現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2007年 5月 私たちを団結させるアイディア

私たちを団結させるアイディア

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ジェイソン・フランシスによるハワード・ジン氏へのインタビュー

歴史家、脚本家であり25冊以上の本の著者であるハワード・ジン氏は、生涯にわたって平和と正義のために活動してきた。第二次世界大戦中に米軍で過ごした時間を振り返り、彼は戦争反対の立場を取るようになった。その後は、ジョージア州アトランタにあるスペルマン・カレッジの学生非暴力調整委員会の顧問を務め、公民権運動にも参加した。彼は『民衆のアメリカ史 1492年から現代まで』(2005年)の著者として最もよく知られている。最新刊『政府が抑圧できない力』(2007年)は、歴史、階級闘争、戦争とテロ、正義、一般市民が及ぼした影響、といった話題に関する既発表のエッセイを集めたものである。ハワード・ジン氏は現在、ボストン大学名誉教授である。ジェイソン・フランシスが、本誌のためにジン氏にインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(SI):アメリカの将来は自国の過去についての理解と結び付いており、アメリカ人は「歴史の無知」がなかったならば戦争を始めようとはそれほど熱心に思わないだろう、とあなたは述べています。アメリカ人は世界史からだけでなく自国史から何を学ぶ必要があるのでしょうか。
ハワード・ジン:アメリカ人は、自国の外交政策の歴史を学ぶ必要があります。アメリカ独立革命の時期から19世紀の西部への拡張に至るまで、アメリカの拡張主義の根強い傾向が最も早い時期から見られることを知る必要があります。19世紀の間ずっと、西部の大平原から先住民族を追い出し、大虐殺を行い、彼らをだんだん狭い地域へと押し込め、実質的に彼らから土地を奪い取りました--これは実際のところ、今日で言う民族浄化のようなものです。これは歴史の本ではほんのわずかしか言及されておりません。インディアンとの関係は、カスター将軍の最後の戦いやポカホンタスといった数少ない劇的な場面に限定されています。アメリカの大虐殺とインディアンの排除という非常に複雑な歴史が失われているのです。  海外への拡張はスペインのキューバ占領に刺激されて1898年に始まり、やがてアメリカがキューバを占領するようになりました。米国はプエルトリコとフィリピンを支配し、20世紀初頭には海軍が絶えず中央アメリカを侵略し、ハイチとドミニカ共和国を長期にわたって占領しました。第二次世界大戦後、米国は最大の帝国主義勢力になり、イギリス、オランダ、フランスという中東の帝国主義勢力に取って代わり、石油支配を目指しました。私たちは今--韓国、ベトナム、グレナダ、パナマ、アフガニスタン、イラクで--次から次へと戦争を行っています。これらはすべて第二次世界大戦後の一連の戦争です。私たちは占領したこれらの国のどこにも民主主義や自由をもたらしていないことを理解することが非常に重要です。私たちは、これらの国民に不幸と死をもたらしました。私たちは軍事的な超大国に、人間的な超大国ではなく高圧的な超大国になり、100カ国以上に軍事基地を設けています。  そのような歴史の知識があったならば、2001年9月以降、テロと戦い中東に民主主義をもたらすために戦争を始めなければならないとするブッシュ大統領の主張に対し、アメリカ国民は備えができていたでしょう。そのような歴史を知っていたならば、戦争を始めることによって世界の他の地域に自由と民主主義をもたらすことになるという主張について、アメリカ国民は非常に懐疑的であったでしょう。 そうした外交政策の歴史は、アメリカ史を理解するうえで決定的に重要であり、そのような理解が私たちを今日の出来事に備えさせてくれるでしょう。  私たちの歴史には他の要素もあります--米国内の階級闘争、憲法起草の時代から現代に至るまでの、実業界の利益によるこの国の支配がそうです。政治的な支配を確立するうえでの経済的な支配の重要性、労働運動の鎮圧、ストライキをつぶすための政治の介入、労働者の基本的な権利--1日8時間の労働時間、労働者賃金、まずまずの生活水準--を勝ち取るために、会社の権能と政治の両方に対するこの国の職場闘争の長い歴史、こうした要素もあります。  階級支配について物語っている、私たちの歴史のそのような要素を理解することが極めて重要です。つまり、今日の政治闘争の背後には、経済闘争があるということです。私たちの政治の二大政党支配の背後には、両政党が企業の利益と結び付いているという事実があります。その結果、純粋な野党はなく、大多数のアメリカ国民の利益とは対照的な、同じ金銭的利益の恩恵を受けている二つの政党があるだけです。
SI:たとえ政府や富裕層の権力といった克服し難いような可能性に挑戦することであったとしても、変化をもたらしていく団結した民衆の力について歴史は私たちに何を教えてくれているのでしょうか。
