現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2006年 12月 開発への架け橋としての健康

開発への架け橋としての健康

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エバ・ボージョンによるウィレム・バン・デ・プット氏へのインタビュー

『ヘルスネット・インターナショナル(HNI)』と『異文化間の心理社会的な組織(TPO)』との合併によってできたオランダの非営利組織『ヘルスネットTPO』は、戦争や災害や貧困によって荒廃し、資源が完全に枯渇してしまった地域--薬もなく、病院もなく、経験を積んだ職員もいない地域--で健康管理活動を展開している。
一緒に活動してはいるものの、HNIは健康管理システムの強化と、伝染病の予防や診断や治療に焦点を当てる一方、TPOは戦争と災害による心理的な影響について調査し専門的技能を提供している。代表者のウィレム・バン・デ・プット氏は、医療人類学を専攻し、カンボジアの集団トラウマとリハビリについて調査を行ってきた。彼は、カンボジアでの正義の追求を題材としたオランダのドキュメンタリー『死の助祭』の共同制作者でもある。
エバ・ボージョンがオランダ・アムステルダムのヘルスネットTPO本部で彼にインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI):ヘルスネット・インターナショナルは1992年に『国境なき医師団』オランダ支部によって設立されました。どのようなことを達成しようとしていたのですか。
ウィレム・バン・デ・プット:災害や戦争の後、『国境なき医師団』のような組織は最悪の状況を緩和するために援助を提供します。しばらくすると、こうした緊急援助は必要とされなくなり、退去を迫られます。あまりに長期にわたって緊急支援を続けていると、依存症候群につながるからです。資格を持った地元の医療関係者は、緊急援助が行われている間は仕事がないため引っ越していきます。国際的な救援団体が立ち去った後、健康管理システムは崩壊します。国境なき医師団がHNIを設立したのは、人道支援と、健康管理分野の可能な限り早い復興に向けた構造的支援とのギャップを埋めるのに貢献するためです。
バン・デ・プット氏は、特に精神医学的な治療がほとんど行われていない低所得国において、心の健康管理を実施することがなぜ重要であるかを説明した。「精神科医はジンバブエには1人、カンボジアには8人しかおりません。ということは、不安障害やうつ病などを抱えた人々に対して医療が行われないということです。もしどこかに大規模な貧困があり、それが長期間の戦争と結びつくならば、心理的な損傷は途方もなく大きくなります」?
人権侵害、レイプ、暴力、誘拐は、日常生活を送る能力を深刻に阻害する深い傷跡を残すこともある、と彼は説明した。こうしたトラウマは、国家を再建し発展させるのを困難にしている。
プット:トラウマの問題に取り組むプログラムを確立することが肝要です。当初、それは認められませんでした--あるいは単に否定されました。私たちがそれに注目してきたせいもあり、この状況は過去10年間に変化しました。
こうした国々の健康管理システムは非常に脆弱であるため、西側諸国のやり方で心の健康管理システムを確立するのは非実際的です。あらゆる個人的な問題に対処するために専門医に電話をかけることはできません。そのようなわけで、私たちは地域社会に密着したプログラムを選択したのです。心の健康管理は、すでにある保健医療の構造の中に組み込まれ、地方の医者や看護師や助産婦が、情緒的な問題や精神医学的な問題を認知してそれに対処することができるように訓練を受けます。深刻なケースや稀なケースでは専門医に紹介されます。伝統的な治療家、村の長老、先生、僧侶のような、地域社会において鍵となっている人々も、問題を認知できるように訓練を受けるほか、自助グループにも特別な支援が与えられます。
地域社会に密着した心の健康管理を実施するもう一つの理由は、その個人がどの程度苦悩を味わっているのか分からないことがよくあるからです。異質な文化が相手であり、私たちと同じように人々が自分のことを気遣っているわけではありません。自分の問題について誰か他の人に一対一で話をするのは、彼らにとって奇異なものに感じられるでしょう。なぜなら、こうした問題は外部の世界に、他の人々に関連しているからです。人々を一つの集団と見なす方がより実際的であり、本質的により良いでしょう。地域社会を、人々の結びつきを、戦争によって破壊された信頼を、修復しようと試みるのです。これこそが、復興を開始できる前に人々が必要としているものです。
SI:カンボジアでは、非常に困難な状況だったにちがいありません。
プット:戦争の後遺症として猜疑心が生じます。猜疑心は常に問題となります。そのようなわけで、「健康」が格好の出発点となります。健康の大切さについてはすべての人が同意できるからです。
