ジェイソン・フランシスによる
マリエル・ライズマさんへのインタビュー
ヨーロッパ・ユース・プレス(EYP)は、ベルリンを本拠とするヨーロッパの若者のメディア団体の非営利の協会であり、若者に対してメディア教育や実地研修を提供している。EYPは、若者が「公正で独立した責任のあるメディアをつくり上げ、民主主義、国際開発、持続可能な未来を育むような」社会を目指して活動している、と団体のウェブサイトには書かれている。現在では、EYPには27の加盟団体があり、6万人を超える若いジャーナリストに影響を与えている。マリエル・ライズマ氏はEYPの理事であり、外部コミュニケーションを統括しており、EYPの機関誌「Orange Magazine」の編集長でもある。ジェイソン・フランシスが、本誌のために彼女にインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI):メディアにおいて若い人々の参加は、どのくらい大切でしょうか。
マリエル・ライズマ:まず第一に、これはバランスの問題です。すべての社会団体は、メディア・コンテンツの創造に関わるべきです。メディアの出力の試みがどの程度公平であっても、各団体は所属するジャーナリストの特定の見解を依然として持っています。このような見解は、どの話題を特集記事にするか、また記事の中で何に焦点を当てるかの選択に影響を与えます。社会団体の代表者は、その団体の関心事や、彼らが直面している課題や問題に対して、よリ敏感です。
若い人々の見解は、物事の成り立ちの歴史的理由に関して、社会観がより広く、メディア論理の理解がより発達している年長で経験豊富なジャーナリストの見解よりも優れています。若い人々は、思いも寄らない刺激的なアイディアや見解で、新鮮なエネルギーを持ち込みます。
人は関係を持つ誰かの目を通して世界を見ようとすることが多いため、バランスもまた大切です。したがって、メディアの設立に参加する若い人々は、自分たちが扱う主題や、自分たちが議論する疑問、問題、アイディアに、他の若い人々が興味を持てるように援助します。
若い人々が、読んだり見たりすることができ、良いメディア習慣を育めるような高品質なメディア・コンテンツを持つことは重要です。そのような習慣には、複数のソースから情報を確認すること、コンテンツに対する高い標準を持つこと、著者と共に考え、議論されている問題を分析することなどがあります。それはまた、コンテンツが高い標準に合致する限り、著者に同意しなくても、同意しないコンテンツを依然として読む勇気を持つことなどです。これは、若い人々が広い視野を持ち社会や世界で起こることを気にかけるような市民に成長できるようにするためです。若い人々が参加した良いメディア・コンテンツは、社会に貢献したいという気持ちを育て、その改善を助けられるようにします。それは、若い人々が他者に刺激を与える方法を見つける助けになります。
すべての人が、生涯のプロのジャーナリストになる必要はありませんが、若い時期にメディアに参加することは、若いジャーナリストが最終的にジャーナリストとなる機会を与えます。その長い経験は、熱望を持つ次世代のジャーナリストや、一般的にメディアに関心を持つ若い人に援助とアドバイスを提供するのです。
公正で責任のあるメディア
SI:EYPでは、どのような種類の教育や実地研修を提供していますか。
ライズマ: EYPは、独立した公正で責任あるメディアを発展させる能力を持てるようなトレーニング・プログラムやワークショップを、若いジャーナリストが利用できるようなプラットホームを目指しています。また、私たちのネットワークには多くの若い人たちが参加していて、彼らもメディア・トレーニングを提供することができ、そのようなトレーニングに興味を持つ団体に彼らを推薦しています。私もまた、活発にメディア・トレーニングを行っています。
さらにEYPは、加盟団体と共に多くのトレーニング・プログラムを企画しています。例えば、最近では、データ・ジャーナリズムとメディア・リテラシーに焦点を当てたプログラムを提供しました。このようなプログラムは、他国の同業者に会い、協力のための人脈や機会をつくり出し、仕事に適用できる新しい技術を学ぶ機会を提供します。
私は、特にEYPの機関紙「Orange Magazine」をご紹介したいと思います。ここでは、ヨーロッパのトップ・メディアの会議を特集しており、国際的な指導者とメディア界で出会い、人生が変わるような人脈をつくれる機会を若いジャーナリストに提供しています。
例えば、私たちの長年のパートナーであるドイチェ・ヴェレ(ドイツの国際放送局)が毎年主催している世界メディア・フォーラム(Global Media Forum)は、国際的なフィールドで最高のものから学ぶまたとない機会を提供します。
異文化間の理解を促進する
SI:あなた方の中東および北アフリカ委員会(Middle East and North Africa Committee=MENAC)の活動についてお話しいただけますか。
ライズマ:MENACはEYPのブログ・プラットホームであり、寄稿者はそれぞれの地域に関連した話題について、定期的に投稿しています。またMENACは、2015年から、ヨーロッパや中東、北アフリカ地域の若いジャーナリストやメディア設立者のためのプロジェクトやイベントの企画にも携わっています。
MENACは、メディア関連のプロジェクトやイベントを通して、異文化間の理解を促進し、ヨーロッパや中東、北アフリカの若いメディア設立者の持続可能なネットワークの強化を目指しています。MENACは、中東および北アフリカ地域の若い人の声がヨーロッパで聞かれるようにすること、両方の地域に関連した問題がメディアでより深い理解を得られるようにすることが使命だと考えています。MENACは、型にはまった思考を避け、多様性をより深く理解するだけではなく、異文化間の対話を奨励するなど、良いメディア慣行の意識を推進することを目指しています。
