「この狂気が最終的に終わるとき」
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フェリシティー・エリオットによるユリ・アブネリ(Uri Avnery)氏へのインタビュー
- ユリ・アブネリ氏は1923年ドイツで生まれ、1933年に家族と共にパレスチナに移住した。彼は生涯をイスラエル・パレスチナ間の平和運動のために捧げてきた--作家として、雑誌編集者として、イスラエル国会(クネセット)議員として、そして不屈の平和運動家として。
2001年アブムリ氏とその妻であるイスラエル平和団体「グッシュ・シャローム」の共同創設者レイチェルさんは、「正しい暮らし賞(Right Livelihood award)」を受賞した。それは「彼らの--最も困難な状況にあっても--揺らぐことのない確信、すなわち平和とテロの終結は正義と和解を通してのみ達成できるという確信」に対して与えられたものであった。
ユリ・アブネリ氏、彼の妻、そして彼の協働者たちは勇敢で粘り強い人々であり、不正に対する彼らの立場のために、イスラエルでは多くの人々から軽蔑されている。平和と和解とは、敵との交渉を意味するとして、ある人々にとっては汚い言葉なのである。
1974年、アブネリ氏は故ヤセル・アラファト氏の代表者と継続的な対話を開始した最初のイスラエル人となり、1982年にはアラファト氏と会見しインタビューした最初のイスラエル人であった。彼はアラファト氏を「巨人」と見なした。30年間、アブネリ氏はアラファト氏の政治的立場を支援してきた。後に、アラファト氏が隔離され、ラマラにある本部ムカタに幽閉されたときにも、アブネリ氏は彼を訪問し続けた。
フェリシティ・エリオットは、『シェア・インターナショナル誌』を代表して、2006年8月6日、イスラエルのテルアビブの自宅にいる彼に電話インタビューを行った。
インタビューの最初に、私はテルアビブの様子を尋ねた。アブネリ氏は明らかに中東の危機を深く悲しんでおり、その朝再び報道された双方の死者を悼んでいた。彼は、その生涯をすべての人のための平和と正義に捧げた男なのである。
- シェア・インターナショナル誌(以下SI):「グッシュ・シャローム」を立ち上げた動機は何ですか。
- ユリ・アブネリ:1993年、オスロ合意の前、ラビン首相は425名のイスラム活動家をレバノンに国外追放しました。当時の主な平和運動「ピース・ナウ」は沈黙していました。私たちはそのとき、彼らが労働党の首相であるラビン氏を批判しないことに気づきました。そこで私たちは「グッシュ・シャローム」を立ち上げたのです。
- SI:「グッシュ・シャローム」は人々を驚かせるかもしれない基本理念を掲げていました。
- アブネリ:一つの基本的要請は、イスラエルの全占領地域からの完全撤退でした。私たちはパレスチナの人々、そしてパレスチナ人が選んだ指導者と和平を結ばなければなりません。
- SI:単刀直入に言えば、あなたはハマス--多くの人々にとってはテロ組織--との交渉を提唱しています。イスラエルはハマスをパレスチナ人の選出した代表として受け入れ、土地を返還し、パレスチナ人が、東エルサレムを首都とする彼ら自身の独立国家を建設する権利を認めよ、と。
- アブネリ:その通りです。それが私たちの立場です。
- SI:この戦争に関わっているのは幾つかの国(勢力)であるとお考えですか。これは代理戦争であるとか、シリアとイランが関わっていると言う人々もおり、アメリカとイスラエルのイスラム教徒に対する戦争であると言う人々もいます。
- アブネリ:基本的にこれはイスラエルとヒズボラの間の戦争です。しかし同時に、アメリカとイランの戦争でもあります。もちろんシリアも関与しており、間接的には全員が関与しています。
- SI:その意味は何ですか。例えば、新しい国連の和解案についてどう思われますか。
- アブネリ:偽善的な儀式にすぎません。それは冷笑的なゲームであり、その唯一の明確な意図は、オルメルト(イスラエル首相)に望みのままに戦争を続けさせることです。これは明らかにヒズボラにとって受け入れがたいものですが、ヒズボラ抜きには停戦はあり得ません。
- SI:しかしそれが問題の一つですね。ヒズボラは交渉の場から完全に置き去りにされています。迂回されているのです。
- アブネリ:全く愚かなことです! 真剣な交渉は戦っている者同士の間で行われなければなりません。さもなければ成功しないでしょう。私たちはヒズボラと戦争しているのです。平和を欲するなら、相手に語りかけることです。それは常識です。これを理解するのに天才である必要はありません!
