理解の基礎
ジェイソン・フランシスによる
アリ・アブ・アワド氏とラビ、ハナン・シュレジンガー師へのインタビュー
ルーツ(Roots )は、ヨルダン川西岸地域のグーシュ・エツヨンを拠点とする草の根運動の非営利団体である。ルーツは非暴力と、パレスチナ人とイスラエル人の間の関係の肯定的変化を引き起こすことによる変革に専念している。パレスチナ人とイスラエル人の両方により設立されたこの団体は、「憎しみと疑いを信頼、共感、相互援助に」移行させるための活動をしており、それにより「双方の政府間に未来の合意を構築できるような」基盤を築くことに努めていると、この団体のウェブサイトfriendsofroots.net に書かれている。
アリ・アブ・アワド氏とハナン・シュレジンガー師は、ルーツの設立に協力した。彼らの最近のアメリカ講演ツアーの期間中に、ジェイソン・フランシスが本誌のために彼らにインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI):あなたの経歴と、何をきっかけとしてルーツを設立されたのかを、お話しいただけますか。
アリ・アブ・アワド:私はパレスチナ人の非暴力活動家です。私は難民として育ちました。私は母方の政治的な家庭に生まれました。私の母はファタハ(パレスチナの指導的な非宗教政党で、パレスチナ解放機構〔PLO〕の一派閥)の指導者の一人でした。母と私は逮捕され、何年も刑務所に入れられました。2000年に、私は重傷を負い、兄弟をイスラエル軍に殺されました。そして私は非暴力の実践を始めました。私は、入植地のある(ヨルダン川西岸で、エルサレム南方の)グーシュ・エツヨン地域に、パレスチナ非暴力センターを設立しました。私は地元の指導者へのコンタクトを開始し、意識を向上させ、ルーツのために活動してくれるように努めました。私は最近、変化(Change、アラビア語ではTaghyir)というパレスチナの国民的な非暴力運動を開始しました。なぜなら、紛争の唯一の解決策は非暴力でなければならないと信じているからです。
S I:あなたはなぜ、非暴力の手法を選択したのですか。
アワド:何年もの間、二つの国家は怒り、苦しみ、恐怖に導かれており、それはどこにも行き着きません。私はいつもこう言います。「私たちはただ単に正しくありたいのでしょうか、それとも成功したいのでしょうか」。私たちが政治的解決策に同意するとしても、和解プロセスに双方が深く関わらない限り、誰もそれを保証することはできません。一方で、報復や軍事戦略が解決策に結びつくとは思いません。なぜなら、両国すべての人が、人権と生存のために最後の血の一滴まで戦うからです。その土地に住むことは、私たちの運命です。私たちが望むと望まざるにかかわらず、誰もいなくなることはありません。それは私たちについてのただ一つの真実です。ですから、私たちは、反応をコントロールし、苦痛を報復ではなく解決策に向けなければなりません。
SI:シュレジンガーさん、あなたはどのようにして、平和裡にパレスチナ人の平和活動家のパートナーとなられたのですか。そしてどのようにして、平和活動と情熱的なシオニストであることを調和させたのですか。
ハナン・シュレジンガー師:私は今でも情熱的なユダヤ人シオニストの入植者です。この旅は、色々な人と会うことで触発されました。私がイスラエルに住んでいた34年の全期間中、私は自分自身の真実、物語、人間関係の中に住んでいました。それは現実に対する強力で意味のある理解であり、私に完全に力を与え、人生に意味を与えるものでした。
これが、私が18歳で出生地のニューヨークを後にしたときに選んだ理由です。そして私はイスラエルに行き、約束の地へ戻ったユダヤ人たちの一員となりました。ユダヤ人たちは、2,000年の間、叫び、切望し、希望を持ち、帰還を夢見、ヨーロッパや北アフリカやモロッコの都市で迫害されたり居心地の悪さを感じた後で、ユダヤ文明のゆりかごに戻ったのです。私たちの歴史的展望へのつながりのすべての力と共に、そこには否定的側面があります。あなたの大きな物語の一部でない他の現実を見ることはできないのです。
私たちがイスラエルで住む(メディアがヨルダン川西岸地域と呼ぶ)場所は、95%がパレスチナ人で、5%がイスラエル人ですが、そこに住んでいた34年間、私はパレスチナ人を見ませんでした。彼らは私の世界観にはありませんでした。私は彼らの生活について何も知りませんでした。そして1年半前、私はパレスチナ人と会い、非常に当惑しました。彼らと会うことは、彼らが誰であるかという私の既成概念に当てはまりませんでした。彼らと会い、話し、そしてそれについて考え始め、彼ら自身の生活について彼らから得た情報を調べてみたところ、それまで私は真実の一部の中だけに生きていたことを理解できるようになりました。
