現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2007年 6月 民衆と気候変動

民衆と気候変動

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サソ・セグラ・プロセンクによるタンジャ・セグナールさんへのインタビュー
タンジャ・セグナール(Tanja Cegnar)さんは、スロベニアのリュブリャナ大学を卒業し気象学の学位を取得した。彼女は当初気象予報士としてキャリアを始めたが、気候学とその経済と民衆に対する影響の調査に専念するようになった。彼女はWMO(世界気象学機関)の気象委員会で働き、WMO、WHO、UNEPによって設立された熱健康監視警告制度(Heat Health Watch Warning Systems)でも働いた。彼女は現在ヨーロッパ気象協会のメディア委員会を率いている。サソ・セグラ・プロセンクがシェア・インターナショナル誌を代表してタンジャ・セグナールさんにインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI):私たちの生活様式は気候に影響を与えていますか。
タンジャ・セグナール:確実に与えています。問題は、地域的にも地球的にも影響を与え続けていると言うことです。気象プロセスがいまやより強烈になっていることは明らかです。非常に強力なハリケーンの数は増加しました。大西洋は破壊的な風力を持つ非常に強力なサイクロンが起こり、ヨーロッパ北西部に達します。もし気候システムがもっと強烈になれば、つまりもっとエネルギーが強くなれば、さらに極端に強力なエネルギーが利用可能になるでしょう。すべてのプロセスがより強烈になるわけではありませんが、そのピークはより極端になるでしょう。
SI:これは大気の温暖化の結果だと思われますか。
セグナール:はい。重要なのは、大気中に自らを別の形に変容させる、より多くのエネルギーがあるということです。この変容の間に、上昇する大気の温度だけが、温室効果ガス増加による気候変化の形ではありません。潜在する大量の運動エネルギーが利用可能となり、竜巻からはより多くのエネルギーが得られます。
‘フィードバック・ループ’と呼ばれるものも存在します。例えば、夏の日照りにより植物が乏しくなり、蒸発も減り、その結果太陽のエネルギーがもっと空気を熱くし、その結果気温が上がります。2003年の夏にヨーロッパでこれが起こり、気温が急上昇して多くの人々が熱波で死亡しました。自然の変動がどの程度まで人間の影響による気候変動と関係しているかを正確に区別するのは不可能です。世界的な、そしてヨーロッパの気温上昇がどこまで温室ガスの排出の増加の結果によるものかについて大論争があります。主にその影響かもしれませんが、部分的には正常な自然の変化なのかもしれません。
SI:気象パターンはもはや存在しないという主張について教えてください。
セグナール:私はそれに同意しません。これまでは、気象にはある程度不変性があると私たちは言ってきましたが、現在では、暖かさから寒さあるいはその逆への急激な変化があります。しかしそれらにはまだ気象パターンがあります。こう言ったほうがいいかもしれません。つまり、ある時期にはあるタイプの天気がよく起こるとか、急激な天気の変化が起こるとか。それが人々を最も悩ませます。これらの変化は常に存在してきましたが、それがより頻繁に起こることに人々は敏感になっています。私たちはそのことに気づいており、平均気温が0.5度上がるよりずっと早くその敏感さで悩まされるのです。今年の夏が実際に去年よりも摂氏0.5度暖かくても人々はそれに気づかないでしょう。
SI:暖冬と寒い冬が周期的にやって来ます。これも太陽の活動と関連しているのですか。