SI:人権支援や様々な背景を持つ人々の間で一体感をつくり上げる上で、メディアはどのような役割を持っているのでしょうか。そして、このような目的を、メディアはどのようにして最もうまく達成できるのでしょうか。
ライズマ:メディアは、社会で価値を創造し守ることに貢献するという基本的な役割を持っています。うまく機能する民主主義社会では、これは人権を保護し共通の基盤を提供することを意味します。メディアが社会の進歩を助けるという価値の姿を失うべきではないことは重要です。メディアは『4番目の権力』(政府の立法、行政、司法の各部門の次)であり、強調されたものに影響を与える能力を持っています。メディアは、気づかれなくなった主題に光を当て、それを最も必要としている人々に声を与えることができます。
すべての人が大切で受け入れられていると感じられるようにする上で、メディアは重要な役割を持っています。他の人があなたを気にかけていると、あなたが感じれば感じるほど、より気分が良くより安全に感じます。もしメディアが特定の価値に取り組み、このような価値に基づいてストーリーを創造すれば、メディアはこれらすべてをより良く行うことができると、私は思います。そして、このようにして、何としても注目する必要のある社会の特定の側面に光を当てることができます。
メディアの道具は注目です。注目は誰もが望むものです。もし別の背景を持つ人々がメディアで取り上げられ、彼らにとって重要な主題が注目を受けるなら、彼らは社会の重要な部分であると感じられることでしょう。
私は、個人的なストーリーが最も効果的だと思っています。なぜなら、私たちは多くの場合、記事に登場する人と共感しようとするからです。そのような個人的なストーリーは、その数によって強調され、一般的にならなければなりません。その良い例は、タイム誌の、シリア人の難民家族、タイマアとモハンマドのストーリー、「Finding Home」です。彼らには、亡命中にヘルムという娘が生まれました。このストーリーは多くの注目を集め、その中心にいる人々を無視したり軽視したりしていた問題について人道的な観点を提供しています。また、タイム誌は、ストーリーを語るために様々な媒体を使用しており、特にWhatsappというアプリケーションでのメッセージを視覚化しています。これにより、読者は直ちにストーリーに共感できます。
メディアには相当な権力があり、共感、平和、連帯感を重んじる社会に貢献するような方法でストーリーを報道する責任を持っています。将来は、価値を基盤としたジャーナリズムがさらに重要になると、私は信じています。
メディア・リテラシー
――鍵となる21世紀のスキル
SI:メディア・リテラシーとは何でしょうか。もしそれが大衆に欠けている場合、その結果はどのようなもので、EYPは、それをどのようにして高める活動をしていますか。
ライズマ:メディア・リテラシーとは、(マス)メディアに関して、それを利用し、発言し、批判的に評価し、創造し、参加する能力のことです。これらの能力は、21世紀の鍵となるスキルです。メディア・リテラシーは、正直で独立した責任感のあるメディアを支持する人々の世代をつくり出す助けとなります。なぜなら、その世代はそのようなメディアの価値を理解するからです。
もし、若い人々が、たとえ短期間であってもメディアに参加すれば、彼らは情報の検証手段に関して、ずっと詳しくなるでしょう。このことは、特にインターネットで受信した情報が健全な懐疑主義で見られる状況をつくる助けとなり、虚偽の情報の拡散を止めます。読者が教育され、メディア意識を持てば持つほど、彼らが真実だと確信できる情報だけを発信する機会が増えます。なぜなら、彼らは信頼できる情報源を見つける能力を持っているからです。
反対に、人々にメディア・リテラシーが欠けている場合には、社会で不信や疑念の雰囲気がつくられます。これは、誰を信頼するのかを決める機会が少なくなり、疑念を解消するために使える手段が少なくなることが理由です
EYPは、プロジェクトの企画や参加によって、メディア・リテラシーを高める活動をしています。例えば、メディアや政治に関心を持つ約8千人の若者がフランス、ストラスブールの欧州議会に集まった昨年のヨーロッパ・ユース・イベントに、EYPは参加しました。そこで、EYPは三つのセッションと一つのパネル・ディスカッションを企画しました。それに加えて、EYPは欧州議会と共に、11回目の、ヨーロッパで最大の若いジャーナリストのためのイベントの一つ、ユース・メディア・デイを企画しました。会議では、今度の欧州議会選挙や、メディア・リテラシー、虚偽情報と闘うことの重要性に焦点を当てました。さらに、問い合わせを受けた団体に対するトレーニング・プログラムを運営しました。
SI:アメリカの大統領は、ストーリーが彼や彼の政権に好意的ではないような場合に、メディアが「フェイク・ニュース」を製造しているとしばしば非難しています。この攻撃は、もし影響があるとしたら、ヨーロッパや世界中のフリーもしくは独立系のメディアに対して、どのような影響を与えているのでしょうか。
ライズマ: そうした攻撃は、主にメディアの評判に対して影響があります。ジャーナリズムの信頼が過去数十年間でかなり低下したので、現在では、メディアの評判は特に重要です。人々がジャーナリズムの信頼性を疑えば疑う程、社会で疑念が高まります。これは不信感をつくり出し、安心感を低下させます。メディアは、重要な主題を議論するフォーラムであり、もし人々がこのフォーラムの真面目さを信じなければ、彼らは議論に本格的に参加しようとはしないでしょう。これは、人々を社会から遠ざける方向にあります。健全な懐疑主義は大切ですが、信頼できる情報源に関しては、それでもその情報に信頼を置くべきなのです。
詳しくは次を参照:
youthpress.org および orangemagazine.eu