地雷や結核を発見するネズミ

ジェイソン・フランシスによるクリストフ・コックス氏へのインタビュー

 ベルギーの登録NGOで米国の非営利団体であるAPOPOは、地雷や結核を発見できるようにアフリカオニネズミを訓練している。APOPOはタンザニアを拠点としており、タンザニアのモロゴロ市で訓練を実施している。
 60を超える国が過去の紛争による地雷に悩まされている。毎年1,000万の人々が結核に感染し、100万から200万の人々が亡くなっている。1997年にこの団体が設立されてから、「ヒーローラッツ(英雄ネズミ)」という愛称のネズミたちは14万個を超える地雷を発見した。ネズミたちはまた、病院が見逃した2万2,000件を超える結核の活動性感染の症例を特定し、同時に17万件を超える潜在的感染を防止した。クリストフ・コックス氏はAPOPOの最高責任者で共同設立者である。ジェイソン・フランシスが本誌のために彼にインタビューを行った。

シェア・インターナショナル(以下SI):APOPOの共同設立者であるバート・ウィートジェンス氏は子供の頃にネズミを飼っていたことがあり、隠した餌を見つけるようにネズミを訓練していました。このことが、地雷や結核を発見するためにネズミ、特にアフリカオニネズミを訓練するというアイディアにどのように発展していったのでしょうか。
 クリストフ・コックス:私たちは工業デザインの学校[アントワープ大学]に一緒に入学しました。創造的なアイディアを思いつくことは、常に私の学生生活の一部でした。バート氏は地雷問題に深い関心を抱いていました。そのため、彼は地雷問題を分析し、地雷の発見が本当のボトルネック(障害)の一つであることを、私たちは知りました。なぜなら、地雷の発見には時間と費用がかかり危険だからです。彼はあらゆる検出方法の可能性を検討しました。ネズミは非常に優れた嗅覚を持っているため、訓練が可能であることが知られています。バート氏は、アントワープ大学で齧歯類の生態学を専門にしているロン・ヴァンハーゲン教授に相談し、教授からアフリカオニネズミを使うようにアドバイスを受けました。
 アフリカオニネズミがこの仕事に選ばれたのには、いくつかの理由がありました。アフリカオニネズミは土中に物を貯める習性があり、埋めた食べ物をよく探します。アフリカオニネズミは最大で8年生きますが、より小さなネズミはわずか2、3年しか生きられません。また、アフリカオニネズミは穏やかな動物であり、飼い慣らすことができます。他の多くのネズミは神経質な生き物です。そして、アフリカオニネズミを育てて飼育することが可能だとすでに証明されています。その大きさから、アフリカオニネズミは食用にされ、繁殖のために飼育されることがあります。

S I:これまでに、どのくらいの数のネズミが飼育され、地雷や結核を発見する訓練を受けているのでしょうか。

コックス:現在、少なくとも300匹のネズミがいます。過去5年間で78匹のネズミを訓練してプログラムに投入しました。26匹が結核の発見のためで、52匹が地雷の発見のためです。

地雷を発見する

S I:ネズミが受ける訓練の内容について説明していただけますか。そして地雷の発見と結核の発見で、訓練の内容はどのように違いますか。

コックス:ネズミが生まれた後、約10週間、母親と一緒にします。以前はもう少し早く引き離していましたが、今ではもう少し時間をおくようにしており、ネズミはより強くなります。次に社会化の訓練を開始し、あらゆることを行います。例えば、ネズミをオートバイに乗せた後でトラックに乗せます。また、ラジオの音を流し、ネズミをラジオの上に乗せます。ネズミは、人が近くにいることや、様々な音、環境の刺激に慣れる必要があるのです。およそ3週間後には、「クリック訓練」を開始します。私たちは[小さな携帯用の機器を使い]クリック音を鳴らし、食べ物の報酬を与えます。この過程を繰り返します。これは、地雷発見の訓練を受けるネズミの場合も、結核発見の訓練を受けるネズミの場合も同じです。次に識別の訓練を始めます。ネズミはクリック音を聞くためにあることをしなければなりません。
 地雷の発見には、紅茶を中に入れてカップに浸して作る「ティーエッグ」(小さな金属の卵型容器)を使います。ネズミは「エッグ」を発見したときにだけクリック音を聞きます。その「エッグ」はTNT(トリニトロトルエン──比較的安定していて扱いやすい爆発性の物質)の臭いがします。次にネズミは食べ物を与えられます。その次には複数の「エッグ」があり、その中の一つだけがTNTの臭いがして、他は別の臭いがします。ネズミはTNTの臭いのする「エッグ」を発見したときにだけクリック音を聞きます。ネズミは特定の臭いによってクリック音を聞き、食べ物の報酬が得られることを理解します。結核に関しては、ネズミは中性または陽性の喀痰(喀出された唾液と粘液)の検体が入ったケースの中に入ることになります。
 次に、地雷を発見するネズミにとっては、さらに難しくなります。私たちは、面積が狭く目標物が地面の上にある訓練用の地雷原にネズミを連れて行きます。徐々により広く、目標物が土中さらに深く埋まっているような訓練領域にネズミを連れて行きます。9カ月から1年経過すると、ネズミはさらに広い領域でより多くの(5個、7個、10個の)地雷を発見しなければならず、1個でも見逃すことは許されません。それから、ネズミは他の国に送られ、私たちの地雷原で使用している地雷とは種類が違う可能性のある現地の地雷で訓練を受けます。数週間後には、ネズミは地雷除去の責任を負う地元当局の管理下に移されます。ネズミが「合格」すると、「地雷発見ネズミ」として認定されます。ほとんどのネズミは合格します。

