現在位置: ホーム シェア・インターナショナル記事 2006年 10月 修復的司法

修復的司法

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ミーガン・シェラーによるジム・ボヤック氏と
ヘレン・ボウエン氏へのインタビュー

修復的司法は報復や刑罰ではなく、責任能力と被害の修復に焦点を置いた生活共同体ベースの刑事裁判訴訟手続きです。それは被害者と加害者を、周到に準備された会合へ一緒に参加させます。アメリカ、カナダ、オーストラリアおよびイギリスを含む幾つかの国々のコミュニティーと政府機関グループは、修復的司法プロセスを導入しています。2002年、ニュージーランドは成人対象の刑法に、これらのプロセス(措置)や行動指針を組み入れた最初の国になりました。ニュージーランド修復的司法団体の創設者であり、修復的司法に興味を持つグループへ促進用トレーニングを提供する、オークランドのジム・ボヤック氏とヘレン・ボウエン氏の二人にミーガン・シェラーがインタビューしました。
シェア・インターナショナル〈以下SI〉:他の国々と比較して、なぜニュージーランドが比較的早く修復的司法プロセスを導入したと思いますか?
ジム・ボヤック:ニュージーランドは小さく、地域社会志向の国です。マオリ人の地域社会は、この種の司法措置を促進するのに役立ちました。1970年代および80年代に、地域社会の価値観に対する刑事裁判制度の無関心に対する苦情から、青少年犯罪への新しい修復的方法が生まれ、それは1989年に始まりましたが、そこで家族集団談義(Family Group Conferences)を取り入れたのです。1990年代中頃に未成年者裁判での家族集団談義(FGC)の経験から、試験的に特別な方法で修復的司法会議が履行され始めました。ニュージーランド政府は刑事裁判制度のこの有用な付属物を認識し、その結果2002年に修復的司法プロセスおよび修復的合意を考慮した様々な国会制定法が施行されたのです。
SI:過去において実施した、修復的司法システムに類似のものは何かありますか? 同じような地域共同体ベースのシステムを実施している現代文化を知っていますか?
ヘレン・ボウエン:多くの原住民たちは、いつも家族内で、地域共同体のやり方で、物事を解決しています。そのやり方には、太平洋の島の住民やマオリ人の家族の方がより適していると思う人もいるでしょうが、それは地域共同体の問題なのだと私は思います。もし決定に参加する地域共同体を持っていれば、単なる一対一の解決よりももっと良いものが出てくるでしょう。
ジム・ボヤック:マオリ人は、グループとして自分たちの問題を解決するということでは、より大きな生育環境を持っているのです。マオリ共同体では、彼らは「マラエ(会合の家)」を頼りにし、「マラエ」以外の場所では敢えて話さない問題について話すのです。「マラエ」で何が起きようが、外での争いごとの原因となるので、「マラエ」の外へは持ち出さないという約束事があるのです。この修復的プロセスは、単に被害者と加害者が安全で平和な環境の中で問題について話す機会を与えるものです。そうでなければ話す機会を得ないからです。
SI:単に被害者と加害者だけでなく、彼らの家族や友達が参加するということは、良い結果をもたらすに違いありません。
ヘレン・ボウエン:加害者が他の人々と共に来ることを被害者が知ることは、特に重要です。加害者が家族のない孤立した人間で、加害者には誰も全く関心を持っていない、そのため、罪を犯すことは彼らの第二の天性かもしれないと考えることは、被害者にとっては全くの脅威なのです。加害者が会合に他の人と一緒にやって来る時は、他の人も実際には同様の責任を取っているという安堵感があります。
SI:被害者がこれらのプロセスの一つに関わっていることから得られる利点は何ですか?
