特集―正義の必要性 凶悪犯罪と闘うために手を結ぶ
アヌラダ・コイララ氏へのインタビュー
ジェイソン・フランシス
1993年に、教師、ジャーナリスト、ソーシャルワーカーを含む社会的に献身するネパールの専門家たちからなるグループが、社会的不正義や、この国の女性を苦しめる虐待に立ち向かうために団結した。この努力がカトマンズに拠点を置く非政府組織マイティ・ネパールを生み出した。この組織が主に取り組んでいるのは、性的人身売買や児童買春の犠牲になってきた少女や女性たちを守ることである。このグループはまた、児童労働や他の様々な形の搾取と拷問の排除にも献身している。カトマンズの名門学校で20年間にわたって英語を教えた教育者であるアヌラダ・コイララ氏は1993年にマイティ・ネパールを創設した。彼女の数年にわたる献身的な働きのお陰で、ネパール政府は9月5日を人身売買反対デーと命名した。コイララ氏はケーブル・ニュース・ネットワーク(CNN)のヒーロー・オブ・ザ・イヤーの2010年受賞者であり、2011年には韓国のマンヘ財団のマンヘ平和賞を受賞した。ジェイソン・フランシスがシェア・インターナショナル誌のためにアヌラダ・コイララ氏にインタビューした。
シェア・インターナショナル(以下SI):性的人身売買の犠牲になったり、家庭での虐待に苦しんだりしてきたネパールの子供や女性たちを助け、社会復帰させるこの仕事を始めるよう何があなたを鼓舞したのですか。
アヌラダ・コイララ:一人の意識ある市民として、私は自分の国で性的人身売買が行われることを知り、それについて何かをすべきだと考えました。私もまた、人身売買ではありませんが、家庭内暴力の苦難からなんとか逃れたのです。そのため、この種の暴力に苦しむ女性たちのためにも何かをすべきだと考えました。
SI:どのようにして子供や女性の性的取引が行われるようになるのですか。
コイララ:理由は性別(ジェンダー)格差です。私たちの国では、女性はあらゆる分野において二流の市民です――教育、雇用機会、結婚など。政府は教育は無料だと言いますが、そうではないことを私たちは知っています。私たちは村で子供に教育を受けさせていますが、巨額のお金を支払わなければなりません――子供一人当たり3,500ルピーです。もし家庭に3人の男の子と2人の女の子の5人の子供がいたとすれば、親はどちらかと言えば、男の子に教育を受けさせます。というのは、男の子は家を継ぎますが、女の子は結婚して、誰か別の人の家に行ってしまうからです。そのため、女の子には教育を受けさせなくなるのです。これは教育の性別格差です。
性的人身売買について言えば、密売人は親に「娘さんを連れていって、売春をさせるつもりだ」とは決して言いません。「ああ、彼女は大きくなったねえ。結婚するためにお金が必要ですよ。町にはいい仕事がありますよ」と言います。親は女の子が結婚するための仕事が町にあると考えます。普通、女の子が結婚するためにはお金が必要です。男性も結婚するためにお金が必要なので、働く必要があります。ここにもまた性別格差があります。村には仕事の機会がないため、彼女らは仕事を求めて町に行きます。そうして罠にかかってしまうのです。もちろん、貧困が性的人身売買のもう一つの理由です。
SI:性的搾取にはどのような様々な形があるのですか。
コイララ:まず第一に、彼女たちは性的奴隷にさせられます。電気による拷問や殴打、食事を与えられないなど様々なケースがあります。彼女たちはまた、様々な病気にかかります。もし妊娠したときには中絶しなければならず、中絶後すぐ1時間後にはお客さんの相手をしなければなりません。
SI:女の子だけではなく、男の子も人身売買されるのですか。
コイララ:そうです、小さな男の子も買われますが、彼らの人身売買の形は違ったものです。服に刺繍をするためにインドの町に売られます。彼らの手が小さいためです。その服は、裕福な人たちが着るために大都市で売られます。また、彼らは買われて、乞食にさせられます。彼らは恐ろしいことに不具にされ、みすぼらしい格好で通りに座らされ、物乞いをさせられます。密売人がそのお金を集めるのです。腎臓のために買われる男の子たちもいます。