SI:ヘルスネットTPOはどの国で活動しており、それはどうやって決められるのでしょうか。
プット:現在は19カ国にいます。アフガニスタン、パキスタン、カンボジア、インドネシア、東ティモール、大湖沼地帯にある多くの中央アフリカ諸国、そしてコンゴとスーダンで、最も活発に活動しています。
一部の国々には、要請を受けなくても出向きます。要請を出すような政党や組織が残っていないからです。地震後のパキスタンのようなケースでは、心の健康に関して援助してほしい、疫病の発生を阻止してほしいとの緊急要請がパキスタン保健省と世界保健機構(WHO)から届きました。疾病管理もヘルスネットTPOの重要な部分になっています。戦争と健康管理システムの崩壊のせいで、マラリア、HIV/エイズ、結核のような病気が抑止されなくなり、蔓延することがあります。
バン・デ・プット氏はさらに、紛争前には特定の病気が根絶されていた国で起こる悲劇の一つは、戦争によってその病気が再発することであると語った。戦時中に都市郊外で農作物を栽培することが安全でなくなれば、都市の中で菜園をつくることになる--しかし野菜に水をかければ、蚊とマラリアがやってくる。マラリアは25年間、コンゴの都市部では見られなかったが、今では再発生している。
この組織が行っている最大の疾病管理プロジェクトの一つは、アフガニスタン全域とパキスタンの一部でのマラリアと結核の管理である。ヘルスネットTPOは、蚊帳を広範囲に配布しているほか、マラリアと戦う新しい予防手段や治療手段を開発中である。
SI:どのようにして新しい健康管理システムの構築を始めるのですか。
プット:地域社会と密接に協力しながらプログラムが策定されます。私たちは、知識、方針決定、技能訓練、資金を提供して医療従事者を支援し、経営上の助言を行います。さらに必要に応じて、医薬品を供給したり医師を訓練したり病院を建設したりします。
そのようなシステムを構築するとき、戦争がもたらした心理的な結果に必然的に向き合うことになります。人々がひどい精神的外傷を負って誰も信用することができないときは、システムを構築することもできません。戦争が行われた多くの低所得国では、給料は支払われません。そのため、そうした国に残った医療関係者は、薬のない診療所や病院ではなく、わずかな収入を得るためにしばしば自宅の診療所で働きます。ですから私たちは、何時間働くつもりかを確認しながら彼らと契約を結び、その国で生活するのに必要な額を算定して給料を支払います。
約束が尊重され給料が支払われることが証明されれば、信頼が取り戻されます。彼らは十分な収益の上がらない自宅の診療所を閉じることができることを嬉しく思います。契約書があれば、先がどうなるか分かります。医療関係者はもっと上達するよう訓練を受け始め、診てもらいに来る患者が増えます。かつては、お金がもらえない限り誰も訓練を受けたいと思いませんでした。
ヘルスネットTPOの支援によって確立されたシステムでは、人々は自分が受ける医療のためにいくらか支払わなければならない。この方法は当初批判されたため、私はそれについてもっと聞きたいと思った。バン・デ・プット氏は、人々が自分の受けた医療行為のために支払えば、施しを受けることはなくなり、より質の高い医療を要求できるようになると説明した。さらに、ごくわずかであれ、余ったお金を健康管理のために費やせるようになる。彼は続けてこう述べた:
私たちは最初、人々がその時点で医療費としていくら支払っているかを徹底的に分析します。実際に、私たちが行くところどこでも、貧しい人々は想像以上に大きな額を支払っています。私たちはこう尋ねます。「なぜあなたは貧しいのですか」と。しばしば、健康管理が非常に悪いせいです。病気の子供がいれば悲惨なほどの大金を支払うことになり、決して抜け出すことのできない貧困のサイクルに陥ってしまいます。
彼らはしばしば、非常にばかげたことにお金を使います。伝統的な治療家のことを言っているのではありません。本当にばかげていることに比べれば、伝統的な治療家はしばしば素晴らしいことを、良い仕事をしています。本当にばかげているというのは、例えば、市場に行って高価な錠剤を買うことです。このようなことがアジアやアフリカだけでなく、ラテンアメリカでも行われています。貧しければ貧しいほど、このようなことを行います。アフガニスタンでは、その額が1年で1人当たり29ドルに上りました。私たちは彼らにこう言います。市場に行く代わりに病院に来て、診察料として1ドルと、薬代として1.5ドル支払い、もし効かなければ、また来てもいいですよ、と。
SI:現在、カンボジアではどのように健康管理が行われていますか。
プット:様々な組織からの後押しもあり、1990年代に国土の80%において国家の基本的な健康管理システムが徐々に確立されました。3,000人から5,000人ごとに一つの診療所があります。2万人から6万人ごとにベッドを数台備えた少しだけ大きな診療所があります。さらに15万人から20万人ごとに地区病院もあります。このようにして、通常の状況下であれば十分に用が足りると計算された施設が導入されていきます。
