ジェフリー・サックス教授へのインタビュー
ジェフリー・サックス教授は、アメリカの経済学者、学術研究者、公共政策アナリストである。彼は、持続可能な開発、経済開発、貧困との闘いに関する研究で知られている。フェリシティ・エリオットは2022 年10月9日、 シェア・インターナショナル誌のために彼にインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI): ウクライナ戦争について一般に流布されている情報は次のようなものです。一方は完全な悪であり、もう一方はすべて善であるというものです。常識と実際は違うかもしれません。これをどう見ますか。
ジェフリー・サックス:これは、ウクライナを中心とする二つの超大国間の戦争です。一方で、米国は軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)をロシアとの国境どころか、黒海全体にまで押し進めたいと考えています。ロシアは30年間、「軍事同盟を東方に移動させるのはやめなさい」と言い続けてきました。他方、ロシアは、1991年にソビエト連邦が解体し、ウクライナが独立国となった時に、進行中の国内紛争と国境紛争の渦中にあったのです。ウクライナ戦争は、二つの異なる側面を持っています。一つは、ウクライナにおける政治の内部分裂です。ウクライナ語を話す西部とロシア語を話す南東部です。1991年以来、そこにはずっと緊張が続いていました。しかしその後、私の見るところでは不運なことに、米国は2008年に、ウクライナが米国主導の軍事同盟の一部になると言って、この状況に最も挑発的な方法で首を突っ込んで来ました。それはヨーロッパの指導者たちには無謀で挑発的であると知られていましたが、米国は非常に強力であるために、米国の思いどおりとなり、ヨーロッパの指導者たちは陰では話すことを公の場では言わなくなっているのです。
これは2014年にさらに悪化しました。親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領は、ある種の微妙な安定を保っていましたが、ウクライナは中立であるべきだと述べたのです。しかし、彼は放り出されてしまいました。西洋諸国の言い分は、彼は大衆の抗議行動によって打倒されたというものです。ロシア側の言い分は、彼は米国主導のクーデターで追い出されたというものです。
SI:これらの見解は正しいですか。
サックス:はい。米国は抗議運動の組織化に深く関与しており、2014年に資金提供を行ったため、これらの立場の両方に真実があります。
米国は他人のビジネスに干渉し、挑発と被害をもたらします。そして、西側の主流メディアがそれについて語らないので、あなた方はそれについて聞くことはありません。そのため、多くの宣伝活動(プロパガンダ)が行われるが、米国政府は非常に強力であり、これが知られることを望んでいません。その結果、親ロシア派のウクライナ大統領が2014年に追放されたというわけです。この出来事は、内政・外交の両面でウクライナを完全に不安定な状況にさせました。なぜなら、新しい親米ウクライナ政府は北大西洋条約機構(NATO)への加盟を望んでいると発表したからです。
SI:米国はどのように対応しましたか。
サックス:米国は何十億ドルもの軍備を惜しみなく投入し始めました。そしてロシアの人々は「そんなことはやめて!」と言い続けました。ロシアがクリミアを奪還したのは、そこが彼らの海軍基地であり、ロシア語を話す人々がいる場所だからです。そして、米国は事態を徐々に深刻化させました。実際、私たちは2014年にすでに代理戦争に突入していました。そして、両陣営には分別のある人々がいないため、事態はさらに悪化しました。
2021年、プーチン大統領は次のように述べました。「あなた方は私たちの隣国を武装している。これは非常に挑発的です。私たちはNATOの拡大を止める必要があります──これは私たちの安全保障にとって核となる脅威だからです」。米国の反応は、「あなたと話す必要はない」でありました。それが外交の終焉となったのです。そして今年2月、ロシアは侵攻を開始しました。
SI:この責任は双方にあると思いますか。
サックス:誰がこの紛争を引き起こしたのかを問うことができます。両陣営です。そして信じられないほど苛立たしいのは、私たちがこれを止めなければ、私たちを核戦争に導く傲慢さの衝突があることは明らかだということです。しかし、私たちは自分の傲慢さを見ることができません。その理由の一部は、西側メディアがほぼ完全に政府主導のプロパガンダを流しているからです。
私はこれについてよく知っています。この地域に携わって32年間、私は直接関与してきました。ゴルバチョフ大統領とエリツィン大統領に助言をしました。私はウクライナのクチマ大統領にも助言しました。言い換えれば、私は両方の側で働いてきました。私は細部に至るまで状況をよく知っています。米国がいかに挑発的であったかを知っています。
SI:イライラする要素の一つは、主流メディアです。既得権団体は明らかにメディアの口封じをしました。たまたま、あなたがインタビューを受けているニュース番組を見た時、あなたはいきなり番組から外されましたね。あなたがその時に語ったことに対して反発の声が上がりました。民主主義はどこへ行ってしまったのでしょうか。
