世界を手離し、気候によって変わらないすべてを愛する方法

ジル・フライによるジョシュ・フォックス氏へのインタビュー

 米国人の映画監督、脚本家、環境活動家であるジョシュ・フォックス氏は、新たなドキュメンタリー映画「世界を解き放ち、気候が変えられないすべてのことを愛する方法」の制作のため、3年を費やし、6大陸の12カ国を旅した。アカデミー賞にノミネートされた彼の2010年の作品「ガスランド」は、フラッキング(水圧破砕)産業の害を初めて暴露した画期的なドキュメンタリー映画であった。

20161月、サンダンス映画祭で初上映された彼の最新映画は、気候変動の破壊的な影響を受けている世界中の地域を撮影し、また彼らの故郷を守り地球を救おうと反撃している人々の勇敢で感動的な方法を紹介している。

201610月、ロンドンでの英国初上映の翌日、ジル・フライが本誌のために、彼にインタビューを行った。

シェア・インターナショナル(以下SI):私はあなたの新しい映画に、勇気づけられ、感銘を受け、パワーを感じました。なぜこの時期にこのような映画をつくられたのですか。

ジョシュ・フォックス:ちょうどフラッキング産業をデラウェア川流域とニューヨーク州で打ち破った時でした。当時、私がやりたかったのは、家にいて、自分が住んでいる美しい場所、川、自然を楽しむことだったのです。自分のまわりの木々が、気温の上昇によって発生した寄生虫によって枯れたとすぐに分かるまでは。そしてハリケーン・サンディがニューヨークを襲いました。自分たちの地元でフラッキング産業に勝つことは可能かもしれないけれど、気候変動は愛するものすべてを奪うことができる。それで意欲を持って、仕事を継続しなくてはと気づいたのです。

「ガスランド(米国のフラッキングの実態を描いた映画)」で行ったのと同様に、質問を投げかけました。「気候変動とは何か?」。フラッキング問題については、ある程度の解決がうまくできましたが、私はすぐにこれは完全に違う質問だと分かったのです。気候変動は全体的な、全人類の問題であり、多くの対策はそのひどい悪影響の幾つかを解決するにはあまりにも遅すぎていたため、私は気候変動対策キャンペーンを超えた領域に入らなければならなかったのです。

多くの気候変動対策運動は科学に基づいており、「もし私たちがそれを実行することができれば、これを止めることができます」と言います。しかしながら、すでに進行している多くの悪影響を見た時、全く新しい一連の質問が出てきます。例えば、人々が傷つかないようにしながら、これを生き延びるにはどうしたらいいのかとか。この映画は面白い構成になっています。ほとんど2本の映画で出来ているような構成です。「世界を解き放つ方法」が第一部、そして「気候が変えられないすべてのことを愛する」が第二部です。私は気候変動に関する映画をつくっていると思っていましたが、最終的には人間の価値観に関する映画をつくっていたのです。

 

SI:気候変動は純粋に環境問題なのですか。

フォックス:いいえ、それはすべてのものに関わる問題なのです。科学を細分化してみましょう。私たちはすでに地球の気温を1℃上昇させており、それは凍ったものを溶かし始めるには十分な値です。これによって地球の大気が含む水分量は5%上昇します。それはとても大きな意味を持ちます。より大きな強い嵐やハリケーン、さらに極端な気温の発生を意味します。私たちはすでに地球の気温を1.5℃まで上昇させるのに十分な量の二酸化炭素やメタンを大気中に放出しています。気温が2℃上昇すると、回避できない5〜9メートルの海面上昇が発生します。そして地球上の種の3050%が失われ、大きな森林破壊や森林火災が発生し、サンゴ礁が消滅し、海洋の酸性化が起こります。それは悪夢のシナリオです。

国連は2℃の温度上昇が起これば、さらに8億人の気候変動難民が発生すると試算しています。今ヨーロッパの難民危機で暴力、人種差別、外国人嫌い、自己中心的な行動が起こっていることを考えれば、このさらなる8億人の難民によって、ほとんど想像もできない、途方もないストレスを私たち全体に与える世界が生まれるでしょう。それゆえ、貪欲と競争を通して私たちの社会をつくっている価値観——ここでは石油・ガス産業が世界を動かしていますが——の再確認に焦点を当てるのではなく、私たちの優先項目を、いかなるものであれ人間の尊厳を保ってこの危機を生き抜くことに変える必要があります。これらの新たな価値観は全世界で、直接気候変動を経験している人々の中で生まれています。この映画は気候が変えることのできない美徳にフォーカスしています。民主主義、人権、革新、創造性、回復力、愛。

