現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2010年 5月 小さなレオナルドたち

小さなレオナルドたち

ヤン・ヘンドリックス氏へのインタビュー アンドレア・ビストリッヒ

?

「もっとも高貴なる楽しみは、理解する喜びである」
──レオナルド・ダ・ビンチ

?

?

オランダの子供の約2.5%は非常に優れた才能を持っている。現在の教育システムにおいてはその能力が考慮されないため、多くの子供が学校で退屈している。その結果、学習困難、行動障害、社会情緒的な問題など一連の好ましくない状況が生じている。IQ(知能指数)130以上を入学条件とするレオナルド学校は、こうした子供たちにその才能に見合う発達を促すような教育を提供している、と創設者であるヤン・ヘンドリックス氏は説明する。アンドレア・ビストリッヒがシェア・インターナショナル誌のために彼にインタビューを行った。

?

?

シェア・インターナショナル(以下SI):今日の子供たちはより聡明で知的でしょうか──おそらくはずっと賢いのでしょうか。

ヤン・ヘンドリックス:一般的に言って、今日の子供たちは実際により知的になっていると思います。多様なメディアとそのメディアが伝える事実により、子供たちの世界は拡大しました。自分の子供時代のことを振り返ると、私たちは身近な環境以外の出来事についてそれほど認識しておりませんでした。今日、これは異なっています。子供たちはより多くの刺激と印象を受け取るため、一定の事柄について20~30年前と比べてずっと早くから思考し自分の意見を形成します。

?

?

SI:あなた自身が長い間教育システムにかかわり、退職間際に非常に高い才能を持った子供向けの教育概念を開発し始めました。何によってそうするよう促されたのですか。

ヘンドリックス:私は33 年間校長を務めて2005年に退職した時、果たすべき任務があることに気づきました。かつてある2年生の先生が、校長や教師という立場にあった私に助言を求めたことがありました。クレメンス君──最高得点を取っていてもおかしくない児童──が書き取りの問題で妙な間違え方をしていました。この書き取り問題において、10個の文のそれぞれに間違いが見つかりました。不思議なことに、正しくない単語は大文字で書かれていました。私はクレメンス君の両親に話す決心をし、放課後につづりのテストを行う許可を求めました。50語を順に書いていくこのテストは1年生から6年生向けに作成されたものでした。それはcatや moonのような単純な単語で始まり、electricianのような単語で終わっていました。50語のうち、クレメンス君は48語を正しくつづりました。クレメンス君は2年生で、つまり5歳の年齢で、子供たちが小学校の最終学年の6年生で到達することが期待されるレベルにすでに達していたのです。
その時に私が当初考えたことは、その子がすでに知っていることを学校で一日中習わなければならないというのはその子にとってどんなものだろうか、ということでした。そのような考えがずっと私の頭の中にあり、それは年月を重ねるにつれて、非常に優れた才能を持つ子供向けの実際的な教育概念へと発展していきました。

?

?

SI:どのような場合に、非常に優れた才能を持っていると言うことができますか。

ヘンドリックス:非凡な才能を持つ人々を支援する分野の指導的研究者であるアメリカの心理学者ジョセフ・レンズリ氏は、「三つの輪のモデル」において知性と創造性と動機の組み合わせについて描写し、それらが一緒になって非常に優れた才能を持つ人々を生み出すとしています。つまり、知能指数130を超えるような非常に高度な「知性」、非常に優れた才能を持つ人々と一般の人々を見分ける基準となる「創造的な思考」、そして、目標に向かって着実に歩んでいく姿勢や、満足のいく解決策が見つかるまで仕事や疑問にこだわりつつ仕事を完遂するスタミナとして主に表現される「動機」のことです。
問題は、こうした三つの基準が通常の教育においては見られないことです。類稀な才能もこうした子供たちの知性も考慮されません。それどころか、彼らは自分たちのレベルより5年か6年下の内容に直面することになります。彼らは独創的に考えることを要求されません。授業の間は知識を吸収したり、後で必要な時に思い出すことができるように知識を記憶として蓄えたりすることに強調が置かれているからです。時が経つにつれて、彼らの動機と着実性は薄れていきます。授業では全く努力をする必要がないからです。

?

?

