現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2007年 11月 中東和平のための白書

中東和平のための白書

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アンドレア・ビストリッヒによるアンドレ・アズレイ氏へのインタビュー

アンドレ・アズレイ氏は、最初はモロッコのハッサン2世国王、現在はモハメド6世国王の顧問を務めている。職業上の責務に加えて、30年以上にわたり、欧州、米国、モロッコなど世界中のアラブ人とユダヤ人の居住区で、アラブ人のイスラム社会とユダヤ人の社会との間に平和と対話を生み出すために闘ってきた。これに関連して、アズレイ氏はカサブランカ会議の首唱者の一人となり、誉れ高いフランスのレジオンドヌール勲位を受けた。彼は「アイデンティティーと対話」協会を設立したが、これは北アフリカ出身のユダヤ人の文化的アイデンティティーを醸成し保持するとともに、ユダヤ人とアラブ人の対話継続を促進しようとするものである。彼はシモン・ペレス平和センターの共同議長であり、欧州地中海フォーラム委員会、ユダヤ系モロッコ人の遺産保護のための財団、文明間・宗教間の対話のためのC100 (ダボス会議)、スペイン・セビリアを本拠地とする「三つの文化と宗教のための財団」のメンバーでもある。
2005年には、各界の19人の著名なリーダーと共に、イスラム世界と西洋世界の関係という問題に取り組む、国連事務局長が創設した非常に名高い「文明の同盟」のメンバーに任命された。アンドレア・ビストリッヒがシェア・インターナショナルのために、彼にインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI):アズレイさん、あなたはユダヤ人社会の出身ですが、モロッコのモハメド6世の上級顧問としての働きと立場はイスラム世界に深く結び付いています。イスラム国家でユダヤ人であることは、あなたにとってどのようなことを意味しますか。
アンドレ・アズレイ:私はアラブに住むユダヤ人として、この広大で地理的、哲学的、文化的に多様な社会の一部です。その伝統の豊かさは現代のアイデンティティーにおいて鍵となる役割を果たしています。しかし、このことは責任が生じることも意味しています。つまり、ユダヤ教徒とイスラム教徒は一緒に平和に暮らすことができるという独特の合図を、各地のアラブ人とユダヤ人の社会に送るという責任です。私たちは同じ家族に属しています。同じ記憶を分かち合い、同じ挑戦に直面しています。
私のラビはかつてこう言いました。「あなたがまず第一に隣人の世話をしてあげなければ、あなたの隣人があなたと同じ価値観を、あなたと同じ尊敬を享受していなければ、ユダヤ人であることには何の意味もない。私の頭にある隣人というのは、パレスチナ人である。パレスチナ人が彼らの尊厳を、彼らの自由を取り戻すまで、私のユダヤ教は弱々しく、また傷つけられているように感じる」。イスラム社会とユダヤ社会との間に―紛争があるところどこでも―橋を架け、対話と平和のために道を整えることが重要です。
SI:ユダヤ教徒とイスラム教徒は実際に平和に共存できるということを示すために、モロッコはどのような形でイスラエルとパレスチナの地域社会にとって模範となることができるでしょうか。
アズレイ:ご存じのように、モロッコの政治情勢はパレスチナやイスラエルの政治情勢とは異なっており、比較することはできません。また、イスラエル・パレスチナ紛争は文化や宗教ではなく、政治に基づいたものであることを忘れるべきではありません。文化や宗教の違いを紛争の口実として受けとるのではなく、政治的な解決策に向けて働くべきです。
それでも、特に私たちユダヤ人社会からイスラエルとパレスチナの人々へのメッセージがあります。それは、「実行可能なやり方を可能にするには、これまでのほとんど成功しかなかったドグマ的、イデオロギー的な方法と決別し、新しい方法を試みることが必要だ」というものです。
これに関連して、私たちは1974年にパリで「アイデンティティーと対話」というグループを結成しました。それは当時、イスラエルと平和に共存する国家を呼びかけるユダヤ人知識人で構成された最初の非政府組織(NGO)でした。
SI:あなたはアナン前国連事務総長が創始した「文明の同盟に関するハイレベルパネル(AOC)」のメンバーですね。AOCの可能性について描写していただけますか。
アズレイ:私たちの世界は今日、憂慮すべきほどバランスを崩しています。そのため、この同盟の目的は、世界の文化間の理解と和解を促進するプロジェクトを支持することです。
