現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2008年 3月 ベネズエラの社会革命

ベネズエラの社会革命

パトリシア・ピッチョン

ベネズエラは大規模な社会変化を経験しているが、大勢の者はそれを歓迎する一方、一部の者は警戒の目で見ている。その変化には政治的、経済的、さらに社会的に重要な意味がある。なぜならウーゴ・チャベス大統領は、新自由主義経済モデルに基づいた非常に不公平な社会から社会主義モデルへの移行を意図しており、それが貧困層の生活を変えることを望んでいるからである。新自由主義経済モデルを拒絶した理由の一つは、以前の石油高騰が1980年代後半に終わった後、貧困層の割合が28%から2003年に68%まで上昇するなど、ベネズエラ人の貧困化が悲惨なほど進行したためである。先進国世界においては、開発途上国がさらされている巨大な社会的、経済的なショックを理解することはしばしば困難である。開発途上国が一つか二つの主要な輸出産品に依存し、所得の不平等が著しく、社会的機関が弱体化している場合には特にそうである。

権力闘争

1999年以来政権の座にあるチャベス大統領は、様々な危機を切り抜けてきた。その中にはクーデター未遂(2002年)と、大打撃となった石油ストライキ(2003年)が含まれる。このストの結果、2万人の石油労働者と専門家が解雇され、石油産業が国有化されたほか、2004年には200万人の市民が署名した請願によって合法的なリーコル選挙が実施され、その結果として彼は再選された。しかし、ある政府高官が請願者の氏名と身分証明書番号を政府の部局や機関に流出させたという事実を懸念する人々もいる。彼らの多くは無防備だと感じており、政府関係の仕事や奨学金から除外されるのではないかと心配している。こうした請願者は主に、教育を受けた中流階級の専門家、学生、実業家で構成されている。チャベス大統領が自らの社会革命に彼らをもっと積極的に取り込む方法を見いだせるかどうかは議論の余地ある問題であるが、そうした教養ある有能な人材の支持がないことは、高い貧困指数にいまだ苦しんでいる開発途上国においては常に損失となってしまう。

憲法に関する国民投票

最近では、大学生たちが新憲法案を反民主的だと見なし、法案に反対するデモ行動の最前線に立った。憲法改正によって無期限の再選を法制化したり、軍人を個人的な意図で昇進させる権限や、非常事態宣言を出して情報の自由を保留する権限を大統領に与えたりすることによって、大統領の手に権力が集中しすぎることを懸念したのである。チャベス大統領が直接管轄する人民軍が、いまだ国軍に統合されておらず、しかも週末ごとに武器の使い方の訓練を受ける100万人の男女で構成されていることを懸念する人々もいる。この人民軍は逮捕する権限も持っている。金融界や実業界の人々も、中央銀行が独立性を失う恐れがあるという懸念を表明した。
週36時間労働と、非公式経済の中にいる人々への国家年金の拡大を含む、新憲法案に盛り込まれた魅力的な社会改革にもかかわらず、ベネズエラ人は2007年12月、たった2%の差ではあったが、将来の大統領選への立候補を容認することになる改憲国民投票を拒否した。現在のところ、チャベス大統領は国会だけでなく最高裁判所も支配している。前回の野党による選挙ボイコットのため、野党は現在、代表者を送り込んでいないからである。しかし、状況は変化する可能性がある。一つの結論は、この国の上流階級は社会改革を実際に望んでいるが、その過程で権威主義的な状態が生まれるのを警戒しているということである。

重要な指標

ベネズエラ人の大多数はここ数十年間、粗末な住宅や、限られた医療と教育の機会に苦しんできた。これらはチャベス大統領とその無数の支持者たちの心を奪っている問題であり、これらの分野では改革が大いに必要とされているため、ベネズエラ人は多くの社会実験を意欲的に試み、参加を望んでいるようである。失うものが多い人々はこれらの変化に頭を悩ませているにせよ、社会実験は、熱狂的であるが希望に満ちた雰囲気を作るのに貢献している。最も励みになるのは、最近の各種調査によると、「貧しい」(ベネズエラ人の23%)、極度に貧しく困窮している(総人口の15%)と区分されるベネズエラ社会の最貧困層が、紛れもなく2004年~2006年に所得を13%~21%増加させたという点である。下位中流階級も、より豊かになった。さらに、乳幼児死亡率は1990年の1,000人中33人から、2005年の1,000人中21人まで減少した。ただし、異なった開発モデルを採用する他のラテンアメリカ諸国においても改善は見られた。
社会支出の増加は、石油収入の増加により可能となっている。石油収入は、今では年間600億ドル以上に達している。興味深いことに、ベネズエラ社会の上流層は総人口の4%から2.5%まで縮小した。これは他国への移住のせいかもしれないし、また、土地収用や都市財産収用のために収入が減ったせいかもしれない(カラカスだけで約163棟の建物が政府によって収用され、その一部は貧しい人々に住居を提供するために使われた)。さらに、ここ数年で約半数の工場が閉鎖されている。その中には、収用されて労働者協同組合によって管理されている工場もある。

