現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2013年 8月号 海の熱帯雨林の保護

海の熱帯雨林の保護

ジェイソン・フランシスによる
ケン・ネディマイヤー氏へのインタビュー

フロリダ州キーラーゴを拠点に活動する非営利の環境保護グループ、サンゴ復元財団(The Coral Restoration Foundation:CRF)は、この地域、米国、そして国際的レベルで絶滅の危機に瀕したサンゴ礁保護のため、沖合にサンゴの苗床を整備し、サンゴ礁復元の活動を行っている。沖合に設置された多数の苗床で、多くのサンゴが成長し管理されている。学生、ボランティア、研究者、潜水技師、公共の水族館、地域のグループなどの支援を受けて、財団の苗床で成長した何千ものサンゴが、荒廃したサンゴ礁に移植されている。漁師で熱帯魚の収集家でもあるケン・ネディマイヤー氏は、2007年にCRFを設立した。ジェイスン・フランシスが、シェア・インターナショナルのためにインタビューを行った。

シェア・インターナショナル(以下SI):サンゴとはどのような生物であり、なぜサンゴ礁が「海の熱帯雨林」と呼ばれるのでしょうか。

ケン・ネディマイヤー:サンゴは動物です。しかしそれ以上の生物なのです。サンゴの群体は大量のポリプ(イソギンチャクのような刺胞動物)が集まったものです。それは動物ですが、サンゴの内側には藻類が共生しており、彼らのほとんどの食料を供給しています。同時にバクテリアの集団も存在しています。この藻類とバクテリアがサンゴを生かすために共に働いているのです。
サンゴ礁が「海の熱帯雨林」と呼ばれている理由は、これらの非常に豊かな生物多様性を持っているからです。彼らは海洋表面の1%以上を覆っています。しかしながら、そこは約25%の海洋生物種の生息場所となっています。サンゴ礁は熱帯雨林と同じような状態にあります。人間の影響によって危機に瀕しており、過剰開発と生存権の侵害の被害を受けているのです。

SI:なぜカリブ海のサンゴ礁が減少しているのですか。

ネディマイヤー:何十年にもわたる魚の乱獲は、一部のサンゴ礁に非常に大きな悪影響を与えています。下水や農業排水などの沿岸や地上からの汚染も、また彼らに影響を与えています(カリブ沿岸諸国で適切な下水処理を行っている国はわずか20%であり、残りの国々は不適切な処理か全く下水処理を行っていません)。河川や海岸線に沿って行われる建設はサンゴ礁減少の要因となっています。建設によって沈泥が発生し、サンゴ礁が泥に沈んでしまうからです。サンゴ礁は沈泥にうまく対処することができません。そしてカリブ海では、1983年に重要な草食性ウニの大規模な固体数の激減、大量絶滅が発生し、大きな影響を与えました。それはサンゴ礁や魚の再生産とライフ・サイクルを崩壊させました。
サンゴの白化現象は過去20年から25年の間に発生し始めました。発生した地域では病気が広がり、サンゴが失われてしまいました。私が指摘しているのは、サンゴは基本的に動物ですが、内側には共生する藻類が生息しているということです。この藻類はサンゴ礁に色を与えています。もし藻類がいなければ、サンゴは白くなってしまいます。水深の深い海に生育するサンゴは白くなる傾向があります。なぜなら彼らは藻類を持っていないからです。異なる種類の藻類が、幾つかの種類はサンゴをピンクや紫や青に着色しているとも言われています。しかし、カリブ海ではほとんどが茶色です。
これらのサンゴが水温の上昇や低下のストレスを受けたとき、主に高い水温に長期間さらされた場合は、サンゴはこの藻を追い出します。そうするとサンゴの色が白色に変わります。サンゴは必ずしもすぐに死ぬわけではありませんが、彼らは自分たちの主な食料源を追い出してしまうわけです。それによって彼らはさらにストレスを受けた状態になり、白化したままになります。サンゴはこの白化現象から回復する能力を持っており、回復しようとします。しかし一度白化してしまうと、それによって彼らの体力は弱まり、病気やすべての副次的影響に弱くなります。白化現象と病気はまたカリブ海の外側の地域でも影響を与えています。これらすべての要因が世界中のサンゴ生息地域に影響を与えています。カリブ湾全体は大きな繁殖地域で、閉鎖された湾もあるため、特に脆弱になっています。

SI:この海水温の上昇は、地球温暖化と何か関係がありますか。

ネディマイヤー:気候変動は要因の一つとなっています。極端な白化現象のほとんどは南太平洋のエルニーニョ現象と関連しています。エルニーニョは基本的には風向の変化です。それは地球の気温や風向きのパターンを混乱させます。大きな白化現象が発生する時は、必ず強いエルニーニョが起こっています。すでに上昇している地球の気温は、これらの問題の深刻度をさらに大きくしています。温度上昇(サンゴにとって暑すぎるほどの上昇ではありませんが)の原因となっているエルニーニョが発生しなくても、気温は昔よりも頻繁に最高値を超えるようなりました。最近では、エルニーニョは以前よりも多くの白化現象を引き起こすようになっています。

