現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2016年 1月 水の正義に対する大きな水しぶき

水の正義に対する大きな水しぶき

ジェイソン・フランシスによるエリック・ストウ氏へのインタビュー

スプラッシュ(Splash)は、世界中の子供たちに清潔で安全な飲み水をもたらすことに専念している国際的な非政府組織である。現在では、スプラッシュは46カ国で活動している。エリック・ストウ氏は2007年にシアトルを拠点としてスプラッシュを設立し、現在はその理事である。ジェイソン・フランシスが本誌のために彼にインタビューを行った。


シェア・インターナショナル(以下SI): あなたは何をきっかけとしてスプラッシュを設立されたのですか。


エリック・ストウ:私は以前、国際的な養子縁組の活動をしており、多くの国の孤児院で多大な時間を過ごすことができました。孤児院などの施設で、5年間の間に、子供たちの健康改善のために行うことのできる最も有効で、直接的、長期的な介入策は、安全な水であると分かりました。
レストラン、ホテル、コーヒーショップなどの会社がどの国でも業務を行う場合、顧客に提供する水の清潔さや安全性を確保します。スプラッシュのモデルは、このようなサプライチェーンを活用することです。手段、サービス、保守、配送の技術など、大企業が過去に使用し、異なった層に対して彼らが使用しているものです。私たちはその他にも多くのことを行いますが、活動の中心にあるのは安全な水です。活動に関する考え方や道徳の大部分は、孤児院で生まれました。


清潔で安全な飲み水を利用できない

SI:世界中で何人の人が、清潔で安全な飲み水を利用できないのでしょうか。

ストウ: それは誰に質問するかによって異なります。通常の統計を見れば、その数は6億5千万人以上であることが分かるでしょう。しかし、その数は「承認済みまたは未承認の水源」の定義に基づいています。承認済みとは、井戸が屋根で覆われており家屋から一定の距離にあるか、または水が家に水道管で引き込まれていることです。未承認とは、井戸が家から遠いか、または屋根で覆われていないことです。過去10年間使われてきたこの定義の問題は、承認済みか未承認かということが、水の安全性を測定したり認定したりするものではないことです。水質や水の汚染についてよく知っている人と話せば、その数は世界中で13億人から14億人に近いと分かります。世界中の人の7人に1人が、安全な水を利用できないのです。子供に関しても同様に、その人数を定量化することは困難です。人口統計上では、子供はその数の3分の1を占めています。


SI:清潔な飲み水を直ちに利用できない場合、大人や子供の生活はどのような悪影響を受けますか。

ストウ:大人の生産性や時間の損失(労働できないこと)の影響を示す研究は数多くあり、それは明らかに給与の損失を意味します。子供に関しては、取り返しのつかない損害を引き起こす場合があります。あなたの子供が繰り返しまたは継続して病気になり、学校の時間が失われたことが何回あるかを考えてみてください。子供が下痢や胃の病気で寝込んだ場合、または成長阻害と呼ばれるように、年齢や同級生と釣り合った成長をしていない場合など、複合した影響があります。劣悪なトイレなどの未改善の衛生施設と、安全でない水などの未改善の水源と、深刻な成長阻害との間の明確な相関関係を示す良い研究があります。私たちは、安全でない水が原因で子供たちが習慣的に病気にかかる場合の、深刻で生涯にわたる生理的、心理的、教育的な影響について話をしています。


スプラッシュの活動

SI:スプラッシュは、必要としている人々に清潔で安全な飲み水をもたらすことに、どのように助けになっていますか。


ストウ:私たちが学校、孤児院、病院、避難所で活動する場合、敷地内に水道か井戸などの水源があります。私たちは水源の水を、マクドナルド(ファストフード・チェーン)が世界中で水を浄化するときと同じ方法で浄化します。マクドナルドの食べ物の品質についていつでも疑うことができますが、マクドナルドの水質について疑うことは難しいでしょう。他の多国籍フードチェーンやコーヒーチェーンも同様に、多額のお金を費やして水を浄化し、品質をボトルに詰めています。私たちが行っているのは、彼らのサプライ・チェーンを直接活用しているのです。中国では、マクドナルドが使用している同じ製造施設を使用しています。私たちは大きな低価格を得ています。
私たちは、マクドナルドにあるものと同じ浄水装置を学校、孤児院、病院に設置しました。そして、マクドナルドが自社の店舗に提供しているのと同じ方法で、予備の部品、メンテナンス、水質試験を提供しています。
基本的には、私たちは多国籍企業が清潔な水を提供する方法に従います。彼らはすでにそれを上手く行っているからです。彼らはそれを大規模に行っており、システム化する方法を知っています。他者が非常に良い仕事をしているのに、NGOが車輪を再発明するようなことをする必要はありません。


