現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2015年 2月 愛に国境はない

愛に国境はない

ジェイソン・フランシスによるエンリケ・モロネス氏へのインタビュー

「国境の天使(Border Angels / Angeles De La Frontera )」は、カリフォルニア州、サンディエゴを拠点とする非営利団体である。この団体は、主にインペリアル渓谷砂漠とサンディエゴ周辺の山間部を通りアメリカ・メキシコ国境を越える証明書のない(「不法」)移民の不必要な死を止めようとしている。
エンリケ・モロネス氏は「国境の天使」の創設者であり常務理事である。彼はアメリカ・メキシコ国境の両側における人権の擁護者であり、国境活動の活動家と団体の擁護者である。彼は『一つの力: 国境の天使の物語(The Power of One: The Story of the Border Angels 〔2012〕)』の共著者である。ジェイソン・フランシスが、シェア・インターナショナルのためにエンリケ・モロネス氏にインタビューした。
最初の種を蒔く

シェア・インターナショナル(以下SI):あなたは何をきっかけとして国境の天使を創設されたのですか。
エンリケ・モロネス:「国境の天使」の始まりは、1986年に、私が貧しい人々のために支援物資を集めているのを知っている、とある友人に言われたことがきっかけでした。彼女は「ノース・カウンティのサンディエゴ地区の貧しい人々はどうなのですか」と尋ねました。私がそこは非常に裕福な地域だと思うと答えると、彼女は「その地域には、渓谷に住む移民がいますよ」と言いました。
そのため私は、1986年にその渓谷地帯に行き始めました。地球上で最も強力な経済大国でこのような状況で生きる人がいたことが信じられませんでした。私はそこに住む移民の兄弟姉妹に食べ物や水を届けることを始めました。当時は私たちのグループに名前がありませんでしたが、多くの人が興味を持ってくれました。このようにして最初の種が蒔かれたのです。

SI:世界には、証明書のない*移民はどのくらいいるのでしょうか。
モロネス:国連によると、世界には約2億5,000万人の証明書のない人がいます。アメリカには、1,150万人の証明書のない人がいます。その内の約3分の1は、就労ビザ、学生ビザ、観光ビザを取得することができて、ヨーロッパやアジアからこの国に来ました。彼らはビザの失効後もアメリカに滞在しているのです。
残りの3分の2は南の国境から来た人々であり、有効なビザの資格を持ちません。彼らは可能なあらゆる方法で国境を越えます。1994年に門番作戦の壁(Operation Gatekeeper、アメリカ・メキシコ間の国境壁)が築かれて以来、国境を越えてアメリカに入ろうとした1万人以上の人が亡くなりました。彼らは、砂漠、山岳地帯、水路など、過酷な地域を通過したことが原因で亡くなっています。これは非常に悲惨な状況です。ほとんどの人は、このような状況を知りません。ほとんどの人は、合法的に入国する方法がないことを知りません。「ただ合法的に入国すればいいのに」と言うことはフェアな議論ではありません。合法的な方法はないのです。
私たちは、死亡した1万人の中でマルコ・アントニオ・ヴィラセノアのような子供の話をしています。彼は5歳の子供で、2003年に父親と一緒にテキサス州、ビクトリアで国境を越えました。国境を越えるとき、マルコは父親に水を求めました。父親はマルコに水を与えようとしませんでした。マルコは次の人に、そしてその次の人に水を求めました。マルコは18人の人に水を求めましたが、誰も小さな男の子に水を与えませんでした。なぜでしょうか。彼らはもうすでに亡くなっていたのです。そしてマルコ・アントニオ・ヴィラセノアも亡くなりました。人道的な移民制度の刷新がなければ、毎日人が亡くなります。

