、助産師となる決心をしました。なぜなら、誰の姉や妹も、娘も、母親も、パートナーも、予防可能で簡単に診断できる妊娠のリスクによって亡くなってはいけないからです。私はお母さんと赤ちゃんのケアに、自分の人生を昼も夜も捧げたいと思っていましたし、今でも思っています。

穏やかな健康管理モデル

SI:ヤヤサン・ブミ・セハット・クリニックで提供しているサービスは、子供と妊婦の罹病率の低減にどのように貢献しているのでしょうか。
リム: 私たちは無料です。私たちの寄付者は、私たちの援助を求めるすべての人がブミ・セハットの穏やかな健康管理モデルが利用可能になるように、十分な注意を払っています。私たちの助産師や看護師は、週に7日、24時間受診可能です。午後と夕方には医師がいて、すべての時間に呼び出すことができます。私たちには完全な研究所があり、血液と尿を検査することができます。クリニックに来る人は誰でも、HIV検査を含む秘密の検査を無料で受診可能であり、カウンセラーも利用できます。素晴らしいことは、ブミ・セハットが補助的な治療法、つまり鍼療法、ハーブ療法、ホメオパシー、頭蓋仙骨療法、マッサージなどを提供していることです。すべては、科学的な治療と相俟って機能します。想像してみてください。素晴らしい科学、自然への尊敬、愛あるケアのモデルのすべてが無料または、患者に資力があれば、心付をおくだけで、受けられるのです。これは簡単ではありませんが、ブミ・セハットでは、寄付者からの多くの援助によってそれを実現しています。
私たちには、バリに(クリニックと青少年センターに)59人、アチェに 19人のスタッフがいます。フィリピンでは、ダイレクト・リリーフ・インターナショナルとワダー財団の援助を受けています。そこには、12人のフルタイムのスタッフがいます。ブミ・セハット・チームのスタッフすべてがビジョンを共有し、皆さん素晴らしい方々です。訪問客は、私たちのチームのメンバーや患者間の家族のような愛に対して感想を述べざるを得ません。愛は栄養であり、愛は癒すことを私たちは知っています。

SI:新生児やお母さんが病院を後にした後で、どのようなフォローアップ・サービスが提供されていますか。
リム: クリニックでのケアは継続的であり、特に授乳のサポートはそうです。インドネシアの赤ちゃんは、もし粉ミルクを与えられた場合、人生の最初の月に亡くなる確率が300倍も高いのです。ブミ・セハットでは、100%母乳の授乳です。出産後の最初の6カ月間は乳児へ母乳だけの授乳をサポートしない限り、小児死亡率を低減するという国連ミレニアム開発目標のターゲット4Aについて誰も話すことさえできません。
私たちは、お母さんと赤ちゃんを私たちの救急車で自宅に送迎しています。なぜなら、出産直後の1日から3日位で、オートバイに乗って家に戻ることは良いことではないからです。歩いて帰る場合はなおさらです。多くの家族はオートバイを持っておらず、交通手段がないのです。
いったん彼らが家に戻ると、電話がある場合は、毎日助産師が電話でフォローします。もし特に不安があれば、家庭を訪問します。問題がある場合、家族は赤ちゃんをクリニックに戻します。もちろん1週間の検査のためにです。交通手段がない場合は、家族はそれを私たちに知らせ、私たちは彼らを迎えに行きます。すべてが無料です。

学びの場

SI:青少年教育能力開発センターについて話していただけますか。

リム:2002年のバリの爆弾テロ以来、観光が打撃を受け、経済は下降しました。後に鳥インフルエンザにより、一層悪くなりました。人々は一時解雇されるか完全解雇され、給与を削減されました。人々が仕事を得て、それを維持し、まともな給料を得るための一番の道は、技能、特に英語とコンピューターの技能を持つことです。夫を亡くした女性で、バリの人々を何らかの方法で援助したいと考える人が、私に素晴らしい建物を提供してくれました。このようにして、必要と機会と寛大さからブミ・セハット青少年センターが始まりました。私たちは教師を雇い、ボランティアを受け入れました。息子の友人のトニーは、最初の10台のコンピューターの部品を購入しました。スタッフと私の息子は、それらを組み立てるという素晴らしい時間を持ちました。それは地域での取り組みでした。
無料のコンピューターのクラス、英語のクラス、(将来の食物安全保障のための)有機菜園があり、私の夫が時々歌と音楽を教えます。何年か前に、オーストラリア国際ボランティア協会が、教育者であり青少年センターの活動の進展に賛同してくれたジェン・リチャードソン氏を派遣してくれました。ジェンは出資者を探し、アチェ・チームと共にブミ・セハット・アチェ青少年センターを実現しました。2004年12月の津波を生き延びた子供たちが、いまだに破壊されたまま荒廃している土地で、今では何かすることがあり、学ぶ場所があるということは驚くべきことです。

SI:災害の影響を受けた地域に対して、ヤヤサン・ブミ・セハットはどのような救急サービスを提供していますか。

リム:一般的な救急医療と、妊娠・出産に関する健康管理が週に7日、24時間受診可能です。無料の救急車の搬送も可能です。また、ソーラーライト、水フィルター、再建のための道具、バケツ、(一時的な避難所や雨水を貯める役目の)防水シート、栄養食バー、米、衣類、教育、衛生キットなども導入しています。

SI:ヤヤサン・ブミ・セハットが提供している避妊法などの家族計画サービスは、どのように重要でしょうか。

リム:インドネシアの健康制度では、出産管理において主にデポ・プロベラ3カ月ホルモン注射を提供しています。これは女性の健康に多くの悪影響があります。しかし、無計画な妊娠は致命的となる場合があります。ブミ・セハットでは、(もし良好に実践した場合に)非常に有効で自然な家族計画であるビリングス排卵法を教えています。これはカップルに、より健康的な選択肢を与えます。ただし、これらの方法はどちらも、HIV/エイズなどの性行為感染症の予防にはなりません。ですから、私たちは本当に多くのコンドームを無料で提供しています。

SI:患者さんの文化的な信念や伝統を尊重することは、どのくらい大切でしょうか。このような信念が尊重されるべきでない場面はありましたか。
リム:それらを尊重することは非常に大切です。どの赤ちゃんの誕生の発露の際にも私たちがその家族の信仰の歌を歌うのは、そのためなのです。しかしながら、残虐性が文化のように見せかけられている場合があります。健康管理においては、誰も決して残虐になってはいけません。残虐になってはならないのです。ですから例えば、割礼を子供や赤ちゃんに行うことは、それが男の子でも女の子でも、私は拒否します。それを支持することを拒否します。割礼はその人たちの文化であると言う人もいます。文化は常に刷新していくものです。私たち人間は、自分たちの文化がどうあるべきか決められるようになりました。人を傷つけることに関して、特に幼なくて「やめて、僕を傷つけないで」と言えないような子供が関わる場合、私は「あなたの文化を変えるときです」と言います。

SI:何か付け加えることはありますか。
リム:最も大切なことは、これは私たちすべてに必要であり、最も癒しとなることなのですが、信頼され愛されることなのです。


詳しくは次を参照:
www.bumisehatfoundation.org