SI:このようなサンゴ礁の減少は、世界中で発生しているのですか。

ネディマイヤー:ある地域ではサンゴ礁はかなり良く維持されており、減少はごくわずかかほとんど認識できない状態にあります。しかしながら、多くの人口が集中する地域では、間違いなくサンゴ礁は減少しています。そのほとんどは人間がもたらす影響によるものです。海岸や人口密集地に近ければ近いほどより減少する傾向があります。

サンゴ礁の回復

SI:どのようにして、サンゴ復元財団はカリブ海のサンゴ礁を回復させているのですか。

ネディマイヤー:私たちはカリブ海で重要な役割を果たすミドリイシ属の2種類のサンゴ(スタグホーンサンゴとエルクホーンサンゴ)を特定しました。1980年代初めから中頃までは、それらはカリブ海の全体にわたって、サンゴ礁の大部分を占めていました。彼らは造礁サンゴで、サンゴ礁形成の先駆けとなるサンゴでした。1980年代の初めごろから病気と白化現象により死に始めました。しばしばそれらのサンゴはハリケーンに襲われ、またその再生はウニ類の消失によって進みませんでした。それらは生息域の98%という広範囲で減少しているという試算もあります。
私たちはどのような種類の個体が残っているのかを確認する活動を行っています。最初にそれらを発見し、次に遺伝的多様性が残っているものは何でも保護します。遺伝的にストレスのかかったどちらか一方のサンゴの群体を発見した場合は、それらを苗床に入れることで、できる限り救おうと試みます。それらを移植する際は、遺伝的多様性が再び確立できるように試みます。遺伝的多様性を保護することは復元の始まりであり、鍵となるサンゴ種の移植は最終的な結果なのです。それらはすべて沖合の苗床プログラムが中心となっています。

SI:サンゴの苗床作業は、どのように進めるのですか。

ネディマイヤー:それにはサンゴがどこに生息しているか、問題は何なのかを特定し、苗床に適切なものを探す作業が含まれています。それから国や管理官庁からある量のサンゴの採取許可を得る必要があります。スタグホーンサンゴとエルクホーンサンゴの場合には、それらは枝状サンゴですので、海底に横たわっている壊れた枝を探すことは、一般的にはとても簡単です。私たちはこれらの枝サンゴを沖合の苗床に持っていきます。苗床は水深6mから10mで、多少の保護がされています。そしてそれらを小さな塊に切り、私たちが開発した樹状の支柱の一つにぶら下げます。それ以外にも苗床に関する技術はありますが、枝状サンゴを持ち帰り、小さな塊に切り分ける作業が基本となっています。その大きさは5~10cmから50~100cm程度までです。それらは非常に早く成長します。6カ月後これらのサンゴから成長した新しい枝を切り取り、同じ作業を行います。第3世代のサンゴが枝から切り取る準備ができるまで、これらの作業を2回から3回連続して行います。
私たちはカリブ海南部の小さな島、オランダ領ボネール島で2012年4月から苗床を始めました。またコロンビアの一カ所、フロリダキーズの数カ所で同じように開始しました。

SI:苗床で育ったサンゴはどのように移植するのですか。

ネディマイヤー:私たちは減少した地域にサンゴを移植することを目指しています。しかしながら当然のことですが、回復が見込める場所に移植したいと考えています。水質が良い場所を探します。おそらくサンゴはハリケーンや他の事象によってダメージを受けたと思いますが、カリブ海の環境は今もなお成長には適していると思われます。また、ダイビングスポットや海岸線の保護が必要である場所かどうかにかかわらず、サンゴの再生が高い有用性を持つ地域も探しています。場所を選択した後は、最も良い移植方法を選択する必要があります。スタグホーンサンゴやエルクホーンサンゴが繁殖していた場所には、しばしば瓦礫が多い場所や硬い海底の部分が多くない場所があります。その場合、サンゴが成長するためのある種の土台や基礎を埋め込む必要があります。それはかなり大変な作業です。最も簡単な方法は適切な硬い素材を探し、小さな領域を浄化し、基本的にサンゴを接着させます。接着には水中用エポキシ樹脂または水中用セメントを使用します。それは森の中に若木を植えていくようなものです。若木を植えた後、それらを管理し、成長させます。数年で森になって行きます。
私たちはフロリダキーズで16カ所のサンゴ礁を回復または回復作業中です。この地域で30カ所以上の計画中の場所の許可を得ています。そして次の5年間で、5万個のサンゴの移植許可を取っています。

希望のメッセージ

SI:消滅しつつあるサンゴについての認識を高めるために、CRFが行っている教育活動についてお話しいただけませんか。

ネディマイヤー:ダイビングのセミナー、公的水族館、動物園、学校、水族館クラブなど、招待してくれる場所ならどこへでも出かけて行って、多くの講演を行っています。私たちはフロリダキーズやカリブ海が、過去はどのような状況だったのか、現在どうなっているのか、減少の原因は何なのかについて話します。サンゴの自然回復を妨害している幾つかの要因について話します。
また私たちの活動、その活動理由、成功させるための方法についてある程度詳細に話します。それからもし聴衆がダイビングツアーの参加者ならば、彼らをその場所に連れて行き、それらを見せます。フロリダキーズでは、この活動で年間1,500人を連れて行きます。参加者は外に出て、潜り、私たちを助けてくれます。私たちは今、この問題の実際的な解決法を提供し、人々に活動に参加する機会を提供しようと試みています。私たちは希望のメッセージを与えようと努力しています。