SI:「国境の天使」では、アメリカに入国する証明書のない労働者の死をどのように防ごうとしているのですか。
モロネス: 「国境の天使」は、1986年に創設され、私たちは砂漠に水を置くキャンペーンを始めました。(ボランティアが砂漠に入り、移民者たちが通常通るルート沿いに、水を入れた19リットル缶やポリタンクを置きます)。 私は本当に多くの過激な右寄りの(ラジオやテレビの)番組に出演しました。すると人々は、「あなたが行っているのは不法入国の援助や幇助じゃないですか」と言いました。私は答えます、「いいですか、私はこれを30年も続けていますが、水を得ようとして越境しようとした人は一人もいませんよ。彼らは職を得て家族を養うために、家族と共にいるために、もう1日生き延びるために国境を越えようとするのです」。だから、私たちは砂漠に水を置いているのです。
そこで私たちは「ノーモア越境(Nomas crucesまたはNo more crosses)」という大規模なキャンペーンを何年も前に始めました。私たちは、人が砂漠を横切り生命を危険にさらして欲しくないと考えています。十字架の墓標をこれ以上増やしたくないのです。私たちはまた、愛する人を失った実際の体験談を示す重要な教育キャンペーンを実施しています。それによって、危険を冒す誘惑に駆られた人々はこう言うことでしょう。「こんなに危険なものだとは知りませんでした。私は自分の生命を危険にさらしたり、子供を見ず知らずの人に委ねたりしたくはありません。アメリカに行く途中でたやすく死んでしまうかもしれないのですから」

SI:「国境の天使」は、援助拠点を何カ所設置したのですか。それらはどこにあるのでしょうか。
モロネス: 私たちは文字通り何千カ所もの拠点を設置し、他の約20のグループが、同じように援助拠点を設置しました。私たちが始めたとき、私たちはそうした最初のグループの一つでした。今では、これを行う多くのグループが他にもあり、ありがたいことです。彼らはカリフォルニア州、サンディエゴからテキサス州、ブラウンズビルまで、アメリカ・メキシコ国境のあらゆる場所で活動しています。私たちは主にサンディエゴ郡に集中していますが、アメリカの南側国境の4州すべてとメキシコの国境の6州で援助拠点を設置しました。

SI:アメリカ・メキシコ国境を違法に越えてアメリカに入国する証明書のない移民は、1年に何人くらいでしょうか。
モロネス: 毎年40万回の越境があります。これは、40万人の人が国境を越える訳ではありません。この人数には、何度も国境を越える人が含まれます。国境を超える人は約15万人です。メキシコ人の移民は劇的に減少しました。メキシコ人は、認証を得ずに国境を越える人々の最大のグループではなくなりました。過去4年間で状況は変わりました。今では、国境を越える人々で最も多いのは、中央アメリカ諸国の人々です。この人数には、今では子供も含まれます。子供の人数は、5,000人から2万5,000人へ、そして今では6万人以上に増加しました。

なぜ人々は国境を越えるのか

SI:先進国への移民において、不平等と貧困はどのような役割を演じていますか。
モロネス:人々は、ある種の機会を求めて国境を越えます。アメリカに行く場合、それは主に家族を養うために仕事を求めているのです。世界の他の地域では、人々は抑圧、暴力、戦争から逃れるか、宗教的な自由を求めています。
このような人々はアメリカにも来ていますが、アメリカへの証明書のない移民は、主に三つの理由で来ます。1番目の理由は経済的な機会です。彼らは家族を養いたいのです。2番目の理由は、すでにアメリカに住む家族と一緒にいたいと思う場合です。家族が共に暮らすことは普遍的な人権です。そして3番目の理由は、中央アメリカから子供の難民が来る場合のように、暴力から逃れることです。彼らは生きたいと思い、飢餓や死の脅威から逃れたいと考えます。
人々の出身国が、この状況で大きな意味を持ちます。そのため私は、自国で人道的なビザが適用可能になるように「そこではなくここ(Here, not there/Aqui, no alla)」と呼ばれるキャンペーンを提案しています。その場合、NGOがより影響力を持つようになるだろうと思います。そして、息子が殺されるかも知れない状況から逃れたいと考えたときに、人が毎日亡くなっている中で危険な旅をする必要がないと知ることでしょう。
またアメリカは、これらの国々にさらに多くの援助を提供することが可能でした。以前に国境警備隊員であり、テスサス州の連邦議会議員であるヘンリー・キューラ氏は次のように語りました。「これらの国々は『10億ドルクラブ』に入る必要があります。ラテンアメリカには『10億ドルクラブ』に入っている国はありません」。彼が述べているのは、アメリカから毎年10億ドルの援助を受けている国のことです。アメリカはラテンアメリカではそれを行っていませんが、中東ではそれを行っています。今こそ、アメリカがラテンアメリカ政策に関して説いていることを実践し始め、ラテンアメリカ諸国を援助することで、経済的な機会とより良い安全保障をさらに発展させるようにする時です。

