ベアトリス・フィン氏へのインタビュー
アナ・スウィーストラ・ビエ
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、国連核兵器禁止条約の遵守と実施を推進する非政府組織の連合である。2017年には、ICANはその業績に対してノーベル平和賞を贈られた。アナ・スウィーストラ・ビエが本誌のためにICANのベアトリス・フィン事務局長にインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI): ウクライナ戦争は、核兵器が戦争を抑止するという主張が間違いであることを明らかにしました。代わりに、侵略国にとって核兵器は白紙委任状のように機能しているように見えます。状況の悪化を恐れる他の国やNATOによる干渉を妨げているのです。
ベアトリス・フィン:相互抑止の概念に頼ることができるという仮定は、確かに間違っています。核による抑止は、望むものを手に入れるために民間人を一斉に殺害すると脅迫する準備ができていることを背景に常に行われています。現在の制度を擁護する人の多くは、この相互抑止が安定をもたらすと主張します。私は全く違う意見を持っています。プーチン大統領の脅威は、他国への侵略を伴います。それは恐喝です! これは、私たちがどれほど脆弱であるかを示しています。アメリカは核兵器を持っているため、ウクライナを援助することができません。この状況は、核兵器が不利であることを示しています。
抑止理論は非常に非合理的です。それは地球規模での自殺の準備ができているだろうという考えと関係があります。これは決して正当でも合理的でもありません。そして相手側はそれを知っているのです。
SI:ヨーロッパの治安情勢は、ロシアのウクライナ侵攻によって大きく揺らいでいます。フィンランドやスウェーデンのような国々は現在、NATOに加盟するための措置を講じており、核兵器を保有している潜在的に攻撃的な国から身を守るためには核兵器が必要であるという考え方が広まっているようです。核兵器がなければ、そうした状況が利用される可能性があるといいます。現在の地政学的な情勢では、多くの人によって、核兵器の廃止は考えが甘すぎると思われています。どうすればそのような考え方から脱することができるのでしょうか。
フィン:ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアが核兵器を持っている限りヨーロッパの安全はあり得ないことを示しました。そして、核戦争を解決するために核戦争を開始するという脅しにいっそう依存することは、エアコンが地球温暖化を解決すると信じていることに少し似ています。核抑止力に依存することは、私たちがすべての安全保障をプーチンの手に委ね、彼が正しいことを行うことを永遠に信頼することを意味します。それは考えが甘く、無責任です。プーチンが常に「合理的に」行動するだろうと信頼することはできません。また、私たち全体の運命について彼を信頼することはできません。
1回の核爆発で数十万人の民間人が死亡し、さらに多くの人が負傷する可能性があります。放射性降下物は、複数の国の広い地域を汚染する可能性があります。広範囲にわたるパニックは、人の大規模な移動と深刻な経済的混乱を引き起こすでしょう。複数の爆発の場合は、もちろんはるかに悪いでしょう。国連機関と赤十字国際委員会による長年にわたる研究と分析では、核兵器の使用後には効果的な人道的対応が行われない可能性があることを一貫して指摘しています。医療と緊急時の対応能力はすぐに限界を迎え、すでに膨大な数に達している死傷者をさらに増加させることになるでしょう。
スウェーデンやフィンランドに対する核攻撃は明らかに完全に壊滅的なものであり、私たちはその結果に対処することができないでしょう。しかし、ヨーロッパの他の場所での核爆発も、スウェーデンとフィンランドに深刻な影響を及ぼすでしょう。このような大惨事を回避する唯一の方法は核兵器を完全に廃絶することであり、これに向けた最善の手段は国連核兵器禁止条約(TPNW)です。この条約は核兵器に関連するすべての活動を禁止し、核兵器を排除する計画を打ち出しています。
SI:メディアでは「戦術核兵器」についての話があります。それはどういう意味で、どのように機能するのでしょうか。