国中いたるところで、施設がほどよく分布しています。職員には給料が支払われます。医療の質の検査や、全国的な予防接種計画、母子の健康のための追跡調査があります。
このプロジェクトは最近、アジア開発銀行のオーストラリア評価チームによって審査されました。その数値が示していることは、健康管理システムの利用者は4倍に増え、健康管理に費やす金額は40%減少したということです。この結果を受けて、オランダのアグネス・バン・アルデンヌ開発協力大臣は、健康管理を組織化することによって、どれだけ貧困と直接戦うことができるかという模範例がついに示されたのは良いことだと述べました。
これは不安定な地域でも可能であるということが分かってきています。アフガニスタンでもうまくいきますし、ブルンジやコンゴなど、何を達成するにしても困難だと言われている国々でもうまくいきます。私たちが明らかにしようとしているのは、それが単に貧困と戦うだけでなく、紛争防止にも寄与することが証明されているということです。自分自身の健康管理システムのために支払うとき、人々は責任を分担し、守りたいものを見つけることになります。
SI:物事が順調に進み始めたら、あなたがたは立ち去るのですか。
プット:いつもそうするよう心がけています。アフガニスタンとカンボジアでは、診療所を地元の人々の手にますます委ねようとしています。私たちはそれでも、どのような状況になっているのかを確かめるために、ついていこうとします。全体的に彼らはかなりよくやっています。私たちは検査と収支のシステムを構築して、地元のグループが管理者としてできる限り早く私たちに取って代わるようにします。
SI:アフガニスタンではどのくらいの地域で健康管理が機能していますか。
プット:ナンガハルとその周辺州の各地では、あらゆるレベルで健康管理が行われています。私たちは今、パクティーア、カピッツァ、カンダハルの一部、そしてウルズガンの小さな地域で構築を試みているところです。そのほかにも、この国で最もありふれた感染症となっているマラリア、結核、リーシュマニア症の予防計画は、国全体を網羅しています。
SI:安全保障と復興のために、外国部隊がアフガニスタンに展開していることについてどう思いますか。
プット:彼ら〔外国部隊〕があらゆる種類の暴力事件の原因であるため、それは復興組織の仕事を妨げることになります。こうした組織の職員が危険にさらされるため、プロジェクトは定期的に中断されなければなりません。そして軍関係者による再建に関してですが、彼らはプロジェクトについてあまりに無知であるため、真剣な方法で貢献することができません。一般人の側にも混乱をもたらします。兵士が壁作りを手伝うとしても、一般人の目には兵士は兵士としか映りません。私たちにとって大きな問題となっているのは、オランダ人兵士の場合です。オランダ人兵士が帰国すると、その地域の農民が私たちのところにやって来て、その兵士が約束したあらゆるものを要求します。私たちもオランダ人であるため、私たちが兵士の約束を果たすことができないときでも理解してくれません。私たちに物事を無理やり行わせようとして、職員がよく誘拐されます。オランダ人職員は決して誘拐されませんが、一緒に働いているアフガニスタン人がいつも誘拐されます。これは過去2年ぐらいの間に頻繁に起きています。私たちはこれを避けるため、兵士が少なくとも1年いた地域からは離れたところに滞在します。自分自身の安全のために、アフガニスタンではどこの国の軍人であれ、軍人とは決して接触しません。外国の軍隊は人気がないからです。
軍の展開に要する費用のごく一部を当てるだけで、アフガニスタンの人々が彼ら自身の世界を再建するのを手伝う諸計画を開始することができます。私たちは1993年以来ずっと、健康管理の発展のためにここで働いてきましたので、タリバン政権の出現前、統治下、崩壊後でも、「危険地域」でこれを実行する方法を見いだしました。
SI:あなたは素晴らしい仕事をしていますが、行われなければならないことはあまりにも多くあります。どうして楽観的でいられるのですか。
プット:他の人々のために働いているという感覚を私は一瞬たりとも抱きません。それはまさしく、私が行いたいと思っていることなのです。どこに到着するよりも、毎回オランダに戻るときほど衝撃的で困難なことはありません。ここで人々が関心を抱いていることを知るとき、私はほとんど信じることができません。向こうでは途方もない力強さで良いことが起こっており、自分がその一部になれるのは素晴らしいことです。人々がどれだけ強いかを、そしてあらゆる種類の災難をどのように切り抜けていくかを、目の当たりにするのです。

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