- SI:私はこの紛争におけるシリアの役割を疑問に思っていた。アブネリ氏の最近の記事の中で、彼は1967年にシリアから奪われたゴラン高原の問題を説明し、そしてヒズボラがイスラエルの行為の直接的結果として誕生した概略を述べている。これは、最近、即時停戦に反対しているアメリカ、英国、ドイツではほとんど認識されていない事実である。彼は自著にこう書いている:
- 「シリアはこの分野で中心的な役割を演じている。シリアの直接または間接の参加なしには、レバノンにおける解決は真に成功しないであろう。ヒズボラはわれわれが作り出したというのは真実である。1982年にイスラエル軍がレバノンを侵略したとき、シーア派は贈り物と共に兵士たちを受け取った。彼らは、その地域を支配していたPLOの勢力をわれわれが追い出すことを望んでいた。しかし、われわれの軍隊がそこに留まることに気づくと、彼らはゲリラ戦争を始め、それは18年間続いた。この戦争の中でヒズボラは生まれ、成長し、ついにはレバノン全土で最も強力な組織となった。しかしこれはシリアの大規模な援助なしには起こらなかったであろう。シリアはゴラン高原の奪還を欲していたが、それは公的にイスラエルに併合されていた‥‥。
われわれがシリアとの合意に達しない限り、レバノン国境に静けさは訪れないだろう。つまり、ゴラン高原を返還するまでは。それ以外の選択肢は、シリアとの戦争を始めることであるが、シリアは弾道ミサイル、化学生物兵器、そして強力な軍隊を持っている。ブッシュ大統領は、おそらくイラクとアフガニスタンにおける自分の失敗から注目を逸らすために、イスラエルが戦うことを促している」
(ユリ・アブネリ、『質問と回答†レバノン侵略』
「グッシュ・シャローム」2006年7月26日) - SI:この危機の中でグッシュ・シャロームはどんな活動をしているのですか。
- アブネリ:戦争反対のキャンペーンを行っています。継続的に記事を書いています。デモを組織しています。昨日(8月5日)、私たちはテルアビブで約1万人が集まったこれまでで最大規模のデモを行いました。デモはこれでおよそ10回目です。
- SI:平和運動は拡大していますか。
- アブネリ:はい。抗議行動を行った最初の日は100人ほどしか集まりませんでしたが、4日後には1,000人になり、先週の土曜日には5,000人になり、今では1万人です。偶然にも、これは1982年に最初のレバノン戦争が起こったときと全く同じパターンです。あのときも、100人から始まって、サブラとシャティラの難民キャンプの虐殺の後には40万人に増えました。
ある意味で、あのときを追体験しているようです。違いは、今では巨大なプロパガンダ(宣伝)マシーンがあり、前回よりももっと効率的であるということです。ここでは、誰も非難の声を上げることができません。私たちの意見は全く報道されません。ハレーズ紙は、他の新聞と同様戦争を支援していますが、ときどき社説に否定的なコメントを取り上げています。それ以外は、他のメディアと同じように、完全に戦争賛成に組織化されています。 - SI:実際には厳しい検閲があるということですね。どのようにしてメッセージを発信しているのですか。
- アブネリ:私たち自身の経路を通してです。デモで、私たちのウェブサイト上で、インターネットやEメールを経由してです。乏しい資金を使って、新聞に毎日意見広告を出しています。今それはとても重要なことだと思うからです。多くの出版社やウェブサイトに記事を送っています。今日の差し迫った必要に世界を目覚めさせるのは私たちの仕事の一部です。人々を目覚めさせ、この戦争を終わらせなければなりません。すべての人々の義務はこの戦争を終わらせることです。
- SI:あなたは国際社会の責務について語っています。アメリカ国民に直接語りかけることができるとしたら、何を言いたいですか。
- アブネリ:アメリカ国民に対して私は次のように言いたいです。「あなた方の政府は犯罪的な政策を行っている。アメリカ政府はわれわれを戦争に押しやっている--このことはブッシュ大統領とその仲間がいなければ決して起こらなかっただろう」と。
この国の政府とアメリカ政府のどちらがより熱心に戦争を始めたがったのかは分かりません。これが今進行中のことです。この数日間のアメリカ政府による悪巧みは、戦争を引き延ばすためだけに考案されたものです。彼らはイスラエルがシリアと戦争し、シリアが紛争に巻き込まれることを望んでいます。それが彼らの真の目的であると言う人々もいます。イスラエルの兵士を最後の一人に至るまで使って、アメリカの利益のための代理戦争をさせることだと言っています。 - SI:あなたもその意見に同感ですか。
- アブネリ:私はそこまでは考えません。しかしブッシュとオルメルトの間には、停戦しないことについて非常に緊密な同盟関係があります。