サックス:はい、私はこれらについて言及することを許されていません。バイデン大統領がまさに語ったように、ノルドストリーム・ガス・パイプラインを爆破したのは米国だと思うと私が言ったので、彼らは私をプログラムからすぐに追い出しました。バイデン大統領は、そのことを2月に話していたのです。すべての証拠を合わせると、米国である可能性が最も高いのです。ついでながら、もしジャーナリストに個人的に聞いてみるなら、そう答えます。これらの同じ新聞の記者たちが、あなた方にそれを内密に話します。でも西側のメディアでそれを言うなら……まあ、言わないかもしれませんが、意見や見解を述べたり、レポーターに米国政府に対して質問してもらったりすることはできません──これはレポーターがなすべき義務なのですが。
SI:はい、残念ながら主流メディアは大衆を失望させました。数分前にあなたが言ったことに戻りたいと思います。あなたは現在、分別のあるリーダーが不足していることを嘆いていました。そして、そのことが非常に分別のあるアメリカの指導者、J・F・ケネディ大統領を思い出させました。私は彼のスピーチを読んでいます。この素晴らしいスピーチは、この時代とこの特定の危機に非常に関連しています。彼の平和へのアプローチは素晴らしいです。そして彼の常識は今とても必要とされています。あなたがこの演説を賞賛していることは知っていますが、言い換えれば、核保有国や敵対者に対して屈辱を与えるか、核兵器に訴えるかのどちらかを選ばなければならない立場に追いやることは絶対に避けるべきだと彼は言っています。そして、私の考えでは、まさにそれが今日の私たちの置かれた状況です。
サックス:そのとおりです。それは狂気の沙汰です。それでは、この事実の前後関係を紹介させてください。私はこのスピーチがとても好きだったので、これについて本を書きました。人々はオンラインで、1963年6月10日のアメリカン大学卒業式でのJ・F・ケネディ大統領の演説を見つけることができます。事実の前後関係は次のとおりです。米国とソビエト連邦は、異なる時代(1962年10月)に、同様な緊張をもたらしました、キューバのミサイル危機に遭遇したのです。それは奇妙に聞こえるかもしれません。なぜなら、西側の人々の耳には異なった情報が流布され、とにかく一方的だったからです。「ソビエト連邦がキューバにミサイルを設置していただけ」であったのです。
実際の物語は、キューバがソビエト連邦との同盟を望んでいたため、米国がその前年にキューバを侵略したということです。米国のキューバ侵攻は失敗に終わりました。ソ連の最高指導者フルシチョフ首相は米国に教訓を与えることにしたのです。当時、アメリカはソ連を狙った核ミサイルをトルコに配備していたので、キューバにミサイルを配備することにしました。当時の外務大臣アンドレイ・グロムイコ氏はぞっとし、これは戦争を意味するのか、とこの政策に疑問を呈しました。フルシチョフ首相の反応は、これが戦争ではないことは確かだ、というものでした。単にアメリカ人に同じ手口で仕返しをすることを意図した動きであったのです。私がこれに言及する理由は、リーダーは、賢明であろうとなかろうと、災難に遭遇するためです。こうした人々を信頼することはできません。当時、J・F・ケネディという素晴らしいリーダーがいました。しかし、彼でさえ、核による絶滅にすんでのところで遭遇したのです。
SI:サックス教授は、ソビエトのミサイルがキューバで発見された時、ケネディ大統領に攻撃を促したすべてのトップ・アドバイザーたちを、ケネディ氏はどのように結集させたかを説明した。当時の米国国連大使であるアドバイザーのアドレー・スティーブンソン氏は、危機の初日にケネディに偶然会い、ケネディに攻撃しないように忠告した。彼は外交の必要性を強く主張した。翌日、ケネディはフルシチョフを理解し解決策を検討することに時間を費やした。タカ派のアドバイザーたちからの圧力が高まっていたが、ケネディは彼らを抑えてフルシチョフ氏と話すことにしたのである。両者は、どちらも戦争を望んでいないことに気づいた。彼らは譲歩するために妥協と外交という方法を見いだした。ケネディは妥協した。トルコからミサイルを撤去し、キューバを侵略しないことに同意した。ソ連がミサイルを撤去することを想定し、双方が約束通りに行動したのである。
サックス:どちらの指導者も、継続するのは正気ではないと認識していました。部分的核実験禁止条約として知られるようになったものに署名することを決定しました。そして、あなたが適切に言い換えた素晴らしい引用文を、その雄弁さと重要性のゆえに、今読ませていただけるなら、次に紹介します。
「何よりも、核保有国は、われわれ自身の重要な利益を守りながら、屈辱的な撤退か核戦争かの選択を敵に迫る対立を回避しなければなりません。核の時代にその種の方針を採用することは、私たちの政策の破綻の証拠、または、世界に対する集団的な死の願望の証拠にすぎません」
しかし、現在、私たちの愚かな指導者たちは──失礼、このような表現は使いたくないのですが──私たちを核戦争へと駆り立てています。なぜゼレンスキー大統領は、核兵器を保有している隣国をあざけっているのでしょうか。核兵器の多くは世界中の都市を狙っているというのに。からかわないでください──抜け道を見つけてください。
最後に、バイデン大統領は、キューバのミサイル危機以来、ハルマゲドンに最も近づいていると述べました。多くの人が彼を攻撃したり、なぜ彼がそのようなことを言っているのかと尋ねたりしました。彼がそれを言った理由は明らかです──それが本当だからです!