ヘレン・ボウエン:情報です。例えば強盗を例に取りましょう。被害者が思い出すことができるのは、あの瞬間に何が起きたのか、その記憶が呼び起こす恐怖感と、失われた様々なものです。〈ところが〉このプロセスでは、加害者について、彼には家族がいるという事実、失業しているという事実を知る。それは全体の状況を明らかにし、犠牲者に次のように言う機会を与えます。「さて、私は、あなたが他の人に同じことをするのを決して望みません。同じことが再び起こるのを防ぐにはどうするのかを話しましょう」。それは、被害者をこのプロセスに参加できるようにする実際的な機能を与えます。
SI:加害者にとっての利点は何ですか?
ヘレン・ボウエン:非常に大きな利点があります。私の経験では、一般的には、加害者は様々な結果について何も知らないのです。彼らは自分自身のことしか考えない傾向があります。もし彼らに仕事がなく、仲間もいない場合、彼らの人生は極めて幅の狭いものになります。彼らは他人の人生に悪影響を与えたのだということを理解しなければならない、そのことを彼らが自覚することは、彼らにとっては一大事件であり、その後で、そのことに関して何かをすることを彼らに要求するのは、犯罪に対するより肯定的な反応となるのです。
SI:修復的司法プログラムが行われている地区では、犯罪再発が減少しているという確証はありますか。
ヘレン・ボウエン:周到に準備されたプロセスを体験した青少年犯罪者は、他の青少年と同様、再び罪を犯さない傾向を示している、非常に期待できる研究があります。ここニュージーランドでは、成人犯罪者を含む比較的長期間にわたる変化の研究はまだ行っていませんが、海外の研究は同様の調査結果を得ています。つまり、このプロセスへの被害者の満足度は非常に高く、犯罪再発率は減少し、修復的プロセスを体験した加害者たちの刑務所入りが少しではありますが減少しているのです。
SI:実際の会合の中では、両者が従わねばならない約束事があると了解しています。主なものの一つは、互いの視点に対する尊敬です。他にどんなものがありますか?
ヘレン・ボウエン:論争しないこと、一度に一人だけが話すことなどに付け加えて、尊敬は基本の部分です。どのようなルールがあるのか、またそれらのルールの受け入れに彼らが同意することができるように、会合の前に彼らに説明します。加害者は責任を受け入れます。それから被害者や被害者を支える人々から、その犯罪がどれほど恐ろしかったか、被害者にとってその結果がどんなものであったかの発言がなされます。もし誰もが、被害者のそうする権利を尊重すれば、それは皆にとって有益です。それらのルールはこの考えを支えるためにあります。
SI:一つの重要な要因として、被害者と加害者が会合に参加するかしないかは、彼らの自由意志にかかっていると思いますが。
ヘレン・ボウエン:青少年者はすべての「家族集団談義」に出席することを義務付けられています。しかし成人の制度では、もし被害者の任意の参加がない場合は、会合は開かれません。もし被害者が来ない場合、修復的プロセスはありません。この点の批判はあるでしょう。なぜなら、後悔の念に駆られ償いや謝罪をしたいと望む加害者たちに、不都合を与えるからです。しかし、このやり方が現在、成人法廷では用いられています。また、未成年者裁判(14歳~17歳)における加害者への最重要事項は、被害者を巻き込んだ修復的側面はそれほど重要視されず、様々な会合は、加害者が犯した被害の責任を取らせるよりも、刑罰の確認のためのミニ裁判となっています。
SI:修復的司法での会合は判決に影響を与えますか。
ジム・ボヤック:法令は判決条例2002に規定されています。法廷は、被害者にとって満足のいくような修復的司法の合意を考慮するよう義務付けられています。よって、成功したプロセスや合意は、判決に非常に好ましい影響を与えています。これは意味のあることです。もし加害者が何かを学び取り、被害者の要求がどうにか満たされるならば、刑事裁判システムの幾つかの目的はすでに達成されたのです。よって、軽減された判決が課せられることが正当と認められるでしょう。ということは、実際に達成されるものは、被害者と加害者の利益になるような会合を通して生まれてくる、個々人の様々な理解なのです。
