すべてのアメリカの労働者のための適正な賃金

ジェイソン・フランシスによる
サル・ジャヤラマン氏へのインタビュー

 サル・ジャヤラマン氏は、サービス業界での適正な賃金を求めて活動している米国の非営利推進団体「一つの公正賃金」の代表である。サービス業界では、顧客からチップを受け取る労働者に最低賃金未満の賃金しか支払われないことがよくある。「一つの公正賃金」は、労働者と雇用主を組織し、調査を実施し、本を出版し、この問題に関する映画を制作している。この団体ではまた、すべての人に最低賃金以上の支払いを保証する法律の制定のために立法者と会合を持っている。サル・ジャヤラマン氏の著作には、全国的なベストセラーである『キッチンドアの向こう側で(Behind the Kitchen Door)』(2013年)の他、『一つの公正賃金──アメリカで最低賃金未満の支払いを終わらせる(One Fair Wage:Ending Subminimum Pay in America)』(2021年)などがある。彼女は弁護士であり、カリフォルニア大学バークレー校にある「食品労働研究センター」の所長である。CNNは、彼女を「トップ10のビジョナリーウーマン」の一人に挙げた。ジェイソン・フランシスが本誌のためにサル・ジャヤラマン氏にインタビューを行った。

奴隷制の遺産

シェア・インターナショナル(以下SI):米国政府は企業に対し、従業員が顧客からチップを受け取る場合に、連邦最低賃金の時給7.25ドルではなく、時給わずか2.13ドルを従業員に支払うことを許しています。チップを受け取る労働者に、チップの他に満額の賃金ではなく最低賃金未満の賃金を支払うという考え方はどこから来たのでしょうか。

サル・ジャヤラマン:それは奴隷制に由来します。封建時代のヨーロッパで始まったものです。チップは常に、賃金に加えて支払われる追加またはボーナスでした。チップは奴隷解放(1860年代の奴隷制廃止)の直前に米国に入ってきました。レストラン業界は黒人のアメリカ人を雇いたいとは思っても、何も支払いたくありませんでした。つまり、基本的に奴隷制を継続し、チップだけで生活させるということです。1938年に、ニューディール政策(大恐慌の影響に対処するためにルーズベルト政権が創設した一連のプログラム)の一環として、誰もが初めて最低賃金を得ました。ただし、チップにより満額の最低賃金以上を得ている限り賃金はゼロである、と告知されたチップ労働者を除きます。過去150年の間その慣行が維持されてきたのは、全米レストラン協会のロビー活動のためでした。

S I:有色人種の労働者は、最低賃金未満の賃金から現在どのような影響を受けていますか。

ジャヤラマン:アメリカには1,400万人のレストラン労働者がいて、約60%がチップを受け取っています。そして、チップを受け取る労働者のうち約3分の2が女性であり、有色人種の女性が不釣り合いに多く、チップ収入がはるかに少ないカジュアル・レストランで働く傾向にあります。しかし、たとえ男性のウエイターの方が多い高級レストランで働いていたとしても、客の暗黙の偏見のために、収入は男性、特に白人男性よりも少なくなるでしょう。そのため、「チップ労働者」(女性や有色人種の女性)が大部分の収入としてチップを当てにすると、たとえ有色人種の労働者がより良いサービスを提供したとしても、白人により多くのチップを支払う顧客の偏見の影響を受けます。

