現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2011年 6月 核の時代を超えて

核の時代を超えて

ポール・ガンター氏へのインタビュー ジェイソン・フランシス

?

「ビヨンド・ニュークリア(核の時代を超えて)」は米国メリーランド州を本拠地とする非政府組織(NGO)であり、未来を守るために原子力エネルギーと核兵器を放棄する必要について一般市民や政府高官やメディアに知らせるために活動している。この団体は、環境保護上安全で民主的な方法で生み出されるエネルギーを支持している。
ビヨンド・ニュークリアの原子炉監視プロジェクトの責任者であるポール・ガンター氏は、原子炉の危険とそれに関連する安全保障問題の広報担当官である。彼は1976年の反原発運動「クラムシェル・アライアンス(貝殻同盟)」の共同創設者である。この運動は、非暴力活動によりニューハンプシャー州のシーブルック原子力発電所建設に反対し、米国で反原発運動が始まる契機となった。ジェイソン・フランシスが本誌のためにポール・ガンター氏へのインタビューを行った。

?

?

シェア・インターナショナル(SI):核分裂によってエネルギーを生み出す危険とはどのようなものですか。

?

?

ポール・ガンター:福島で起こっている問題は、核分裂プロセスを通して電気を生み出すことについて回る危険をはっきりと示しています。電気はこの産業による束の間の副産物にすぎませんが、途方もない量の放射性物質が遺産として残されることになります。それは作業中に明確な差し迫った危険となるだけでなく、地質学的な非常に長い期間、生態系──基本的にすべての生命──にとっての脅威であり続けるでしょう。1ワットの電力の恩恵さえ受けないのに有毒な核廃棄物を抱えることになる将来世代は、有効なバリアを建設することによってこの恐ろしい遺産に対処しなければならなくなるでしょう。長い時間をかけてバリアの中にバリアを建設し、その中にまたバリアを建設することになり、ロシアのマトリョーシカ人形という概念には新しい意味が加わることになるでしょう。

?

?

SI:これまで長い年月の間に、どのくらいの数の災害が原子力発電所で起きてきましたか。

?

?

ガンター:どのくらいの数の原子力災害──特にどのくらいの数のニアミス──が起こってきたかを数字に表すことは困難です。なぜなら原子力産業は、原子炉が制御不能になったときに情報統制を行うことで知られているからです。例えば旧ソ連では、1957年にウラル山脈のクイシトゥイム〔核燃料再処理工場〕で原子力事故がありましたが、長年の間公式には認知されませんでした。1966年にはミシガン州デトロイト近郊のフェルミ1号炉で事故がありましたが、再び情報統制が行われました。
たいていの人は1979年3月28日に発生したスリーマイル島の事故には気づいていましたが、ペンシルヴァニア州知事は3日たってようやく、妊婦と子供は事故炉の半径5マイル圏内から避難するように勧告しました。数年たってようやく、スリーマイル島2号炉で部分的なメルトダウン(炉心溶融)が起きていたことが承認されました。
1986年4月26日にはウクライナのキエフ郊外にあるチェルノブイリ原子力発電所で事故がありました。スウェーデンのフォルスマルクで原子力発電所の放射能計測値が上昇したことを原子力技師が発見するまで、その事故は発表されませんでした。放射能はフォルスマルク原発の施設から発生しているのではないと断定されました。このことが世界的に注目されると、およそ3日間制御不能となる事故が起きたということをソ連は認めました。キエフの街でメーデーの行進が行われている間でさえ、通りを行進していた子供たちは爆発があったことや途方もない量の放射能が大気中に放出されたことを知らされていませんでした。
現在はもちろん、福島での災害がありますが、原子力産業と日本政府はこの進行中の大災害の規模を隠蔽しようとしていることを示す十分な証拠があります。
商業原発だけでなくソ連やアメリカの原子力推進装置も含めて、多くの事故がありました。ここアメリカや世界中で実験炉に関して様々な問題が生じました。米海軍の実験炉で最初の犠牲者が出ました。3人の海兵隊員が原子力事故で死亡しました。もう一つの事故が日本の東海村〔ウラン加工工場〕で1999年に起こり、複数の作業員が死亡しました。

?

?

SI:福島の例を見ると、もし原子炉災害が発生すれば、緊急計画はどれほど効果を発揮するでしょうか。

?

?

