「私たちはもう恐れることはない」:世界は新しい夜明けを目の前にしている
カルメン・フォントによる
フェデリコ・マヨール・サラゴサ氏へのインタビュー
フェデリコ・マヨール・サラゴサ教授(1934年スペイン、バルセロナ生まれ)は、平和と開発のための精力的な仕事を通して、スペインや世界中から尊敬を受けている人物である。1970年代の終わりから1980 年代の初めにかけて、生化学者であるマヨール教授は、何度かスペイン暫定政権で閣僚ポストに就き、後年には欧州議会議員となった。1987年から1999年、UNESCO(国連教育科学文化機関)の事務総長としての在任期間中に、ユネスコの任務に新しい機運を与え、「平和の文化プログラム」創設へ向けて働いたことにより、彼は国際的な評価を手にした。1999年、ユネスコでの3期目の続投をやめ、スペインに帰国して「平和文化財団」を設立し、財団の理事長を務めている。フェデリコ・マヨール氏は以下で、最近の重要な発展についての彼の考えや行動を述べている。カルメン・フォントが本誌のためにインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI):私たちはこの数カ月の間、アラブ世界における民衆の力の歴史上前例のない運動を見ています。これらの運動は、地域社会や世界のより健全な民主主義へ向けて、私たちを導くものとして見ますか、それともこの道には、まだ多くの落とし穴があるのでしょうか。
フェデリコ・マヨール:この道には多くの落とし穴があります。しかし同時に、これは止めることのできない道であり、その道は強固なしっかりとした地盤の上につくられています。1994年に私は『沈黙という犯罪(Crime of Silence)』という本を書きました。なぜなら、このまま沈黙の状態が続くことはないということに、あの当時気づいていたからです。禁止されているために、あるいは力が及ばないがために私たちが抗議できない時、私たちは沈黙を強いられて沈黙しています。しかしそれが、「沈黙する人々」、つまり抗議できるけれども抗議することを拒否する人々の沈黙となる時点までやってきます。私たちは世界に起きていることの証人となってきましたが、介入してはきませんでした。これから先は、新しい通信技術のおかげで、この沈黙は何の意味も持ち得ません。それどころか、声を上げ自分を表現するのは、むしろ義務なのです。そして、私たちはもう恐れることはありません。「民衆の怒り」としても知られているプエルタ・デル・ソル広場での運動が、どんなふうにインターネットを駆け巡り、境界のない場所を占拠しているかに注目してください。その運動はウォール街へ波及し、「私たちは99%」となり、世界中の占拠運動へと移っていったのです。
1980年代に私たちは大きな間違いを犯しました。民主的権利、社会的権利、連帯など、それまで戦って勝ち取ってきたすべてのものが脇に追いやられるのを許した結果、市場のフォースを動かしていた仕組みが世界を操作できるようにしてしまったのです。それから、MBA(経営学の修士課程)で身を固めたエキスパートたちが、市場取引やアウトソーシング(外部委託)のみに敏感に反応する模倣的、反復的な人間へと私たちを変えてしまったのです。彼らは人類にとっての非常に重要な二つの側面を取り換えてしまったのです。つまり、彼らは倫理的価値を市場価値、すなわち価格に取り換えてしまいました。スペインの詩人アントニオ・マチャドが語ったように、「愚者のみが価値を価格と間違える」のです。
彼らはまた、国際連合も取り換えてしまいました。世界規模の民主的機関であり、いろいろな欠陥にもかかわらず、世界のすべての民族、国家が共通の運命のために手を結び合い、後からやって来る世代のために、「戦争の惨事を取り除く」ために連合しようとするこの機関をです。それまで国連は幾つかの発展を遂げてきましたが、2003年にジョージ・ブッシュ大統領が20カ国の先進国に新興国を加えた国々(G-20グループ)を集めて、金融機関を救済する「英雄的な」行政命令を発布しました。生産の非ローカル化や民営化の進展により、すでにかなり貧窮化していた国々は、さらに多くの財源を失いました。徐々に巨額の負債を背負い込んだ銀行に、結果として権限が与えられました。このような「運営」の結果、私たちは現在、銀行はますます豊かになり、国々はますます貧困化していくという国際状況を目の当たりにしています。
