エコロジー経済学

持続可能性、公平性、自由に向けた変化の過程なのか? ー第一部

オーヴェ・ヤコブセン教授へのインタビュー
アンネ・マリエ・クヴェルネヴィック

 オーヴェ・D・ヤコブセン氏は、ノルウェーのボドにあるノルド大学ビジネススクールの生態経済学教授である。彼は、マーケティングと哲学の修士号、経済学の博士号を取得している。社会科学・人文科学における研究倫理に関する国家委員会(NESH)など、いくつかの国家委員会のメンバーでもあり、そして、ノルド大学のエコロジー経済学・倫理学センターの創設者の一人であり、そのリーダーでもある。
 ヤコブセン博士は、『アナキズムとエコロジー経済学──エコロジー経済学のための政治的プラットフォーム』『インテグラル・エコロジーと持続可能なビジネス』『変革するエコロジー経済学──プロセス哲学、イデオロギー、ユートピア』など17冊の著書を出版している。
 アンネ・マリエ・クヴェルネヴィックがシェア・インターナショナル誌のためにオーヴェ・ヤコブセン教授に、著書『エコロジー経済学──未来からの視点』についてインタビューを行った。

 私たちが世界をどのように見ているか、どのようなパラダイムを持っているかによって、私たちの態度や行動、そしてミクロ、マクロの両レベルでの、さらには地球規模での選択に影響を与えることになる。
 著書においてヤコブセン氏は現在の世界で重要な中心的世界観、つまり、現在支配的な機械論的パラダイムと、現在の世界情勢に変化をもたらす有機的パラダイムを紹介している。
 これらの考え方は、今回のインタビューの中心でもあるため、著書の中から簡単に要約して紹介する。
 この二つの優位な考え方は、歴史の中で優位性を変化させてきた。機械論的パラダイムは17世紀に支配的になり、今日もなお支配的である。デカルト(1596-1650)などが、人間と自然との関係に着目して、その中心的な原理を打ち立てた。この考え方では、人間は自然から切り離され、優位に立ち、人間の特定の利益のために有益であれば、自然のプロセスに介入し、操作する権利があるとされる。このようにして、自然界に対する一般的な搾取的見解が生まれたのである。すべての部分は自然の法則によって結び付けられている──「全体は部分の総和と同一である」。デカルトはリアリティの物理的な部分と霊的な部分の間に明確な線を引いた(二元論)。つまり、神(創造するフォース)は引き下がっており、科学では理解できないとした。科学の使命は、人間の欲求を満たすために「頑固な」自然を克服することであり、今日の経済モデルの主流である市場自由主義は、この機械論的世界観に支配されている。経済的に利益が出る限り、自然を利用し、搾取することができるとしている。
 有機的パラダイムには、アリストテレスまでさかのぼる長い伝統がある。哲学者スピノザ(1632-1677)は、この考え方をさらに発展させ、人間も自然の一部であることを強調した。リアリティの物理的な部分と霊的な部分は同じシステムの二つの面であり、全体は部分の総和を超越している。自然、生態系、人間は一体であり、人間は自然の不可欠な一部であり、直観的な認識を通じて自然から学ぶ。自然の一部であるという経験が、すべての生態系を尊重することに自動的につながる。エコロジー経済学は、主にこの有機的パラダイムに基づいている。

シェア・インターナショナル(以下SI):「エコロジー経済学」とは何でしょうか。いくつかの重要な原則を説明していただけますでしょうか。

オーヴェ・ヤコブセン:エコロジー経済学は、経済学だけでなく、様々な立場や要素を含んでいます。それは、経済学、生態学、哲学、自然科学などを組み合わせた学問です。重要なのは、経済学が自然と文化の両方の状況で提示されることです。この点が、自然や文化の状況から多少なりとも切り離された主流の経済学とエコロジー経済学との大きな違いです。
 過去10年から15年の間に、私は53人の異なる貢献者たちに、エコロジー経済学の幅広い定義について尋ねてきました(1)。その結果、すべての人が、私たちの住む世界の捉え方を変えなければならないと言っています。私たちは生態系に統合され、文化的伝統に基づいているため、これらの要素を経済に統合しなければなりません。また、「経済人」の行動として定義される合理性の考え方も変えなければなりません。その定義によれば、合理的な経済的行為者とは、自分の利益を最大化する人のことですが、その代わり、私たちはエコロジカルな人間であり、すべての人間や自然全体に対して責任を持たなければなりません。
 エコロジー経済学には二つの重要な原則があります。第一に、有限な地球上では不可能な絶え間ない物理的な成長ではなく、自然な成長が必要です。私たちは、生態系の制限内で可能なもの以上を使用することはできません。第二に、資源を公平に分配しなければなりません。富裕な世界の大半は、資源の消費を減らし、生活の質に重点を置く必要がありますが、経済的困難に直面している人々は、より多くのものを必要としています。つまり、「公正な分かち合い」の問題であり、私たちは公平な方法で資源を共有しなければならないのです。これを獲得するために、責任、公平性、そして質的側面にもっと焦点を当てなければなりません。とはいえ、これらの原則は、物理的資源の生産に焦点を当てる必要性とも相反するものではありません。私たちは、より良く生きるために物を生産する必要があります。しかし、今日の問題は、生活の質的側面にあまりにも焦点が当てられていないことです。

