現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2007年 4月 グローバル・マーシャル・プラン:惑星の契約

グローバル・マーシャル・プラン:惑星の契約

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グローバル・マーシャル・プラン(GMP:Global Marshall Plan)の提唱が、2003年10月になされた。そのとき以来、その基本的な概念である、地球規模の経済的正義と持続可能な世界開発という考え方は、多数のNGO、ビジネス部門、そして社会から実際的な支持を得てきた。グローバル・マーシャル・プランは、国際連合の『ミレニアム開発目標』(すなわち、過酷な貧困と飢餓の根絶、環境の持続性の確保、全世界的初等教育の実施)を、環境配慮型社会の市場経済と地球規模の政治的枠組みの中で資金調達し実施する実際的な計画である。このような「グローバリゼーションの設計」は、豊かな国々がすすんで開発に共同出資するか否かにかかっている。ドゥンジャ・ミュラー氏とマイケル・ステーガー博士が、シェア・インターナショナルを代表して、グローバル・マーシャル・プラン提唱者の一人で、2004年度ブタペストクラブ惑星意識賞受賞者のフランツ・ラーダーマッへル教授にインタビューした。
シェア・インターナショナル(以下SI):長年あなたは、世界の資源に関する持続可能で公正な分配のための様々な委員会に関与してこられました。そして「グローバル・マーシャル・プラン案」は、これまで数年間存続してきました。何が中心的な目的なのでしょうか。
フランツ・ラーダーマッヘル教授:グローバル・マーシャル・プランは公正な世界のための長期計画であり、ヨーロッパモデルを基盤とした、「環境配慮型社会の市場経済」と呼称されるのが最もふさわしいものでしょう。ミレニアム開発目標は、その中間的な段階にあります。世界のあらゆる国家や世界貿易機関(WTO)および国際通貨基金(IMF)などの大きな国際組織は、これらの目標に合意しています。問題は、しばしば国際舞台で起きていることなのですが、壮大な計画がまとめられ署名されながら、資金不足であったり、豊かな国の優先事項とは完全に異なっていたりで、何事も起こらないということです。現在米国は、「自国の安全」を叫んで地球のあちこちを横行していますので、国際的開発に必要なお金は「自国の安全」に流れてしまっています。私たちは、この惑星は基本的な問題が解決されない限り安全ではないということを認識すべきです。私たちは、ミレニアム目標を実現するための世界的な連帯を必要としています。
SI:私たちの惑星のための概念として、「環境配慮型社会の市場経済」は、人類が直面している緊急課題を本当に解決することになるのですか。
ラーダーマッヘル:私は個人的に、「環境配慮型社会の市場経済」のみが、世界の問題への唯一の解決策であり、合意に基づく平和的な解決策であると確信しています。考えられ得る第二の解決策は、平和的でもなく合意に基づくものでもない、資源独裁システムであり、惑星の豊かな部分が軍事力や情報力といった無謀な力を使うことによって、貧しい側の「解決」を強行するものであり、これは貧しい世界が自分たちに不可欠な資源を獲得する道を閉ざすことになります。その結果、間断のない抵抗運動が起き、「テロ行為」に訴えることになるでしょう。これが、途方もない不公正だと感じられる解決策によって生じる抵抗の問題なのです。  真に成功している国家は、資金的恩恵を他の優位性、つまり政治の優位性を用いて、環境保護や、すべての国民に教育を与えるというような市場の条件づくりをしている国家です。それによって高いレベルの生産性が確保されるのです。開放的な社会とか適正な民主主義は、文化の違いを尊重し、多元的な文化を支える平和な社会を推進するところに築かれるのであって、文化を憎しみや戦争による紛争の坩堝に陥れるところにではありません。経済のためにそのような要件を整えるのが、「環境配慮型社会の市場経済」なのです。
SI:あなたはまた、ヨーロッパ連合(EU)の拡大過程が、「共同出資」や「基準」に基づいて発展途上国を変容させ得るモデルであると述べておられます。どのような基準を意味しておられるのでしょ うか。