神話を覆す

SI:証明書のない移民に関して、アメリカではどのような神話がありますか。
モロネス:多くの神話があります。主な神話の一つは、人々が入国できる手段があるというものです。「彼らは合法的な方法で入国すべきである」。私たちは皆この言葉を聞いたことがあります。合法的な方法は存在しないのです。ほとんどの人にとって、手段はありません。彼らはお金を用意できないので、ビザの要件を満たさないのです。選択は今の場所で死ぬか、より良い生活を探し求めるかです。
「この国は法治国家である」という神話があります。ほとんどの国は法治国家ですが、この国の法律をいくつか見てみましょう。児童労働、投票権のない女性、奴隷などです。これらはすべて過去にこの国の法律だったもので、倫理に反していたので違法とされたのです。現在、アメリカに入国しようとする人が毎日2名死亡しているのは倫理に反することであり、この状況をつくり出している法律を非合法化する必要があります。
そしてもう一つの一般的な考え方は、証明書のない移民は税金を払わないというものです。店に入り、あなたのすぐ前の人がスペイン語を話しており、店員さんが次のように言ったのを最後に聞いたのはいつのことでしょうか。 「あなたはスペイン語をお話しですね。身分証明書はお持ちですか、お持ちでないですか。もしお持ちでなければ、この商品に対して税金を払う必要はありません」。もちろん彼らは税金を毎年何10億ドルも支払っています。
また別の頑固な考え方は、証明書のない移民は犯罪者であるというものです。米国司法省によると、証明書のない移民が残りの人々に比べて犯罪者である確率は10分の1です。彼らは目立たないようにしたいのです。もし彼らが犯罪者なら、そして中には犯罪者もいるのですが、どうして国境を越えてアメリカに入国し、犯罪を犯そうとするのでしょうか。アメリカで証明書のない人が犯した犯罪があった場合、それはたまたま証明書のない人が犯した犯罪です。犯罪行為は、証明書を持っているか否かとは全く関係がありません。

SI:私たちが話したような神話を覆すために、「国境の天使」はどのような教育的活動に取り組んでいますか。
モロネス: 私たちは国中に出向き、ディベートを行っています。また、学校に対して教育的支援活動も行っており、そこでは現実と神話を対比させた話をしたり、一緒に話してくれる人を招待しています。世界中から学生のグループが訪れて、4、5日掛けて国境に一緒に水を置いたり、日雇い労働者を訪問します。現在、「国境の天使」のカリフォルニア州、サンディエゴ事務所の二人のインターンは、私が昨年講演を行ったケンタッキー州のベレア大学の出身です。ベレア大学は、アフリカ系アメリカ人や女性をアメリカで初めて受け入れた大学です。ベレア大学の学生たちは、私の講演に大きく反応してくれて、そのためここに来て、夏の間中私たちと共に活動しました。彼らは素晴らしかったです。私たちは世界中からインターンを受け入れており、一緒に活動の時間を過ごしています。

