現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2011年 12月 すべての人が自由に利用できるグリーンエネルギー

すべての人が自由に利用できるグリーンエネルギー

アンドレア・ビストリッヒによる カール・フェヒナー氏へのインタビュー
すべての人が利用できる手頃でクリーンな再生可能エネルギー源によって、エネルギー需要が100%賄われる国際社会を想像してみて ください。これは、2010年に最も成功を収めたドイツのドキュメンタリー映画「第4の革命ーエネルギー・デモクラシー」にあるエネルギー政策のビジョン である。この映画は、視聴者に世界の10カ所を見せ、「エネルギーの移行」に向けて働く献身的な人々の驚くべき姿を伝えている。再生可能エネルギーへの即 時移行は緊急に必要とされるだけでなく可能でもあり、多くの場所ですでに現実になっている、というのがこの映画のメッセージである。
映画の主役であり、インスピレーションの源になったのはヘルマン・シェーア氏である。この映画は彼の最近の本『エネルギー自治(Energy Autonomy)』に基づいている。2010年10月14日に66歳で急死したシェーア氏は、ドイツ連邦議会議員、ヨーロッパ太陽エネルギー協会会長、 国際再生可能エネルギー機関の共同設立者、世界未来評議会評議員であったほか、ライト・ライブリフッド賞(1999年)、世界太陽エネルギー賞(1998 年)、世界風力エネルギー賞(2004年)、世界バイオエネルギー賞(2000年)の受賞者でもあった。「現在のエネルギー制度は終わった」と、シェーア 氏は映画の中で述べている。「新しいエネルギー自治の制度が飛躍的に進歩する間際にあります。……私たちは産業時代の始まり以来、最も大きな経済の構造的 変化に直面しているのです」。アンドレア・ビストリッヒが本誌のために、監督・製作者であるカール・フェヒナー氏にインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI):なぜあなたの映画を「第4の革命」と呼んだのですか。

カール・フェヒナー:革命はいつも国家の宝です。全世界的な革命の最初のものは農業に関連していました。農業の改革を通して生産性と収益性を増加 させることができた結果、遊牧民であった人々が定住することになりました。第2の革命は産業に関連するものでした。化石燃料で動く機械の使用が増加し、人 間の労働力の大部分に取って代わりました。しかし、今やこの期間は終わっており、今までのやり方を続ければ、はるかに大きな危険を冒すことになるでしょ う。
デジタル革命あるいは電子革命が3番目のもので、1980年代初頭のマイクロチップの発明に基づいていました。コンピュータ技術は、柔軟性のある自動化し た生産システムにつながり、そのシステムが次に、経済の全部門を根本的に変化させました。ワールドワイドウェブが、経済、社会、文化の面で全世界的な通信 手段になりました。
第4の革命は、石油、ガス、石炭、原子力から風力、水力、太陽光エネルギーへの完全な移行です。これが、私たちが映画の中で主張しているものです。このよ うな再生可能エネルギーへの100%の移行は、主として経済構造の移行です。それはエネルギー生産全体の再編を伴い、生活のすべての領域の大規模な変化に つながるからです。中央集権化したエネルギーシステム──人類のエネルギー需要を満たして巨大な利益を得る巨大企業
──から、地元の人々の手にある何千、何万、何百万という世界中の小規模発電施設への移行です。このことは、それぞれの地方や地域で手に入る資源を利用して、エネルギーが必要とされるところでエネルギーを生み出すことができるということを意味します。

SI:ということは、あなたはエネルギー革命を、私たちの世界がもっと公正なものになる機会だと見ておられますか。

フェヒナー:そのとおりです。私たちが基本的で普遍的な人権と見なすもの──食糧やきれいな水を得る権利、教育を受ける権利、健康で心 配のない子供時代を送る権利──は、不平等に分配されており、世界の半数の人々しか享受しておりません。この不平等と不公正は、特にエネルギー供給に関連 した現在の権力バランスを通して助長されています。エネルギー供給の分散化、したがってその民主化は、電力をまだ利用することができず、毎日飢えで苦しん でいる20億以上の人々がついに電気を手にすることを意味します。国連によると、幼い頃の栄養不良は取り返しのつかない健康問題の原因となり、のちに生活 状態がどれだけ改善したとしても変えることのできない発育不良の原因となります。私の意見では、こうした問題の突破口を開き、解決していくためには、エネ ルギー供給の分散化を確立しなければなりません。