SI:エコロジー経済学の目標は何だと思いますか。

ヤコブセン:目標は、人間と生態系全体の他のすべての生き物の生活の質の高さに基づいた、持続可能な開発に貢献することです。また、資源の公正な配分を確保し、生きた経済──長期的な展望を持った経済──を発展させることです。

SI:エコロジー経済学の最近の歴史とその貢献者について教えてください。

ヤコブセン:アリストテレスは「良い社会における良い生活」と表現しました。1900年から今日までの100年間、様々な貢献があり、進化経済学、フェミニン経済学、協同組合経済学など、様々な名称がついています。今日、私たちは、シェアリング・エコノミー(共有経済)や循環型経済についても話をしています。これらの考え方はすべて相互に関連しており、国際生態経済学会の活動や科学雑誌『エコロジー・エコノミックス』の発行に反映されています。
 エコロジー経済学の背景にあるインスピレーションは、熱力学*、進化論、ダーウィニズムの考え方、ルドルフ・シュタイナー(1861-1925)が開発した人智学の考え方から得ています。仏教思想や他の伝統に由来する要素も見受けられますが、私としては、この四つが非常に重要であると考えてます。

* 熱力学:エネルギー、エネルギー変換、および物質との関係に関する学問。自然界の最も基本的な法則の一つにエネルギー保存の法則がある。これは、ある相互作用の間にエネルギーはある形態から別の形態へと変化し得るが、エネルギーの総量は一定であるとするものである。

SI:グリーン経済、つまりグリーン・シフトについてお聞かせください。エコロジー経済とはどう違うのでしょうか。

ヤコブセン:グリーン・シフトは、既存のパラダイムの中で持続可能な開発を目指すものです。エコロジー経済学はこの取り組みに批判的な問いを投げかけています。グリーン経済学は、既存のシステムの中で活動するもので、しばしば「ゲームのルールの中で」活動することを指します。言い換えれば、彼らは現在の経済システム、市場自由主義の悪影響を軽減し、国連の17の持続可能な開発目標に基づく、最も広い意味での持続可能な開発につながる前向きな発展を得ようとするものです。しかし、エコロジー経済学の貢献者の多くは、システムそのものに批判的で、「ホモ・エコノミクス(経済人)」から「エコロジー的な人間」への意識改革を望んでいます。

SI:では、グリーン経済は現在の経済システムを「支える」ものなのですね。

ヤコブセン:グリーン経済は、現在の課題による悪影響を軽減し、より根本的な問題を解決するための時間を与えてくれるでしょう。私たちは、この二つの考え方を同時に実現しなければなりません。私たちは、気候変動や生物種の絶滅を食い止め、資源をより公正に分配し、国連の第一目標である「世界中で貧困をなくす」という持続可能な目標を達成しなければならないのです。これらの変化は間違いなく必要なものですが、同時に、このシステム自体についても問いかけなければなりません。デカルトから今日までの西洋の考え方、つまり機械論的な考え方を変える必要があるのでしょうね。おそらく、例えば、有機的な世界観など、他の解決策を考えるべきかもしれません。

SI:エコロジー経済学を代表する有機的パラダイムと、今日の主流派経済学を代表する機械論的パラダイムとの違いについて教えてください。

ヤコブセン:主流派の経済学はデカルトにさかのぼる機械論的な考え方と結びついており、エコロジー経済学は有機的な考え方と結びついています。機械論的な考え方が個人主義的であるのに対して、有機的パラダイムではシステム論が語られます。デカルトは有名な言葉を残しています。「私は全宇宙を機械のように説明した」と。多くの科学は、物事を小さなパーツに分け、それぞれのパーツを個別に研究し、そのパーツをつなげることですべてを説明できるという考えに基づいています。
 有機的な視点とは、より全体的な視点を受け入れることであり、それは手法にも影響を及ぼします。還元主義的な科学は厳密な学問分野に基づく科学ですが、エコノミー経済では複数の科目を含んだ学際的なアプローチをとります。経済学、生物学、生態学、哲学、社会科学など、様々な科学の垣根を越えて研究を行います。ですから、私たちの住む世界をどのように理解するかという点でも、また、社会に関する知識をどのように集めるか、社会、自然、社会における文化的な考え方や価値観との関連性についても、多くの相違点があります。エコロジー経済学とは、全体論的思考、システム思考、有機的思考を意味します。ですから、私たちは循環型経済について話をしているのです。直線的な考え方ではなく、生態系に見られるような循環的な考え方です。そのため、私たちは「循環型」経済について話しているのです。このことは、エコロジー経済学では、原子論的、個別的な競争よりも、協力的なネットワークを重視することを意味します。エコロジー経済学では、解決策、地元産の食品、地元市場、生産、流通、消費の間のより密接な関係について話します。また、富の公正な分配、各主体の利益の最大化ではなく、共通善のための共通の解決策を見つけることについて話します。アリストテレスの言葉を引用しますと、「良い社会には良い生活がある」ということです。すべてが統合されています。個人と社会のつながり、それに加えて、より大きな生態系の一部としての社会、つまり、すべてが統合されているのです。