影の存在からの脱出

SI:あなたは人道的な移民制度の刷新の必要性について話されました。移民を援助するために、アメリカ政府はどのような法律を可決する必要があるのでしょうか。
モロネス:現在は、所得水準と各国から受け入れ可能な人数制限に基づき、現在ビザの要件を満たす人はほんの少数です。その数は、それを最も必要としている国々にとって少な過ぎます。すぐ隣のメキシコにとっては、特にそうです。
私はオバマ大統領と話をしました。私たちが話したことはこうです。オバマ大統領、どうか議会を忘れてくだざい。議会は当てにならないので、助けにはならないでしょう。方針を決めるような行動を取ってください。国外追放をやめましょう。若年入国者に対する退去措置延期(DACA, Deferred Action for Childhood Arrivals)を強化しましょう(2012年に開始された政府のDACA政策は、アメリカに子供の時に来た証明書のない若い移民に対して、国外追放を免除し就労許可を与えた)。ドリーム法(外国人若年層の人材開発・支援・教育の法律、DREAM Act(Development, Relief, and Education for Alien Minors)を強化し、農業労働者に証明書を与えましょう。アメリカで最も強力な州であるカリフォルニア州の第1の産業は、農業です。その労働者の80%は証明書のない移民です。
移民たちは身分証明書を得て、影なる存在から抜け出せることを望んでいます。私たちは、このような人々が誰であるか知る必要があります。彼らを制度の中に迎え入れましょう。彼らは住民に、おそらく市民になりたいのかも知れませんが、彼らに身分証明書を持たせましょう。証明書を持つ人と市民の唯一の違いは、証明書を持つだけの人は投票できないということです。彼らは税金や他のすべての支払いを行っています。

SI:オバマ大統領は、2014年10月20日に移民制度に関して行政上の決定を行いました。この行政上の決定に関して、コメントをいただけますか。

モロネス:10段階評価で、可能なことはすべて実行する大統領を10だとすると、私は彼に7.5をあげたいと思います。オバマ大統領は強制送還を停止し、証明書のない人の3分の1を少し超える数、つまり約400万人に機会を与えようとしています。私たちは、それが500万人を少し超える位の人数になることを期待していました。これは、このような人々全員に身分証明書を持たせるということではありません。ちょうど2012年のDACAの時のように、躊躇する人もいるでしょう。名前がリストに載ることを嫌がり、資格があるのにもかかわらず身分証明書を取得しない人もいるでしょう。そして突然、共和党の大統領になり、これらの法律が撤回されるかもしれません。私は非常に嬉しいのですが、オバマ大統領が行ったことは、400万人の人々にとって、ほぼ間違いなく人生を変えるものになるでしょう。この数字は1,100万人に対して相当な割合であり、3分の1以上です。それは私たちが望むすべてではありませんが、大きいものでした。

SI:何か他に付け加えたいことはありますか。

モロネス: 私たちを援助してきたすべての人に対して、感謝の意を表したいと思います。そして私たちの子供たちのために、より一層の援助が必要です。より多くのボランティアと寄付が必要です。憎しみを乗り越えられる唯一つの方法は愛であると、私たちは知っています。「国境の天使」の本部で、家族のお世話をしたり子供たちを包み込み愛することで愛が毎日表現されているのを見るのは嬉しいことです。これらの子供たちは、私たちすべての子供たちです。私たちは、自分が以前は子供であったことを忘れてはなりません。

*「証明書のない移民(Undocumented immigrant)」: 2007年以降、多くの国で『不法移民(illegal immigrant)』という言葉の使用を奨励しないキャンペーンがあった。それは主に、移民行為は違法である場合もあるが、人そのものは違法ではないという議論に基づいている。アメリカでは、2010年に「Iで始まる単語を使わない」キャンペーンが開始され、国内に違法に(il-legally)居住している外国人に言及する際に、「証明書のない移民」、「許可されていない移民」などの用語の使用が推奨された。
(定義の出典: Drop the I-word Campaign)


詳しくは以下のURLを参照:
www.borderangels.org