SI:世界のエネルギー経済におけるそうした構造的な変化を描写していただけますか。

フェヒナー:私たちのエネルギー需要を満たすことを、単に技術的な仕事と見なすことはできません。突き詰めていくと、それは現在の発電所を、例え ば砂漠への大規模な技術的・財政的な投資を必要とする巨大な集中型の太陽光発電所で置き換え、それから4,000キロメートルの送電線を通してそのエネル ギーをヨーロッパに送るという問題ではありません。私たちはこのような考えから脱皮する必要があります。現在のところ、原子力発電所は1,000メガワッ トを生み出すことができますが、風力タービンや太陽光発電所、バイオガス発電所、地熱発電所で1メガワットを1,000回発電すれば、同じ量のエネルギー を生み出すことができます。つまり、エネルギー需要を満たすためには、少数の大きくて費用のかかる、融通の利かない発電所
──それは少数の供給者の手に握られています
──から、風力タービン、太陽光発電所、バイオガス発電所、小水力発電所などの、多数の自立したエネルギーシステムへと移行する必要があるのです。

SI:映画の中でヘルマン・シェーア氏は、エネルギー部門における現在の既得権益者は、自然によって供給される、自由に利用できる 一次的エネルギーへの移行を、闘争なくして受け入れることは決してないと述べています。この変化に対する政界や産業界の反対はどれほど強いのでしょうか。 私たちは楽観的になることができるでしょうか。

フェヒナー:そのようなわけで、私たちは革命について語るのです。私たちはとても楽観的になることができると思います。しかし、私たちは皆、この エネルギーの移行がなされるのを確実にするために運動を起こさなければなりません。決定的に重要な点は「始める」ことであり、実際にそれを「行う」ことで す。これは、映画の主役の一人であり、再生可能エネルギーのためのノルディック・フォルケセンターの創設者であるプレーベン・メゴール氏も強調しているこ とです。メゴール氏はその努力により、現在のところ世界で最も大きなエネルギー自治地域を設けました。デンマーク北西部の5万人が今日、その電気を 100%風力から引き出しています。
ドイツでは、再生可能エネルギーが占める割合は着実に増加し、現在のところ電力供給の17%を占めています。変化は非常に急速であり、あらゆる予測を絶え ず上回る結果になっています。ドイツの保守派の連立政権はこのような時期に、再生可能エネルギーの割合を減らそうとさえしました──つまり、原子力からの 撤退を中止し、太陽熱パネルの固定価格買取制度だけでなく収入機会も縮小しようとしました。これは多くの人を激怒させ、この政権は明らかに大企業とべった りだということを示しています。しかし、今起きていることはご覧のとおりです。最近承認された原子力からの撤退は、確かに正しい方向への一歩です。しか し、それに伴って、首相と以前の友人たちとの関係は突然、極めて気まずいものとなりました。巨大産業の中では、友情はあっという間に終わることがありま す。

SI:ドイツが2022年までに原子力から撤退した後の本質的問題は、どのようにして原子力を置き換えるかということです。

フェヒナー:原子力から撤退するとき、当初はエネルギー供給の23%が置き換えられなければなりませんが、その原子力の23%はエネルギー効率の高い手段によって置き換えることができます。エネルギー消費を減らすこの非常に重要な側面は、十分に注目されていません。

SI:消費者自身がもっと多く節約することになるのでしょうか。

フェヒナー:はい、もちろんです。しかし、「消費者」というのは顧客だけを意味しているのではありません。建築家や都市計画者、大きな発電所の建設者、何万メガワットという規模の決断を下す企業のリーダーなどがおります。
エネルギー革命は、開発途上国だけでなくこの国においても、貧しい人々に大きな恩恵をもたらします。ドイツでは、ハルツ・フィア(失業・社会保障給付金) の支給額を月額8ユーロまで引き上げるべきかに関して3年間議論がなされてきました。私たちは映画の中で、エネルギー効率の高い手段だけで、少なくとも月 額40~50ユーロを簡単に節約する方法について例を示しています。その合計額は、ハルツ・フィアを引き上げることによって得られる追加収入をはるかに上 回ります。この金額は直接的な節約であり、言わば、その人の懐に入ったままになります。人々はこの事実に気づく必要があります。

SI:特に太陽光エネルギーは非常に高価だという主張がよくなされます。あなたは映画の中で、逆のこと、つまり、たくさん節約できるということを示しています。そのような矛盾する情報があると、本当のところは何が正しいのかを消費者が識別するのが困難になります。