SI:しかし、市場のフォースがいまだに経済を牛耳っているとはいえ、現在では、ますます大っぴらに、市民社会や数多くの政治家たちによって疑問が投げつけられています。市場のフォースを分かち合いに基づく経済と入れ替える、具体的な代替案は現在ないのでしょうか。 私たちは、ラテンアメリカの国々で起きている見事な発展を目の当たりにしていますが。
マヨール:市場のフォースは西洋の発明品です。長年にわたる個人的な政治的経験から直接知ったことですが、アメリカ合衆国は、「共産主義」と戦うために、ラテンアメリカの民主主義に干渉することを日常的に行ってきました。しかし、彼らはもう一つの共産主義国、中国を忘れていました。中国は今では世界の工場となっていますが、私たちは彼らの労働基準にそれほど注意を払ってきませんでした。私たちはこれらの残酷な労働条件に苦しむ人々を見ずに低価格のみを見て、貪欲に身を委ねています。全体としての世界は矛盾に満ちています。西側世界は、市場を優先するために民主的で倫理的な原則を変えてしまい、また、国連を金権政治グループへと置き換えたために、彷徨っています。
しかしながら、ラテンアメリカは今日、健全な変化の時を迎えています。なぜなら、支配の手管(IMFと世界銀行)から逃れ、新しい未来の再定義を模索しているからです。CELAC(ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体)に代表されるラテンアメリカの開放は非常に重要です。なぜなら、これらの国々はイベリア半島の父(スペイン、ポルトガル)と、アメリカ合衆国という兄との友好関係を保ってはいますが、もはや彼らに依存してはいないからです。
アフリカは目覚めつつあり、それから、アジアがあります。大きな疑問符のつく中国はさておき、驚異的な発展を遂げているインド、および東南アジアがあります。私たちヨーロッパ人は、自分たちだけを中心に見てしまうのに慣れ切っています。私たちは、かつては世界の重要な道義的力であったのですが、現在は彷徨い出しています。それというのも、私たちは、株式市場の原則に適合するように私たちの基準を変更させた元サッチャー首相やレーガン大統領の、賢明とは言えないルールを受け入れたからなのです。
私は、国際社会やこの彷徨っているヨーロッパに対して、ヨーロッパはまさしくその道徳と政治的な原則を放棄してしまったがゆえに、民主主義を支持するという世界的な声明を公表すべきであると提案しました。そして、沈みつつあるこのヨーロッパにもかかわらず、まさにこのヨーロッパだからこそ、今、社会的正義と連帯の正統性を立証して欲しいのです。そのような行動は、それが最も必要とされる時期に、道徳的に私たちや他の民族を奮い立たせるでしょう。ヨーロッパは閉じられた扉や思考の中で持続していくことはできません。私たちはいまだに北大西洋条約機構(NATO)をヨーロッパの境界内に維持しています。つまり、ヨーロッパの安全を今でもアメリカ軍司令官に委ねています。また、私たちの軍事費はあまりにも巨額です。この意味において、アメリカのオバマ大統領は軍事予算削減のために、勇敢にも米国国防総省と立ち向かってきたということを、私は付け足さねばなりません。
SI:この点に関して、あなたは最近トービン税(経済学者ジェームズ・トービン氏が提案した、投機筋を適切にコントロールする外国為替取引税)の適切な導入を提案なさいました。
マヨール:私たちは、健全な経済を保証するにあたっていまだに非常に有効な手段であるトービン税の適切な導入について、何度も会議を開催しました。2005年に、当時のフランス大統領ジャック・シラク、リカルド・ラゴス前チリ大統領、(ポルト・アレグレ市において財政政策代替案を促進した)ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ前ブラジル大統領は、コフィ・アナン前国連事務総長やホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ前スペイン大統領と一緒に、豊かな国々が開発途上国に対して自分たちの義務を果たし、搾取を避けることができるように、代替案を提唱しました。彼らの主な関心事は、金融機関がこれらの国々を搾取することなく、理想的には、より多くの顧客を引き付ける手段となることでした。私たちはいつも、顧客が足りないと不平をこぼしています。私たちは顧客の数を広げる代わりに、地球の20%の地域、つまり豊かな国に対して、もちろん持続可能な方法で、さらに多くの製品を売りたいと思っています。トービン税はこの点に関して助けになると思われていました。しかし現在、トービン税は悪循環の中で債務を支払うために使われます。最も有名な経済学者たちは、動機付けのない成長はあり得ないことに同意します。私は経済の専門家ではありませんが、自分の経験から、そして世界の出来事を観察し直接参加してきた有利な立場から、もし私たちが無差別な緊縮政策を適用するだけなら、雇用や富をつくり出すことはできないと言うことができます。
