フェリシティ・エリオットによる
エコノミスト、著者であるグレアム・マクストン氏へのインタビュー
グレアム・マクストン氏はエコノミスト、講演者、ベストセラーの著者である。彼は2014年から2018年までローマクラブの事務局長を務めた。彼の最新の著書『地球規模の気候緊急事態(Global Climate Emergency)』は2020年に出版された。この本は、気候変動に効果的に対応することを妨げる障害を社会がいかに克服できるかを見ている。彼は現代の経済学的思考に対してひどく批判的であり、根本的変化の必要の緊急性について書いている。彼の2018年の著書『変化! なぜ徹底的な転換が必要なのか(Change! Why we need a radical turnaround)』は、ドイツのAmazonでベストセラー第1位であった。彼はまた、『繁栄の再発明: 経済成長を管理し、失業、不平等、気候変動を減らす(Reinventing Prosperity: Managing economic growth to reduce unemployment, inequality and climate change,)』(2016)の共著者でもある。フェリシティ・エリオットが、ロックダウンの最中の4月初頭に彼にインタビューを行った。
シェア・インターナショナル(以下SI):私たちは何と不思議な時代に生きているのでしょうか!
グレアム・マクストン:本当にそのとおりですが、それは何らかの形で予想されていたことの一つだと私は思います。そしてもちろん、私たちが自然の境界線を押せば押すほど、このようなことが起こる可能性が高くなります。人間の生命が失われる悲惨さに関しては恐ろしいものですが、この危機は私に長期的な希望を与えてくれた最初のものです。
SI:あらゆる苦しみにもかかわらず多くの人は希望を持っているようであり、現在の大流行の奇妙な時代の中で可能性があることを感じています。一つはっきりしていることは──私たちはいつも通りのやり方に戻ることはできないということです。推奨されるほとんどの変化はまだ徹底的ではないと、あなたはお考えでしょうか。
マクストン: 物事のやり方、生き方を少し変えてみたり、リサイクルを増やしたり、飛行機の利用回数を減らすという考え方だけでは、必要な排出量の削減などを達成することはできないでしょう。しかし、それが突然に可能になったのです。私たちはすべてのフライトを止めることが可能です。私たちはすべての車を、世界中で不要なあらゆる種類の物を運ぶすべての船を止めることができます。そして今突然、そのような徹底的なことが起こっています。空想的なアイディアだと思われていたことが、突然起こりました。そして私のような人々は、「見て! 私たちはできるよ!」と言う非常に大きな機会を得ました。非常に長い間で初めて、私は楽観的に感じています。なぜなら、私たちは気候問題を実際に解決できることが分かるからです。
SI:気候変動に関していまだに否定的な人もいて、著名な指導者の中にもいます。私たちの金融経済制度がどのように環境と衝突し、どのように地球の大規模な破壊を引き起こしてきたかを教えていただけますか。
マクストン:私たちの経済制度では、経済を毎年成長させようとします。経済成長に大きな重点が置かれていますが、成長を達成するためには生産を増加させる必要があります。生産を増加させるためには、より多くの資源を使う必要があります。そして、より多くのエネルギーを使う必要があります。すべてのことをするのにエネルギーが必要だからです。すべての資源を掘り出し、工場や船、例えば食物などを育てるのに必要なすべてのものに必要なあらゆるエネルギーをつくり出すことは、ほとんどが炭素に基づいています。それは石炭、石油、ガスなどです。ですから毎年私たちは、より多くのものをつくり出す必要があり、それはより多くのエネルギーを生み出すことを意味し、そのためより多くの排出が発生し、気候変動を引き起こします。気候変動の直接の原因は、生産性の向上と一層の経済成長を求める圧力です。
SI:持続可能な経済とはどのようなものでしょうか。