フェヒナー:はい、そのとおりです。このようなことが起こる理由は、ヘルマン・シェーア氏が表現しているように、「魚の頭は嫌な匂いがする」から です──つまり、トップレベルで途方もないまやかしがあるからです。エネルギー部門では大きな市場占有率をめぐる途方もない闘争があり、運営のレベルでは 偽情報の政策が追求されます。基本的には、エネルギーを節約し経費を下げる方法は、私たちすべてがすでに利用できるものです。最初の一歩は、自分自身のエ ネルギー供給の受け方を変えることです。これには費用が一切かかりません。各家庭で、グリーンピースエナジー社やナトゥアシュトローム社、リヒトブリック 社などのグリーン電力の提供者に切り換えることによって、クリーンな再生可能エネルギーへと転換することができます。そうすれば、こうした企業から優れた 情報を定期的に提供してもらうことにもなります。

SI:再生可能エネルギー分野でのデンマークの先駆者プレーベン・メゴール氏は1980年代初頭にすでに、代替エネルギーについて人々に情報を知らせる教育センターを設立していました。

フェヒナー:はい、教育は非常に重要です。同じくらい重要なのは「心に響く情報」です。今日では基本的に、いくらでも情報を手に入れることができ ます。それは客観的なレベルです。しかし、行動を起こすには、その情報は極めて重要だと見なされなければなりません。それがすべてです。これは映画の基本 的なアプローチです。変化は心から始まり、頭に伝わり、足に伝わり、そしてもし必要ならば、手が動くことにもなるでしょう。

SI:あなたは、人々を鼓舞する勇敢な活動家や先駆者たちが極めて単純だけれども効果的なエネルギー概念を実行している、世界中の多くの土地を訪れてきました。ノーベル平和賞を受賞した経済学者、バングラデシュのムハマド・ユヌス氏との会見はどのようなものでしたか。

フェヒナー:この男性との会見は一つの見どころとなりました──とても規律正しく情義に厚い人でした。ユヌス氏は貧困からの脱却という明確な考えを持っています。彼の人生と起業家的な仕事はそのような考えを土台としています。
しかし、撮影中に他のすべての人々──ビアンカ・ジャガー氏、イーロン・マスク氏、イブラヒム・トゴラ氏、マティアス・ヴィレンバッハー氏、プレーベン・メゴール氏、施正栄氏ら多くの人々──に出会ったことをとても光栄に思います。

SI:誰に、あるいは何に、あなたは最も強い印象を受けましたか。

フェヒナー:学生時代以来、私は正義というアイディアに強く影響を受けてきました。私は30年前、メディア教育を学ぶ26歳の学生として研究論文 のためにブルキナファソの村で調査中、夜は懐中電灯でメモを取らなければなりませんでした。それは私にとって決定的な瞬間でした。夜に照明がないのです。 今日でもそうですが、このような状況は単純な太陽光装置があれば変えることができます。そのため、イブラヒム・トゴラ氏との出会いは確かに私にとって最も 重要な出会いの一つでした。トゴラ氏は、デンマークでプレーベン・メゴール氏の研修生として、再生可能エネルギーに関してあらゆることを学び、そのアイ ディアをアフリカの母国マリに持ち帰り、そこでマリ・フォルケセンターを開設しました。
ヘルマン・シェーア氏との出会いも、非常に印象的な体験でした。彼は自分の使命に人生を捧げており、いつも時間に追われていました。映画の中でも明らかに していますが、上海に滞在中は、24時間予定が詰まっていたと思います。私たちとの撮影があり、それから名誉学位を授与され、それから別の名誉教授職を授 与され、それに加えて講演を行いました。

SI:あなたの映画は日本で上映されるでしょうか。福島の災害を受けて、この映画は日本人が今切実に必要とする全く新しい視点を切り開くのではないかと思います。

フェヒナー:交渉が進んでいます。日本の人々はこの問題に関心を抱いています。この映画は9カ国で40以上の映画祭で上映されています。しかし、 Tepco〔福島の二つの原発を所有する東京電力株式会社〕がスポンサーとなっている日本で最も重要な映画祭は、この映画への反対を決めましたので、プロ グラムの中に含めないでしょう。メディアは明らかに、一部の権力者の手にまだ固く握られています。しかし、まだ引導は渡されていません。