SI:非凡な知性をどのようにして評価することができますか。

ヘンドリックス:一般的な知的能力や特殊な知的能力を測る、いわゆる知能テストがあります。もし知能指数つまりIQが130以上であれば、その子供は類稀な才能を持っている可能性が高いです。
類稀な才能を持つ子供であることを示す、幼いうちから現れる一連の特徴もあります。例えば、非常に優れた才能を持つ子供たちの中には、はいはいの段階を飛ばして、はいはいすることなく突然歩き始める子供もおります。別の特徴は、非常に早い年齢から話し始めたり、そうでなければ、非常に早い年齢からアンコンタクトを取り始めたりすることです。6週目か8週目ですでにアイコンタクトを取る赤ちゃんもおります。早い年齢から難しい言葉を使うことも例外的な知性を示唆している可能性があります。特に抽象的な言葉、「信頼」や「責任」のような概念を使う場合です。こうした子供たちは同年齢の子供たちに「異質だ」とか「変わっている」と思われることがよくあります。なぜなら彼らは同年代の子供たちが思いも寄らないことについて思索し、言葉で表すことができるからです。彼らはその年齢の子供たちには全く稀な、非常に深みのある質問をすることもあります。

?

?

SI:あなたはここまで彼らの知的能力や認識能力について話してくださいましたが、こうした子供たちの情緒的発達についてはいかがでしょうか。

ヘンドリックス:4歳の年齢では、彼らの情緒的、社会的発達は4歳の子供と同じです──8歳から10歳の子供に相当する知性を持っていたとしてもそうです。これは彼らにとって困難な状況をつくります。彼らは一方で認識能力に関しては同年齢の他の子供のはるか先をいっており、年上の子供と関わり合うことができることも多いのですが、同時に、同じ年齢の子供たちと一緒にいたいという情緒的、社会的な必要も抱えています。私はレオナルド概念を用いて、こうした子供たちがその特殊な発達のために直面する問題や困難を解決するのを手伝いたいと思っています。

?

?

SI:あなたはご自分の教育概念の名称をレオナルド・ダ・ビンチと関連づけておられます。どうしてですか。

ヘンドリックス:2005年に私は非常に優れた才能を持った子供たちのために、ベンロ地域で一連のプロジェクトを組織し、それを「レオナルド・プロジェクト」と名付けました。レオナルド・ダ・ビンチは歴史上最も多芸多才な天才です。彼はおじのフランチェスコの導きの下に、何の妨げもなく自分の周囲の環境を自由に探索することができました。フランチェスコはレオナルドにいつも付き添って興味深いものを見せてあげるとともに、巧みに質問を投げかけて自分の甥の自然な好奇心を刺激したのです。
レオナルドは「オールラウンドの天才」でした。画家、彫刻家、建築家、解剖学者、機械工、技師、自然哲学者などでした。これは私の理想でもあります。人々を一つの知識領域に限定するのではなく、幅広い包括的な発達を促すのです。このことを念頭に置いて私はある美術プロジェクトを開始し、子供たちが半年間現代美術に関わることができるようにしました──これは学期中に行われました。週の特定の日に彼らは学校に行く代わりに美術館に行きました。そこでポップ・アートやコブラ、表現主義、シュールレアリスムなど現代美術の多くの流れについての理論に耳を傾け、特定の流派に関連して絵を描いたりスケッチを描いたりしました。そこでは美術館がどのように機能しているかを学んだり展覧会を開催する方法を学んだりもしました。プロジェクトの最後には作品を共同展覧会に提供することになっていました。プロジェクトの一環として美術家を訪問し、その美術についてインタビューも行いました。なぜ絵を描くのか、作品をどのように制作するのか、作品にはどんなアイディアが込められているのか、などの質問をしました。子供たちは最後に画廊を訪れ、絵の価格がどのように決まるのかを学びました。全体的に見て非常に包括的で実際的なプロジェクトでした。
もう一つの例は文芸プロジェクトで、16人の子供が1年間、学期中の毎週水曜日に公立図書館を訪問しました。子供たちはこの時間に自分たちで本を書く機会を得ました。最初は児童書の著名な作家を交えた一連のワークショップから始めました。作家たちはどのようにして、なぜ作家になったのか、書いている間にどんなアイディアを抱いてたのかについて説明しました。上手に描くことができる何人かの子供は本のイラストを描きました。当時私はプロジェクトの終わりにすべての本を印刷する後援者として印刷機を手に入れていました──子供一人ひとりが、自分たちで執筆しイラストを描いた65冊の本を受け取りました。
子供とその親たちは感激しました。この1日の活動のおかげで学校でその週を生き延びているだけだと言う子供もおりました。その時、私はまる1週間この種の教育を子供たちに提供すべきだと考えました。それが私の目を開かせることになりました。私たちはただ、既存の方法の中で子供を見て、既存のシステムに組み込もうとすることに慣れているだけなのではないか、と。しかし、子供たちが一般とかなり違っているとき、私たちはその子供を現在の教育システムの中へと押しやることができません。その子供に合う方法やシステムを採用しなければなりません。これがレオナルド概念に関して私が行ったことです。始めた時はどんな子供たちなのか、どんな能力や潜在力を持っているのか、彼らの必要を満たす教育方法を開発するために彼らはどのように学ぶのかを評価しようとしました。

?