そのため私は、一方の肩にユダヤ人とシオニストの真実を持ち、もう一方の肩にパレスチナの人々を支えるような、ある種の拡大した意識の旅を始め、両方の人々を包含し、私の部分的な真実と彼らの部分的な真実を併せ持つような意識を創造し始めたのです。
SI:あなた自身の物語とパレスチナの人々から聞いた物語は、どのような点で違ったり似たりしていましたか。
シュレジンガー師:われわれの活動に関わるほとんどの人、少なくとも組織の中心にいるすべての人は、ある種の内的な変容を経験しています。すべてのケースが、もう一方の側の人々と会ったことに基づいています。私たちと一緒に活動するパレスチナ人の多くは、紛争で愛する人を失いました。そして彼らの多くにとって、同じように紛争で愛する人を失ったイスラエル人遺族と会い、苦痛は同じ苦痛であると分かったときに、変容が始まりました。アリ・アブ・アワドさんは、イスラエル人遺族に初めて会ったとき、イスラエル人もパレスチナ人と同じように涙を流すことが分かったと話していました。
平穏の点
SI:ルーツが開始した「平穏の点」プロジェクトとは何でしょうか。
シュレジンガー師:このプロジェクトは、地元自治体のパレスチナ人指導者と地元のユダヤ人指導者との間でコミュニケーションの経路を開きました。パレスチナ人は完全に別の生活をしていることを理解する必要があります。自治体、法体系、学校、言語、宗教、メディア、交通が別なのです。すべてが別なのです。それが、非常に多くの無知、恐怖、恨み、嫌悪が存在する理由の一つなのです。双方で知識不足に暴力が加わると、もちろん、私たちが経験しているような嫌悪を引き起こします。アイディアは、市長や宗教指導者などのリーダーを集め、双方の間である種の開かれたチャンネルを持つようにすることです。ですから、何かが発生した場合、それぞれの側が大きな無知の中で反応し互いに怒りを募らせるのではなく、双方の間でそのことを話すことができます。
そして「事件対応チーム」というプロジェクトもあります。ここには、パレスチナ人がイスラエル人対し、またイスラエル人がパレスチナ人に対する多数の悪い事件が起こります。イスラエルの側にそのようなことが起こった場合、例えば木が倒されたりモスクが破壊されたりした場合、それがイスラエルの大多数を代表するものではないとことをはっきりさせたいと思います。そのため、燃やされたモスクや木々が倒されたオリーブ農園に行くためのスタッフがいて、所有者や人々に謝罪します。私たちは、それは私たちではないことを説明します。それは私たちの宗教ではなく、私たちのやり方ではないことをです。私たちには、私たちの中の過激派を教育し、罰する仕事があります。そして私たちは、木々を植え直したり、モスクを塗り直す手助けをしたいと思います。
若者に対するプロジェクト
SI:ルーツが提供する子供に対するプロジェクトについて、お話しいただけますか。
シュレジンガー師:プログラムの一つは、写真ワークショップです。毎年6カ月間、アメリカからボランティアとして聖地に来る写真家さんがいます。そして彼は写真ワークショップで、6人のパレスチナ人と6人のイスラエル人の子供のグループに、5週間にわたるセッションを行います。子供たちはカメラの使い方を学び、レンズを通して世界を見ます。5週間後、彼は2番目、3番目、4番目のグループを教えます。ワークショップの後では、写真展もあります。
子供たちは、それまでの人生で、もう一方の側の仲間たちと一度も話した経験がなかったのです。おそらく彼らの全人生で、もう一方の側の誰かと同じ部屋にいたり、同じバスに乗ったことはなかったでしょう。彼らはおそらく、ニュースでテロリストが話すのを聞く以外に、誰かがアラビア語を話すのを聞いたことがなかったでしょう。そして人生で初めて、彼らは同じ場所にいて、同じ状況にあり、仲間たちと同じワークショップに参加するのです。子供たちは驚くべき変容を経験します。彼らはワークショップに、全く認識すらしてない驚くべき固定観念を持って入ってきます。もう一方の側は、テロリストで暴力的であり、復讐に燃えていることは疑いもありません。そうではなく、もう一方の側にいるのは人間であることを彼らは理解します。これは彼らに深い影響を与えます。