SI:どのような方法であなた方のグループは、移植の段階を越えて、活動を長期的なサンゴ礁の管理(スチュワードシップ)へと移行させるのですか。

ネディマイヤー:フロリダキーズやどの場所でも、人々にサンゴ礁の脆弱な性質を認識させ、彼らの継続的な生存に対する脅威を知らせるための手段としては、教育が鍵となる要素なのです。サンゴ礁を移植する際には、ダイビングクラブやショップ、水族館クラブや地域の人々など、私たちのサンゴ礁移植作業を手伝い、サンゴ礁の維持の責任を一部負ってくれるスポンサーとなる人々を集め、そこでスチュワードシップや管理維持プログラムの開発を行うよう努力します。管理維持とは、肉食性貝類の駆除、小片の移植作業や嵐の後の回収などを意味する場合もあります。数年にわたるわずかな維持作業によってサンゴは急速に成長します。その後は面倒を見る必要はなくなります。私たちはそのようなスチュワードシッププログラムを開発中で、それは人々にサンゴ礁の所有者であるという感覚を与えるだろうと考えています。
それは政府のサンゴ礁ではありません。私たちのサンゴ礁なのです。フロリダやその他の地域で所有者の感覚を植えつけようと試みています。これは人々にフィッシング、ボート遊び、いかりを下ろすこと、沿岸の汚染などの様々なサンゴに対する脅威について、より多くの認識を与えるでしょう。地元のサンゴ礁の世話をする人々は、これらの問題にさらに積極的に活動するようになるでしょう。私たちはこれが拡大され、人々が地域、国家、地球的スケールで活動的になることを望んでいます。

SI:あなたがお話ししたいCRFが計画している今後のプロジェクトはありますか。

ネディマイヤー:私たちはカリブ海にあるグランドケイマンの人々と交渉しており、1年以内にそこで活動できる非常に大きな可能性があります。ロアタンでは幾つかの興味深い手がかりがあります。バハマ、セントルシア、ハイチでは問い合わせがありました。私たちは招待を受ければ、そして実施する資金があるところならどこへでも行くつもりです。自分たちだけで実施する資金を持っていないので、協力者を探しています。私たちの目標は他の人々を訓練することです。「ここにあなた方が安い予算で成功する方法があります。私たちはあなた方を訓練したいのです。それをあなたの物語、あなたの情熱、あなたの成功にしましょう」。私たちは成功する可能性のあるすべてのことを実行するつもりです。

機会の窓

SI:サンゴ礁の保護や回復に関しての未来はどうなのでしょうか。

ネディマイヤー:私は20年から30年の機会の窓があると思います。もし私たちが現在行っている事柄の幾つかを活用するならば、今後20年から30年で急速な回復を見ることができるでしょう。未来のことはよく分かりません。もし予測どおりの幾つかの温暖化シナリオが展開すると、海洋のpHが変化し、その他の問題が起こり、困難な闘いがだんだん増えてくるでしょう。しかし、チャンスはあります。
これらのサンゴは、様々な強さと弱さを持っているということが分かってきました。サンゴは、完全ではありませんが、病気、高水温、低水温に対処するためと思われるある種の遺伝的性質を持つことをフロリダで発見しました。これらすべてに抵抗できるサンゴは存在しませんが、私たちが活用したいと考えるある程度の強さと弱さが存在しています。私たちは場合によっては品種改良プログラムを検討し、そして熱に強い種から病気に強いサンゴを生み出すことが可能かを確かめたいと考えています。これら二つの性質を持ったサンゴを生み出すことができるかどうかを確認したいと望んでいます。それは21世紀により適しているでしょう。
苗床や公的な水族館で遺伝的多様性を保存する行為も、長期間にわたって私たちが使用できる道具を工具箱の中に入れているようなものです。もし、このような保存作業を今実施しなければ、実際に悪い状況へと変化する可能性に遭遇した場合、今後20年から30年間にいかなる道具(手段)を得ることもできないでしょう。私たちが現在持っている遺伝的多様性を、将来は持つことはできないでしょう。そうなった場合、私たちはこれらの問題に対処することができないでしょう。
多くの機会と希望があります。私は多くの時間を費やして次のように話しています。私たちが時間を稼いでいる間に、世界が目覚め、その浪費的で自然を汚染する生活様式を変えることを期待していますと。私たちは、鍵となるこれらのサンゴ種の遺伝的多様性の一部を保存・保護する対策を実施しています。ある程度の前進が見られるでしょう。そしてそれらは、長期的な進歩へと変わる可能性があります。

詳しい情報は:www.coralrestoration.org