セグナール:太陽活動はおよそ11年周期で起こります。この周期と関わりなく、太陽活動はここ数十年で増大しています。2000年には太陽での噴火が数多くあり、世界的な気温上昇にこの太陽活動の増加が大きな影響を与えていると考える科学者もいます。しかしながら、観察によれば、その周期は2000年以来下降期にあるにもかかわらず、地球の平均気温は上がり続けています。世界的に、2005年は観測史上最も暑い夏の一つでした。2007年にはどうなるか、これから分かるでしょう。
もちろん、海水の温度の異常の影響もあります。極端なエル・ニーニョ現象もまた地球の気温に影響を与えます。巨大火山の噴火のような偶発的な出来事による大気の汚染も考慮しなければなりません。なぜならそれは、温暖化の速度を落とすからです。工業施設が排出する硫酸の粒子も同じ影響を持ちます。過去には、それは西ヨーロッパに重大な影響を与えましたが、今では空気を清浄化する努力によってその影響は減少しています。
私たちは他の変化の時期も知っています。たとえば小氷河期に続く好ましい中世の気候です。前回のは500年から1300年まで続きました。その時期の気候は比較的温暖でした。それはバイキングの拡大の時期です。それに続いて、不安定な気候条件が増加しました。それは1500年あたりに始まり1850年頃に終わった小氷河期に終わりました。平均気温はそれほど低くありませんでしたが、アルプス高地の農地を破壊し、グリーンランドのバイキングの植民地が終焉し、英国のぶどう園が失敗に終わりました。データによると、それほど寒くはありませんでしたが、人々に大きな影響を与えました。小氷河期は交易通路も変化させ、商品の入手可能性にも影響を与えました。
SI:オゾン層の破壊は自然現象で、長い間存在していたというのはあり得ることでしょうか。
セグナール:この現象は過去に観察されたことがありません。オゾン層の穴はエーロゾル、冷蔵庫、エアコン装置のガスなどに使われるフロンガス(CFCs)によるものだと主張されています。なぜならオゾンの消滅の進捗度が非常に早まっているように見えるからです。
SI:私の理解が正しければ、オゾン層は赤道付近より極でより厚いが、オゾン層の穴が薄くなると、層は実際には赤道付近より極のほうが薄いということでしょうか。
セグナール:ある地域ではオゾンは完全に消滅しています。
SI:つまり毎年オゾンが減っているということですか。
セグナール:いいえ。空気の流れが暖かくなり拡散するにつれて、大気は絶えず流動的な状態にあります。ある場所でオゾンが薄くなると、他の地域から入り込み、新しく形成されます。このようにして、正常な状態が再び確立されます。オゾンを破壊するガスが最も集中したのは20世紀です。南極上空のオゾンの穴は、2065年頃までは存在するでしょうが、中緯度上空には2050年までしか存在しないでしょう。この予測にはある程度の誤差はあります。
オゾンの穴はオーストラリアまで達するときがあり、同国が最も影響を受けます。オーストラリア人が最初に警告を受けました。オーストラリアはまた赤道にも比較的近いです。アボリジニは肌が黒く太陽光線からはより保護されますが、最初の移民はケルト系で、太陽の放射への抵抗力がほとんどありません。皮膚がんが非常に大量に出現し始め、南アメリカの南部でも同じことが起こりました。紫外線の増加により白内障も増えました。人々だけでなく、羊にも起こりました。
国際社会は驚くほどすばやく反応し、合意に達しました。モントリオール議定書とその修正案は、今日では環境保護のために取られた数少ない成功例の一つです。京都議定書にどれほどの反対があるかを御覧なさい! モントリオール議定書は、国際社会と政治が、意志さえあれば何ができるかを示す輝ける実例です。テクノロジーの変革が不可欠であり、代替ガスが発見されなければなりません。不幸にも、当初から誤りがありました。なぜなら代替ガスのすべてが温室効果をもたらすガスでもあったからです。努力には足並みが揃っていませんでしたが、基本的にはモントリオール議定書は認知するに値するものです。気候変動に関しては、私たちはあまり成功していません。
SI:なぜだとお考えですか。