SI:多くの人々にとっては、これらの緊縮政策は恐怖と同義語です。それらは現代の政治家や機関投資家の恐怖心、勇気の欠如、ビジョンのなさを表しています。あなたは恐怖心について、恐怖心はいかにこの世界において活動的な市民となることを妨げるかについて、包括的に書き、話してきました。民衆の力に火を付けたこの世界危機の中にあって、恐怖心への決別がはっきりと見えますか。
マヨール:恐怖心は人間存在にとって固有のものです。いつの時代にも、絶対的な権力を持って君臨し、他の人々の命を奪う人間がいるものです。この絶対的な権力が恐怖心を植え付け、市民ではなく臣民をつくり上げてきたのです。そのようにして社会は恐怖心を固有のものとして育んできたのです。しかし、人々は今、命とは一つの奇跡なのかもしれないということ、それはまさに謎であるということ、そして情熱をもって人生を体験しなければならないということに気づきつつあります。私たちは人生を最大限に活用し、豊かな触感をそれに与えねばなりません。私たちは恐怖心をなくすことを切望しなければなりません。なぜなら、歴史上初めて、一つには新しい通信技術のおかげで、恐怖心を取り除くことができるのですから。今では女性も男性も、自分たちを自由にグローバルに自己表現することができるのです。
これは、あなたが前に述べた重要な意見と関連しています。民衆の声は、その地方で、または地球規模で、偽りのない民主的な方法を探る機会を私たちに与えてくれます。なぜなら、民主主義は現在に至るまで、投票することに、そして選挙で票として数えられることに限定されてきたからです。これからの市民の参加は、表現の仕方において次第に激しさを増すようになるでしょう。コミュニケーションの技術が、物理的には境界線のない開かれた環境の中で市民を参加させることを可能にしています。これはひとりでに強化されるでしょう。その結果、人間の尊厳に逆行するあらゆる傾向を是正する可能性を含め、私たちはより統合された民主主義を見ることになるでしょう。私たちは、現在の脆弱な民主主義の質を改善するだけにとどまらず、異なった未来へ向けての明確な提案を行うのです。私が思うに、民衆の力は止めようのない運動になっていますが、抗議する運動であることをやめて、提案する運動となるでしょう。
SI:2012年の幾つかの予測をお願いできますか。
マヨール:2012年は良い年になると思います。多分、オバマ大統領は再選されるかもしれません。オバマ大統領は反対勢力に取り巻かれていたがゆえに、合衆国内の貧しい人々に対する連帯という概念が行き渡らなかったとしても、世界における多国間システムを再構築できるでしょう。これは必要なことです。なぜなら、リビアの市民を保護するのではなく、カダフィ大佐を殺害するというような決定を続けることはできないからです。シリアの現在の混沌とした状況を慢性化させることや、また、イラクで行ったことをイランとの関わりにおいて実施することはできません。多国間主義的に行動することが、世界情勢の協調関係に新しい始まりを印すでしょう。西側経済に関する限り、緊縮経済政策に基づく削減は雇用や成長をつくり出す道ではないことに、ヨーロッパは最終的には気づくと思います。私たちは生産を地域社会へと取り戻すでしょう。私たちはこの責務を、人権を尊重しない第三者へ手渡してしまっていたのです。私が前に申しあげたように、これは無責任と強欲に基づく行為です。マヤ民族が正しく理解し、いわゆるマヤ暦のバクトゥン年になると記録されたように、今年は彼らの言う新しい始まりの年、「新しい夜明け」となるのでしょう。
最近、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)がありましたが、私は全くダボスには興味がありません。この会議を代表する専門家たちは、私たちがすでに知っている資本主義システムの死の苦しみを、単に長引かせているにすぎません。
ある時点で、ミハイル・セルゲーエヴィチ・ゴルバチョフ前ソ連大統領は、平等に基づきながらも自由と正義について忘れていた共産主義システムに、流血の惨事なしに崩壊をもたらしました。しかし、平等と正義がなければ、資本主義システムによって提供された自由はその目的を果たさず、このことが資本主義システムの崩壊を招いていることを私たちは忘れてはいけません。この崩壊は、今、私たちの眼前で起きています。機能しないシステムを維持するために少数者に特権を与えることは、もうできません。