SI:どれくらいのネパールの子供や大人が人身売買に巻き込まれているのですか。
コイララ:記録によると、現在毎年1万2,000人から1万5,000人が人身売買されています。インドでは25万人から35万人の女性や子供たちが人身売買されています。
SI:マイティ・ネパールは児童労働の犠牲になっている子供たちも助けていますが、子供たちはどのような仕事を強いられるのですか。
コイララ:彼らは家事労働のために使われます。銅の製造工場で多くの子供たちが使われていましたが、今では多くの子供たちがそこで働いているということはありません。多くのNGOや国連機関が児童労働をやめさせるために働いており、人々はそれに気づくようになりつつあります。そのため、児童労働をさせられている子供たちの割合は減りつつあります。
プリベンション・ホーム(保護施設)と
トランジット・ホーム(帰郷のための避難施設)
SI:マイティ・ネパールがプリベンション・ホームで行っている仕事について教えていただけませんか。
コイララ:私たちがプリベンション・ホームをつくったのは、村での人身売買を防ぎ、少女たちに職業技能を提供したかったからです。少女たちは一度に30人、訓練のために6カ月プリベンション・ホームに滞在します。ホームを運営しているのは常に、人身売買をされたことのある女性で、彼女がすべての少女たちに人身売買について話し、カウンセラーと教師たちが少女たちに手仕事を教えます。私たちが彼女らを訓練した後に少女たちは村で何かをすべきだと思います。
プリベンション・ホームとは別に、私たちは村で多くの啓蒙活動を行っています。私たちは、警察、法律家、市民社会のような様々な分野のために唱導活動を行っています。これは、少女たちが買われるのをどのようにして防ぐかということですが、取り組む姿勢を変えるのには時間がかかります。私たちは多くの姿勢を、特に警察の取り組み方を変えてきました。しかし、議員たちがこの問題に対する姿勢を変えなければなりません。というのは、彼らは社会問題ではなく政治問題だけを考えているからです。もし政治家たちが法律を変えるならば、性的人身売買を防ぐのは明らかにもっと容易になるでしょう。
SI:カトマンズにあるソーニャ・バルバリカ・グリハ子供保護センターについて教えていただけませんか。
コイララ:ソーニャは私たちの支持者の娘さん――自転車事故で亡くなったドイツ人少女――の名前です。カトマンズにあるここのホームすべてが彼女にちなんで名づけられています。この名前はソーニャさんの子供施設という意味です。この施設には315人の子供たちがいて、すべての子供が学校に通っています。これは私たちの仕事の予防の部分です。というのは、もしこうした女の子たちをマイティ・ネパールが通りから連れてこなければ、彼女らはインドに連れていかれて、売春をさせられることになるからです。彼女らは今、勉強をしており、多くの子供が大学に行くことになるでしょう。
SI:マイティ・ネパールの九つのトランジット・ホーム(帰郷のための避難施設)の仕事について述べていただけませんか。
コイララ:トランジット・ホームはインドとネパールの国境にあります。両国の間には26の国境検問所があります。26の越境地点すべてを見張りたいのですが、9カ所だけの資金しか私たちにはありません。越境地点で、人身売買されたことのある少女たちが国境を見張っています。これまでは警察と出入国管理事務所と税関だけでしたが、今は私たちもいます。国境にいる少女たちは人身売買の犠牲者で、それから逃れた人たちなので、彼女たちはあなたや私よりも目が利きます。彼女らはどの少女が人身売買されようとしているかを見分けることができます。
越境地点に5人の少女がおり、朝6時に仕事を始め、夕方の6時まで続けます。彼女らは少女や十代の女の子をとめて、彼女たちに話を聞きます。そのようにして1日に4、5人の少女の身柄を確保するのです。