SI:エコロジー経済学の焦点は一体性にあるのですね。

ヤコブセン:そうです、統合性です。物事がどのように相互に結び付いているか、物よりも関係性です。関係性が重要で、すべてのものはつながっているのです。

SI:著書の中で、あなたはエコロジー経済学の一部としてユートピアという考え方に焦点を当てていますね。ユートピアとは何なのでしょうか。

ヤコブセン:ユートピア思考は、1516年に『ユートピア』を出版したトーマス・モアというイギリス人に由来しています。イギリス社会を発展させるためには、「ユートピア」という考えを持たなければならないというのです。彼の定義によれば、「ユートピアを考える」とは、現在ある社会とは異なる社会を描写することです。これは、ユートピアと言われてほとんどの人々が考えるもの、つまり実現不可能なもの、実現できない理想とは異なります。ユートピアについての私たちの解釈は、私たちが今日直面している大きな課題を解決し終えた、現代とは異なる社会を指します。
 このユートピア思考は、1936年にハンガリーの社会科学者であるカール・マンハイムによって発展させられたものです。彼は『イデオロギーとユートピア』という本の中で、「あるもの」と「あり得るもの」の間の緊張関係を論じています。あり得ること──この社会がどのようにあり得るか──を描写することが非常に重要であり、これを彼はユートピアと呼びました。今日ではイデオロギーと社会の関係を理解することは非常に重要ですが、同時に、ユートピア、つまり、今あるものとは異なるものを描写しなければなりません。現在あるものと将来あり得るものとの間の緊張関係が、私たちの発展にエネルギーと方向性を与えるのです。
 マンハイムの50年後、フランスの哲学者ポール・リクールは、「ユートピア的思考を持たない社会は、発展を停止してしまうだろう」と言いました。おそらく、それが今日の問題なのでしょう。私たちは代替的な思考に対してオープンではないのです。イデオロギーの代わりにではなく、既存のイデオロギーに追加する形で、ユートピア的な解決策を描写つまり想像するよう人々を鼓舞することが非常に重要なのです。イデオロギーとユートピアの間の緊張関係は、エネルギーを生み出し、発展のための方向性を与えます。
 ベルゲン、トロンハイム、トロムソといったノルウェーの大都市の小さなコミュニティーや小都市でユートピア対話を行う際、私たちは代替的な未来を描写し、人々が自分たちの住みたい未来についての考えを発展させるきっかけとなるように努めています。問題に焦点を当てるのではなく、ただ一つのことを尋ねます。「あなたが本当に参加したいと思う社会をどのように描けますか」と。現在の社会とこの代替案を区別するとき、私たちは方向性が得られ、必要な変化のためのエネルギーを得ることができるのです。
 ユートピア思考と呼ばれるこの研究の伝統は、過去500年にわたりヨーロッパで非常に重要なものでした。未来がどうなるかを問うのではなく、未来がどうありたいかを問うのです。アメリカの社会学者ロバート・マートンは、自己成就予言という言葉を使いました。もし未来について考えがあるのならば、それが起こるかのように行動し、その描写に従って行動すれば、成功の可能性は非現実的なものではありません。大切なのは、未来はまだ終わっていないということです。すでにある未来に向かって歩いていると考えるのではなく、どこに行きたいかを考えることが大切なのです。自分たちの手で未来を切り開いていくのです。それがユートピア的な発想の重要な部分です。システム・レベル、個人レベル、意識レベルでの変化が必要です。このような変化は決して不可能ではないと思います。人類は歴史の中で変化に直面しましたし、私たちは今、変化する時代に生きています。

参考文献
オーヴェ・ヤコブセン『エコロジー経済学──未来からの視点(Ecological Economics──A perspective from the Future)』、フラックス・フラッグ社発行

(1)pengevirke.no

詳しくは、www.ovejakobsen.com をご覧ください。