マクストン:それは、今日あるものとは全然似ていません。それは、使用される資源量が自然によって置き換えられる資源量を絶対に超えないような着実な国家のシステムでなければなりません。未来の世代の必要を考慮に入れる必要があります。他の種の権利は、私たち自身の権利と同等に見られなければなりません。何でも投げ捨てるか、単に生産を増加できるなどという考え方は、すべてなくならなければなりません。私たちは全く違った価値観を持ち、人類の福利と霊的、知的な発達に重点を置きながら生きる必要があります。この「物質的世界のもの」は、すべてなくなる必要があります。あらゆるものをリサイクルし、再利用しなければなりません。今日私たち自身を駆り立てるすべてがなくならなければなりません。
それは、実際には資本主義を考え直す問題ではありません。なぜなら、その根本にあるのが資本主義だからです。私たちはこの思考方式を根絶する必要があり、起こっていることに対して一旦人々が目覚めれば、それは全く可能です。それは中世の時代に少し似ています。すべての人が地球は平らだと思っていました。今では私たちはそれが違うことを知っています。最初は一人か二人の人がそれは違うと考えました。その過程は最終的に変化し、私たちは皆地球は平らではないと現在考えています。私たちは現在の生き方が唯一の道であると洗脳されてきたのです。
起こらなければならないことに対して目覚め始めている人々がいます。彼らは高度な意識を持っています。これだけリサイクルしていても、依然として問題があることを彼らは理解しています。何かもっと徹底的なことが必要だと彼らには分かっています。ごく一般的に言えば、こうした問題に関してはドイツ語圏と北欧諸国が進んでいると私は思います。それは素晴らしいことですが、問題を分かり状況を理解している人が4億人いるとしましょう。しかし、間違った方向に進む75億人の人々がまだ残っています。それは問題ですが、ヨーロッパにとって主導権を握るチャンスでもあります。ヨーロッパだけにそれが可能だと私は思っています。
SI:今の状況では、「このままの状態」はもはや有効ではないことが明らかです。私たちの態度は協力的ではなく、国家主義的で競争的です。
マクストン: 私たちは、協力することなくこのウイルスの問題を解決することはできません。あいにく、反対の結果となる大きな危険性が短期的には間違いなくあります。すでに特定の国々が、自国を守るためにマスクを他の国々から実際には「盗んでいる」のを見ることができます。それに対して、戦争のような状況なので自国民を最初に世話をする必要があるという論法がありますが、地球規模での協力がなければ先に進むことはできません。繰り返しになりますが、この機会に協力により私たちが一旦この(パンデミックの)最初の障害を乗り越えれば、人々は集結する必要がありますが、新しいリーダーシップもまた必要であると私は考えます。今日のリーダーシップは、成長、搾取、利益に関する考え方に縛られており、それが私たちを前進させることがないことは明らかです。
SI:あなたの著書『変化! なぜ徹底的な転換が必要なのか』についてお聞きしたいと思います。現在そして新型コロナ危機の克服後にどのような変化があると思われますか。
マクストン:目的について見てみましょう。私たちは排出の発生を止める必要があります。温室効果ガスの排出をできる限りゼロに向けて削減する必要があります。私たちは森林破壊を止める必要があり、農業のやり方を変え、亜酸化窒素の水準を下げる必要があります。ですから、それがそのような変化の単純な最終結果になります。しかし、そのためには非常に大きな産業を幾つか閉鎖する必要があります。例えば、石炭、ガスなどの産業です。それは簡単なことですが、それにはまた航空産業、自動車産業、セメントの製造を停止することも必要です。そのため私たちは、農業がもっと地元密着型となるように農業分野を再生せざるを得ません。こうした変化を何であれ達成するには、私たちの経済制度の重点を成長から離すことが必要です。私たちは、もっと自然とバランスを保ち共存する経済制度を持つ必要があります。それらすべてを達成するには、考え方の変化、人生を見る視点の変化が必要です。私たちの社会は非常に個人主義的であり、消費を求めます。私たちの考え方は起こすべき変化と両立するものではありません。
楽観主義と機会