SI:この修復的司法モデルは他の領域でも有効ですか? 例えば、政府間や敵対勢力の間に苦情処理問題がある場合など。
ジム・ボヤック:どこであろうと、被害者や加害者として認知される人々がいるところ、紛争中であるが、両者共に自分たちを被害者であると見なしているところなど、修復的司法プロセスは、多くの領域で非常に大きな可能性を持っています。パプアニューギニアの一部で、離脱し、酷い内戦となったブーゲンビルで、1990年代中頃から試みられた非常に成功した修復的プロセスがあります。オーストラリアの調停者グループは、そこで進行している紛争を解決するために、修復的司法プロセスを極めて成功裏に利用しました。 修復的司法学者として有名なクリス・マーシャル博士は、修復的司法プロセスは国際テロの問題に対処する理想的なタイプのプロセスであることを示唆しています。南アフリカの平和調停委員会(Peace and Reconciliation Commission)モデルは、修復的司法プロセスであると言う人もいます。修復的司法プロセスはとても有効に学校や職場やその他の領域にて使用でき、人々の間に対立が起きているところでは、何が起きたのか、なぜ、誰に責任があるのか、また、被害者と加害者が一つのグループとして、二度と再発しないようにするには何ができるのかを、人々に明瞭にするのを可能にします。
SI:もし両者がお互いに尊敬の念を持ち合わせない場合、彼らはそれぞれの違いを本当には解消できませんね。
ジム・ボヤック:まさに、そのとおりです。北アイルランド問題で有名な学者、デレク・ウィルソン博士は、真空の中では恐怖が高まり、人々がお互いを知るとき、信頼が可能となるという意味のことを言っていました。人々はお互いを知り、お互いを尊敬し、そして彼らの問題を、それがどのような問題であれ、両者に満足のいく方法で解決するようにしなければなりません。 (詳細はwww.restorativejustice.org.nz.)
写真:ヘレン・ボウエン氏とジム・ボヤック氏
囲み記事:修復的司法プロセスによって影響を受けたニュージーランド訴訟事件結果に関するノート 重症に至る肉体的危害を引き起こす意図を持って傷つけた”事件で告発された、暴力的性質の前科を持つ若者は、その事に対する有罪を認めた。これは長期間の投獄という結果が可能なほどの重大な告発であった。被害者はその傷害を受けてから、長期間にわたる苦痛に満ちたリハビリに耐えてきた。その期間、彼は働く事ができなかった。最初にその事件に関与していた警官の誘導で、加害者に修復的司法プロセスを受けさせるために、判決を下すのが延期された。
被害者の最初の反応は、懲罰的制裁を求めていた。しかし修復的司法プロセスを受ける間に、加害者に直に会ってみて、被害者は自分の苦痛と怒りをいったん納め、何が加害者にとって最良の処置であるのかを主張することができた。加害者は彼の犯罪や薬物乱用に真剣に取り組む機会を持ち、生活を改め、将来同じような感情に捕われないようにするには何ができるかを理解した。彼はカウンセリングを通して、怒りの感情抑制に取り組むことを含め、かなりの成長を遂げた。専門家、地域社会の人々、友人および彼の母親による証言では、彼は暴力的振る舞いの根本原因について気付き始めており、変わるために何をしなければいけないかを理解し始めているということが示された。
判事は2年の執行猶予を課した(もし今後2年以内に別の罪による有罪判決を受けた場合、彼はその罪と執行猶予2年に対する刑に服役する)。修復的司法の会議中に、加害者は被害者に対して、与えた損害と苦痛の賠償としてニュージーランド$25,000を支払うことに同意し、判事により承認された。その若者は、カウンセリングや治療プログラムを継続するという特別の条件付で、2年間監督下に置かれることになった。
[加害者の弁護士の話では、彼の知る限りでは、その若者はそれ以来、問題を起こしていないとのことである]

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