ジン:それが歴史を学ぶことの決定的に重要な部分です。つまり、どのように戦争へと引きずり込まれたか、私たちの外交政策が私たちや他の国民にどのような害を及ぼしてきたかを学ぶだけでなく、アメリカ国民が様々な時代においてこの政府と富裕層という組み合わせにどのように抵抗してきたかを学ぶことが大切です。さらに、市民が歴史上の特定の時点で、政府の権力と企業の権力に打ち勝つような社会運動を組織することが可能だということを学ぶことも大切です。  労働運動の歴史は単なる敗北の歴史ではありません。それは、8時間労働を勝ち取り、組合を組織し、企業に挑戦しようとする、労働者による非常に啓発的な闘争の歴史です。労働運動の歴史は、1930年代のゼネラルモーターズやフォードやUSスチールのような、巨大な権限を持ち難攻不落のように思える企業と対決することが可能であることを示しています。これらの企業は、変化を全く受けつけないように思われていました。しかし、座り込みストライキを行うよく組織された労働組合と対峙したとき、そうした企業は譲歩しなければなりませんでした--決して譲歩しないと盛んに主張していたのですが。 この国の黒人は様々な時代において、非常に重要な変化をもたらした運動を組織することができたことを私たちは知っています。私の頭にあるのは、1830年代から1860年代まで、進展するのに30年かかった奴隷制廃止運動のことです。しかし、その運動はやがて非常に強力になり、リンカーンと議会は奴隷を解放もしくは部分的に解放せざるを得ませんでした。黒人は南部ではまだ隷属状態にありましたので、それは部分的な解放にすぎませんでした。1950年代と1960年代にもう一つの社会運動が必要とされました。一見したところ無力な人々が--もし彼らがよく組織され持ちこたえるならば、もし市民として不服従運動を展開し、刑務所に行くことや殴打されること、何人かが死ぬことさえも厭わないならば--根本的な変化を引き起こす力を生み出すことができるということを、その運動は示したのです。それが、黒人たちがモンゴメリーのバスボイコット、座り込み、フリーダムライド、アラバマ州のバーミンガムやセルマなどでのデモ行動において結集した時に、南部で起こったことです。それは本当に奇跡的な変革をもたらしました。  私たちはベトナム戦争中の数年間に、ごく小さな反戦運動が大きな反戦運動に発展していったという経験をしています。それが原因で、世界で最も強力な軍事国家がついに屈服し、休戦し、そして決して撤退しない、決して譲歩しないというあらゆる主張にもかかわらず、ベトナムから撤退することになりました。反戦運動がそうさせることに成功したのです。  社会運動によって他にも勝利が得られました。1960年代と1970年代には女性たちが団結し、この国に性の平等という新しい意識をもたらしたフェミニスト運動を起こしました。また、障害を持つ人々が団結して、彼らに特定の権利を与える法案をついに成立させたこともありました。特定の時代に市民が団結して、政府と富裕層の巨大な権力に何とか打ち勝った歴史がこの国にはあるのです。
SI:アフガニスタンとイラクの情勢に関連してそのようなことが今日起こっていると思いますか。
ジン:それは初期段階にあり、まだ起こっていません。これまでのあらゆる運動の初期段階を観察すれば、今日の反戦運動のように見えるでしょう。人々は声を上げ始めていますが、政策を変えることにはまだ成功していないように見えるでしょう。1967年と1968年の時点でベトナム反戦運動を見れば、何かが引き起こされるようにはまだ見えなかったでしょう。  残念ながら、イラク戦争開戦から4年が経過した今日でも、反戦運動は力強さに欠けており、タイムテーブルを要求する全く不十分な法案を議会の民主党が主唱するよう後押しするぐらいです。それに従えば、少なくとももう1年か2年は戦争が継続されることになっていますので、政府はその間により多くの戦争資金を得ることになります。現在、反戦運動が拡大してきているようですが、政策転換を引き起こすほど急速にあるいは大規模に拡大しているわけではありません。
SI:第二次世界大戦中に米陸軍航空隊で兵役に就いていたことで、あなたの戦争反対の立場がどのように形成されたか、話していただけますか。
ジン:私が戦争を振り返り、戦争が自分の心を腐敗させたことに気付いたのは戦後になってからでした。それはどの戦争でも起こることであり、他の人にも起こっていました。人々は一種の集団心理に陥り、何が起こっているのか、自分が何をしているのかについて疑問を持たなくなります。それが残虐行為へと、第二次世界大戦中に行われた一般市民への爆撃へとつながります--私はそのような爆撃に何回か従事しました。私は軍の刑務所から脱出し、それからその経験を振り返り、自分で考え始めました。私は広島と長崎について知り、自分自身の経験についてじっくりと考えました。私は世界を見回して、5,000万人が死んでもなお、いわゆる「良い戦争」が根本的な意味で本当に世界を変えてはいなかったことに気づきました。したがって私は、戦争は無益であり、受け入れ難いという結論に達したのです。
SI:あなたは著書の中でこう述べています。「言い表せないほどの不当なテロ行為の核心には、何百万人もの人々が感じる正当な不満がある。彼ら自身はテロに関与しないが、彼らの階層から暴力的な自暴自棄が湧き出ることになる」と。そうした不満とは何のことでしょうか。