SI:あなた方は、何人の子供たちに到達したのですか。


ストウ:合計で、50万人をはるかに超える人数に到達しました。私たちは実際、毎日32万人にサービスを提供しています。合計の人数は毎日の人数と異なりますが、私たちが使用するのは合計の人数ではありません。私たちのシステムが機能しているために何人の子供たちが綺麗な水を利用できるかに注目しています。


無駄を出さないアプローチ

SI:綺麗な水に対する循環的で無駄を出さないアプローチは大切でしょうか。そして、廃水(いわゆる『雑排水』)に関して何が行われているのでしょうか。


ストウ:綺麗な水に対する無駄を出さないアプローチは非常に大切です。水が乏しい地域では、それは難しいです。なぜなら小規模な浄水プロジェクトでは、多くの水が無駄になる逆浸透法にフォーカスしているからです。そして多くの場合、その雑排水は下水にそのまま流されます。浄化の過程で、約50%の水が雑排水になります。もしかしたら、それは20%から25%まで下げられるかもしれません。私たちが使用するシステムでは、回収率は95%から98%です。どこでも2%から5%が雑排水です。
現在推奨していることの一つは、雑排水をトイレを流すために、そして手洗いにも再利用することです。手洗いで大切なことは、汚染されていない水ではなく、使用する石鹸なのです。私たちが一緒に活動したパートナーの中には、そのような雑排水をガーデニングに再利用している人々もいます。ガーデニングは雑排水を利用する素晴らしい場所です。私たちは使用しているテクノロジーに関して非常に真剣に考えています。電気を使い過ぎないようにしたいですし、もちろん水を無駄にし過ぎることはしたくありません。しかしトイレに流す水から何種類かの汚染物質を除去する処理は避けられません。それは2%から5%であり、私たちはそれらを様々な方法で再利用し回収することに取り組んでいます。


SI:あなたは手洗いのことを話されましたが、衛生教育の大切さについてお話しいただけますか。


ストウ: 綺麗な水、公衆衛生、衛生教育の三つは、開発の観点からどれも欠くことはできませんが、中でも衛生教育が最も困難です。適切な公衆衛生を大規模に築いていくことは非常に難しいのですが、子供たちが手を洗うようにするためには、膨大な量の教育と訓練が必要です。これは、私たちの仕事の中で最も困難なことです。スプラッシュのネパール事務所には、26人の常勤スタッフがいます。その中の7人はプロジェクトの実行スタッフですが、8人(現在ではボランティアを含む12人)は衛生教育のスタッフであり、彼らは継続的に外に出て校長、教師、生徒のクラブと一緒に、そして生徒たちと直接に、衛生教育や手洗いに関する活動をしています。それは習慣を変えることなので難しいのです。安全な水と公衆衛生だけでは不十分です。これら二つをつなぐものが衛生教育です。


