現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2012年 8月 特集―正義の必要性 子供時代を奪われた子供たち

特集―正義の必要性 子供時代を奪われた子供たち

シルワン・コミュニティーのサハル・バイドゥーン氏へのインタビュー
フェリシティ・エリオット

5歳から17歳の間のパレスチナの子供たちが、イスラエルの警察と軍隊の標的になっている。「標的」とは、逮捕され、深いトラウマの原因となるような方法で扱われ、虐待されることを意味している。そこで、こうした子供たちのリハビリのためのコミュニティー・センターが、犠牲者が増え続けているエルサレム市に設けられた「シルワン・マダ創造センター」内に設置され、サハル・バイドゥーン氏が働いている。フェリシティ・エリオットは、アムステルダムでの会議で彼女に会い、後に、シェア・インターナショナルのためにインタビューした。

子供たちの苦境を取り上げる会議

会議は、幾つかの平和運動活動家グループが集い、2012年5月にアムステルダムで開催された。この会合は、「拘束され、目隠しされ、責められる人々」と題され、パレスチナ人の窮状、特に、子供の窮状に焦点を置いた。参加者たちは、サハル・バイドゥーン氏が、パレスチナ人たちへの虐待行為と間断なきいじめについて語るのを聞いた。人権弁護士で「国際子供防衛パレスチナ」で働くジェラルド・ホールトン氏は、エルサレムからスカイプ(Skype)経由で会議に参加し、イスラエル当局に明らかに容認され、無視された兵士たちによる不法な行為が、事実上何の罰も受けないでいることについて詳しく語った。
会議は、「奪われた子供たち、奪われた生活」と題する、次のような強烈で衝撃的なドキュメンタリー映画を見ることから始まった。
自分たちの家を離れることを恐れ、学校に戻れなくなった13~14歳の子供たち、ベッドでお漏らしをし、しゃべることがほとんどできない15歳の少年、夜になると悪夢にうなされる子供たち、ベッドから引きずり出される12歳の少年、目隠しされて故意に警察犬を傍において脅される9歳の少年、自殺を語る少年たち、体を痛めつけられ、拷問され、監禁された子供たち……。ある母親は、少女や若い女性に決して子供を産まないように語る――希望も正義もない世界とは、いったいどんな世の中なのか、なぜなのか、「なぜなら私たちはパレスチナ人だから」と、その母親は、2010年制作のジェリー・オー・サリバン氏のドキュメンタリー短編映画「奪われた子供たち、奪われた生活」のカメラをまっすぐに見据えて述べた。
かつてイスラエル軍の兵士であった人物(現在はイスラエル‐パレスチナNGO「平和のための戦士」のメンバー)は、パレスチナ人の子供を捕まえることは“褒賞もの”であったと告白し、「私は彼ら(パレスチナの子供たち)のことを、子供としてとか人として、その存在を考えたかどうかは実際思い出せません……」と述べた。彼は、兵士たちが蹴ったために少年の肋骨が折られたのを記憶している。ドキュメンタリー映画の中で、彼は泣く必要があると思ったが一旦そうしたなら決して泣き止むことはできなくなったであろうと語っている。というのも、日常レベルで同じような状況に対処しなければならなかったからである。生き延びるために、彼は麻薬を吸い自分を麻痺させ、また自分の同僚たちの多くもそうしていたと告白した。
映画は、誘拐された子供たちに自分たちの話をさせているが、それは見ざるを得ない気にさせられると同時にぞっとするような光景でもある。映画でインタビューを受けた他の目撃者たちは、今も行われている故意の強迫や、いかなる咎めもなく日常的に行われている虐待行為について語っている。ヘブロン市の「キリスト教徒調停団」と呼ばれるグループが、ヘブロンでオブザーバーとして活動している。調停団のメンバーの一人パウレッテ・シュレーダー氏は、イスラエル軍兵士と警察の行為を監視して来た結果、「これらの子供たちは追いつめられて狩り取られた」と結論づけている。
パレスチナの子供たちが拘束されるときの理由は、伝えられるところによると、主にイスラエル兵に向かって石を投げたことである。捕えられた場合100%、子供はプラスティック製の紐で両手を背中の後ろで固く縛られる。その場合、90%が目隠しされる。70%が、捕えられたり尋問を受けるときに、殴られたり蹴られたりし、少なくとも17%が独房に入れられる。45%の少年が、深夜と午前4時の間にベッドから引きずり出される。7.5%が性的暴行に脅かされ、(2010年度の統計によると)4.5%がその恐れが現実になる。2010年に7.5%の少年は、電気ショックを使って拷問にかけられた。81%の子供が精神的に参ってしまって石を投げたと告白する。多くの場合、少年たちは24~48時間収監されるだけだが、幾つかの場合、彼らの監禁が数カ月に及ぶことがある。子供たちにヘブライ語の書類が与えられ署名するように強制されるか、出獄するために喜んで署名してしまう。
あたかもこの不正と災難では不十分であるかのように、子供たちの両親は、いわゆる訴訟になるまで、自分たちの子供がどこにいるかも知らされることはなく、また子供たちに会うことも許されない。(少女もまた時々逮捕される)。訴訟になって会えるとしても、遠くから見るだけである。子供たちは足首を縛られて、手には手錠を掛けられて出廷する。
リハビリテーション・センターは、多くの子供たちがポスト・トラウマ・ストレス症に罹っており、幾人かは逮捕、尋問、虐待について、幸か不幸か全く覚えておらず、別の子供たちは不幸にもトラウマが残ってしまうと述べている。
「国際子供防衛」は、専門的な証人たちによる調査と立証作業に基づく報告書を2012年4月に発行した。報告書は、子供たちによってなされた申し立てを立証し、また、それを裏付けている。「国際子供防衛」のパレスチナ部門のジェラルド・ホールトン氏は、監視されるべき基本的人権に言及している。すなわち、パレスチナの若者は、片親または両親に伴われなければならず、弁護士が取り調べの前に子供に前もって接見できるようにすべきであり、取り調べ中の光景が録音されるべきであると述べた(「国際子供防衛」「沈黙の解消」及び「ゲイト48」による『奪われた子供たち、奪われた生活』から)。