?

SI:「レオナルドの子供たち」は何を学ぶのですか。

ヘンドリックス:こうした子供たちが通常の授業に出席し、飛び級をすると、12歳か13歳で学校を終えることになり、理論的には大学に行くことができます。しかし、12歳の子供は社会的、情緒的に大学には属さないと私は思います。
そのような子供たちが若い年齢で大学に移らなければならない事態を避けるために、レオナルド学校は通常のカリキュラムを超えて週に12の追加コースを提供します。4歳から英語、8歳からスペイン語、10歳から中国語を習います。この三つの世界的な言語はネイティブ・スピーカーによって教えられます。その他のコースは、自然科学、哲学、学習の学習、独創的な起業、統計学、コミュニケーション、美術、ダンス、演劇、音楽、スポーツです。思考訓練も含まれます。
非常に優れた才能を持つ子供たちは特別な能力に恵まれています。高度な知性を持つだけでなく、とりわけ独創的に思考することができます。それが彼らの主要な特徴です。のちの人生において新機軸を打ち立てるような人々です。アインシュタインはかつてこう言いました。「想像力は知識よりも重要である」と。

?

?

SI:通常の学校と比較して、レオナルドではなぜ美術や音楽のような科目に強調が置かれているのですか。

ヘンドリックス:私たちはできるだけ広い発達の領域を提供したいと思っています。こうした科目はプロジェクトに基づいて非常に実際的な方法で教えられます。重要なのは、関連性やつながりを理解することです。例えば、レオナルドの音楽メソッドは最終作品から始まります──私たちはそれを「第3レベル」と呼びます。これは例えば、特定のメロディーのことです。メロディーに関して作曲家はどのような意図を持っていた可能性があるかというような質問をします。彼はどのような感情を表現することを願ったのか。「第2レベル」では、作曲家がどのようにメロディーを形成したのかに焦点を当てます。そして「第1レベル」では、目標は部分的な知識を獲得すること、例えば音符の読み方を覚えることになります。言い換えれば、私たちは音符を覚えることから始めるのではなく、正反対──作曲や曲全体──のことから始めます。最終的に子供たちは自分の作品を作曲し、自分自身で音楽を作ります。
子供たちは全体から部分へと学習を進めます。レオナルド・メソッドは最初に目標の全体像を提示し、次に必要な部分を確認します。

?

?

SI:総体から個別の単位へ、大宇宙から小宇宙へ、ということでしょうか。

ヘンドリックス:はい、そのとおりです。非常に優れた才能を持つ子供が、このようにして自分自身の内側から学んだあと、普通の教育システムの中に突然身を置いたときに何が起きるかの一例に言及したいと思います。ある母親が私に、彼女の娘が早い年齢から一人で読書の仕方を覚えたことを教えてくれました。4歳で小学校に入ったとき※、彼女の能力が評価されました。読みの能力は最高水準のレベル9(3年生)に達していました。彼女は飛び級をして3年生になりました。オランダではこの学年で読みの学習が始まります。普通の方法は子供にアルファベットを教え、アルファベットを組み合わせて単語を作るというものです。M-a-n = man、R-o-s-e = roseというように。彼女の娘もこの方法で練習しました。その結果、彼女の読みの能力は2~3カ月のうちにレベル9からレベル1に、つまり最低レベルに低下したのです。
この例から、一般の学校では、こうした子供は自然に身につけた自分自身の優れた学習システムを放棄し、それを標準的な学習システムに交換することを強いられるということが分かります。時が経つにつれて、これは深刻な問題につながっていきます。彼らは一般の教育システムが自分たちの学習に適していないと感じるからです。

?

?

〔※ オランダの教育制度は4歳から始まる。初等レベル(小学校教育)は4歳から12歳まで行われる〕

?

?

SI:教師は非常に優れた才能を持つ生徒を認知することができるでしょうか。

ヘンドリックス:大概は認知できません。昨年、一般教育研究センターが3,000人の小学校教師に質問をした結果をまとめた包括的な調査書がオランダで発行されました。教師は二つの質問に答えなければなりませんでした。一つは、あなたが受け持つ生徒のうち一人あるいは複数の生徒が非常に優れた才能を持っているとしたら、それを認知することができますかという質問です。質問を受けた85%の教員がいいえと答えました。二つ目の質問は、もし認知できるとしたら、その子供に対して適切な配慮をすることができますかというものです。再び85%の教員がいいえと答えました。

?

?