都市部の貧困層に手を伸ばす

SI:移民の傾向が綺麗な水を得られるかどうかにどのような影響を与えているのか、お話しいただけますか。

ストウ:2007年には世界はある種の均衡に達し、地球の人口の50%が地方に住み、50%が都市に住んでいました。2050年までには地球の人口の75%が都市に住んでいるでしょう。これまで都市居住者の人口は常に大きく増加していましたが、大都市の周辺部で見られている程ではありませんでした。そして都市の周辺部における貧困層の増加への対処法について、良い計画はありません。
私たちが活動する多くの都市で、1960年代から1980年代にかけて都市計画が実施されました。これは、人口の50%だけに対応するものでした。その数が35年間で増加し、人口が倍になった時に何が起こるでしょうか。一般的な社会資本、水処理、配水について考えてみると、それらは最も裕福な都市の中心部で整備されましたが、周辺部では何もありませんでした。
私が初めて北京に行ったとき、幹線道路は2本でした。今では7本の幹線道路があります。こうした都市は凄い急成長をしているので、非常に貧しい地域には対応できていません。地方の貧困層の援助活動をする水の団体によって成された計り知れない進歩がありました。しかし私たちは、人口の動向について見ています。人口の移行に関しての話ですが、多くの活動では都市部の貧困層にフォーカスする必要があります。国の中の遠隔地の村で仕事をするのは難しく、活動者は勇敢な人たちです。しかしながら、人々が文字通り互いに重なるように詰め込まれているスラム地域で活動することには、全く違う何かがあります。


「自分たちを事業の外に置く」

SI:あなたはなぜスプラッシュを「自分たちを事業の外に置くことに専念する社会事業」と考えるのですか。

ストウ: 現在100万をはるかに超える数に及ぶINGO(国際非政府組織)が存在するのは、政府が貧困層に対する適切な社会的セーフティネットを設けることに失敗したこと、そして市場が貧困層に適切な消費財を分配することに失敗したことが理由です。そのためINGOはその空白を埋めます。問題は、INGOが一時的なものである慈善活動に頼っていることです。特定のモデル、財源、そして被授与者の下で5年以上も活動している主要な基金、企業、個人はめったにありません。
ですから、INGOは動き回り、寄付を探すことを続けなければなりません。多くの場合、それが意味するのは、INGOはサービスのポートフォリオを拡大する必要があることです。予防接種で事業を開始したあるINGOは、今では女子学校の運営、農業、人権保護活動などを行っています。INGOは成長し続けます。それが意味するのは、INGOは定着し、サービスの提供を始めた地域からずっと離れることはないということです。問題は、生涯にわたる依存関係をつくることが長期的には経済を混乱させることです。スプラッシュの目標は、そのようにしないことです。開発は、公共のものであれ民間のものであれ、現地のスタッフによって成されるものであり、成されるべきです。INGOは、数十年も長居すべきではありません。それは間違った開発です。
自分たちを事業の外に置くことを話すとき、スプラッシュのモデルがなくなるのではありません。それは、私たちが地元の団体に所有権を譲渡するということを意味しています。私たちが活動する国には、必ずより良い、より適した、より効率の良い、よりコスト効率の高い当事者がいます。私たちの仕事の一部は、彼らに光を当て、向上させ、ある意味では彼らをよりプロフェショナルにすることでプロジェクトをより長く継続させ、そこから離れることです。
私たちの目標は、ターゲット層の100%に到達することです。例えばカトマンズでは、目標は市内650のすべての公立学校に安全な水があり、すべての生徒が綺麗に手を洗うことです。その目標を実現するためには、政府が責任を持って引き受けることが必要です。そして、私たちがつくり出すチームにはプロ意識が必要です。それを持続可能にし規模を維持するためにINGOが不要な理由は、この仕事を引き受ける他のさらに適した当事者を私たちは探し続けるからです。それが「自分たちを事業の外に置く」という言葉が意味することなのです。


SI:水の正義に関する限り、未来はどのようになるのでしょうか。

ストウ: 長期的には、私はかなり楽観的です。私は年単位では考えないようにしています。私たちが成し遂げた進歩は、今後100年間で起こることに比べればとても小さなものです。人々に水を届けることはそれほど複雑ではありません。それには適切な勇気と資金が必要ですが、家々まで配水管を引き込むことがまだ実現できていないことが、私には衝撃的です。それが明らかに非常に衝撃的なために、私はこの業界にいるのです。私たちが成し遂げたすべての社会的な、社会資本の、組織上の進歩があったので、人々が、貧しい人や裕福な人が、その間のすべての人が綺麗な水を使えるようにすることは、実際にはそれほど難しいことではありません。私は確信しています。水の乏しい地域に関して、私はおそらくナイーブなのかも知れません。私は、人々は水の乏しい地域からより水が豊富な地域に徐々に移住する必要が出てくると思います。そのため私は楽観的ですが、それは私が生きている間ではありません。


詳しくは次を参照: www.splash.org