S I:受刑者を安い労働力として利用することについてお話しいただけますか。

ジャヤラマン:連邦刑務所や州刑務所に収監中の労働者は、しばしば働くことを要求されます。刑務所の独房の清掃のような刑務所内部の作業をすることもありますが、民間企業や他の州機関で働くように求められることも多いです。例えば、カリフォルニア州では山火事が増加しています。消防労働力の3分の1を受刑者が占めており、山火事と闘うために時給11セントが支払われています。これは非常に危険な作業です。
 次に、連邦刑務所や州刑務所の受刑者が、ビクトリアズ・シークレット[婦人服小売企業]から始まって電話会社や公園用ゴミ箱の製造企業に至るまで、民間企業で働くように求められる場合があります。そして、そうでなければ満額の最低賃金の労働者がすると思われる仕事を、時給1ドル未満でするように求められます。
 これは、奴隷制の直接的な遺産です。これは、奴隷制を禁止しながらも投獄された場合には奴隷制を認めるという、1865年に可決された米国憲法修正第13条の例外事項に由来します。その結果、多くの民間企業や州政府機関が安価な労働力から利益を得ることになりました。それは安い労働力ですらありません。時給11セントの支払いでは、ほとんどただ働きです。

S I:アメリカでは、どのくらいのサービス労働者がチップに依存していますか。そしてどのくらいの種類のサービス業の雇用でチップを受け取っていますか。

ジャヤラマン:600万人から700万人くらいの労働者です。その大多数の約75%がレストラン業界の仕事に従事しており、接客係、バッサー(給仕助手)、バーテンダーなど、あらゆる種類の労働者です。チップ労働者の残りの25%は、ネイルサロンや洗車場で働いたり、駐車場係員や空港係員として働いたり、美容院などで働いたりしています──顧客一人ひとりに対応する、いわゆるパーソナルサービス労働者として働いています。[バッサーの定義:汚れた皿を片付け、レストランのテーブルを整える人。ウェイター助手]

S I:最低賃金未満の賃金は、他の雇用分野にも拡大していますか。

ジャヤラマン:Apple Pay(アップルペイ、支払いをデジタルで行えるアプリ)は、以前はチップがなかった多くの新しい環境にチップを拡大しました。
 今では小売店や飛行機に足を踏み入れると、Apple PayやiPad(アイパッド)で支払いを求められ、自動的にチップの金額を尋ねられることも多いです。新分野へのチップの導入の結果、このような新分野の一部の雇用主がレストラン業界を見習いたいと思うようになりました。雇用主はこう言います。「雇用者がチップを受け取っている限り、最低賃金未満になってもいいはずだ」と。ですから、以前は決して賃金を最低賃金未満にすることのできなかった喫茶店が、今ではそのような額の賃金を支払おうとしているのを目にします。航空会社でさえも、客室乗務員に最低賃金未満の賃金を支払おうとしています。客室乗務員は今では、iPadでチップを受け取りながら食べ物の注文を受けるようになっているからです。

S I:「ギグワーカー」、つまり直接の従業員ではなく独立した請負業者やフリーランスと見なされる労働者についてはいかがでしょうか。

ジャヤラマン:一部のギグ企業もレストラン業界を見習おうとしています。これは、ドアダッシュやインスタカート(食品配達企業)に見られます。これらの企業は、過去数年にわたり様々な時期に、チップの受け取り額に応じて労働者への支払いから差し引くという方針を取っていましたが、その方針は二転三転しました。ウーバーやリフト(配車企業)もおそらく同じような慣行に従っている、と言っていいでしょう。

S I:受け取ったチップを給与に追加した金額が最低賃金に満たない場合、雇用主は従業員に補償する必要がありますか。

ジャヤラマン:これが法的な必要条件です。オバマ政権は、チップ労働者の最低賃金にまつわる規則に関して今までで最高レベルの法執行を行い、これらの規則の遵守に関するレストラン雇用主の違反率は84%と判明しました。その後、米国労働省の訴訟長官はこの制度を執行不可能であると宣言し、唯一の実行可能な制度として、「一つの公正賃金」(チップを別にした満額の最低賃金)への呼びかけを公に開始しました。