ジン:例えば、テロ行為の背後にある不満です--9月11日の攻撃あるいは中東の自爆テロの背後には、外国軍の占領に対する怒りがあります。シカゴ大学の政治科学者ロバート・ペイプ氏は、世界中で20年間に発生した自爆やテロ行為の研究を行い、180件のそうしたテロ行為を調べてきました。共通点は宗教的な狂信主義やそれに類することではないことに、彼は気付きました。こうしたすべての行動に共通していたのは、北アイルランド、スリランカ、パレスチナ地区などどこであろうと、外国軍の占領に対する怒りでした。  もし私たちがそのことを米国内で理解するならば、私たちはヨルダン川西岸とガザ地区でのイスラエル占領を支持したり、アフガニスタンとイラクでの占領を支援したり、日本などの他の国での軍事基地を支持したりしないでしょう。テロの根本原因を理解することが非常に重要です--何百万もの人々が憤りを感じており、それが少数の者たちを狂信的行為へと駆り立てています。
SI:最近、世界中で多くの社会運動が起きています--南米の数カ国では先住民族や貧困層が社会主義者のリーダーを権力の座に就かせたほか、世界貿易機関(WTO)の経済政策のせいで世界的な抗議行動が起きたり、先ほど話し合ったように、アメリカの中東政策に反対する萌芽的な運動が発生したりしています。こうしたすべての運動には共通点があるのでしょうか。
ジン:あります。世界中の国々の人々が共通の利益を持っているということを知ることが非常に重要です--それはお互いに分かち持っている利益であり、自国政府の利益とは異なるものです。私たちは民族主義と国境によって分断された世界に住んでいます。こうした境界はその境界内の人々の中に人工的な和合を作り出します。しかし、その境界内の人々の利益が本当に考慮されていないため、それはあくまでも人工的なものです。各国のエリート層と一般大衆との間には、真の共通の利益は存在していません。  平和に暮らすことを望み、経済の平等を望み、何百万もの人々を悩ます問題を解決することを望んでいる世界中の人々の間には共通の利益が存在しています。私たちはすべて国境を越えた共通の利益を持っており、差し迫った米国の対イラク戦争に反対して世界中で1日に1,000万の人々がデモ行動を行った2003年2月15日のように、ときどきその共通の利益が明らかになります。また、世界社会フォーラムには世界中から何万人もの人々が集まり、「新しい世界は実現可能だ」というように、共通の利益が宣言されました。あなたが言っておられたことは全く真実です。まだ萌芽的でしかありませんが、一種の国際主義が存在しています。それは、未来への希望を掲げているものだと私は思います。
SI:自国や世界中の人々と個人的にそして集団的に付き合うとき、受け入れられた普遍的な行動基準というものがあるべきでしょうか。
ジン:はい、国際的に認知された共通の基準があるべきだと思います。1948年に国連によって採択された世界人権宣言の中にそうした基準があります。それには、すべての人間が食糧、住居、医療、教育への権利と、戦争を免れる権利を持っていると書かれています。地球のすべての人に一定の基本的な生活水準が保証されるべきですが、この世界は豊かな世界であり、それは可能なことです。豊かさが浪費され、不平等に分配されているというだけのことです。すべての人が言論の自由、報道の自由、集会の自由を含む基本的人権を持つべきであり、メディアが少数の裕福な人々に独占されないよう、他者と対等に通信する権利も持つべきです。
SI:永続的な平和を確保するために必要とされる本当の自由と正義を達成するためには、集合的な意識の中でどのような変化が求められているのでしょうか。
ジン:私たちの思考において求められている変化は、民族主義の拒絶や、国境、境界、ビザ、パスポート、移入民割当制という考え方を拒絶することでしょう。世界は、他の国民に対して激しい憤りの念を抱いた100か200の異なった地域に分割することができるという考え方を拒絶することも求められています--民族主義の拒絶、世界的な連帯の精神が求められています。それが私たちの思考において求められている根本的な変化です。  私たちの思考において求められている他の変化は、問題を解決する手段としての暴力の拒絶であり、また、世界にどのような問題があろうとも、どこかの暴君が国民を抑圧しているにしても、あるいは、どんな不正義が世界で行われているにせよ、専制政治への答えは武力や暴力や戦争であるはずがありません。私たちは、存在する問題に対する想像力に富んだ、非暴力的な解決策を探さなければなりません。
SI:私たちが「テロとの戦い」をただ単に批判することによって、その戦いの犠牲者になる危険を冒すことになる、なぜなら、テロへの恐怖と同じくらい確実に私たちを団結させてくれるアイディアから私たちが注目をそらすことになるからだ、とあなたは述べています。私たちを団結させてくれるアイディアとは何でしょうか。
ジン:私たちを団結させることができるアイディアとは、暴力、戦争、軍事主義によっては世界の問題を一つも解決できないという共通認識です。私たちは暴力や戦争を拒絶し、人々を助けるために、人々に医療や教育を与え、病気を癒し、住む場所を与えるために世界の富を使わなければなりません。共通の利益というアイディア、戦争を放棄して、戦争に浪費されている莫大な富を、世界でお互いに協力し合い、現在病気や栄養不良で死亡している何百万、何千万もの人々の命を救うために活用するというアイディア、そのような根本的なアイディアこそが、私たちを団結させることができるのです。
詳しい情報については:www.howardzinn.org

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