事実、私たちはイスラム世界と世界の他地域との関係という問題に取り組んでいました。例えば、なぜ9・11は起こったのか、なぜロンドン同時爆破テロ(2005年7月7日)が、なぜカサブランカ事件(2003年5月16日)が起きたのか。なぜ私たちはこのような退歩的な状況に直面しているのか、といった問題です。グローバルな情勢を理解しようとする中で、私たちはこの状況を抜け出す方法を提案しようと努めてきました。本当に、この疑いと恐怖の雰囲気を終わらせ、アラブ人やイスラム教徒であることが何を意味するかについてのビジョンや理解や知識を台無しにするあらゆる常套句や固定観念を終わらせようとしているのです。
文明の同盟の主な所見の一つは、世界でますます拡大している亀裂の主な原因は、宗教や歴史ではなく、最近の政治的な展開、特にイスラエル・パレスチナ紛争です。問題は--双方の文化全体からというよりも--双方の不寛容な少数派から発生しています。
SI:文明の同盟に関するハイレベルパネルはどのような実際的な提案を行っているのですか。
アズレイ:単純な答えや奇跡的な解決策はありません。それでも、AOCは教育、青少年、移民、メディアという四つの分野で分析と提言を行いました。この同盟は今後2年間で幅広い教育プロジェクトやイニシアチブを手掛ける実施計画を発表しました。その中には、文化や宗教や国家の垣根を越えた制作を促進するメディア基金や、中東の若者の雇用機会を増やすことを目指した若者雇用センター、留学生支援プログラムの拡大を目指したプロジェクトなどが含まれます。これは、ハイレベルパネルの代表者に任命された元ポルトガル大統領ジョルジェ・サンパイオ氏によって一般の人々に提示されてきました。
SI:グローバリゼーションだけでなく、貧困も不和の拡大に影響を及ぼしているとAOCの報告書は主張しています。どんな形で影響を及ぼしているのか説明していただけますか。
アズレイ:貧困と不均衡な経済情勢が憤りをあおっているのは事実です。実際、富裕層と貧困層の格差の拡大が世界的な連帯を蝕んでいます。貧困は絶望感、不正の感覚、疎外感につながっており、政治的な不満と組み合わさったときには、そこから過激主義が生まれることがあります。ですから、貧困の克服は優先事項にされなければなりません。
それでも、貧困は拡大する分離の「原因」ではありません。例えば、誰が双方の側の原理主義者となっているかを見てみれば、彼らはしばしば非常に恵まれた状況にいるということが分かるでしょう。と同時に、非常に貧しく弱い人々が自爆テロ実行者の役割を担っていることが分かるでしょう。彼らは脆弱であるため、原理主義者によって道具として、人間爆弾としても仕立てあげられます。  文明の同盟のハイレベル報告書では、いかに貧困や経済的な不均衡と戦うかに関して提言を行いました。しかし私たちの行動が、ミレニアム開発目標を実現するために協力して働く国家集団の中に組み込まれた場合にのみ、私たちは本当に成功を収めることができるでしょう。
SI:文明の同盟は、中東危機を解決するために国際社会が改めて努力することを求めました。この点に関してあなたは世界の政治指導者にどんなことを勧めますか。
アズレイ:ユベール・ベドリヌ氏と共に、私はAOCの一般報告にこの問題に関する別の章を追加することができました。私たちはその中で、イスラエル・パレスチナ紛争を客観的に分析する白書を作成することを勧めています。これはとりわけ次のことを意味しています。過去の平和へのイニシアチブの成功と失敗を分析することによって、そして、危機の解決策を見いだそうとするならば、満たされなければならない明確な基準や指針を策定することによって反対意見が表明されるようにすることです。この種の文書は、この紛争を解決しようとする努力に関わるすべての人々に明確な根拠を提供することによって、途方もない影響力を及ぼすことになるでしょう。このような文書は基本的に必要とされるものです。
パレスチナ人の苦闘、汚名、そして、何十年間も土地を占領されてきたことによって支払ってきた代価、さらに彼らが耐えなければならなかった失望を完全に認知する必要があります。同時に、イスラエル人の恐怖心にも対処し、それを追い散らさなければなりません。これは極めて重要なことです。双方の側が見解の相違をお互いに認め合うということです。例えば、たいていのユダヤ人やユダヤ教徒にとって、イスラエル国家建設は自分の故国を持ちたいという多くの人々の志向の結果でしたが、その国はすぐにアラブの近隣諸国によって攻撃されました。もう一方の側のパレスチナ人にとって、この新しいイスラエル国家の建国は一種の攻撃として受けとめられ、当時の何十万人もの人々が自分の土地を追い出され、その土地は不法に占領されることになりました。