フィン:戦術核兵器は戦場で使用するように設計されており、一般的に爆発力が比較的弱いものです。しかしながら、核兵器の使用は、特にヨーロッパのような人口密度の高い地域では、壊滅的で広範囲にわたる結果をもたらすでしょう。いわゆる「戦術」核兵器や「戦場」核兵器でさえ、通常は10から100キロトンの範囲の爆発力を持っています。それに比べて、1945年に広島を破壊し14万人の死者を出した原子爆弾は、ちょうど15キロトンの爆発力でした。このスケール感を背景に持つことは重要です。私たちは「小さな」爆弾について話をしているのではありません。その影響は依然として巨大です。それらは都市を一掃することを目的としています。
SI:現代は、未熟で、無責任で、衝動的で、権力に飢えた指導者が核のボタンに指を置くとき、人類の見通しに最も恐ろしい光が投げかけられる時代です。しかし、現在の指導者の性質に関係なく、どの国であっても、そのような兵器を保持することがどれほど正気で責任あることなのかについて、私たちは確かに等しく心配する必要があるでしょう。そしてもちろん、サイバー攻撃やその他の技術的進歩という現実もあります。
フィン:核兵器に対して良い手はありません。人が常に合理的な決定を下すとは限らないことを私たちは知っています。また、事故が発生する可能性があることも知っています。世界は現在、プーチンが正しいことを行い、核兵器を使用しないことを望んでいます。これが、米国など多くの国の安全保障戦略です。しかし、これは非常に壊れやすいものです。私たちは、それが再び起こることはないだろうという希望的観測の下に生きています。
SI:技術的、機械的、人的エラーは発生するものです。世界中で貯蔵されている膨大な核兵器に関連して大規模な災害がまだ発生していないのは、大きな幸運のおかげなのでしょうか。
フィン: はい、私たちは非常に幸運でした。これまでに多くのニアミスや事故がありました。多くの科学者は、今日生まれる子供たちは核戦争を経験する可能性が高いと述べています。それはとても恐ろしいことです! また、最近、インドがミサイルをパキスタンに誤って発射したことも分かりました。もしそれが米国の基地とロシアの間で起こっていたら、私たちは核戦争に巻き込まれ、壊滅的な結果となる可能性がありました。もしこの道を進み続ければ、非常に危険な旅をしていることになります。人は非合理的で予測不能な行動を起こすものです。それが起こらないことを保証できないので、その代わりに核兵器を取り除く必要があるのです。
SI:原子爆弾の使用について考えると、すぐに広島と長崎が思い浮かびます。それは恐ろしいことでしたが、1945年に爆発したものと比較して、今日の原子爆弾の威力はどのくらいでしょうか。核戦争後には、生存者に対してどのような世界が残されるのでしょうか。
フィン:開示されている情報は多くはないです。現在までにソビエトが実験を行った最大の爆弾は、メガトン単位の威力を持つ「ツァーリ・ボンバ」でした。すべての核保有国は兵器の近代化を続けており、これに何十億ドルもの投資をしています。今日の核兵器の威力ははるかに大きく、軍縮の取り組みがあったという考えを否定するようなものです。確かに冷戦以来、核兵器の数は減少していますが、既存の弾頭の威力は、1980年代の爆弾と比較してはるかに大きくなっています。したがって、核兵器の1回の使用による影響は、広島と長崎で見られた影響よりはるかに壊滅的なものになるでしょう。
一方で、核爆発の短期的および長期的な恐ろしい影響にもかかわらず、生存者がいることを忘れてはなりません。人々は残骸を片付ける必要があるでしょう。……
SI:戦争を抑止すると思われている核兵器の背後にある論理は、核兵器が悲惨すぎるのでこれまで一度も使用されなかったというものです。しかし、それでも私たちは、点と点をつないで全容を明らかにすることはなく、核兵器は危険すぎるので維持できないことをこの論理がほのめかしていることを認識しません。その代わりに、多くの国では一般的に、核兵器は「必要悪」であると考えられているようです。そのような兵器が引き起こす破壊の規模を知っているので、核兵器について議論したり、核兵器の存在と開発に対する国民や有権者の支持を得たりする方法を理解することは困難です。これらの兵器が私たち全員にもたらす存亡にかかわる脅威に関係した真の事実について、国民やメディアの認識が不足しているのでしょうか。核兵器が「安全な手」の下にある限り何も悪いことはなく、核兵器が存在している限り確かに今までに悪いことはなかったと信じ、私たちは誤った安心感に落ち着いているようです。私たちは無知、偽情報、神話、プロパガンダの犠牲者なのでしょうか。