- SI:彼らがわざと停戦を遅らせているというのですか。
- アブネリ:まさにそうです。そしてそれは一日ごとに惨事をもたらします。パレスチナやイスラエルの人々が毎日殺されるというだけではありません。それだけではなく、無実の国であるレバノンが荒廃し、完全に破壊されているのです。どれほどの破壊が行われているか想像すらできません。
現時点で、レバノン難民は100万人います。それはレバノン国民の4分の1です。カトリーナ台風が何度も襲って、アメリカ人口の4分の1である5,000万人が難民になるようなものです。 - SI:今やレバノン難民は皮肉にもパレスチナ難民キャンプで暮らしています。
- アブネリ:はい、より安全な場所ならどこでも--ヨルダンとシリアでも暮らしています。
- SI:自分で体験しなければ、快適な暮らしを送っている人々には想像できないでしょう。
- アブネリ:アメリカ人やヨーロッパ人は、1時間以内に荷物をまとめて家を出て行くよう通知を受けたことを想像してみるべきです。つまり、家族、子ども、そしてたぶん両親を集め、幾つかの物を持って家を出る--どこへ行けばいいのか? ガソリンがあれば、車に乗り込んで、出発します。南レバノンでガソリンが手に入る場所はどこにもありません。家を出て、財産をすべて後に残して、どこへ行けばよいのか、何を当てにできるのかも分からない。そんな家族が百万もいるのです。これがレバノンの状況です。 同じように家を後にしたイスラエル人も50万人いますが、彼らは少なくとも行く場所があり、行く手段があります。
そして冷笑的な政治家たち--呪われるがいい--が簡単に決断を下します。「戦争をやめるな。やめろ。続けろ。あと2、3週間続けろ」彼ら全員が戦争犯罪者です。 - SI:ヨーロッパ人に対しても同じことを言いたいですか。
- アブネリ:全く同じです! ヨーロッパは冷笑的に振舞っています。ドイツが停戦に反対票を投じたと聞いたとき、私は自分の耳が信じられませんでした。彼らはまたやっているのか?
- SI:英国人の多くはトニー・ブレア(首相)の態度に愕然としています。
- アブネリ:トニー・ブレアは最悪の政治家の一人です。これに関わっている他の人々と全く変わりません。
- SI:トニー・ブレア氏は最近、中東に広がっている「過激主義の弧」について警告しました。彼はロサンゼルスで(2006年8月3日)世界情勢協議会で次のように述べました。「この戦争は伝統的なやり方で勝つことはできない。われわれの価値観が他の選択肢よりも強力で、より良いものであり、より正しく公正であることを示すことによってのみ勝つことができる」。彼や彼の協働者たちは、西側の価値観が広まることを望んでいるように思われます。
- アブネリ:それは「シオン議定書」--シオニストの世界支配陰謀--を思わせます。今や私たちが反ユダヤ主義者のようです--ユダヤ人に対してではなくイスラム教徒に対してです。それは邪悪であり、人種差別主義です。それがアメリカによる世界支配強化のための策略ならば、よこしまなことです。それは彼らの目的に適うのです。
- すべての当事者に対する正義の必要性についてのアブネリ氏の包括的精神を知った上で、私はパレスチナ人とレバノン人に何を言いたいかを彼に尋ねた。彼はその前日のデモの際に行った演説について述べた。
- 「パレスチナのわれわれのパートナーに対して言いたい。『われわれはあなたたちを忘れてはいない! われわれはガザや他の占領地域で毎日起こっている虐殺について知っている。われわれはこの戦争を終わらせ、捕虜を交換し、両民族が和平を結ぶために協力しなければならない』」 「この場所から、デモを代表して、私はレバノンの人々に言いたい。『イスラエル人として、私はわれわれがあなた方に行っていることについて、われわれがあなた方にもたらしている荒廃について、深く恥じる。大いに恥ずべきことである!』」
「この狂気が最終的に終わるとき、われわれは共に努力しよう--イスラエル人とパレスチナ人、シリア人とレバノン人、イスラエルのユダヤ人とアラブ人が正常な生活を送り、それぞれが自由な国家として、共に平和のうちに暮らすために!」 - SI:あなたは、ガザで毎日行われている虐殺について述べられました。戦争にすべての注目が集まっているために、世界はガザや他の占領地区(アフガニスタンやイラクは言うまでもなく)のことを忘れています。
- アブネリ:ガザ地区で起こっていることはレバノンで起こっていることと何の違いもありません。もっと悪いでしょう。毎日10人から20人、それも主に女性や子どもたちが殺されているというのは耐え難い状況です。それは日常的な虐殺です。125万人の人々が、水や電気や薬や食物といった必需品を欠いたまま暮らしています。彼らは閉じ込められ、完全に包囲されています。巨大な監獄であるという人もいます。いいえ、それは監獄ではありません。監獄では管理者は囚人に食べ物を与える義務があります。ガザ地区では、パレスチナ人の生活について誰も責任を負っていません。
