『生物多様性の経済学:ダスグプタ・レビュー』(2021年)

推奨図書
『生物多様性の経済学:ダスグプタ・レビュー』(2021年)
フィリス・クレーム

「この包括的かつ極めて重要な報告書は、経済学と生態学を対面させることで自然界を救い、それによって自分自身を救うことができる方法を提示している」 (デイビッド・アッテンボローによる、ダスグプタ・レビュー要約版の前書き)

 これは、『ダスグプタ・レビュー』からの世界のリーダーたちやコミュニティーへの緊急メッセージである。それは、2019年に英国財務大臣から依頼され、ケンブリッジ大学のパーサ・ダスグプタ名誉教授が率いる「生物多様性と経済成長の関係性に関する包括的なグローバル・レビュー」として発表された。その概要は、「生物多様性の経済的利益を世界的に査定すること、経済的コストと生物多様性の損失のリスクを査定すること、生物多様性を高めると同時に、経済的繁栄をもたらすことができる一連の行動を特定することである」。このレビューは、気候の緊急事態に関する記事と並んで、同様に重要である。

 この報告書は、経済学と生態学の関係に関する徹底的かつ広範囲にわたる調査である。主に経済学に焦点を当てているが、人類と自然との関係全体に関する深い理解も示している。「経済的な可能性に関する現代の概念は、私たちが自然に組み込まれていることを認めるのを怠った。私たちはその外部にいるのではない」
 レビューが説明しているように、経済学が、物質的な製品やサービスと同じように資本資産として、自然を扱うならば、私たちは自然界に対して異なるアプローチをすることになるだろう。持続可能な経済成長は、国内総生産とは異なる基準を必要とする。そして、この変化は、この最も重要であるが、時に「目に見えない」無言の資産の崩壊を防ぐためには不可欠である。
 1950年代以降、人類は自然を壊滅的なまでに破壊した──その過程で経済的により豊かになった。しかし、これはもはや持続可能ではない。レビューは、生物多様性の喪失が自然の生産性、回復力、適応性を密かに傷つけていると主張する。これが次に、経済、生計、福祉を危険にさらしており、「私たちの要求は、私たちすべてが依存している商品やサービスを提供する自然の能力をはるかに超えている。世界の現在の生活水準を維持するには、1.6個の地球が必要である。……人類は今、選択に直面している。自然に対する私たちの要求が、持続可能な基準から見て要求を満たす自然の能力を遥かに超える道を歩み続けることができる。あるいは、自然との関わりが持続可能であるだけでなく、私たちの集団的な幸福と子孫の幸福も高める別の道を辿ることもできる」。ダスグプタ氏はまた、私たちの自然との有害な関係がパンデミックを引き起こすことも指摘している。
 推奨することには次のものが含まれる。価格と行動規範を変える技術革新と政策を通して、食品とエネルギー・システムを持続可能なものにする。コミュニティー・ベースの家族計画を提供するプログラムに投資する。生物多様性の損失に対処するために、自然に基づいた解決策への大規模かつ広範な投資を実施する。自然をその経済的価値とは別に、本質的に大切にされるべき「神聖な」ものと呼ぶ興味深い節もある。そこでの訴えは、多くの人にとってパンデミック・ロックダウン中に前面に出てきた全く異なる種類の価値について言及している。その文脈において、レビューは、子供たちに自然への理解と感謝をもたらす教育の重要性を強調している。
 様々な困難があり、さらに、頑として妥協しようとしない勢力があるにもかかわらず、報告書は悲観的ではない。「レビューにまとめられた世界中のサクセス・ストーリーは、何が可能であるかを示しているだけではなく、生物圏への私たちの要求を非常に増大させ、破損的にし、生物圏の歴史に比べて非常に急速なものにしてきた創意工夫の才──生来の能力と言う人もいる──を、おそらくちょうど同じくらい短時間に変革をもたらすために再動員することもできる。時間は私たちの味方ではないが、私たちが個人的にも集団的にも道を変えるという意識的な決定を下すのに遅すぎることはない」
 解決は可能であるが、それらは、行動する──しかも即座に行動する──個人、政府、国際機関の意志次第である。根本的に、より持続可能な道へと私たちを導くために私たちは経済的成功の尺度を変えなければならない。「自然は私たちの家である。優れた経済学は、私たちが自然をより良く管理することを要求する。私たちの経済は、自然の外ではなく、自然の中に組み込まれている」
 レビューは次のように結論づけている。「欠陥は経済学にあるのではなく、それを実践するために私たちが選んだ道にある。変革は可能である──私たちと私たちの子孫にはこの上ない価値がある」と。

* ダスグプタ氏自身が「読みやすい」ものではないと認める100ページの要約版もあるが、特に前書きと序文は一読する価値がある。一般読者のために──そして強く薦めるが──10の「ヘッドライン・メッセージ」がある。世界中の専門家からの好意的な反応を印象的に並べた「ダスグプタ・レビュー」(gov.uk)を参照。