SI:私はただ、新型コロナの危機はスピードを上げる効果があるのではないかと考えています。気候変動への対処に関して言えば、私たちはすでに借りた時間の中にいるため、今回の危機は私たちの再教育になるのでしょうか。
マクストン:それがまさに私が楽観的であると言っている理由です。この危機は、私たちがこうした変化をしなければならない時間を短縮する可能性があります。それは、2030年までに排出を徹底的に削減するという目標を突然に可能にしました。なぜならロックダウンにより、現在排出が大幅に削減されているからです。しかしそれは、危機がどの程度続くかによって異なり、後の反応により大きく異なります。制度は信じられないほどに堅固であり、今日の私たちの制度、つまり現在存在している自由経済の覇権主義的でネオリベラルな成長志向の制度はとてつもなく強力です。それは現役の制度であり、深く組み込まれています。そしてこのウイルスが管理下に置かれるやいなや、世界の多くの地域の自然な圧力は以前のやり方を直ちに取り戻そうとすることです。現在は、エコロジー意識が高いドイツや北欧ではそうではないかもしれません。それは、新型コロナウイルスがどの程度続くのか、それにより何が起こるのかによって異なります。現在のところ予測は不可能ですが、互いにつながった国々からこのウイルスを根絶するのは極めて難しいだろうと私には思えます。そして当面の間、インドのような国々はウイルスを完全に取り除くことはできないかもしれません。おそらく、世界の一部の地域は生き残る地域から閉ざされるでしょう。私たちがワクチンを入手するまで長い時間がかかるかもしれません。ですから、世界は根本的に違ったものとなる可能性があり、それは長期間にわたり違ったものであり続けるでしょう。この危機は長期間にわたり長引く影響を及ぼすかもしれません。そのシナリオは大変なものですが、リーダーシップが変化するため、制度全体を変えられる可能性が高いのです。人々は自ら求めるもの、人生で最も大切なものをよく考えて答えを出すためにより多くの時間を持つようになり、必要な構造変化をもたらすことがもっと簡単になるでしょう。
SI:あなたは少し前に、重工業や農業分野の活動を閉鎖するか完全に変化させる必要があるでしょうと言われました。社会の大きな混乱もなく、どのようにしてそれを実行するのでしょうか。若い政治家たちは、ある段階から新しいモデルや構造に移行する必要性に彼らの政策の基盤を置いているようです。
マクストン:はい、そこには二つの問題があると私は考えています。一つは、新しいモデルはどのようなものであるべきかです。そして次にまた、今日のモデルからどのように段階的な移行をしていくかということです。私が考えるその鍵は、影響を受ける人々、つまり仕事を失う人々、収入を失う人々が目的の感覚を失わないようにすることです。繰り返しますが、このウイルスは課題を提供します。国家が介入し、産業の閉鎖後に人々に収入を提供する必要があります。国家は人々に新しいトレーニングを提供する必要があります。国家は生態的に破壊的でない分野への移行を促進すべきです。そのような移行は、10年は続く可能性があります。そしてもし政府がそれを行うためにお金を刷る必要があれば、それは結構です。
普遍的なベーシックインカム
マクストン:これを達成するより単純な方法は、すべての人にベーシックインカムを支給することでしょう。言葉を変えれば、すべての人に普遍的なベーシックインカムを提供する制度を設けることです。例えば石油分野の仕事を失ったとしても、家族を養い、ローンを払えるかどうかを心配する必要がないようにするのです。人々が目的と動機の感覚を持つようにする必要があり、それは少し違った問題です。少なくとも彼らは家族の面倒を見ることができます。このウイルスは前例を提供します。スカンジナビア諸国のような国々では、このような状況で人々に収入を与えるような手配を自然に行いました。それにより、彼らは食べ物や家族を養うことを気にする必要がありません。
石油産業、自動車産業、航空産業などの大企業の経営者たちに関して、個人的には彼らが起訴されるのを見たいと思います。彼らは人類に対して故意に罪を犯しました。もし、南アフリカでアパルトヘイトの撤廃時にあった真実和解委員会のような組織があったとしたら、そのプロセスへの取り組みが容易になり、思考の変化に向けて助けとなるでしょう。それは、私たちが物事のやり方を変える必要があることを理解する助けとなります。しかし、大多数の人にとっては、次の仕事が何であれ、移行のための財政的援助を提供するという問題です。