ガンター:原子力の場合、効果的な対策は予防だけです。放射能固有の危険は、もしそれが放出されれば、風や天候や水に左右されます。その結果、こうした放出は、緊急計画の現在の限度を超えたリスクを伴うでしょう。米国には原子力施設の周囲半径0~10マイルの区域を対象とした避難計画があります。これは本質的に、政治的かつ恣意的に策定された区域です。この距離は、事故と放射能放出からの人々の避難を効果的に達成するという観点から適切ではありません。
現在のシナリオは、半径0~10マイル圏内の避難住民を、除染と放射能監視のために設置された収容施設に退避させるというものです。しかし、こうした施設は事故現場から12~15マイルしか離れていません。そして、摂取防止区域として半径50マイルの区域が設定されています。そうした区域では、州当局や連邦当局が家畜の保護、農産物のモニタリング、水質管理などの予防措置を講じます。
1979年のスリーマイル島の事故では、ペンシルヴァニア州ハリスバーグの住民が命令を受けなくても自主的に避難しました。目に見えず、味もせず、感じることもできない脅威によって人間の行動が導かれ、人々は「ここを出よう」と言うのです。人口が多いところでは、原発の近くに住む人々を最初に避難させるといった、避難を統制しようといういかなる努力も、半径25マイルかそれ以遠の人々の自主的な避難によってすぐに圧倒されてしまう可能性がかなり高いでしょう。そうした人々は地理的な隘路で交通渋滞を引き起し、原子炉に近い住民の避難を事実上妨げることになります。スリーマイル島での自主避難区域には、医師や他の医療関係者の救急処置室が含まれており、それは原子力施設から25マイル離れたところでも起こりました。
同じことが緊急要員、特にスクールバス運転手のようなボランティア要員についても当てはまります。スクールバス運転手は学校で子供たちをバスに乗せるために事故区域に入り、子供たちを指定の収容施設に連れていくことになっています。しかし、彼らはたいてい、自分の家族や子供の方を重んじて任務を遅らせるか、任務を完全に放棄するに決まっています。ニューオーリンズにハリケーン・カトリーナが襲来したときに明らかになったように、ニューオーリンズ警察の25%が、この都市の緊急要員としての役割を果たすのではなく、自分の家族を連れて出て行ってしまいました。
原子力事故の性格により、緊急要員によるこの種の任務の遅れや放棄は悪化するでしょう。なぜなら、脅威が潜在的に非常に広範囲に存在するため、感じたり味わったり触ったり見たりすることができる警告そのものがなくても、この危険に対する自然な恐怖心が緊急準備を本質的に妨げ、邪魔し、頓挫させてしまうからです。私たちはこれが実際に福島で展開するのを目にしました。事故現場から20~30キロ圏内の場所に避難するよう命じられた人々は実質的に孤立してしまいました。食糧と水を積んだ緊急車両が30キロ圏内に入ろうとしなかったからです。事故の2日目に妊婦や授乳中の母親や子供たちを避難させる特別措置を講じるべきだったのですが、結果的に、こうした(放射線リスクの観点から)特別な集団の多くは圏内で孤立してしまいました。
福島原子力発電所の20~30キロ圏内から自主的に避難したけれども、放射能汚染への恐怖のため、圏外の医療機関で診療を拒否された人々のニュース記事もありました。こうした人々は治療を受ける前に除染した、あるいは汚染の被害を受けていないという証明書が必要だと言われています。これらは、原子力事故をめぐる緊急措置を妨げ、邪魔し、頓挫させることもある異常な状況です。

?

?

SI:原子力エネルギーの支持者は、それが地球温暖化に対処する方法だと主張しています。この主張にはメリットがあると思いますか。

?

?

ガンター:全くありません。確かに、原子力発電所には大煙突がありませんし、原子力発電の場合は、化石燃料よりも二酸化炭素排出量が少なくなります。例えば、化石燃料はキロワット時当たり約750グラムの二酸化炭素を排出する一方で、研究によって多少の違いはありますが、原子力は(中を取ると)キロワット時当たり約66グラムの二酸化炭素を排出します。風力を例にとると、再生可能なエネルギーとしてキロワット時当たりおよそ5~8グラムの二酸化炭素を排出します。したがって、化石燃料から原子力に移行することで二酸化炭素排出量が削減されると主張することも可能ですが、原子力から再生可能エネルギーに移行した場合には劇的に削減されるのです。気候変動に対処するにあたって、特に現時点で、私たちは大気中から二酸化炭素を除去できるようにならなければならない段階にいる可能性が極めて高いです。私たちは二酸化炭素を排出しない最も効率の良いプログラムを必要とするでしょう。二酸化炭素排出を放射性廃棄物で置き換えるというようなことは、喫煙者が咳のために医者に診てもらってヘロインを処方されることと少し似ています。悪影響を別の悪影響と取り換えても得るものはありません。

?

?

SI:原子力産業にはどれほどの補助金が注がれていますか。

?

?