協同組合運動

現在、協同組合の設置と運営に関する労働者教育の過程が進められている。農村地域でも、かつて裕福な土地所有者が所有していた土地に農業協同組合が設置されている。当初は、政府機関とチャベス以前の伝統的な協同組合運動との間で緊張が高まった。この協同組合運動の下では、準備が不足し組合員への技術指導が行われていないにもかかわらず補助金が支給され、新しい協同組合が次々と設置されてきた。しかし今では、そうした協同組合と政府機関との関係は改善されてきている。
チャベス大統領はしきりに官僚機構を出し抜こうとしたため、2004年には4万以上の、2005年にはさらに3万以上の協同組合が形成された。2004年12月から2005年5月までに25万人以上の学生たちが、歴史、技術、経営に関係した短期講座を受講した。ここでも、市民の権利と協力的な価値観が強調された。約19万5,000人の学生がその後、約7,500の新しい協同組合を形成した。学生の多くは経験不足であり、失敗する者もいるし、確実に成功を収める者もいるだろう。しかし、それは一つの広大な社会実験として民衆に一層の力を与えるものであり、このモデルはベネズエラだけでなく、多くの開発途上国にも適しているのかもしれない。

近隣協議会

何千という近隣協議会を設置することによって、多くの人が地方選挙だけでなく地方の問題解決も伴う政治過程に従事できるようになる。この政治過程は、責任を取ったり、地方の問題に対処することを学んだり、地方の解決策を考え出したりする能力に投資して、民衆に力を与える手段である。当然のことながら、こうした社会的、政治的な過程が定着するにつれ、現場には類似した様々なものが見られることになる。まだ非常に実験的な段階にあるが、そうした過程を通して、貧しい人々、窮乏している人々、下位中流階級の各領域は、自国の運命に関与しているという感覚を培うことができる。
これは草の根運動の形成と権力構造の変化を表している。そのような協議会を形成するために、地域社会において結束した約200~400の家族の小グループによって集会が設けられる。それから、コミュニティー全体の一軒一軒が参加を促され、推進チームを構成する20人を選ぶようすべての人が要請される。この推進チームは、地域住民の合意を実行し地域問題に関して報告を行う。続いて行われる協議会選挙では、約13人のメンバーがテクノロジー、教育、安全保障、健康などを担当する。執行、監督、財政運営などの委員も選出される。多くの人々はこうした地域協議会を新しい社会の基本単位と見なしている。
ベネズエラの総人口は約2,600万人であり、その多くは少数の大きな町に集中している。しかし今では、1,500以上の協議会が都市部にも農村部にもある──これは、都市を本拠地とする政治家によって昔から無視されてきた、脆弱で孤立した地域に住む人々に働きかけるための効果的な方法である。
アンデスのある村にまつわる面白い話がある。この村は、アンデス山脈の高所に位置し壮大な風景に囲まれた町メリダから車で約3時間のところにある。この比較的辺ぴな村は、政府職員が協議会を設置するのを手伝うためにそこに到着する以前に、独立したNGOから選挙手続きについての法的支援をすでに受けていたことを、ベネズエラ政府のある部局の元職員が報告している。当初、政府職員は推進チームを選びたいと思っていたが、地域住民は新しい手続きをすでに理解しており、自分たちで推進チームと協議会メンバーを選出しようとしていたと説明した。これは、古い習慣が変わるのには時間がかかり(どうすべきかを人々に教えるのに当局者が駆り出される)、新しい構造が根を張る(地域住民が自信を持つようになってきた)興味深い例である。?
ベネズエラでは、受け継がれてきた古くからの官僚機構と、よりダイナミックな新しい構造との間に多くの矛盾があり、これらは現在のところ緊張状態のまま共存している。社会革命が整然と進行することはめったになく、いくつかの懸念が生じるのは当然であるが、ベネズエラの無数の政治的、経済的、社会的な実験は、大多数の人々の基本的必要に対処するのに失敗した以前の政策に代わるものとなっている。


参考文献: www.venezuelanalysis.com; www.eluniversal.com; latinobarometro; CEPAL; Unicef; FAO; http://voanews.com; Radio Nacional de Venezuela, Informe Mundial Human Rights Watch para Venezuela; The New Co-operative Movement in Venezuela's Bolivarian Revolution by Camila Pineiro Harnecker.