ラーダーマッヘル:環境と資源と社会的価値を保護する基準、そして文化間のバランスを取る基準です。国際間の合意で最も困難なことは、特に国家間レベルでの実行です。例えば、環境問題に関しては国連環境計画(UNEP)があり、社会的労働関連の問題には子どもの労働を禁止し、組合や平等な賃金の統制に関わる決定をする国際労働機関(ILO)がありますが、これらは法的な拘束力を持ちません。文化問題に関しては、文化の多様性と独立性の権利のために働くユネスコがあります。しかしこれらすべての組織は、制裁を科することが出来ません。制裁を科すことのできるWTOやIMFに対してしばしば反対の立場に立つのですが。  WTOは地球規模の貿易に規制をかけていますが、子供の労働で作られた製品の売買にどういうわけか眼をつむっています。ILOのガイドラインはWTOには適用されず、そのような製品の輸入を拒むと、WTO裁判所の審理で重い罰金が科される可能性があるのです。同じような状況が環境問題に関しても生じます。環境に関する条約が成立しても、米国が莫大な量の電子関係廃棄物を貧しい国々に送るのを阻止できません。しかもこれが「地球規模のリサイクル」と呼ばれているのです。問題の核心はこうなのです。十分に経済機能が発達したどの国においても、地球規模世界経済は、最も豊かなところへの関与から手を引き、貧しい世界に食糧を与え、教育を施し、開発するようにしなければなりません。豊かな国々がこのことを怠るのであれば、私たちは現在起こっている搾取と破壊の状況に留まらなければなりません。
SI:GMP(グローバルマーシャル案)は、実際的な手段をお持ちですか。
ラーダーマッヘル:私たちは現存する組織を互いに結び付ける必要があります。貧しい国は常に、豊かな国が様々な計画を共同出資によって助けるという条件で、連携を望んできました。アメリカ人とヨーロッパ人は、WTOの会議ごとに連携を望んできたのですが、共同出資については聞く耳を持ってきませんでした。私たちが提唱しているのは、初めからWTOと行う「大型取引」です。私たちは、ILOとかUNEPやUNESCOと、将来の世界貿易に義務を課すことになる、少なくとも何らかの基準を設け、それを取り入れた協定をWTOと結ぶ必要があります。これは共同出資に基礎をおきます。これは一方では(豊かな国による)釣り合いの取れたところとの共同出資という取引ですが、他方では、公正な基準を確立し、維持しようという努力を求める取引なのです。
SI:すでに持続可能性と公正に向けての多くの先例があります。GMP(グローバル・マーシャルプラン)はこれらの考えの多くを吸収しているように思われます。あなたは、どのようにして多くの代表者たちと共同歩調を取っておられるのですか。
ラーダーマッヘル:現存の組織と共同することは、基本的には難しいことではありません。もし異なるグループが世界の問題に取り組むのに異なった観点を持っていたとしても、それにもかかわらずそのグループは同じ問題を扱っていることには変わりはありません。これは調整し、統合する努力の問題なのです。あるところでは、「子供たちは学校へ行かなければならない」、他のところでは「私たちは人口問題を抱えている」とか、「私たちは環境を保護しなければならない」とかの結論に達しますが、これらはみな正しいことです。私の経験からすれば、これらに従事しているたいていの人は、正しい方向に進んでいます。それぞれの関心事に取り組む個々の者が、適切な場所を見いだす世界のモデルをつくり上げる技術の開発が必要です。
SI:超国家的経済市場の巨大な力にどう取り組むかが、最も至難な問題であると思います。GMPの考えは、この領域にどのような影響を与え得るのでしょうか。
ラーダーマッヘル:国際経済市場はとてつもない力を持っており、多額の資金と影響力を持つ小規模の内部グループのみがそれと取引できます。明らかに、これは確かに最も困難な領域です。では、望みがどこにあるのでしょうか。こうした市場が大量の失敗物を生産してきたことが知られています。以前にこの市場の集合的情報を信じていた多くの人は、今日では警戒するようになりました。私たちは世界に向かって、大多数の人は「市場原理主義」を好まないことを示す過程を始めなければなりません。
SI:GMP提唱は、ヨーロッパに根差すように思われます。この地球規模の過程において、ヨーロッパとアメリカとの関係をどのようにご覧になっていますか。