シェア・インターナショナル(以下SI):シルワンの様子とそこで暮らす人々の状況をお話しいただけませんか。

バイドゥーン:シルワンは、エルサレムの主要な都市の一つで、旧市街の南門、ダンゲート近くに位置しており、アルアクサ寺院と嘆きの壁の近くにあります。そこには55,000人の人々が住んでおり、そのうちの50%は未成年で、75%が貧困ライン以下で生活しています。460軒の家は崩壊の危機にあり、40軒は入植者に押さえられています。

SI:イスラエルの入植者たちは、シルワンにどのくらい長く住んでいるのですか。このことはシルワンをどのように変化させましたか。

バイドゥーン:シルワンは、平穏で、心の平和と慰めに満ちた村でした。しかし、このすべてが今ではなくなってしまいました。シルワンは1992年に380人のイスラエル人が違法に入植をし始めて以来、平穏とは全く逆の場所になってしまいました。その時以来、シルワンの人々は多くのことに立ち向かわなければならなくなりました。まず、EIADというイスラエルの民間の団体で最大の入植者連合が、シルワンの近隣にあるアラブの歴史を根絶し、シルワンのアラブ地域をユダヤ化する目的で、イスラエル政府に雇われ考古学的発掘を行うようになりました。
当然、シルワンのパレスチナ人たちにとっては、彼らの間に住む入植者たちの存在は受け入れ難く、挑発的なものでした。そしてこれがほとんど毎日衝突や対立の原因となりました。このことが拘束や逮捕という歴然とした形で、子供たちへの直接的な影響につながりました。

SI:あなたはどのくらいの間このセンターで働いていらっしゃいますか。どのような経歴をお持ちですか。

バイドゥーン:私はシルワンにあるマダ創造センター(MCC)で女性や子供たちへの直接的奉仕の調整役をしています。このMCCは2007年にシルワンの活動家たちによって設立されました。MCCは特定の目的、つまり、子供や女性や若者に、交流し、創造的に生き、楽しむための安全な場所を提供するために創設されたのです。
私は約2年ほどそこで働いてきました。私は経営学の学士号を持ち、子供たちに関してはたくさんのボランティアとしての経験を持っています。また女性の支援に関する多くの科目を修得し、それらに関する小さなプロジェクトを数々やり、また社会心理学に関わる仕事で専門家の訓練を受けました。

SI:センターにはどのような分野がありますか。

バイドゥーン:センターには、様々な部門によって統括される多くの活動があります。社会心理部門、ワディヒルウェ情報センター、法律部門、文化およびレクレーション活動部門、ジャーナリズム報道部門、職業療法部門などです。私たちは最大の努力をもって、シルワンの社会、特に子供たちに対するサポートを提供することを心がけています。