搾取

S I:チップを受け取るサービス労働者が耐えなければならない搾取と虐待について、お話をしていただけますか。それはどのくらいよくあることですか。

ジャヤラマン:キャサリン・マッキノンという法学教授の方がいます。彼女は、性的嫌がらせ(セクシュアルハラスメント)に関する国内有数の専門家であり、性的嫌がらせの米国での違法化を支援しました。チップ労働者は、チップを受け取るために非常に多くのことを許容しなければならないため、性的嫌がらせの割合がどの業界よりも高いと彼女は主張しました。軍隊を含め、彼女がこれまでに研究したどの業界よりも高いのです
 私たちの調査によると、チップに加えて満額の最低賃金が必要である七つの州では、その業界での売上高、雇用の成長率、中小企業の成長率が高いだけではなく、性的嫌がらせの発生率が半分でもあります。キャサリン・マッキノン氏は、彼女のライフワークである性的嫌がらせを違法と宣言することを含め、性的嫌がらせへの対処において、「一つの公正賃金」ほど効果的な方針は見たことがないと述べました。
 性的嫌がらせは、パンデミックによりさらに悪化しました。労働者は異常に高いレベルの辱め、顧客の敵意、および性的嫌がらせを経験しています。女性はマスクを外すように求められます。そうすれば顧客は、女性の外観を見てチップの金額を決めることができるからです。私の見るところ、労働者は、嫌がらせをしてくる顧客に新型コロナウイルスの手順により対応しようとしており、それは機能していません。それが、100万人の労働者が業界を去った理由です。残った労働者のうち54%が退職するつもりだと答えており、圧倒的多数が最低賃金未満の賃金が理由であると言っています。彼らはもう我慢することができません。最低賃金未満の賃金で働くことを拒否する、と労働者が最終的に主張できるまでに150年の年月とパンデミックが必要でした。

S I:週40時間労働で時給7.25ドル(現在の連邦最低賃金)の場合、労働者の年収は税込みで1万5,080ドルになるでしょう。2022年の米国の連邦貧困水準は、独身者で年収1万3,570ドル、二人家族で年収1万8,310ドルであることを考えると、これはむしろ貧弱です。いくつかの州や都市では最低賃金を積極的に引き上げましたが、最低賃金の決定過程における基準はどうあるべきだとお考えですか。そして最低賃金は、現在どうあるべきだと思いますか。

ジャヤラマン:真実は、現在の国内での最低賃金は、人々がどれだけ必要としているかではなく、政治的意志で決定されているということです。この国のどこに住んでいても、生活して家族を持つためには、最低でも時給15ドルは必要です。アラバマ州やウェストバージニア州からワシントン州シアトルに至るまで、それは生きるために必要最低限のことです。いくつかの場所で最低賃金が非常に低い唯一の理由は、政治的意志が欠如しており、多くの勢力から反対があるからです。多くの共和党員は、最低賃金があるべきだとは考えていません。もし最低賃金がインフレに追いついていたら、時給20ドルをはるかに超える金額になっていたでしょう。時給15ドルは多くの場所で生活するには十分ではありませんが、全国のどこにいても必要最低限の金額です。

大量退職

S I:新型コロナウイルスのパンデミックは「大量退職」と呼ばれるものを引き起こしました。多くの労働者が自分の生活と雇用を再評価した結果、仕事を辞めました。この経済動向は、チップ労働者や雇用主にどのような影響を与えましたか。

ジャヤラマン:全国の何千ものレストランが、チップを除く賃金を満額の最低賃金に引き上げました。確認しているだけでも、私たちは少なくとも3,000軒のレストランを追跡しましたが、さらに多くのレストランがあります。

S I:チップ労働者向けを含む連邦最低賃金を引き上げる取り組みは、連邦議会で行き詰まっています。州レベルや地方レベルで、何が起こっているのでしょうか。

ジャヤラマン:「大量退職」は、多くの州でこの問題を動かしました。そのため、米国の250周年(2026年)までに、25の州で公正賃金へと移行するために2,500万ドルを注入する予定だ、と私たちは発表しました。「大量退職」が原因でこれは起ころうとしている、と私たちは考えています。さらに、「一つの公正賃金」は2022年11月にワシントンDCの投票用紙に掲載され、可決される見込みです。また、今年11月には、メイン州ポートランドの投票用紙にも掲載される可能性があります。

詳しくは   www.onefairwage.site をご覧ください。