ラーダーマッヘル:GMP案はヨーロッパにおける提唱に留まりません。私たちはそれを「惑星の契約」と呼んでいるのです。私たちにとって重要な言葉は、「地球社会の対話」です。このグループ内に、世界のあらゆる場所からの代表者たちがいます。エル・ハッサン王子(ヨルダン国王の叔父)や「ローマクラブ」の理事のような人々、「文化の議会」の共同設立者などです。私たちはGMPをヨーロッパ案とは見ていません。「マーシャルプラン」という言葉は、私たちの目的を過去における非常に積極的な一時期に結び付けます。GMP案は、EUがその導火線の役目を果たしたという点で、ヨーロッパの提唱とは言えます。変化というものは、強力な国家が動いたときにのみ起こるでしょう。この理由のために、イラク戦争に関連して、ドイツの首相とフランスの大統領が「ノー」と言ったことは、非常に大切な意味を持ちました。この軸線は、すべての者が[イラクへの侵攻に]同意していないという、反対の立場を示したことによって、極めて貴重なものになりました。このような方法によってのみ、国際的な非軍事的社会はかなりの影響力を発揮できるのです。今日私たちは、強力な力を必要としています。すなわち、誰かが勇気を出して市場原理主義の信条に抗して立ち上がり、市場原理主義が世界中に貧しい人々をつくり上げ、憎しみと恐怖を引き起こしていると宣言することです。「市場」という言葉は現在、超巨大な哲学または宗教のようになっており、世界中にその錨を降ろし、批判は許されません。それに対抗できる力はEUです。経済的に強力であり、その社会市場経済は比較的順調だからです。
SI:あなたは2003年に音楽ビデオ『グローバリゼーション伝説』を制作されました。その中で、大勢の人が街頭に出て、大声で変化を叫んでいます。あなたは大衆の力を信じておられるのですね。
ラーダーマッヘル:私にとって、あなたがビデオでご覧になったように、「私たちは世界市民です」と言って人々が街頭に出ることは重要なことです。ビデオの次の場面の、「現在のグローバルな秩序は戦争を用意する」という言葉は、さらに重要です。私に関する限り、もし深いスピリチュアルなレベルで考えるならば、現在、世界を支配しているやり方は、ほとんど犯罪です。それは恐怖と搾取の形態を合法化しています。誤ったグローバリゼーションに反対して、人々は抗議の声を上げています。グローバリゼーションを変容させることが、私たちにとって最も大きな挑戦である、と述べたいです。誰がそれを行うのでしょうか。それはトップダウンとボトムアップの両方からなされなければならないでしょう。そして、それは政治と大規模な企業と大衆との結合によって起こるに違いありません。最も重要な要素は、例えば、発展途上国に対する貿易や行為を公正に行うように、豊かな国の企業に圧力をかける消費者です。  デモ行進は、何かが本質的に間違っていることを示すシグナルであるという点で重要です。私たちが市民として、NGOと手をつないで世論を高めることによってのみ政治が動き始めるのです。これらの考えを会合や市場で話し、組織的に講演会を開き、パンフレットを配り、資金援助をするならば、これらは果てしない量となって蓄積されるのであり、それぞれの個人は変化を引き起こす大きな力となり得ます。結局各個人がそれを起こすようにするには、終局的には私たちに草の根運動が必要なのです。それは村から起こるに違いありません。そしてこの過程を通して私たちすべてが啓発されるのです。
参考文献
Franz Josef Radermacher:Balance or Desttuction, Eco-Social Forum Europe, Vienna 2002. ビデオ:The Globalzation Saga, 2003.

詳細な情報は以下へ:
www.globalmarshallplan.org.

グローバル・マーシャル・プランとは何か
地球規模のマーシャルプランは、「バランスある世界」を目標にしています。これを成し遂げるために私たちは、改良されたグローバリゼーションとグローバルな経済プロセス、すなわち世界規模の環境配慮型市場経済が必要です。これは、改良されたグローバルな構造的枠組み、持続可能な開発、貧困の撲滅、そして環境保護と正義の事柄であり、これらが組み合わされると、新しいグローバルな「経済的奇跡」が起こるでしょう。
(www.globalmarshallplan.org)

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