SI:ヘルマン・シェーア氏によると、エネルギー源の変化は、地下エネルギーから地上エネルギーへの変化でもあるということです。 このことに基づくと、私たちはあまり遠くない将来に、今は想像さえできないような新しいテクノロジーを開発することになると想定することができるでしょう か。

フェヒナー:人類は常に革新的技術を追求しますが、これは非常に重要なことです。私もそれには魅力を感じます。しかし、私は現在のテクノロジーを 再生可能エネルギーの分野に応用することにいっそう魅力を感じています。これは高額な研究プロジェクトを必要としません。太陽は巨大なエンジンであり、人 類への非常に貴重な贈り物です。私たちはすでに、現在のテクノロジーを用いてこの贈り物を使用し、それを力や運動や光に変換することができます。結局のと ころ、こうしたテクノロジーは長い間知られていました。例えば、太陽熱というアプローチは太古の昔からありましたが、大きな規模で使用されたことは一度も ありませんでした。ヘルマン・シェーア氏も映画の中で、高速道路でロサンゼルスからサンフランシスコへ向かう途中、何百という老朽化して欠陥のある風力 タービンを通過しながら同じことを述べています。その風力タービンは、中東の石油からの自立を目指して1970年代に建設されました。もしそれが現代の、 効率のよい風力タービンに置き換えられるならば、それだけでも五つの原子力発電所が不必要になるでしょう。
ところで、中東の油田を軍隊によって防衛するためにアメリカ人が年にどのくらい出費しているか知っていますか。軍隊によって防衛するだけでも1,850億 ドルを使っています。石油法案にその明細が記されることはないでしょう。そのお金はどこか別のところで埋め合わせなければなりません──ふつうは社会サー ビスや教育の予算が削られます。
エネルギー革命はいかにお金がかかるものであるかを明らかにしようとして、あらゆる計算がなされていますが、それに対抗する計算も常になされなければなり ません。100兆ドルもかかるのだから、エネルギー革命の余裕などないとよく主張されます。しかし、エネルギー転換をしなければ、200兆ドルかかるで しょう。これは重要なポイントです。もし私たちが何もしないならば、どれだけお金がかかるかを自問しなければなりません。答えは明白です。

カール・フェヒナー監督「第4の革命─エネルギー・デモクラシー」
詳細については:www.energyautonomy.org

〔編注:日本では2011年12月17日よりヒューマントラストシネマ渋谷にて劇場公開予定〕


幾つかの事実
地球に到達する太陽からの放射は、現在の人類のエネルギー需要のほぼ1万倍に相当する。
2030年までに全世界的に再生可能エネルギーに移行した場合には100兆ドルかかるが、化石燃料と原子力に固執した場合には200兆ドルかかる。
10の効率のよい手段があれば、産業国のすべての家庭は毎年1,000ユーロを節約することができる。再生可能エネルギー法(EEG)がある国では、太陽電池テステムを購入するのに資金や特別な屋根は必要とされない。そのシステムは10年で元が取れるからである。
5億100万人のヨーロッパ人は、アフリカの10億人の27倍の電力を消費している。マリの小さな太陽光発電システムは140ドルしかかからない。学校に設置されれば、それで生み出された明かりによって、卒業できる生徒は80%増加するだろう。
二酸化炭素貯留装置のある石炭火力発電所を稼働すれば、年に約1億5,000万ユーロの費用が余分にかかる。石炭火力発電所は、5,700万個のごみ袋を満たす二酸化炭素を毎日排出する。
ドイツだけでも、現在12万トンの放射性廃棄物が貯蔵されている。
エネルギー会社は、原子力発電所によって発電された電力の販売により毎日1,500万ユーロを稼いでいる。
(www.energyautonomy.org)

映画からの引用
「太陽はエネルギーの源です。人間もまた、エネルギーつまり創造的なエネルギーの源です。貧困とは、人がこの創造的なエネルギーを表現することができない状態のことです。
すべての人間は、どこで生まれたかに関係なく、宮殿で生まれたにせよ路上で生まれたにせよ、すべての新生児が他のすべての人と同じ能力、同じ無限の潜在的能力を持っています。
世界人口のほぼ半数が1日2ドル以下で生活しています。こうした人々は、自分の創造的なエネルギーを表現する機会を与えられたことがありません。また、太 陽は世界が必要とするすべてのエネルギーを提供するのに十分なエネルギーを持っています。そのエネルギーを私たちが使用できる形態へといかにして変換する かという問題にすぎません」
ムハマド・ユヌス