世界を変える人間の好奇心の力

──パレスチナ出身のノーベル化学賞受賞者
ノーベル賞晩餐会におけるオマール・M・ヤギ氏のスピーチ

2025年12月10日

 ヨルダンでパレスチナ難民の両親の下に生まれた化学者、オマール・M・ヤギ氏は、金属有機構造体に関する研究で昨年10月にノーベル賞を共同受賞した。ヤギ氏は自身の発見を次のように要約している。「私たちが作った構造体には、内部に空洞や開口部がありました。それらは空間を取り囲んでいます。そしてこの空間の中に、空気中の二酸化炭素や水を閉じ込めて飲料水を作ったり、水素をクリーンエネルギーに変換したりすることができます」
 ヤギ氏は、家計を支えるため、父親の肉屋で働きながら育った。「私はとても粗末な家で育ちました。……小さな部屋に12人ほどが住み、飼っていた牛たちと部屋を共有していました」。彼はかつて、少なくとも100人の研究者によって引用されるような論文を発表することを夢見ていたと語っている。

陛下、殿下、閣下、敬愛する受賞者の皆様、
ご列席の皆様、
 共同受賞者の北川進氏、リチャード・ロブソン氏、そして私自身の3人を代表し、この特別な栄誉を賜りましたことについて、スウェーデン王立科学アカデミーおよびノーベル財団に感謝申し上げます。

 今夜、私たちは偉業だけでなく、可能性──つまり人間の好奇心が世界を再構築する力──をも称えます。金属有機構造体(MOF)の開発は、シンプルでありながらも大胆なアイディアから始まりました。それは、原子レベルの精度で材料を設計し、強固で目的を持った結合を形成することで、驚くべき機能を解き放つことができるというアイディアです。                                     
 このアイディアから新たな可能性が生まれました。砂漠の空気から純水を抽出する力、大気中の二酸化炭素を直接回収する力です。これらはほんの始まりにすぎません。無数の構造と用途を持つMOFは、有望性から実用的なツールへと急速に進化しており、数え切れないほどの人々の生活を変えようとしています。
 私の旅は、実験室から遠く離れた場所で始まりました。私はヨルダンのアンマンで、10人の子供を持つ難民家族の中で育ちました。水道も電気もなく、生計を支える家畜と生活を共にしていました。苦難は至るところにありました。成功の見込みはほとんどありませんでした。ただ、自然が驚くべき方法で姿を現し、私たちを助けてくれるという可能性はありました。
 転機は10歳の時、学校の図書館で分子の絵を見つけた時でした。その美しさと神秘性に心を奪われ、それが生物・無生物を問わず、あらゆるものの構成要素であることを知った時、化学への情熱に火がつきました。私は永久に化学に魅了されました。化学は私の逃避先であり、進むべき道となりました。
 幼少期のもう一つの経験も、私に大きな影響を与えました。砂漠では、政府から水が1週間か2週間に一度しか届かなかったのです。近所中で「水が来るぞ」という声が囁かれ、水の流れが止まってしまう前に、見つけた容器に水を汲もうと必死に駆け回ったことを覚えています。
 何年も経ってから、MOFが水を吸収し放出する仕組みを研究するうちに、一見普通の行動に思えるものの中に革命的な何かがあることに気づきました。このMOFが砂漠の空気から水を吸い上げ、きれいな飲料水に変えることができるのを目の当たりにしたのです。それは私の子供時代のリズムを彷彿とさせましたが、同時に、かつて私たちが耐え忍んできた苦難そのものに対する解決策を提示していました。もし私がそれを経験していなければ、このデータのパターンに気づけただろうか、と私はよく考えます。

 しかし、MOFのより深い教訓は、そのメタファー(暗喩)の中にあります。MOFの強さは、分子間の絆に由来します──私たちの未来が、国や世代を超えて築く絆にかかっているのと同じように。MOF科学は現在、100カ国以上で実践されており、世界中の若者、特に発展途上国の若者たちに刺激を与えています。
 ここに、私たちの最大の希望があります。つまり、物質を再構築できる科学と、それを前進させようと熱望する世代です。私はリーダーたちに行動を促します。科学者は特権を求めているのではなく、可能性を求めています。科学者の好奇心を支え、障壁を取り除き、学問の自由を守ってください。世界中の才能を受け入れてください。
 気候変動に関しては、行動を共にする時がすでに到来しています。科学はここにあります。今、必要なのは勇気です。課題の巨大さに見合った勇気です。そうした勇気があれば、次世代に対して炭素回収技術だけでなく、彼らが抱く希望にふさわしい地球を贈ることができるでしょう。
 化学を実践するために化学者である必要はなく、発見が誰にでも開かれているような未来を想像しています。AIの進歩はこれを可能にするかもしれません。それは、化学が進歩の科学であるだけでなく、希望の科学となるような未来です。かつて私が経験したような限界に直面する子供が一人もいない未来、より安定し、より豊かで、より公正な世界へと向かって子供が成長していけるような未来です。
 ありがとうございました。

(https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2025/yaghi/speech/; aljazeera.com)

オマール・M・ヤギ氏
(Photograph: Christopher Michel, Wikimedia Commons)