フィン:私たちはこの爆弾について、ほとんど神話的で強力な物体として話をしてきました。しかし、それは依然として人間が造った爆弾であり、私たちは核兵器をどうするかを決めることができます。
多くの政治的圧力を生み出し、核兵器を非難しなければなりません。私たちは核兵器を権力の象徴と見なしてきましたが、恥の象徴と見なすべきです。誰にも武装解除を強制することはできません。しかし、核兵器の保有をより困難でよりコストのかかるものにすることはできます。そうすれば、最終的には核兵器を取り除くことがより簡単になることに気づくでしょう。また「核兵器」は、全く使用に適さないものです。大惨事と混乱を引き起こすもので、現在の軍事開発の傾向に反しています。核兵器の価値は徐々に下がっていくでしょう。核兵器の価値が下がれば下がるほど、より多くの国家が核兵器をなくしたいと思うでしょう。
私は、そこに到達できるだろうという希望を持っています。私たちは、人権や国際法に関して非常に大きな進歩を遂げました。これらの制度と規則は完璧ではなく、ロシアの侵略のような出来事を妨げることはできません。しかしながら、それらは国際的な対応の枠組みを提供します。
SI:兵器産業にはどのような影響がありますか。巨額の資金が他の用途から逸れ、決して使用してはいけないと私たち全員が同意している核兵器や核装備の生産、開発、保守に注ぎ込まれています。
フィン:兵器産業は間違いなく既得権益を持っており、核抑止力が、人々が疑うことのない政策であり続けるように取り組んでいます。政治選挙キャンペーンに寄付し、シンクタンクや研究機関に資金を提供し、これが優れた安全保障戦略であるという考えを維持しています。兵器会社によって資金提供されたあらゆる政策や研究活動に疑問を持ち、それはただ兵器会社の莫大な利益を維持するためではないかと問うことが絶対に必要です。
SI:核兵器は、現在では違法なものです。TPNWには、現在までに86カ国が調印し、60カ国が批准しています。この成果の背後には、大規模な作業と根気強いたゆまぬ努力があります。世界的な核軍縮運動、責任ある国家や市民社会のすべてがその役割を果たしており、もちろんICANも大きな役割を果たしてきました。2022年6月21日から23日にウィーンで開催される最初の締約国会議では、あなたは何を達成することを目指していますか。
フィン:ウィーンでは、核兵器の完全な廃絶の基礎を具体的にどのようにつくっていくかを議論する予定です。世界がウクライナ戦争を心配して見守り、プーチンが実際に核兵器を使用するかどうかを見守っている間、私たちはそれらを取り除く計画について話し合う予定です。TPNWはそのような計画なのです!
軍縮と核兵器の廃絶に真剣に関心を持つ国は、会議に参加すべきです。最初の締約国会議は、50カ国目の批准により昨年初めに発効したTPNWの祝典になると想定されていました。今ではこの会議は、新しい力を生み出すことができます。核兵器をめぐる闘いが始まって以来、初めてのことです。別々の依存関係にある非常に異なった国々、一部の国は米国に、一部の国は中国に、一部の国はロシアに依存する国々が、プーチンの脅威を非難できる局面です。ドイツやスウェーデンのように今のところ禁止条約を施行したくない国でさえも、ウィーン会議への参加を発表しました。これは最初の重要な段階です。
SI:核兵器の惨劇から解放された地球への道に必要な次の段階は何でしょうか。
フィン:多くの人は今、私たちが核兵器のせいでどれほど脆弱であるかを認識しています。家族の未来をプーチンや核保有国の指導者の手に委ねることを安全とは感じていません。歴史上、核軍縮においてなされた最も大きな進歩は、危機の後に達成されました。今こそ人々が活動すべき局面だと思います。甘い認識を持つことをやめなければならないことを政治家に伝える必要があります。核兵器をどのように取り除くかという計画を立てなければなりません。
大衆が立ち上がったとき、権力者は常に権力を失ってきました。TPNWはそのような革命なのです。少数の核保有国が条項を決定し続けることはできません。あまりにも長い間、少数の国家が、核兵器の保有と核抑止という考え方を通して他国の運命を決定してきました。残りの世界はこの状況の人質になってきました。TPNWはこのことに関係しており、地球の未来を切り開くことに関係するものなのです。今、私たちは情勢をがらりと変えようとしています。新しい法律を作り、制度を変えようとしています。安全のためには、核兵器を禁止し、排除する必要があるのです。
詳しくはwww.icanw.orgを参照してください。