SI:そのような状況で、貧困や難民危機のような主要な問題にどのように対処すればよいのでしょうか。
マクストン:貧困や紛争など、他の恐ろしい主要な問題に関しては、冷淡に聞こえるかも知れませんが、これらは2番目であるべきです。
SI:2番目ですか。今のところは、という意味ですか。
マクストン:2番目というのは、気候変動の問題が最優先である必要があるからです。それは他の何よりも優先されるべきなのです。気候変動を止めなければ、貧困は問題にはなりません。なぜなら、私たちは皆死んでいるからです。
とは言え、北から南への富の大規模な再分配が必要です。このウイルスは、多くの南側諸国のガバナンスを現在よりもさらに難しくしそうです。それにどのように対処するのか、そのような国々にどのように援助するのかを考え抜く必要があります。たとえ、その実行方法を考えることが現在では早すぎると思われるとしてもです。それには優先順位が明らかに与えられるべきですが、それは気候変動に対処した後のことなのです。気候変動を止めた後で、私たちは次にこうした他の問題に集中することができます。もちろん、貧困は非常に大きな問題です。
SI:多くの人が世界の資源の再分配のアイディアを提示していますが、同時に産業界や政治家たちが「いつものやり方」に急いで戻ろうとしているのをすでに見ることができます。私たちは、凝り固まったネオリベラルの態度を依然として持っています。大企業を支援し、商業の車輪を回し続けようとする強力な欲求が存在します。
マクストン: 当分の間は、それを行わなければなりません。もし何よりも金融崩壊が起こった場合には、おそらくすべてが混乱状態に陥るでしょう。ですから私は、金融システムは何らかの形で保護される必要があると思います。私の観点では、段階的に国有化が成されるべきです。金融システムは社会の発展を抑圧するのではなく、援助するものとして再考する必要があります。金融業は人類を管理するのではなく、人類に奉仕するべきです。
SI:今では非常に厳しい明らかな選択に行き着きました。ロックダウンを緩和し、産業を維持し、そしてそれによりお金儲けを続けるために人が亡くなることを許容するのです。もしくは、持続可能性の中で生き、命を救うか、という選択です。
マクストン:はい、仰るとおりです! 世界の多くの地域で食糧問題があります。何百万もの人々が命の危険にさらされています。豊かな国々でも、おそらくある種の食料が不足しているでしょう。しかし、状況が最悪であっても希望はあり、今は近年で最大の変化のチャンスです。この状況により人々がすべてのことに疑問を持つようになることを私は期待しています。そのすべてのこととは、仕事の役割、金銭とビジネスの役割のことであり、要するに、人生の目的のことです。過去に起こった今回のような大災害は、完全に新しい形態の社会に導きました。この機会を理解すれば、私たちには希望を持つあらゆる理由があります。
ロックダウンにより、私たちは考える時間を得ました。ある意味では、それが長く続けば続くほど良くなります。人々は人生が持つ意味について本当に熟考する時間をより多く持つようになります。私たちは、以前はなぜ急ぎ、狂ったように旅行していたのかを考える時間を多く持つでしょう。なぜ私たちは事務所で1日中働いていたのでしょうか。そのすべては何のためだったのでしょうか。家族が危機に突然陥り、おそらく親戚が亡くなろうとしており……今では、あらゆることの目的を疑う時間があります。そしてそれが、私たち全員が必要としていることです。なぜ私たちは通勤を、時には毎日何時間もしていたのでしょうか。なぜ私たちは、飛行機にずっと乗っていたのでしょうか。なぜ私たちは必要もないものを生産していたのでしょうか。なぜ必要もないものを買うのでしょうか。なぜ私たちは、必要もないのに、着ないのに、そんなに多くの服を買っていたのでしょうか。今回の危機は私たちに再考する時間を与えてくれ、そのような休止と、熟考する機会がとてつもない可能性を提示するでしょう。それは驚くべき機会です!
(www.graememaxton.com)