SI:中東における「正義」とは実際のところ何を意味するのでしょうか。
アズレイ:私にとって、それは存続能力があり主権を有するパレスチナ国家がイスラエルと共存することを意味します。それはこの点から始まり、この点で終わるでしょう。解決するのに失敗すれば世界にとって災厄となるでしょう。さらに、真の正義とは相互尊重、相互の信用と信頼を意味します。いつかイスラエル人が国民全体としてパレスチナ人の自由を自分たちの自由とし、それが彼らの子供や家族にとって大切な価値観となることを期待しています。尊厳や正義や自由について話をするとき、人種によって異なった対処や考慮をすることはできなくなるでしょう。双方にとって同じでなければなりません。二重の基準や文化を持つことはできません。それは終わったのです。私たちは皆、その代価を支払ってきました。
ですから、現在の状況を克服するためには、この地域の将来の可能性について明確なビジョンを抱くとともに、イスラエル人とパレスチナ人の双方の側で、そして影響力の強い関係国--特に米国と安全保障理事会の常任理事国--の間で真の勇気が必要とされます。
SI:世論調査によると、たいていのイスラエル人も占領を終わらせたいと考えているが、現世代の政治家が解決策を示すことができるとは思っておりません。イスラエルの元大臣は最近、1967年の戦争について話し合ったとき、イスラエルは当時、平和な解決策を実現する機会を失ったという事実を挙げながら、「今日でも平和を達成できるが、そうしようと試みていない」と語りました。
アズレイ:イスラエル人の大多数は二国家構想を支持しています。それ以外の選択肢はありません。民衆は指導者よりも歴史をよく理解しているようです。イスラエルの安全はパレスチナ人の幸福と結び付いていることを民衆は知っています。今やリーダーシップはますます弱くなり、混迷の度を深めています。問題はイスラエルとパレスチナの双方でリーダーシップが欠けていることであり、和平を達成するという挑戦に面と向かい合うことができるようには思えないことです。
SI:アラブ人には「戦争は言葉から始まる」ということわざがあります。この点でアラブのメディアも欧米のメディアも責任を負っています。メディアは世界をより大きな理解へと導いているのでしょうか、それとも、新たな紛争へと導いているのでしょうか。
アズレイ:まさしく、メディアはその点で、基本的で重大な役割を担っています。世論との間を正しく仲介しなければ、そうした問題に対処することはできません。すべてはコミュニケーションに依存しています。情報や教育や知識はメディアを通して伝えられます。残念なことに、一部のメディアは--事実を操作しただけで--何百万もの人々を激昂させてしまいました。欧米のメディアがおしなべて、過激な宗教的イスラムグループや、欧米の最も反イスラム的なイデオロギー信奉者に発言する機会を与えるとき、特にそうした傾向が見られます。この一方的なメディア報道は、偏向と相互の敵意へとつながっていきます。このことの明確な例が「ジハード」という単語の本来の意味が歪曲されたことです。それにはもともと肯定的な意味がありますが、否定的な意味も付与されてしまいました。それは、個人の内面にひそむ弱さや悪との内的な戦い(より大きなジハード)、あるいは、自分の地域社会の防衛(より小さなジハード)のことです。欧米のメディアによるこの言葉の使われ方では、肯定的な意味が失われ、その代わりに暴力や過激主義と関連付けられています。
SI:単に報道の自由の侵害として見られることなく、緊張の緩和に貢献するようにメディアをどのように説得することができるでしょうか。
アズレイ:私はメディアをそのようには見ません。他のすべて、の人と同じように、ジャーナリストも義務や制約から自由ではありません。彼らには尊重すべき倫理や規定があります。  今日の多くの問題は、政治と宗教が出合ったところで生じています。現在の恐怖と疑いの風潮を考えると、最も大きな影響力の一つは軽蔑的で暴力的な言葉の使い方です。それは特に報道機関によって広められるとき、非常に破壊的な影響を及ぼすことがあります。このため、世論を形成し世論に影響を与える政治家やメディアは、相互尊重と理解の風潮を創造することによって、諸民族や異なった信条を一つにするという特別な責任を負っているのです。これら双方のグループは、こうした強い影響力を持っているため、他の人々の信条体系や神聖な象徴を侮辱し貶めることがないよう非常に注意深く言葉を使わなければなりません。
詳しくは次のサイトをご覧ください:unaoc.org

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