そして40年間私たちは、イスラエル・パレスチナ問題には解決策があることを知っていました。それは容易に達成できることです。占領地域を放棄して、パレスチナ人に彼ら自身の国家をつくらせることです。 - SI:彼らがもともと住んでいた土地のうちのどのくらいにあたりますか。
- アブネリ:1948年に比べて今のパレスチナ人の土地は22%しかありません。わずか22%です! このことは忘れられています。もしパレスチナ人が、彼らのリーダーであったヤセル・アラファト氏を通して行ったように、これだけの土地--元の土地の22%--で受け入れると宣言するならば、それはとても大きな妥協なのです。
- SI:それは途方もない犠牲です。それは進んで妥協する精神を示しています。
- アブネリ:しかし彼らの提案は受け入れられませんでした。なぜならこの国の多くの人々は、彼らのわずかな22%の土地をさらに併合することを望んでいるからです。実際、いわゆる移住とはその一部であり、イスラエル人はさらに11%の土地を手に入れて、残りの11%だけにパレスチナ人を住まわせることに固執しています。
- SI:それは確実にさらなる災難を招くでしょう。
- アブネリ:確実にさらなる戦争の種となります。それが現在起こっているのです。
- SI:多くの人々と同じように、あなたも、ガザ撤退というシャロン氏の計画は、別の大きな計画の一部にすぎないとお考えですか。
- アブネリ:シャロンはガザ地区が重荷であり、イスラエルがやりたいことをするのに邪魔になっていると認識していました。イスラエルは今それをしています。ガザ地区を世界から隔離して、そこにいる人々の安全や生活に対する責任を逃れることです。今日のガザは完全にイスラエル軍の支配下にあります。軍隊があちこちで人を殺し、人々を逮捕し、嫌がらせをしています。公然とやっています。世界の目がレバノンや他の問題に集まっているので、誰もそのことに気づきません。
- SI:世界が、そして平和そのものがイスラエルとそれを支援する者たちによって人質に取られているというのですか。
- アブネリ:そうです! イスラエルの政策によって平和が人質に取られています。それが今オルメルト計画と呼ばれているものです。それはヨルダン川西岸の一部を併合し、周囲に壁を作り、完全にイスラエルの意のままになるパレスチナ人の‘バンツースタン’(訳注:アパルトヘイト時代の南アフリカ共和国で、黒人系住民の居住区として各部族ごとに指定された「ホームランド」を指す一般的な呼称)をつくることです。
- SI:イスラエルはその地域に完全な支配権を確立することを望んでいます。ヒズボラはどうですか。
- アブネリ:イスラエルは1967年の6日間戦争以来ここを支配してきました。イスラエルは世界最大の軍事国家の一つです。ヒズボラはイスラエル軍に反抗して立ち上がった最初のアラブ勢力ですが、しかしそれはゲリラ軍だからです。このことがイスラエルの将軍たちを悩ませています。ゲリラ軍にどう対処していいかわからないからです。三つのアラブ軍を6日間で粉砕した強力な軍隊が、今ではヒズボラと26日間戦って何の決定的な成果も挙げることができません。26日間たっても数千のゲリラがまだ反抗しているというのは信じがたいことです。ヒズボラがアラブ世界の英雄になるのも不思議ではありません。
これが戦争の真の結果かもしれません--つまりこの狂信的なシーア派組織がアラブ世界の英雄になったことです。それは歴史的なことを達成しました。スンニ派とシーア派を統合することに成功し、ブッシュ政権によって支えられているいわゆる穏健派政府をアラブの軽蔑の対象としたのです。ヒズボラはスンニ派であるシリアの援助を受けています。今やハマス(スンニ派組織)とヒズボラの融合が起こっています。 - SI:あなたはイスラエル製品のボイコットを提案しています。全面的ボイコットが必要でしょ うか。
- アブネリ:私たちは占領地区からの製品のボイコットを宣言しました。イスラエルの平和運動として私たちの仕事は世論を喚起して彼らの代表に圧力をかけ、イスラエルが占領地区を出て行くようにすることです。至るところの全ての人々が同じことをすべきだと思います。世論を組織化して、戦争を支持しないこと、平和を支持することを政府に強いるのです。私たちはイスラエルに反対しているのではありません。どんなイスラエルを欲するのかという問題です。パレスチナの大義を支持するからといってイスラエルに反対していることにはなりません。両方の側の平和勢力を支持すべきです。
- さらなる情報は:www.gush-shalom.org/English
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