SI:どうして子供たちに社会復帰をさせる必要があるのか、説明していただけますか。

バイドゥーン:子供たちを社会復帰させる必要があるのは、彼らが様々な劇的で深刻なトラウマに直面しており、それらが彼らに多くの社会的、心理的、教育的な問題を生じさせているからです。ですから、私たちの役割は、彼らのトラウマの影響を緩和し、彼らが安全と感じる空間を提供しようと努力することで、それはとても重要なのです。私たちの使命は、シルワンの世代がその歴史と遺産を知り、自分たちの権利と責任の下で認められた地域社会と未来を信じていけるようにさせることです。彼らは自分たちの文化的出自、パレスチナの出自を誇りに思えるようでなければなりません。

SI:『奪われた子供たち、奪われた生活』というドキュメンタリー作品は、わずか5歳の子供たちまでトラウマを経験していることを示しています。

バイドゥーン:トラウマは通常逮捕に原因しています。しかし、その影響の度合いはそれぞれに違います。最悪のトラウマは、衝撃的な真夜中の逮捕で、子供は親の存在なしに逮捕尋問を受け、極度の身体的暴力と言葉の暴力にさらされます。二番目に恐ろしい暴力は、10歳以下の子供たちを街中から誘拐することです。通常これが彼らにとっての最初の突然の逮捕経験となるのです。

SI:法律による保護はないのですか。

バイドゥーン:イスラエルの法律は子供たちへの保護を提供しています。しかしイスラエルの占領軍は、法律に例外条項を作ってこれらの事件に対処しているのです。真の法律ではなく、この例外条項が、基本的な日常の“法律”となっているのです。例えば、子供たちが拘束され逮捕され、手錠をかけられ、目隠しをされ、長時間にわたり拘束され、そして夜中に逮捕されるというやり方、このような慣行は、特別な事例以外、イスラエルの法律では認められていません。しかし、イスラエル占領軍はこれらの例外条項を利用して、その暴力的な態度を正当化しているのです。
子供たちにとって最悪なのは、いつも不安感があり、そしてイスラエルの入植者や諜報機関、兵士たちから追い回されることです。しかし家族もまた、シルワンをユダヤ化しようとする継続的な努力により、不安で落ち着かない思いでいるのです。イスラエル側のエルサレム自治体によって実行される何百という家屋解体命令、退去命令、計画があり、それらはパレスチナ人地域の必要を無視して、その村全体の構造を変えてしまおうともくろまれているのです。

SI:子供が逮捕されたとき、センターはどうするのですか。

バイドゥーン:私は拘留と逮捕の状況を注視します。通常は、親が逮捕について法律部門に報告します。それから私たちは、弁護士を雇って、このことを追跡し、家族に必要な法的手続きのアドバイスをします。子供と家族に接見するためのの詳しい情報は社会心理部門から私たちに届き、私たちは家庭を訪問して、それぞれのケースに必要な適切な(社会心理的、医学的、法律的)情報を集めます。私たちは家族と適切な処方を決定します。

SI:地方当局に何らかの要求をされたことがありますか。何が起こらなければならないとお考えでしょうか。

バイドゥーン:子供たち、家屋の解体、退去、環境の破壊に関する法律違反に沿って、全ての要求は裁判所の法律部門が地方当局に提出します。

私はイスラエルが不正行為をやめ、これらの問題に関する国際条約を履行しなければならないと思います。イスラエルは子供たちが法律を破って、イスラエル人の生命に危険を及ぼしていると言いますが、実際には、これらの投石や衝突に参加する者たちは一方でイスラエルの入植者や警備隊によって途方もない圧力や挑発を受けて、そして他方ではイスラエル軍による演習を受けているから、そうしているのです。イスラエル軍は、投石をしていない子供も含めて、すべての子供に対して集団的罰を用いています。ですから、子供を利用し、イスラエルの占領に反対する闘争とは無関係にするのは、計画的な方針なのです。そして当然、イスラエル軍はその態度と行動でこれらの子供たちの未来を標的にしており、びくびくして無知な世代をつくろうとしているのです。国際社会の役割はさらなる圧力をイスラエルに及ぼし、イスラエルの占領軍がすでに彼ら(の国)が調印した国際条約を遵守し、その条約に違反することをやめさせることだと、私たちは思っています。また私たちは国際社会がパレスチナの民衆全般に対して、彼らの大義のために彼らが強力に闘えるようにもっと支援してくださることを期待しています。

編注:イスラエルは、1991年に「国連子供の権利条約」を批准、同年に1949年の第4回ジュネーブ条約を批准している。1992年には1966年の市民権および政治的権利に関す国際条約を批准。1991年には、1984年の虐待その他の残虐で非人道的または人格を傷つける処遇や刑罰を禁止する国連条約に批准しているいる。これは注目に値する。然るに、毎月平均で324人のパレスチナ人の子供たちが刑務所に入れられている。
(国際子供のための防衛パレスチナ部門より)