セグナール:第一に、何が気候変動の原因かについて不確実で意見がバラバラです。第二に、少なくとも最初の10年間、ある国々は肯定的な結果よりも否定的な結果を予期していました。言葉を換えれば、温室ガスを削減することは彼らにとってあまりに高価だったのです。そして第三に、幾つかの非常に強力な国際的ロビーが既存の生活様式から巨大な利益を得ています。世界的な見地からは、途上国は気候変動に対して最も脆弱です。不幸にも、それに適応する資源を最も欠いているのがそれらの国々なのです。豊かで開発が進んでいれば、適応するためのより多くの機会があります。
個人的なレベルから見れば、私たちはどこまで休日や、長旅や、日常的な車の利用を放棄する用意があるでしょうか。熱源を変え、家を断熱するためにどれほど主導的に行動する用意があるでしょうか。電気を消し、電気機器をスタンバイで放置するのを止めることをどれほど徹底できるでしょうか。このことをよく考えるべきです。
国家政策は、より環境に優しい生き方を個人に奨励する方法を見つけるべきです。単に税金を上げればよいというのではありません。
公共交通について考えてみましょう。アメリカでは、ニューヨークやワシントンなどの大都市を除いて、公共交通がほとんど発達していません。だから車を使わざるを得ません。ヨーロッパでも状況は変わりません。私たちは交通が汚染の主要な源だと話しますが、それを減らすためにどんな手段を取っているでしょうか。貨物輸送を、より環境に優しい鉄道にするための効果的な鉄道経路を確実にするために何をしたでしょうか。実際には、巨大トラックの数は毎年増えています。もし公共交通がニーズに合い、十分に安ければ、人々はそれを利用すると私は確信しています。
SI:北アメリカは厳しい気候変動に苦しんでいるように見えますが、アメリカの動きは非常に鈍いです。
セグナール:アメリカは一連の気象関連の悲劇を経験しています。熱波、洪水、竜巻が巨大な損害をもたらし、しばしば多くの死者が出ます。彼らは気候の状況を無視できません。 気候変動を防ぐための行動への最大の障害は、経済にあると確信しています。超大国にとって、国民は彼ら自身の経済的利益よりも重要性を持たないのです。市民が重要なのは選挙のときだけで、政治家の新たな任期を認めるときだけです。
化石燃料や消費者の生活様式の問題に対しては、巨大な多国籍企業の利害が支配し、それは利潤以外の何ものにも動かされません。変化は消費者からのみ起こすことができます。特定の企業の製品をボイコットすることによってです。
世界的なレベルでは、幾つかの多国籍企業は、企業のエコロジー的認識を反映した製品を作り始めています。おそらく気候変動は遅かれ早かれ政治家の選挙公約の中に入るでしょう。このプロセスは比較的ゆっくり進展します。なぜなら投票者の考え方が変化し、その結果として政治家、多国籍企業、消費者の考え方が変わる必要があるからです。
国際会議ではアフリカの代表者は常にこう言います。「あなた方は気候変動で遊ぶことができるが、私たちは飢えている。生き延びなければならないのだ」。発展途上国と先進国との間には恐ろしい格差があります。これらの国々の状況を改善するために何ができるでしょうか。先進国は現代的なテクノロジーを提供すべきです。
SI:それでは、私たちは二つのことをしなければなりません。第一に、普通の人々が問題を認識し、政府に圧力をかけること。第二に、先進国は途上国にもっと寛大に援助を与えることです。
セグナール:そうです。そのような援助がないとは言いませんが、あまりにも限られており、しばしば十分ではありません。途上国に対する国際援助計画は数多くありますが、それはどの程度でしょうか。中国だけでもご覧なさい。そこには10億人以上の国民がいます。彼らの開発の速度を見てご覧なさい。
EUは温室ガス排出の規制について非常に野心的な目標を掲げています。私が中国に言及したのは、その巨大な人口と、極端に速い開発の速度と、温室ガス排出の上昇のためです。多くの中国人が夢見ている目標は、アメリカの生活様式です。インドの人々も同じ望みを持っています。彼らの開発は中国よりも遅いですが。アフリカ人も遅かれ早かれ同じような基準を達成するでしょう。私たちの生活様式を欲する人々は何百万人もいるのです。
