現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2008年 3月 失明の治療を目指して

失明の治療を目指して

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ジェイソン・フランシスによる ジェフリー・タービン氏へのインタビュー

ヒマラヤ白内障プロジェクト(HCP)は、1995年以来、アジア全土の人々の予防可能な失明を根絶して視力を回復するための援助を行ってきた。眼科医であるジェフリー・タービン氏は、HCPの設立者および理事の一人である。彼は、ソルトレイク市(アメリカ)にあるユタ大学のジョン・A・モラン眼科センターの教授であり、国際眼科学部長である。ジェイソン・フランシスが シェア・インターナショナルのためにジェフリー・タービン氏にインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(SI):世界中で失明はどの程度蔓延しているのですか。その原因は何ですか。
ジェフリー・タービン:先進国では失明者は比較的少数です――“法的盲目”と考えられている人は1,000人に3人ぐらいです。彼らは見えることは見えますが、視力検査表のトップ2行よりも下の行が読めない人々です。先進国の失明の原因は、大部分が老衰や老人病によるもので、予防できないのです。 発展途上国では失明は100人に3人の割合で、先進国の10倍です。発展途上国の失明の約90%は容易に予防できるか、あるいは治療できるものです。世界保健機関(WHO)は、失明を“機能的盲目”と定義しています。これは通常の生活に必要な仕事ができないものを言います。平均的な人が生存に必要な基本的なことを行うのに不自由な視覚障害のことです。失明の約55%が白内障によるものです。これは完全に治療可能であり、視力は完全に回復します。 失明の原因となる2番目のものは――これの予防は困難ですが不可能ではありません――緑内障です。次がトラコーマによる失明です。これはトラコーマクラミジアという細菌感染に起因します。これは、貧弱な衛生施設や悪い水によって眼に修復不能な傷をつけるものですが、容易に予防できる感染症です。 失明の原因として次に挙げられるのは、小さな外傷で治療を受けなかったものです。例えば角膜を傷つけてから消毒をしないと悪性の潰瘍ができます。通常、河川盲目症と言われる回旋糸状虫症は寄生虫による失明ですが、容易に予防できます。大きな製薬会社のメルク社が実際にメクティザンという薬剤を大量に配っています。その薬は河川盲目症の発症を完全に予防しますから、必要とする人にそれを届けるだけでよいのです。幼児の失明の主要な原因では、食事の中のビタミンAの欠乏によるビタミン欠乏症によるものがあります。子供に与えるサプリメントとしてのビタミンAの価格は年間で75セントですが、その75セントで子供の死亡率を30%軽減できるのです。
SI:失明すると、平均寿命にどの程度影響しますか。
タービン:発展途上国では、失明した人の平均寿命は非常に短いです。年齢や健康状態が同程度の人たちに対する様々な調査がありますが、それによると、失明すると健全な人に比較して平均寿命が3分の1になります。失明した子供たちの場合はもっとひどいです。
SI:失明を引き起こすある種の原因は世界のある地方に多い、ということがありますか。
タービン:紫外線の強い土地に住む人や抗酸化物質含有量の少ない食事をしている人の中には失明者が多いです。お米や麦だけを食べ、紫外線を多く浴びる人は、盲目につながる白内障にかかる率が非常に高くなります。多くの発展途上国――例えば、南インド、中国の農村部のような――の多くは、このような問題を抱えています。南スーダンやコンゴのような世界の比較的狭い領域で流行するある種の伝染性の病による失明は、人口に対する失明率が非常に高いのです。衛生状態が悪く、そして埃っぽい天候の多い地方の疾病であるトラコーマに関しても同様です。ケニア、タンザニア、エチオピア、スーダンのようなところは、非常にトラコーマが多いです。
SI:どこの国でHCPは活躍しているのですか。また1年で失明の治療を受ける人は何人ですか。