そして難民たちが自分たちの玄関先に来た時、それはショットガンを取り出したり、暴動鎮圧用の装備で武装した警察隊を配備したりする時ではありません。その代わりに、被害を受けた人々をもてなすため、テーブルの空いている席や空いている寝室を提供する時なのです。

シリアとスーダンの戦争は、両方とも気候変動戦争です。明らかに、その要因はただ気候変動のせいだけというよりも複雑ですが、それが状況を悪化させたストレス要因です。5年間雨が降らず、シリアの歴史上最悪の渇水が発生しました。気候危機がその状況を完全に不安定な状況へと傾けたのです。そして、もし私たちが気候変動対策を行わなければ、未来にこれらの種類の紛争が悪化するのではと考えるとぞっとします。

 

SI:あなたは映画で何人かの素晴らしい人々に出会い、インタビューしましたね。特に印象に残った人物はいますか、そしてその理由はなんですか。

フォックス:自分の友人たちの中から誰かを選ぶことはできません! しかしながら、私が驚きを感じたのは、石油やガス企業と戦う先住民たちと共にいたアマゾンでも、最も都会のニューヨークやサモアでも、全く共通点のない暮らし方をしてきた人々が、同じことを言い始めていることです。貪欲と競争は私たちの社会の土台としては良い価値観ではない、私たちは何か別のことをする必要があると。それは驚くべきことです。先住民の人々と大都会の人々が、私たちは自然、環境、私たち自身を守らなければなりません——と語るのを聞くとき、それはこの映画で最も感動的な場面の一つです。

 

SI:あなたは、映画の中で、ときどき雪の中に頭を突っ込みたい、家の中にいたいという気持ちが起きると認めていましたね。気候変動や世界の危機に関する悪いニュースが急増する中で、まさに多くの人が現在そう感じているのではないでしょうか。でもあなたは行動されました。何があなたを問題に立ち向かわせ、行動させたのですか。

フォックス:私たちが気候について知るようになると、衝撃を受ける要因があります。そして憂鬱になり絶望に襲われます。これらは二つの異なった反応を引き起こします。一方では次のように言います。「私はそれに対処できない」。すべての感情を停止します。それはふさぎ込んだ状態であり、感情の欠如であり、感覚の遮断や鈍くすることであり、逃亡であり、否定です。気候変動否定論者のように。もしくは次のように言うことができます。「私はその嘆きや悲しみに関わりたい」。そして突然、あなたは目覚め、活力に満ち始めます。喜ぶこと、祝うことは可能であり、戦うこと、積極的に行動すること、インスピレーションを持つことは可能です。

気候変動と戦う人たちと出会う時、それはあなたに信念と希望とこれが生きる意味だという理解を与える喜びのプロセスなのです。そうです、あなたは困難の中で生きることの意義を悟るのです。——もしくはすべてを締め出すかなのです。

この映画の前半部分は、すべて気候に関する映画です。あなたをがっかりさせる気候映画のような。それからあなたは失望の窓を通り抜けて、反対側に飛び出します。これは実際に私に起こったことです。私は意気消沈させるだけの映画をつくることはできませんでした。

そして、もし気候が変えることができないもの

——私たちの文化——に焦点を当てれば、底の浅い消費主義と暴力の現在の社会モデルを終わらせることができます。私たちはまだ戦わねばなりません。しかしその戦いは、これまでとは異なっています。それは私たちの所有物のための戦いに代わる、私たちの人間性を求める戦いなのです。

 

SI:あなたの映画の中の幾つかのシーンは本当にショッキングでした。中国の汚染、アマゾンの森林伐採、万年雪の溶解、米国のハリケーンとその後遺症など。私たちは非常に不安定な環境状態の中にいることを証明するこれらの証拠を見ました。なぜ大手メディアはこれらの問題をもっと真剣に取り上げないのでしょうか。

フォックス:大手メディアは、石油・ガス産業の影響下にある保守的な政権の影響下にあります。英国(のブラックプール)には、民主的な草の根運動があり、すべて正しいことを行ってきました。それは理想的な市民たちでした。彼らは嘆願書を作り、科学的見地を取り入れ、会合を持ち、映画を上映し、そしてフラッキングは健康、子供、環境、気候に良くないと話すことで町の議会に影響を与え、議会はそこでのフラッキング禁止に合意しました。それは非常に慎重に考慮された、非暴力的な論理的手法です。