もう一つのプロジェクトは、サマー・キャンプです。これはルーツが最初に設立されてから2年続けて運営されており、イスラエルとパレスチナの両方の25人から35人の子供たちに提供しています。図画工作、ドラム・サークル、ブレーク・ダンス、サークル・ゲーム、Tシャツの結び染め、粘土遊び、ペット動物園などがあります。最後の日は海岸に行きます。今年は海岸に行く途中で、ヤッファの街でアラビア語とヘブライ語の2言語遊びをしました。一緒に同じ部屋にいたり同じバスに乗ることが、固定観念を打ち破る上で効果があるのは驚くべきことです。
SI:シュレジンガーさんには、ルーツが若い人たちに提供しているプロジェクトについて話していただきました。若い人たちに影響を与えることはどのように大切ですか。
アワド:私が2年前にセンターを立ち上げ、私たちがルーツのイニシアチブを開始したとき、あらゆる場所から、外国からさえも、グループを呼び込むことを始めました。私たちが行っている最も重要な活動は、若い人たち、特に兵役に就く前の年齢の人たちと対話することです。彼らにとってパレスチナ人と会うことは日常生活の一部ではありません。ですから、センターに来てパレスチナ人の物語を聞くことは、彼らには衝撃的なのです。私はいつもこのような若い人々に言います。「あなた方はイスラエルの兵士ですが、人間でもあります。そのことを忘れないでください。あなたが何であっても、何が心の中にあっても、あなたは責任感を持ち、ユダヤ教やあなたのアイデンティティーの良いメッセンジャーとならなければなりません。ユダヤ教は、他の宗教や他の人々を犠牲にすべきではありません。私は治安の必要性を理解していますが、パレスチナ人の生活が尊厳と正義の通常の状況に基づくようになった瞬間から治安が達成されると信じています。それがなければ、あなたは他者を傷つけることにより、自分の安全を損なう可能性があります」
また、私はパレスチナ人に対して、非暴力はあなたの目的を達成する「ばら色」の方法ではありません、と言います。非暴力は、複雑で辛くなる場合がありますが、それが自由への一番早い道なのです。
SI:これまでのところ、あなたの団体は何人に影響を与えましたか。
アワド:およそ1万人です。その中には外国人、パレスチナ人、ユダヤ主義者がいます。私たちは、他の団体からの代表団や対話を受け入れています。なぜなら、解決策を見つけ出すための政治的リーダーシップを援助し、勇気づけ、圧力をかけるような国際的な運動を現地でつくり出さない限り、平和団体は紛争を解決することはないからです。私たちは、大きな数の人々に影響を与え、メディアを通して大人数に話をすることもあります。
SI:ルーツの最終的な目標は何ですか。
シュレジンガー:現時点では、イスラエル人とパレスチナ人に平和の準備が心理的にできていないことは、私たちには明らかです。彼らは、もう一方の側の人間性と真実を認めていません。私たちは、平和のための基礎をつくっているのです。今日、仮に和平案が調印されたとしても、どちらの側もそれを受け入れることはないと、私たちは考えます。ですから、私たちの当面の目標は、もう一方の側に人間性を認め、他方の側の真実に対してハートとマインドの中に場所を見つけようとする人を両方の側に何万人もつくることです。それが私たちの当面の目標であり、活動の内容です。私たちの究極的なビジョンは、両方の側が調和して生活することです。つまり、私たちの側と全く同様に、もう一方の側がすべての土地に対する権利を持つことを、両方の側が理解することです。
アワド:そして私は、主にアメリカの人々に対して、あなた方が必要ですと主にお伝えしたいです。私たちには、あなた方が解決策を支持することが必要です。あなた方には、私たちの実際の活動を支援していただきたいのです。あなた方の政府は、紛争においてもっと注目し、真剣で重要な役割を担っていただきたいのです。聖地での出来事は、この国(アメリカ)のあなた方の生活に影響を与え、この国でのあなた方の行動は、私たちの生活に影響を与える可能性があります。つまり、私たちは地球的な家族の一部です。理解と平和の新しい世代をつくることが、私たちの責務なのです。
そしていつの日か、ユダヤ人、イスラム教徒、キリスト教徒が、より良い未来のために共に計画をつくり、普通の生活を送ることを私は望んでいます。私は言いたいです。原理主義と暴力はなくならないかもしれませんが、私たちの計画と反応をコントロールすることにより、暴力が最も強い声でなくなり、私たちの生活に影響を与えないような状況をつくるために活動しようではありませんか。
詳しくは次を参照: friendsofroots.net