タービン:私は何人かの素晴らしい同僚がいたので大層幸運でした。私の同僚のサンダク・リュイト氏は最も優秀で才能のある外科医の一人ですが、彼はネパールに留まることを選択しました(リュイト氏はHCPの共同設立者で、ネパールの首都カトマンズにあるHCPのティルガンガ・アイセンターの医療所長)。世界の大きな問題の一つは、資格を有する優秀な医師たちが彼らの国を離れ、それでも留まっている多くの医師たちは国内の最高の場所に住むことを望んでいる、ということです。そういうわけで、一人の資格のある眼科医がその国の金持ちを治療しているナイジェリアのような国が世界にはたくさんあるというわけなのです。 サンダク・リュイトと私が15年前に一緒にネパールで仕事を始めた時、彼はすでにネパールの最も辺鄙な所の人々にどのように手を差し伸べたらいいかを考えていたのです。私たちは一度に一人の医師に白内障の高度な手術のやり方を教え、そして医師を支援する眼科助手と看護師の訓練システムを開発しました。私たちは、すべての者が高度な技術を駆使する高水準の救助システムを開発したのです。 仕事を始めた時には、白内障の手術はネパール全体でわずか1万5,000件でした。当時私たちは、治療を受けていない失明者が30万人、白内障で完全な盲目になる人が毎年8万人いると試算しました。14年後の昨年までに総計17万人の白内障患者の手術がネパールで行われました。今では、この地域で未治療の患者数が減少しているのはネパールだけではありません。私たちはインドのビハールからの人たちの治療も多く行っているのです。HCPが直接行った治療では、手術の件数は最初の年の年間1万人から昨年の3万3,000人に増えています。これは私たちが直接行った治療件数ですが、私たちの主要な業績は、教えることとトレーニング・システムの開発です。ネパールにおける白内障手術のレベルと質は、このお陰だと私は考えています。 先にお話ししましたように、私たちは、良質の高度な手術を行うために、一度に一人の医師に教えることを始めました。私たちはそこから広げていったのです。私たちの優秀な外科医の何人かを、眼科医学の準専門医となるために奨学生として派遣しました。彼らは、子供の病気――斜視、小児白内障――の治療、角膜移植の専門家としての訓練、アイバンクを設立する小児眼科医としての訓練を受けました。そして、あらゆる分野の専門家――網膜、プラスチックのコンタクトレンズ、緑内障の専門家 ――が育ったとき、完全な眼科医を訓練するプログラムをスタートさせたのです。眼科医の訓練以外にも、高度の資質を持つ支援スタッフが必要であることを私たちは認識していました。そこで私たちは、カトマンズ大学と協同で眼科医助手を訓練する公認の3年制プログラムの実施を始めました。彼らは3年後に訓練を終了して、基本的にはアメリカで検眼医が行っている仕事をやり、高度の基本的な眼の看護を行い、医師たちを支援しています。それで、医師たちは大抵の他の地域よりも多くの仕事を行うことができるのです。それから、私たちは他の地方で仕事を始めました。 1994年には、ネパールでヒマラヤ白内障プロジェクト(HCP)を開始し、そして1996年にはチベットの医師のトレーニングを開始しました。そして1999年にはブータンで、その次にはインド周辺の地方で働き始めました。最後の8年または10年間は、カンボジア、ミャンマー(ビルマ)、北朝鮮からの訓練生を受け入れました。1年半ぐらいの期間、私は「国連ミレニアム開発プログラム」と協同で、アフリカで働きました。私たちには調査する村が12あり、ジェフリー・サックス氏や国連ミレニアム開発プログラムと協同で、アフリカの人たちにどのように手を差し伸べるかを学んでいます。私たちはまた、アフリカでの失明の実態調査も行っています。
SI:HCPはあらゆる予防可能で治療可能な失明を一掃しようと奮闘していらっしゃるようですね。
タービン:白内障は劇的です。なぜならそれはその先完全に良くなるからです――特にヒマラヤ地域では。それは失明の主要な原因です。しかし、世界的にも、ネパールでも、簡単に予防できる感染症あるいは栄養不足による失明が存在します。盲目の子供を見えるようにするというより貧困な子供が(ビタミンAの補給のおかげで)生き続け、そして見え続けるので、同じ努力で大きな成果を見ることはできません。ブータンには国のビタミンA配給プログラムがあります。ネパールでは今あるビタミンAプログラムを活用しています。私たちが大いに注目しているのは、初期の目の介護をする人々と、これらの高校からの3年制訓練生を訓練する人々を訓練して、感染性失明の予防、ビタミンAの処方、失明に至るトラコーマの合併症の予防する初期眼科治療所のスタッフを育てることです。ビタミンA欠乏症で一旦失明すると、残念ながら打つ手はありません。二度と見えるようにはならないのです。私たちが働く所ではどこでも、あらゆる失明の原因に対処する努力をしています。
SI:遠隔の地にあなた方が設立した眼科手術キャンプについて話していただけますか。