しかし石油・ガス企業の手の中にある中央政府は、インフラストラクチャー・アクト・2015と呼ばれる法案を通過させてしまいました。まさしくその目的は、地域レベルの市民の民主的な意思をひっくり返すことにあります。それは専制政治であり、民主主義とは正反対のものです。

政府は言います。「私たちはエネルギー源としてこれが必要であり、いつでも使える状態にしておくことが必要なのです」と。私たちはどのように使える状態にしておくかを知っています。ソーラーパネル、風力発電、潮汐・波力発電、地熱発電などもっと良い方法があります。彼らは言います。私たちには現在の生活水準を向上させ続けるために石油とガスが必要であると。しかし、中国で見ることができるように、私たちが化石燃料を使えば使うほど、私たちの生活水準は低下し、上昇しないのです。もし私たちが現在の生活水準を維持したいと思うなら、私たちは石油やガスをやめ、再生可能エネルギーへと移行せねばなりません。

大手メディアは何をしているのでしょうか。今朝、BBC(ラジオ4)で彼らは私にフラッキングについてそれがあたかも過去10年間に存在していなかったかのような質問をしました。「フラッキングによって水源が汚染された事例がありましたか?」。それはこのような質問をしているのと同じです。「喫煙者が肺がんになるというのは本当ですか?」。大手メディアの扱いによっては、私たちはフラッキングについて話すことはなかったかもしれません。これを崩すために独立系メディアの存在が必要でした。そして私のような独立系ジャーナリストに大きな支援をしてくれた、サンダンス映画祭とHBO(米国大手ケーブルテレビ)に感謝します。

 

SI:あなたは初演の日に、ジャーナリストでありテレビ司会者であるアニー・グッドマン氏が、アメリカ先住民が主導するノースダコタ州の石油パイプラインに対する抗議活動の撮影で最近逮捕されたと話されていましたね。

フォックス:はい。私のプロデューサーのデイア・シュロスバーグは、タールサンドパイプラインの抗議活動を取材して最近逮捕されました。活動家たちは手動で緊急停止弁を動かしてこのパイプラインを停止させました。彼らはロックを抜き取りました。そしてこれは地球にとっての緊急事態ですと述べたのです。私のプロデューサーは、抗議者側の人間ではありませんでした。彼女はジャーナリストとして撮影するためにそこにいたのです。しかし彼女は、共犯者として逮捕されました。これは米国の一般的な傾向です。当局はまた映画スターのシェイリーン・ウッドリー氏も、ダコダアクセスパイプラインを止めるための米国先住民の祈りの現場をライブストリーミングしていて逮捕されました。米国憲法にはジャーナリストの保護が書かれています。それは米国憲法修正第1条と呼ばれています。なぜなら言論の自由、表現の自由にとってそれが最も重要な修正条項だからです。

 

SI:気候革命(Climate Revolution)と呼ばれている、全米で開かれる集会・音楽・映画イベントについて教えていただけますか。

フォックス:長年にわたって気候保護運動は正に科学のことで頭がいっぱいでした。そしてアカデミックな人々によって動かされてきました。彼らは人々に情報を伝えるという素晴らしい仕事を行ってきました。私たちが今必要なのは、文化に基づいた気候保護運動なのです。米国で起こっているこの政治的な革命は、非常にポジティブで情熱的です。そして多くの私たちの活動を団結させたバーニー・サンダース選挙キャンペーンに助けられたのです。それはブラック・ライブズ・マター(黒人のいのちは大切だ)、オキュパイ、気候保護キャンペーン、フラッキング禁止キャンペーン、正当な連邦最低賃金に関する戦い、単一支払者制度による医療制度、ネイティブ・ライブズ・マター(先住民の生活は大切だ)、米国看護師組合、その他多くの活動を団結させました。

この気候革命イベントは、私たちの運動と共通する側面を持つすべての活動から講演者を集めています。それから音楽があり、私の映画を見て、映画の最後にダンスをします。

それが、私たちが今必要としている運動であり、全身の運動なのです! もし私たちが自分たちの問題を解決したいと思うなら、私たちは本当に協力しなければなりません。それはグループ活動なのです。あなたはあなた一人だけでは、それを行うことはできません。そうです、コミュニティー・共同体が最も重要な価値の一つなのです。そしてつながり合い、集い、環境に目覚めることが重要です。それが、私が望んでいるものなのです——私たちがさらに目覚めることを望んでいます。

 

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