S I:ネズミはどの国で地雷の発見の仕事をしていますか。

コックス:私たちは現在、アンゴラ、ジンバブエ、モザンビーク、カンボジア、南スーダンで活動しており、ちょうどトルコでも活動を始めたところです。

S I:地雷の発見において、より伝統的な手法を併用しながら、ネズミをどのように使用するのかについてお話しいただけますか。

コックス:常に伝統的な手法を併用しながら、ネズミを使用します。ネズミが地雷の存在を示すと、訓練担当者は地面に目印を置きます。次に別の人が金属探知機を持ってきて、正確な位置を確認します。そして、地雷を掘り出します。ネジ回しドライバーのような道具で探査を開始し、土をほぐし、地雷を除去します。地雷は運び去られ、爆発処理されます。

S I:金属探知機だけを使う場合に比べて、地雷の発見においてネズミの助けを得ることには、どのような利点がありますか。

コックス:ネズミはテニスコートの大きさの領域を40分で調査することができます。これは手作業では最大で4日かかる作業です。場所によって異なります。地雷原では、以前の爆発による無数の金属片がある場合があるからです。金属探知機が検知音を鳴らすたびに、作業員は手順に従う必要があります。ブラシと小さなシャベルを使い、金属片を露出させ、取り除いて箱に入れ、金属探知機のところに戻って再び探査を行います。信号がなくなると、作業員は先に進むことができます。金属探知機が誤った結果を出すのは、本当によくあることです。ネズミは金属物ではなく、爆発物だけを嗅ぎ出すように訓練を受けています。

S I:ネズミは地雷を発見したことを担当者にどのように知らせるのですか。

コックス:地雷の上を軽くこすります。そして約3秒間立ち上がり、地雷を発見したことを担当者に知らせます。

結核を発見する

S I:医学的な検査だけではなく、結核の発見の補助にネズミを使うことが、なぜ重要なのですか。

コックス:現在では、1年に1,000万件の結核の症例があります。アフリカのサハラ以南地域では、これらの症例のおよそ50%だけが結核と診断されています。そのため、多くの人がそれと知ることなく結核に感染しています。多くの場合は、診断能力の欠如が原因です。その上、既存技術は、1982年から大きく変わらない顕微鏡検査です。顕微鏡検査では、およそ20%から60%の症例を発見することができます。HIV陽性の患者に関しては、発見率はおよそ25%です。つまり、ある人が病院に行くと、実際には陽性であっても陰性であると言われることが4回に3回は起こるのです。
 そしてPCR 検査(ウイルスの遺伝物質を検出するポリメラーゼ連鎖反応)の手法があります。PCR機器はより高価であり、高度なメンテナンスを必要とします。世界のこの地域[アフリカ]では、PCR機器の約40%が機能していません。
 ネズミは発見の速度がとても早いです。例を挙げますと、私たちは55の病院で活動しており、タンザニアのダルエスサラーム市において、私たちの検査機器ではすべての痰の検体を収集します。ネズミは、帰宅してもよいと言われた多くの患者の陰性の検体を検査し、その中から陽性が発見されます。私たちは発見率を約40%増加させました。病院は100の検体から10から15の陽性を発見します。そしてその内の85から90の陰性の検体から、病院が見落とした追加の5から6の陽性を特定します。重要なことは、私たちは伝染を防ぐ手助けをしていることです。というのも、すべての患者が1年に10人から15人、他の人を感染させる可能性があるからです。