ガンター:政府が原発を建設しなければ、原発を推進することはできません。基本的に、民間産業は今やどのような原子力施設の建設にも魅力を感じていません。スタンダード・アンド・プアーズ、フィッチ・フィナンシャル・サービス、ムーディーズ投資サービスの解説を読むといいです。こうしたすべての金融格付け機関は1970年以降、原子力は費用がかかりすぎることを認識してきました。このような財政のメルトダウンは基本的に、スリーマイル島とチェルノブイリでの核メルトダウンの以前に原子力を終焉させました。財政リスクは本質的に、市場主導の、民間が投資する原子力産業という選択肢を封鎖しました。そのため、原子力は国の補助金につながるへその緒を必要とします。原子力を補助金から切り離すことはできません──つまり、連邦政府と連邦納税者にずっと依存するわけです。
フランスの例を見るといいです。フランスはよく、原子力への道をたどるのに成功し、原子力産業はフランス政府による国有の原子力産業にまでなった実例として大げさに宣伝されます。ここメリーランド州では、コンステレーション・エナジー社がフランス政府のEDF(フランス電力公社)と提携してユニスター・ニュークリアと呼ばれる会社を設立し、チェサビーク湾の西岸に新しい原子力発電所を建設しようとしました。コンステレーション社が建設を開始するのに必要な当初の連邦貸付の支払い費用を計算してみると、リスクがあまりに大きかったため、同社はプロジェクトから撤退してしまいました。その結果、「原子力ルネッサンス」として大げさに宣伝されたものが、新しい原子炉開発からの完全な「原子力撤退」となろうとしているのです。

?

?

教育、擁護、直接行動

?

?

SI:ビヨンド・ニュークリアは、原子力と核兵器を廃絶するのにどのように助力しますか。

?

?

ガンター:何よりもまず、私たちは擁護・教育組織です。私たちは原子力と核兵器の固有の危険とその両方を放棄する必要について一般市民に知らせます。ニジェールやカザフスタン、サスカチュワンで、そして米国南西部でも行われているウラン採掘作業による原住民の根本的な人権侵害に光を当てます。原子力事故や放射性廃棄物の処理、埋蔵、投棄に由来する恒久的な問題に注意を喚起します。
私たちは新しい原子炉の建設や再認可に直面している地域社会のために擁護組織として活動しています。ビヨンド・ニュークリアはまた、地域社会が「日常」の放射能排出や事故による放射性ガスと放射能汚染水の放出による危険に対処するのを手伝っています。私たちはフォーラムや討論会、さらには公聴会にも参加し、米国原子力規制委員会に異議を申し立てます。私たちは、ありとあらゆる請願や集会を含む非暴力直接行動におけるリーダーシップを提供し、さらに、市民による不服従を支持してきました。

?

?

SI:ビヨンド・ニュークリアはどのような抵抗を受けたり、支持を得たりしていますか。

?

?

ガンター:私たちは早急に原子力からの転換を図る必要があるということを福島が浮き彫りにした、と言わなければならないのはとても残念なことです。唯一の適切な防御は予防です。福島から無制限に放出される放射性物質は、スリーマイル島やチェルノブイリや福島のような事故がもう一度起こる前に原発を閉鎖する必要性を明らかにしましたが、それは別の名前の原発、あなたの近くにある原発であるかもしれません。人々は目覚めつつあります。こうした教訓は非常に劇的な形で学ばれているところですが、これは人々が再び眠りについてしまい、原子力と核兵器の両方の脅威を簡単に忘れてしまいがちな問題です。
私たちは引き続き、原発を閉鎖せよ、核兵器からの転換を図れ、世界中の原子力インフラを解体せよ、という明快な呼びかけを出していきます。その後、今ここにある放射性廃棄物をどう処理するかという途轍もない仕事に取りかかることができます。しかし、その処理の仕方は誰にも分かりません。私たちが受ける注目と支持は大きくなってきていますが、同時に、原子力産業はここ米国の連邦議会、ホワイトハウス、ペンタゴンにしっかりと根を降ろしています。原子力産業はあらゆるレベルの放射線被曝の脅威をわい小化しようとする誤った情報の宣伝を通して反対活動を妨害しようとするでしょう──例えば、25歳の男性と妊娠第一期の胎児や授乳中の母親の放射線被曝は同等のものだと示唆したりします。原子力産業は豊富な資金力によって、政界で幅をきかせることもある誤情報キャンペーンを実行し、このような巨大産業が大手を振ってまかり通るのを可能にします。

?

?

SI:このような巨大産業に挑み、原子力と核兵器を廃絶するにあたって、ますます多くの情報を知った一般市民と民衆の力が果たす役割について話していただけますか。

?

?

ガンター:例えば、エジプトで起こったこととちょうど同じように、エネルギー政策を民主化する必要があります。これは今、決定的に重要であり、少数の人々の報酬に焦点を当てたエネルギー政策を維持しようという努力に挑戦して、人々が立ち上がり、自分の立場をはっきりと表明する必要があります。私たちは今や、エネルギー政策を民主化し、再生可能エネルギーを大衆的なものにし、国民の間に発電を分散し普及させ、21世紀に向けて二酸化炭素と原子力から解放されたエネルギー政策を提供する技術を持っています。まさしく今日まで私たちに対して支配力をふるってきた化石燃料や核分裂エネルギーの関連企業から、途方もない金融的・政治的な力を奪い取ることなしには、そうした社会はやってこないでしょう。エネルギー政策をめぐって行われた戦争があったのとちょうど同じように、私たちは今こそ、エネルギー政策を民主化する非暴力運動を実行しなければなりません。

?

?

詳しい情報については: www.beyondnuclear.org