タービン:ネパールには大きな空白地帯があるのですが、そこは道路が利用できないのです。人々は道路にたどり着くまで3日を費やし、そして1日バスを待ち、それから病院にたどり着くまで半日を要します。そこで私たちはこれらの人たちの役に立つために、出張キャンプシステムを設立したのです。眼科助手たちが村々を回って患者の選別を行います。白内障で失明している人がたくさん見つかったら、主要病院のチームに往診を依頼します。私たちは医師たちを派遣し、医師たちはたくさんの白内障の手術を行います。その結果、その小さな地方の白内障による失明はすべて癒されるのです。 私たちは、非常に多くの白内障キャンプをトレーニングに用いるという別の仕事もやっています。例えば、私たちはチベットの医師のトレーニングをそこで行います。顕微鏡手術を行うために彼らをネパールに連れて行きます。彼らはそこで基本的な顕微鏡手術を学びます。医師たちは模型を用いて学習し、観察し、そして練習をします。彼らはネパールでは実眼での訓練は行いません。それから彼らはそれぞれの地方に帰り、予備的選別によって多くの人々――白内障で両眼を失明した200~300名――を集めます。それから私たちが行って、地元の医師の手伝いの下で、熟練した教師役の眼科医が手術を行い、一方の眼だけの視力を回復します。それから地元の医師が(熟練医の)監督の下でもう一方の眼の手術を安全に行います。大量の白内障治療技術移転プログラムの過程で、土地の医師たちはしばしば、アメリカの住み込み研修医が3年間で行うのと同じぐらいの白内障の手術をやってのけるでしょう。そういうわけで、彼らはかなり良い技術を身に付けることになるでしょう。
SI:これはすべて「眼の保護のための持続可能な基盤組織」を創生するための重要な部分ですか。
タービン:幾つかの側面があります。ネパールにおける私たちのプログラムは、大量にこなしてコストを下げることによって、また以前なら国外で手術をしたであろう人々に来てもらうことによって、やっていけています。ヒマラヤ白内障プロジェクトやリュイト医師以前には、白内障により失明した人々で、手術のためにニュー・デリーに行ける余裕のある人々は行ったでしょう。彼らにもっとお金があったら、アメリカかオーストラリアに行ったでしょう。今は、ネパールの人たちは、エリート層を含めて、100%の人たちが白内障の手術のためにティルガンガ眼科センターに行くでしょう。患者の約60%は無料です。25%は手術費の全額、白内障の場合で約100ドルを支払います。私たちがこなす大量の手術と低治療費で、病院を完全に維持できるだけでなく、医師たちにはネパールにおける通常の眼科医以上の給料を支払うことができます。私たちは看護師、掃除担当者、運転手に対してもより多くの給料を支払うことができます。それで誰でもがこのシステムの一員であることに大きなプライドを持っているのです。私たちの革新的なモデルがヒマラヤ白内障プロジェクトに対する資金調達を可能にし、ティルガンガのために多くの大型装置を購入するのを可能にしたのです。看護、対外活動、給与、そしてティルガンガに必要なもののために、私は約8年間、少しも金銭上の負担をする必要がありませんでした。 私たちはネパールの多くの病院のために働いています。そして今では、大部分の病院が、この国のエリート患者を確保することで得た小額の費用回収で自立するようになっています。一部は大勢の患者を診ること、一部は低コストの維持です。しかし最も大きなことは技術の質を高く保っている点です。私たちが本当にやろうとしていることは、芸術の域に達するまでの高度で質のいい西洋の手術を末端まで行き渡らせ、それを大量に低価格で行うことです。
SI:人々が視力を回復したらその人生はどのように変化しますか。
タービン:それは劇的です。特に高年齢層の場合はそうです。ネパールでは「人は老いると髪の毛が白くなり、眼が白くなり、そして死んでいく」という一般的な考え方がありました。人々は失明を「腕の無い口」であると見なしました。彼らは家族のために働くことも手伝うこともできません。それで人々は憂鬱になります。彼らは萎びてしまいます。失明するということは、発展途上国では相当の精神的ダメージを受けるということです。視力を回復すると彼らは活力を取り戻します。多くの人々が人生の初期で失明しますが、視力を回復すると再び完全に就職することができるのです。しかし、就職しなくとも、家族のために働くことはできるのです――水を運んだり、子供たちの世話をしたり、掃除や料理をすることができます。これが彼らの人生に大きな変化をもたらします。その人の生活と社会の両方に対して大きな影響を与えるのです。
詳しくは:www.cureblindness.org

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