私たちは別のシステム、別の国連を創設しなければなりません。ルーズベルト大統領は正しかったのです。私たち民衆が統治しなければなりません。絶対的な権力、つまりG7やG20という絶対的な権力が統治してはいけません。国連は再構築されるでしょう。安全保障理事会も領土権や紛争解決だけを基盤とするだけでなく、非常に重要な環境部門が備わった社会経済的な安全保障理事会となり、実際の問題にさらに近づくことになるでしょう。これよって国連は、公正で尊厳ある方法で私たちすべてを代表していると感じられるようになるでしょう。それは現実となるでしょう。国連総会は、国家のみではなく、全体の50%が国家で、残りの50%は市民社会の代表から構成されるでしょう。
私たちは希望に満ちていなければなりません。なぜなら、人類は創造するという聖なる能力を与えられていると、私は思うからです。もし国々が連帯していなければ、国連は持続しないでしょう。ですから、米国のように、国連の創設国が国連を放棄することを許すことはできません。パレスチナがすべての権利を持つ国家として再承認されたことに対して、米国は不満を表明しています。実際、こうした態度は時代遅れであり、この傲慢さは昔のような効果をもたらすことはありません。人々の感情の中に、見通しの明るい変化を感じ取ることができます。コミュニケーションや情報の新しい技術のおかげで、私たちは世界中で、民衆の力と代表者の声を届ける重要な場を立ち上げるでしょう。私たちはまさに、新しい夜明けを目の前にしています。
さらなる情報をお求めの方は:
www.fund-culturadepaz.org
フェデリコ・マヨール・サラゴサ氏の著書『沈黙という犯罪』は、上記のウェブサイトにて無料にて提供されています。
「……教育が解決策です。もし、指導者や議員たちが人々の声を本当に代弁していないなら、参加なしには正真正銘の民主主義はあり得ません。人々を動員したり、明確な態度を打ち出したり、深く関わったりするために、熟慮する時間を持つことは必要です。世界の声に耳を澄ますことは本質的なことです。観察するということは、単に眺めていることとは大変異なります。惑星全体のビジョンや人類全体に対する良心を持つことは、私たちの感情を激しく揺さぶり、行動を起こすように促す津波を待たなくても、私たちが反応することを可能にするでしょう。
自信たっぷりに舞台に上がろうとしている市民からいつも一定の距離を置いてきた権力者たちは、インターネットを通しての革命の力に気づくことはありませんでした。携帯電話、SMS(ショート・メッセージ・サービス)、インターネット等を利用した、遠くからでも参加できる能力は、現在の協議や選挙の方式を変えるでしょう。総合的に、民主主義を変えるでしょう。」
(『沈黙という犯罪』18頁より)
世界は回復可能ですか?
はい、もし:
1. 民主主義が強化され、政治指導者たちが金融機関からの圧力に屈することなく権力を掌握し、現在の投機に基づいた経済を、体系的な知識に基づいた経済へと取り換えるならば。
2. 武器や軍事経費への投資が縮減され、さらに多くの資金が地球規模での持続可能な開発へと当てられ、これらの進歩から利益を受ける人々が著しく増加するならば。
3. 租税回避地域を徹底的に閉鎖し、それに代わる金融対策として、電子取引手数料などの措置を導入するならば。
4. グローバル化の推進者たちによって押し付けられた、G7、G8、G20 等の金権政治組織をきっぱりと解体し、国連を強化して地球規模の安全保障という使命を達成するあらゆる手段を与え、国際法を強化し、世界貿易機関(WTO)を加え、世界銀行や国際通貨基金が設立された時の目標を達成するのを確実にし、国連平和維持部隊(UN Blue Helmets)が大量虐殺や大規模な人権抑圧の消極的な目撃者として止まるよりもむしろ緊急配備され、自然・人道災害救助部隊(Red Helmets)の活動を調整して自然災害や人災による衝撃を緩和するために特に準備されるならば。
5. アルコールやタバコと同じように、一夜にして麻薬の価値がなくなり、世界中どこででも安価な値段で手に入るようにするならば。この薬物合法化は、その当然の結果として、薬物使用を諦めさせようとする情報機関や教育機関等のキャンペーンや、麻薬中毒者を治療する診療所を伴うだろう。
6. 世界中の市民が、遠距離参加の力に気づき、諦めた受け身の態度を改め、行動に転じるならば。
(『沈黙という犯罪』21頁より)