SI:良いレオナルドの教師はどんな特質を持たなければならないですか。

ヘンドリックス:教師自身が非常に優れた才能を持っていることが理想です。(笑)そうでないとしたら、自分よりも賢い子供たちに対処することができなければなりません。レオナルドの教師の役目は全く異なります──その人は教師というよりも、コーチ、仲間、学習過程を促す者です。
教師は──子供たちと教育メソッドの両方に関して──より多くの自由を許すほどの自信を持つべきです。よい教師は、子供たちが何かを言おうとしている時に注意深く耳を傾けます。彼は寛容ですが、いつ境界を設けるべきかを知っています。彼は正す代わりに促し、励まします。彼のクラスは「安息の場所」であり、子供たちはそこから──校内外の──「世界を探索することができます」。彼は新しい主題を開発し伝達する際には独創的です。ユーモアの感覚を持っており、クラス内の様々なレベルの発達に対処することができます。親と十分に連絡を取り合い、親の手助けや専門知識を活用し、建設的な批判に対して心を開いています。
私たちは現在、ユトレヒト大学と協力してレオナルドの教師のための相応の訓練過程を開発しています。親と子供の両方を含めることが重要です。親は自分の子供についてすでにたくさんのことを知っており、教師が子供にどれほど対処することができるかを判断することができるからです。
レオナルドのシステムはまだ教育省によって認知されておりません。当然ながら私の目標は、レオナルド学校が政府から財政的な支援を受けるようにすることです。そうすれば、教師に適切な給料を支払うことができます。しかし現在のところは、レオナルドの教師として働くには理想主義者にならなければなりません。
何よりも政府に対して印象づけたいのは、もしその潜在能力にふさわしい支援が得られるならば、こうした子供たちが社会に対して及ぼすことになる途方もない恩恵です。政府はもっと投資する用意を整える必要があります。一般の学校の授業料と比較して、レオナルド学校の授業料は約2,000ポンド高くなっています。これは主として、少人数学級
──最大でたったの16人の生徒──を実現しているからです。それぞれの子供が自分のパソコンを所有します。これを可能にするために、私たちはコンピューター会社やその他の大きなテクノロジー企業と提携します。クラスの教師とは別に、さらに5人の専門家がおります。英語、スペイン語、中国語のネイティブ・スピーカーと、チェスの教師、音楽の教師です。さらに、教師がレオナルドで「別の授業」に対して十分に備えることができるように、私たちはより高度な教育や卒業後教育を準備します。

?

?

SI:非常に優れた才能を持つ子供が自分自身のペースで成長していく空間を十分につくってあげることが大切だとあなたは述べておられます。他に何が大切ですか。

ヘンドリックス:レオナルドには三つの鍵となる言葉があります。それは空間、挑戦、喜びです。アイディアを生み出す十分な空間、自分自身であるための十分な空間です。挑戦とは、特別な認識能力を促進する教育レベルを達成することです。喜びとは、学ぶ喜び、学校に通う喜びです。さらに、自分の人生において初めて才能に応じて支援を受けるため、学ぶ喜びが自然に高まっていきます。

?

?

SI:レオナルドの子供たちは──他の生徒と同じように──成績によって評価されますか。成績段階や成績表をもらいますか。

ヘンドリックス:通常の学校制度と比較して、私たちはレオナルドの子供たちをずっと厳しく評価します。成績表は成績段階を集めたものではなく、報告という形で提示されます。その報告においては20%を成績段階によって判断し、80%を学習能力によって判断します。例えば、子供が自信をなくしているならば、レオナルドにいる私たちはその子供が自分への信を培うよう働きかけるでしょう。自信、自己尊敬はレオナルドでの個人的な学習目標になり得ます──独立した思考をするという学習目標や、例えば世界の出来事に関して意見を展開するという能力とちょうど同じように。一つの科目に関して評価されることとは対照的に、人生において明晰であることの方がはるかに重要です。

?

?

SI:レオナルドはオランダにおいて、非常に優れた才能を持つ子供たちにとって最初の機会となりますか。

ヘンドリックス:彼らの先天的な能力を伸ばすことのできる最初の機会です。小学校ではときどき、非凡な能力を持つ子供のための毎週の数学プロジェクトやそれと類似したものがあるかもしれません。しかし、それは週にたったの1回です。一般的な制度の基本的な性質や構造は変わらないままです。現在の教育システムは非凡な能力を持つ子供たちの必要に合わせて適応するのに失敗しています。こうした子供たちにより適応した教育を発達させるためにシステムを変えなければなりません。この点でレオナルドは独特な存在です。

?

?

詳しくは:www.leonardostichting.nl(オランダ)

?