S I:APOPOでは、どの国や都市で結核検査を実施していますか。

コックス:結核に関しては、モザンビーク、タンザニア、エチオピアで活動しています。主要な業務はタンザニアで行っており、そこには二つの研究所があります。

S I:APOPOでは、何回の結核検査を行いましたか。

コックス:79万を超える検体を検査しました。

S I:APOPO では、ネズミの訓練を別の分野での発見にまで拡大していますか。

コックス:私たちは現在、ブルセラ症の発見に取り組んでいます。ブルセラ症は、殺菌処理されていない牛乳を飲むことから感染する世界のこの地域における別の感染症です。私たちは、土壌の汚染物質の検出や野生生物製品に注目しています。東南アジアを中心に、違法な野生生物製品の取り引きが大規模に行われています。また、地震後に生存者を発見するようにネズミを訓練する興味深いプロジェクトも実施しています。そのために、ネズミ用の小さなカメラを備えたハイテクのバックパックを開発しました。ネズミは人間の匂いを嗅ぐことができ非常に小さいために、瓦礫をくぐり抜けて大人が行くことのできない瓦礫の下に行くことができます。

ヒーロードッグ(英雄犬)

S I:APOPO では地雷の発見のために犬の訓練も行っていますが、その仕事について少しお話しいただけますか。

コックス:ベルジャン・マリノア種の犬は、何かを嗅ぎ出したと同時に後ろに下がるように訓練されています。犬が地雷の上を歩いて地雷を起動させることはまず起こりません。私たちは、主に技術的な調査の役割のために犬を使用しています。そのために、訓練手順を新たに開発しました。犬は最大で40メートルの距離をまっすぐに歩いて戻ることができます。もし犬を使わなければ草むらを通過する必要があり、重い草むら用カッターを使うことになり高額な費用がかかります。私たちが犬を使うのは、犬は何とかして草むらの中を進むことができるからです。もし地雷帯を発見できたら、次にネズミを使用した除去作業を開始することが可能になり、ほとんどの場合、狭い領域で小規模な探索を行います。犬にはカメラやGPS機器や通信機器を備えたバックパックを取り付けることができます。私たちは、犬が探索した全行程の軌跡を示し、どこに地雷がある可能性があるかを示す地図を見ることができます。

動物愛護

S I:APOPOは動物の世話をする上で、動物の健康と福利を重視しています。あなた方がお世話をしているネズミの生活についてお話いただけますか。

コックス:それはパフォーマンス(仕事ぶり)のためだけではなく、非常に大切なものです。良い結果を出す健康的なネズミが欲しいと思います。ストレスでいっぱいの動物が欲しいとは思いません。私たちはみな動物が好きです。私たちのネズミは訓練担当者が毎日検査しており、獣医が毎週検査しています。ネズミにはケージの外で遊ぶ時間があります。ネズミが引退するとき、私たちは引退小屋を提供し、おもちゃで遊べるようにします。私たちのネズミは野生のネズミよりも長生きします。

S I:ネズミは地雷を爆発させるには軽すぎます。それはネズミが地雷の発見に向いている理由の一つでもあります。犬は地雷を感知したときに、ネズミが訓練されているように土を引っかくのではなく後退するように訓練されています。それでも、犬には爆発事故の危険性がありますか。それとも、犬の安全は地雷原において最優先でしょうか。

コックス:もちろん、危険は常にありますが、機器操作や地雷除去の担当者にとっても変わりはありません。私たちは厳格な手順に従っており、私たちの動物に関して、地雷事故は今までに一度もありません。

S I:APOPOの資金はどちらから提供されていますか。

コックス:資金は様々な源から提供されています。主な財源は基金やチャリティーです。また、一般の方の寄付も大きな財源です。一般の方はネズミを「養子」にして、ネズミの仕事内容の情報を得ることができます。それらは小さな寄付ですが、私たちの収入のおよそ10%になります。別の主要な財源は政府からの資金です。連邦政府は、ジンバブエでの私たちの地雷除去事業を援助しています。私たちが除去作業を行っているのは37キロメートルの地雷原で、1キロメートル進む間に約2,000個の地雷があります。この地雷原は、南アフリカのクルーガー国立公園とモザンビークのリンポポ公園に隣接したゴナレズハウ国立公園にあります。この国境をまたいだ公園は、世界最大の公園の一つです(7,576平方マイル)。そこは広大な野生生物の領域です。私たちは象の回遊回廊を安全なものにしようとしており、そうすれば人間だけではなく動物の安全保障にも貢献し、エコツーリズムを開始するきっかけになります。

詳しくはwww.apopo.orgを参照してください。