プリベンション・ホームは性的人身売買を防ぎ、少女たちが村に留まることができるようにするために技能を身につけさせます。トランジット・ホームは人身売買されようとしている少女たちの身柄を確保し、村に連れ帰ります。もし彼女たちがプリベンション・ホームに行って職業訓練を受けることを望むならば、私たちは彼女らがそうするのを助けます。
SI:マイティ・ネパールは数年間にどれだけの子供と女性を助けたのですか。そして、一度にどれだけの人々があなた方の組織の支援を受けているのですか。
コイララ:これまでに1万2,000人以上の少女の身柄を確保してきました。私たちが救い出し、私たちのホームに滞在していた少女たちの数は7,000人以上です。現在、私たちの避難所には500人以上の子供と女性がいます。
SI:以前、性感染症についてお話しになっていましたが、このような人身売買の犠牲者たちはどれくらい性感染症にかかっているのですか。
コイララ:70%です。
SI:マイティ・ネパールが運営するホスピスと行われる治療について述べていただけませんか。
コイララ:二つのホスピスがあります。一つはネパール東部に、もう一つはカトマンズに。これらのホスピスには、HIV/AIDSに苦しむ子供や女性がおり、彼女らはすべて、抗レトロウイルス治療を受けています。中には多剤耐性肝炎のような別の病気の人もいます。医師と看護師がおり、必要なすべての医療機器があります。子供たちや女性が深刻な病気にかかっていて、私たちが処置できない場合は、私たちを助ける二つの病院、ネパール医科大学とカトマンズ医科大学が近くにあります。
SI:ネパール政府とインド政府は性的人身売買にどのように対応しているのですか。
コイララ:何よりもまず、私たちの国の政治情勢は安定していません。そのため、政府が多くを行うことは期待できません。私たちの隣りの国々については、彼らは何かを行っていると思います。確かかどうかは分かりませんが。私たちの政府と彼らの政府の間で国境で毎月会合が開かれています。こうした会合を開くたびに人身売買の問題を私たちの政府が提起していますので、私たちの主張は実りあるものでした。そして、地方レベルでは私たちの政府は一所懸命に働いています。
SI:密売人は捕まったときどうなるのですか。
コイララ:少女が私たちのところに来て、密売人を特定したとき、私たちは警察の助けを借りて彼を逮捕し、裁判所に起訴します。有罪になるまでに以前は3年から4年かかっていましたが、今では約6カ月から1年です。ネパールでは有罪になるケースが非常に高いです。刑の平均は懲役20年ですが、私たちは終身刑と財産の没収を求めて、議員たちに働きかけています。しかし、平均20年であっても、多くの密売人が懲役35年を言い渡されました。ある密売人は90年を言い渡されたのですが、6年後に刑務所で亡くなりました。エイズにかかっていたからです。有罪になる割合とこうした事件での警察の対応は以前よりも100%改善されています。
SI:あなた方が助けた人々が家族と再会するパーセントはどのくらいですか。
コイララ:少女たちの80%以上が家族のもとに帰ることができました。家族のもとだけではないですが、戻ってから尊厳のある形で地域で生活しています。残りの20%は様々なホームで暮らしていますが、彼女らは働いており、社会でうまく生き抜いています。
SI:以前、人々の姿勢について話しておられました。人身売買をきっぱりとなくすためには、姿勢がどのように変わらなければなりませんか。
コイララ:この問題に対するすべての人たちの姿勢が変わらなければなりません。子供が人身売買されたとき、人身売買されたのが自分の娘であると、すべての人たちが考えなければなりません。すべての人たちがすべての子供たちを自分の子供と考えるようになるまでは、何も変わりません。
SI:何か付け加えたいことはありませんか。
コイララ:すべての人たちがこの凶悪犯罪と闘うために手を結ぶよう求めたいです。これは人類にとって恥だからです。
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