「私たちの側」では、人々は歴史を知らないようで、完全な悪に対する善の観点から考えています。バイデン政権が北大西洋条約機構(NATO)拡大について正直に、かつ、まともに交渉できなかったことを知りません。NATOは、ウクライナとグルジアに拡大する権利を持っていません。それは挑発でしかありません。嘘に基づいています。アメリカはゴルバチョフ氏に「ワルシャワ条約機構を破棄するなら攻撃しない」と約束したのです。その後、米国は「考えを変えた」と述べています。それは嘘と呼ばれ、現代における最も重要な問題の一つとなっています。
SI:あなたの見通しは、かなり暗いようです。交渉の余地はありますか。
サックス:いわゆる「思想的指導者」や政治指導者が、私たちの命が無謀で無意味な方法で危機に瀕していることを理解していないように見えるため、私たちは本当にひどい混乱に陥っていると思います。バイデン氏とプーチン氏は(交渉の準備のために)座っているべきです。あなたの質問への答えはイエスです、双方の間で交渉することができます。しかし、それに反対する声もあり、「われわれは勝たなければならない」と言います。核兵器を持っている敵に対して勝つ、というのです。
SI:それでは、交渉の条件は何でしょうか。NATOの侵略を核心的な要因にしなければならないと思いますか。あなたもホワイトハウスに電話して、ロシアとの交渉を開始するよう懇願したと思います。言い換えれば、この段階でさえ、あなたは交渉を信じていますね。
サックス:「この段階でさえ」だけでなく、とりわけ今です。もちろん、核戦争に行く前には交渉するでしょうが、「私たち」はエスカレートし続けるでしょう。ですから、そうです、交渉なのです。
SI:サックス教授は次のように続けた。ロシア人が実際に交渉を歓迎するだろうという事実を反映して、多くのロシアのブログ (および「私たち」の側のブログ)で外交的解決を求める意見を何カ月間も目にしている、と。プーチン大統領は交渉を呼びかけたが、サックス教授が言うには、「私たち」は交渉すべき相手がいないと主張している。これはサックス教授の体験と真っ向から矛盾している。
SI:振り返ってみると、3月に非常に奇妙なことが起こりました。ある種の交渉を仲介しようとする試みがありました。調停役のトルコとの会談がありました。かなり早い段階で、交渉にはいくらかの希望があったようです。突然、不思議なことに、それは中止になったのです。何が起きたのでしょうか。
サックス:分かりません。私たちの政府はこれらのことについて真実を語っていないので、正しく解釈することはできません。私たちが知っていることは、3月に三者すべてが、目前に突破口があると述べたことです。書類の交換もありました。当時、私は高官に話を聞きました。ウクライナは、保証に裏打ちされた中立の考えを提唱し、ロシア側にそれを伝え、ロシア側は肯定的な反応を示しました。プーチン大統領はそれに基づいて、「交渉文書、合意草案を提出しましょう」と言いました。その文書はウクライナに渡されましたが、ウクライナは突然、そこから身を引きました。その理由は分かりません。私は、米国と英国がウクライナの中立の申し出を拒否したことを示唆する状況証拠を持っています。両国は中立の申し出にノーと言い、ゼレンスキー大統領とウクライナ指導部に、さらに多くの武器輸送により支援すると述べ、この戦争に勝利するために前進するよう促しました。それは私自身の見解です。この進展への支持を表明するどころか、米国は交渉が可能な瞬間に強硬路線を取ったのです。最近、ゼレンスキー大統領はプーチン大統領と交渉しないと述べました。ウクライナは平和を要求するべきですが、毎日のようにウクライナはロシアに屈辱を与えることを目指し、完全な軍事的勝利を要求しています。これが私たちの同盟国でしょうか。挑発を続けるよりも、私は交渉して地球を救いたいです。
SI:現在の緊張状態と関係当事者たちの立場を考えると、交渉できるのは誰でしょうか。トルコにはまだ可能性がありますか。また、中国はどのような役割を果たすことができますか。
サックス:はい、トルコは依然として有効な仲介者であり、他の国々もそうです。中国は良い仲介者になる可能性があります。中国はこの戦争を望んでいませんが、ロシアの正当な安全保障上の利益が危機に瀕していると考えています。実際にそのとおりです。インドもまた、インドネシアと同様に建設的である可能性があります。しかし、今なすべきことは、バイデン大統領が電話を取り上げてプーチン大統領と話すことです。これは私たち全員にとって非常に破壊的であり、この混乱から抜け出す方法を見つける必要があるからです。それがアメリカ大統領の仕事です。