これが意味するのは、新しい車や電気製品の数が膨大に増え、エネルギーの需要が高まり、それに比例して温室ガスの排出が増加するということです。京都議定書は緊急に必要とされており、追加的な規制も必要です。しかしそれは事態を緩和するだけです。気候変動は起こるでしょう。これまでに大気中に放出された温室ガスだけでもそれは起こります。
気候変動は「環境移住者」にとっては深刻で、無視されている要素です。私たちは、気候条件の悪化のために移住を強いられている大量の人々の移住を無視することはできません。状況はすでに悪く、私たちが行動しない限り、将来はもっと悪化するでしょう。砂漠地域は広がるでしょう。頻繁に洪水に見舞われるために住むことができない地域も出てくるでしょう。これは大きな川のデルタ地帯すべてを含みます。そこは非常に低地で、人口が密集しています。異常気象は国の経済を不安定化させ、政治も不安定さを増すでしょう。一方で環境移民があり、他方で政治的移民も出てくるでしょう。どちらも密接に関連しています。例えば中央アメリカでは、自然災害が経済的にも政治的にも国を不安定化させる例を見てきました。アフリカでも同じです。スーダンやダルフールでは、人々が援助を手に入れることができれば、紛争は起こらず、起こったとしてもあれほどひどくはなかったでしょう。紛争は将来もっと激しくなることを覚えておかねばなりません。飲み水の不足も紛争へとつながります。
SI:環境に影響を与える他の要因はありますか。
セグナール:世界的なレベルでは人口が増加しており、自然環境を圧迫しています。かつては、洪水が起きても大きな被害はありませんでした。今では、郊外と農地の開発のために、水路が狭くなり、その結果以前では水が来なかった場所に水が溢れ、大きな被害が生じています。
西ヨーロッパの大きな河川は運河につながっていますが、これは最良の解決ではありません。特定の場所では自然の洪水は許されるべきです。中央ヨーロッパでは頻繁な洪水が問題になっています。その理由の一つは、河川が特定の場所で氾濫することが許されないからです。許されればそれが流れの速度を遅くし洪水の波を低くすることができるのです。
私たちは平均的な状況を計算することができますが、極端な新しい状況に直面すると、計算は失敗します。北アメリカを見てご覧なさい。先住民はフロリダ湾や東海岸の南部に永続的な施設を決して作りませんでした。定期的に強力なハリケーンがすべてを破壊することを知っていたのです。今では、移住するという考えは決して人々の頭に浮かびません。さらに、彼らの建物は強風に耐えるように建築されていません。彼らは主にプレハブの家に住み、移動住宅にさえ暮らしています。幾つかの要素が組み合わさっています。私たちはもっと空間を欲しており、自然を楽しみたいと思いながら、地面のあらゆる場所を搾取することで利潤を最大化しようとしているのです。
今日の農民の誰が、川の隣の洪水地域を去ることを考えるでしょうか。ロンドンのテムズ川に沿った地域にも非常に危険ですが、それにもかかわらず人々はその上に家を建てます。テクノロジーがそれを可能にすると考えているからです。予測された海面上昇の効果を打ち消すために川岸を強化するという計画が数十年前に作られました。現在の状況では私たちは100年ごとに起こってきた現象に対処する適切なテクノロジーを持っていますが、これらの出来事はそのうち10年に一度になるかもしれません。
オランダ人は特定の地域を洪水地帯に指定することを考えています。彼らはすでに非常に良いシステムを作りました。堤防が耐えられない場合には、水を特定の地域に逃がすのです。すべての国が気候条件の変化のための行動計画を作成すべきであり、気温上昇によって起こる気象状況に適応すべきです。
少なくとも人々は今やもっと認識し、行動を起こし、環境を守るために新しいアプローチを要求し始めています。

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