SI:ホワイトハウスがサックス教授の電話にどのように対応したかを尋ねたところ、サックス教授は、2021年末にホワイトハウスと話をしたと述べた。これに対する彼らの反応は、以前からずっと話し合うという考えは拒否しており、NATOに参加するのはウクライナの選択であるが、ウクライナは交渉の検討を拒絶した、というものであった。サックス教授は、これは馬鹿げた考えだと思っている。それはウクライナの選択の問題ではないからである。ロシアとの国境が1,000キロを超える国に軍事同盟を押し付けないというアメリカの抜け目のなさに関することである。西側はそれがどれほど危険かを知っている。サックス教授は、ホワイトハウスに通信を送り続け、平和のために働くよう行政に要請していることを示唆した。幸いなことに、バイデン大統領は状況がいかに不安定であるかを認め、問題視している。それはサックス教授にとっては朗報である。バイデン大統領はまた、プーチン大統領の「出口」とは何かを尋ねている。
サックス:プーチン大統領の「出口」または条件は、30年前から知られていました。 つまり、NATO のウクライナへの拡大を止めることです。もちろん、クリミアなど、他の問題もありますが。
SI:平和コミュニティーには役割があると思いますか。何が起こる必要がありますか。
サックス:平和コミュニティーは各国政府と話し、交渉のために声を上げるよう要求する必要があります。「この惑星を破壊しないでください!」と主張するだけでよいのです。平和コミュニティーは、国連総会に次のように言うことができます。「交渉のための全会一致の決議に投票してください。誰が交渉に反対しているか見てみましょう。投票しましょう。実際に見てみましょう。何ですって。米国が決議案に反対票を投じようとしているのですか。本当ですか。確かめてみましょう」。このようなことが今起こるべきことです。
全世界がこれに関係しています。私たちは皆、この状況に利害関係があります。2人、3人、または10人の男性に──通常は男性ですが──地球の結末を決定させることはできません。あらゆる人が声を上げる必要があります。私たちは次のように言う必要があります。「ドンバス、クリミア、NATO拡大についての議論で世界を終わらせるつもりはありません。私たちは地球を爆破しない方法を見つけるつもりです」と。それは私にはかなり基本的なことのように思えます。平和コミュニティーは大きな役割を果たすことができます。街路に出て、政府指導者たちと連絡を取り、正気を取り戻し、完全に手に負えなくなる前にこの狂気を止めるよう促すべきです。
SI:私の理解では、すでに手に負えなくなっています。つまり、ここには時間的要素があるに違いありません。
サックス: 交渉に行く時間はありません。二つの超大国が一時後退して話し合う必要があります。バイデン大統領とプーチン大統領は、お互いに話し合う必要があります。ツイートや仲介者を通してではなく、向き合って話し合い、仕事を始める必要があります。彼らの仕事は世界を救うことです。
SI:ちょっと話はそれますが、私はこれが恐ろしい混乱であると考えずにはいられません。世界は気候危機、大規模な生態学的劣化が起こっていることを忘れています。私たちは飢饉、飢餓、貧困、干ばつなどを忘れています。
サックス:これらの問題を解決するには、グローバルな協力が必要です。これがベースライン(基本線)です。戦争中にこれらの問題を解決することはできません。そして、対立の最前線は一つだけではありません。ここ数日間にすべての混乱に加えて、米国は中国へのハイテク、マイクロ回路の輸出を遮断しています。中国経済を壊そうとする意図的な試みです。私たちはもう一つの戦線を開いています。アメリカ合衆国下院議長ナンシー・ペロシ氏を台湾に行かせました。それは信じられないほど挑発的でした。
SI:アメリカ合衆国とこの政権を正気に戻すものは何ですか。
サックス:バイデン大統領は危険に気づき始めています。今は、平和コミュニティーと真実を知っている世界中の150カ国 のすべての指導者たちが声を上げ、交渉による平和を要求する必要のある時です。ウクライナの中立性は国連や他の国々によって保証される必要があり、私たち全員が狂気を終わらせるよう呼びかける必要があります。